練習の時
夏休み。と言っても定期試験の結果が出揃っていない3日目。既にわかってる範囲で、再試が1件。マジで、3割しか受からないってどういう問題してるんだよ。そう何となく落胆しながら、部室に来ていた。
7月も終わりの頃。私たちが焦って準備するその先には学園祭があった。10月最初の土日にあるそれで、私たちは他の人より1曲多く吹かなければならない。その練習をするためにここに1年だけで集まった。
個人での練習もあらかた終わっており、いざ合わせてみる。案外形にはなっていてこのままでも聞かせることは出来る。だけど私はこれでも金賞常連校の出。こんなので終わらせたくなかった。
「だぁぁかぁぁらぁぁ!! ここはもっと優しく!!」
「それはあなたが上手くエスコートしてくれなかったからでしょ!」
「ここはもっとくい込んで来なさいよ!」
「嫌よ! そんなのセンスないじゃない」
「swingだっつってんの!!」
「うるさいわね! やってるわよ!!」
30分。そう、合わせてからたったそれだけでこうなった。
主に私と立川さんの取っ組み合い。他の人には指摘して直してもらっているが、このお嬢様は口答えするは直さないわ出来ないわでとうとう私の堪忍袋の緒が切れた。
この様子に誰も割って入ってこないのは傍から見ればなかなかおもしろいのだろう。
「なぁ、とりあえずsingの頭の部分をやらないか? オレのソロの部分を少し指摘して欲しい」
西条くんがそう言うと誰も何も言わず楽器を構えた。
「あ、そうだ。西条くんはsolo部分はもっとキンキン言わせて」
「わかった」
「よし、いち、に、さん、しー、いち、にっ!!」
私は練習だからとオクターブを下げて吹く。最初1回は本気で吹いたがさすがに体力切れだった。それに余裕も出てきて周りも聞けるようになる。
それにしても、やればやるほどあれやこれや気になってくる。
ドラムの永田くんのBassが芯がないし、サッシンのアタック部分がズレて音が歪んでる。
茉心ちゃんは結構音程違うし、音が遅い。
早崎くんはもはや指に必死すぎて着いてこれてなかった。
お嬢様はswingになってないし、休符読み間違ってるし、なんなら譜面から落ちたし。
西条くんは……。
「solo変える気なんだね」
お望みの部分まで終わり、色々ある中で1番気になることを口にした。
「どうかなと思って。変だったら元に戻すけど」
「い、いいと思う!」
即答なのは茉心ちゃんだった。その様子を見て、何となく焦れったい気持ちになった。
「変だったわ。戻した方がいいと思う」
とお嬢様。こいつは多分自分が吹けなかったのを他人のせいにしただけだ。
「そうか……。なら元に……」
「いや、人の意見で戻すくらいならさっきのタイミングで拭かないで」
スコアのページを戻しながら伝えた。
「え、そんな冷たく言わなくたって……」
「斉木さん、ありがとう。でも、どういうことか聞かせてくれないか」
私は小さく頷く。
「soloを変えるという発想はとてもいいと思う。聞いた感じカッコよかった。でも、やっぱりsoloの音質じゃないんだよね。西条くんはクラシックに強いからどうしても調和を取ろうとするくせがあるんだよね」
スコアで気になる部分を忘れる前に丸をつけていく。既に幾分か忘れているが、吹き直せば思い出すだろう。
「さっきキンキン言わせてって指示したのに結局他の人に音色を寄せてた。それだとsoloなのか違うのかがわからない。だったら、元の譜面で吹いた方が音源もあるしやりやすいんじゃないかなとも思う」
ここまでの結論で落ち込んだのは茉心ちゃんだった。まぁ、今は関係ないからほっておくけれども。
「でも、他の人に何も言わないで、それこそぶっつけ本番で出してくるなんてよっぽどの度胸だし、下準備もしてきたんだろうし。ちゃんと音色変えられるなら、私は賛成だよ」
ねっ、とウインク混じりに彼に視線を送った。返された強い眼差しはなにかを訴えかけているようにも感じたが、彼は頷くだけで返答はしなかった。
「さて、他にも言いたいことがあってねぇ……」
次々に出る私からのダメだし。
……これらが完成するのはいつになるのだろうか。




