バツが悪い
学食から駅まではいちど屋外に出る必要がある。
テストの合否が出ていないかと掲示板に寄るために本講義棟へ足を踏み入れた、その時だった。
アリス先輩にもはや引っ張られる形で隣を歩いてるフルートパートの愛衣先輩。
それが普通ではないことはわかった。アリス先輩は少しキツイ所はあるが、あんなに暴力的なことをする人ではない。なにかただならぬ状態だった。もし、犯罪的な状況になってしまうのであれば、止めなければならない。
「ごめん、ちょっと用事思い出したから、先行ってて。必ず行くからさ」
「え? ちょっ! 友梨!?」
気がついたら駆け出していた。少しヒールの高いサンダルで来たことをこの一瞬後悔した。
2人が向かったのは2講義棟。古い国立の建物を改修したそこはいかにも何か出そうな場所。くらい時間はなるべくなら通りたくない場所。そんな所だ。
既に見失っていた。2講義棟は3階建て。ここから事務所まで行く渡り廊下もある。
虱潰しにまず3階から。聞き耳を立てながらそろりと歩くが、ここは当てハズレだった。そのまま2階、1階と降り、居ないことを確認して渡り廊下を行く。
もう既にどこにもいないかもしれない。そんな焦りが私の足をはやめた。
渡り廊下を過ぎ、階段下に出た瞬間だった。
「なんでそんなこと言うんだよ!」
そこにいた。テスト期間が終わった学校に学生はおろか教授達もいない。だからってこんな所で話すのかと思いつつも、既に体は飛び出ていた。
「あっ」
最悪だ。バツが悪い。
激怒しているのかアリス先輩は顔を真っ赤にし少し涙を浮かべ、愛衣先輩は何か悟りを開いたような顔で、2人とも私を見ていた。
あぁ。言い訳がましくなるかもだけどさ、こういうのって教室とか部室でやりませんか? なんて言える訳もなく、乾いた笑いを返すしかなかった。
「あ、あの。聞いていいかわからないんですが、…………どうしたんですか?」
この気まずさをどうにかしようと、なにか余計な一言を出した気もするが、言葉を出した。
私の一言で頭を抱えるアリス先輩。やっぱり話してくれないよなぁ、なんて思って早い段階でこの場から立ち去ろうとした。
「この際だからいいわ。不本意だけど、あなたにだけ言うわね」
「そうですよねぇ、それじゃドロンしますね。……って今なんて言いました?」
「だから! あなただけには話しておくって言ってるの!」
開いた口が塞がらない。いや、盗み聞きしようとしてたから有難いのだけれども。
「え? いいの?」
「いいけど、絶対に誰にも言うんじゃないわよ」
釘を刺された。しかも特大のやつ。私は唾を飲んで頷く。
「愛衣がいいなら、止めないけどさ……」
そう言って近くの自販機へ歩いていった。
沈黙。それは覚悟なのか、なんなのか。理由がわからなから想像でしかなかった。けれど、聞いてそれがとてつもない覚悟なのがわかった。
「私、学校辞めるの」




