波紋と月光
お酒も飲み終わり、ほろ酔い状態で公園の池を眺めていた。
彼はお酒に弱いみたいだ。私も人の事言えないが、私より弱い。違いない。だって、私よりふらふらだし、私より顔赤い。
なんともない池を眺めてただこの酔いを冷ましていた。お酒は冷静さを欠かす。今の状態だと何が起こってもおかしくは無い。そう思えるくらい、今日は楽しかった。
始まりは散々だったけどね。結局映画も見れたし、カラオケも楽しかった。話しも面白いし、悪くは無いとは思う。遅刻はするけど。
「楽しかったね」
水面が揺れる。波紋と月光がまるでユーホニウムの音のように広がっていく。そう、まるで愛を歌うように。
「そうだね。もっと遊びたかったなぁ」
彼は自分の頭をわしゃわしゃと掻く。まぁ、今日は常にバツが悪いだろう。普段以上に私に気を使ってるようにも思える。
「だからまた遊ぼうね」
なんて言って彼の肩に頭を乗せる。それに戸惑ったのか少しビクつく。でもそのまま肩を貸してくれた。
暗闇が何もかもを許させるように私を説得する。風が取り巻きの如く言葉を反復させ、蒸し暑さがすぐさま場所を用意する。
善処はする。ただ、全てはダメだ。まだ、会ってから浅すぎる。
「よし、帰ろ」
ここでどのくらい話しただろうか。そろそろ終電が近い。
「お、おう」
私から手を握り駅へ戻る。駅の周辺は明るかった。東京の夜は明るい。最近地方に出て思ったことだ。もう日付も変わるというのに街はこれからと言わんばかりに光り輝いている。
「次は、再試全部拾ったらね」
彼の鼻を指先でちょんと叩く。弱々しく頷く彼に私は微笑む。
「大丈夫だよ。再試はきっと簡単だから」
簡単に言って改札に入ろうとする。
その時だ。彼に抱きしめられたのは。
「……帰したくない」
思わない出来事に言葉が出てこない。力強く、簡単には離してくれそうにない。
「もぅ、……ヤダ。そもそもテスト落とさなかったらっていう約束、忘れてないよね? それくらい守ってくれないとヤダ」
少し強く言葉を放つと簡単に離してくれた。
「わかった。再試頑張るから、また遊ぼうね」
「……うん」
これでやっと帰れる。定期を取り出し改札に入る。しかし、かれは着いてこなかった。
「あれ? 電車……」
「ごめん、ちょっと忘れ物。先帰ってて」
彼は足早に私の目の前から消えていった。少し残念だった。もう少し一緒にいられると思ったから。
余った手で携帯を取る。なんだか、収まりがつかない気がした。




