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05.メアリーの無駄なあがき




 結論から言えば、私の計画は失敗した。

「てめぇの浅はかな考えを俺が見抜けないとでも思ってたのか、あぁ?」

 ギラギラと獲物を捕食するような瞳でジェームズ隊長が私を見下ろしていた。




 まだ下働きの使用人さえ目覚めていない時間に、私は同室のダニーを起こさないようにひっそりと起床すると、ベッドの下に隠しておいたロープをベッドの支柱に縛り付け、窓からこっそりとそれを垂らした。

 いそいそとロープを頼りに兵舎の壁を伝い降りた私は、意気揚々と逃亡を図ろうと身を翻した瞬間、目の前に巨大な影が差した。

「じぇ、ジェームズ隊長?」

 いつの間にここにいたのか、さっきロープを降りるときには居なかったのに、なぜかジェームズ隊長が仁王立ちしていた。

「てめぇの浅はかな考えを俺が、見抜けないとでも思ってたのか、あぁ?」

 いつにない迫力で私を見下ろすジェームズ隊長に、疑問と少しの恐怖と、そしてそれ以上の胸の高鳴りを感じてしまった。やだ、威圧感たっぷりのジェームズ隊長も野性味があって素敵……。

「たいちょー、これどうぞー」

 頭上から気だるげな声が聞こえてハッと上を見ると、先程までぐっすり眠っていたはずのダニーがロープをこちらへと投げ落としていた。

「ど、どういう……」

「お前が大人しくそのまま邸に帰るなんて、誰も思っちゃ居なかったってわけさ」

 何たることかしら。そこまで私って、分かりやすい人間だったの?

「当たり前だろうが、お前ほど頭の中身が筒抜けの人間はいねぇよ」

 ちょっと、ジェームズ隊長ってば、人の考えを読まないで欲しいのですが。

「ま、諦めて素直に休暇をとるんだな」

「嫌です! そんなことしたら……た、隊長、なにをしておられるのですか?」

 地面に転がっていたロープを手に取ると、なぜかそれを私の体に巻きつけ始めるジェームズ隊長。なに、これってそういう趣向をジェームズ隊長が持っていたということ? だったら、私もそれにお付き合いするのはやぶさかではないのですが。

「ちげぇ。お前が逃げ出さないように縛り上げるだけだ馬鹿」

「ですから、人の考えを読まないでください隊長。いえ、それより、そんなことしなくても、私は逃げ……ぐぇ」

「誰が信用するか。前はそれで逃げられたからな、今回はそうはいかねぇ」

 およそ乙女に対する縛り方ではなく、むしろ罪人や捕虜を縛り上げるがごとくきつくロープを締めあげられた私は、そのままズルズルとジェームズ隊長に引きずられていった。

「そんじゃー、よい休暇をメアリー班長ー」

 ダニーがひらひらと手を振っている。覚えていらっしゃいダニー。休み明けの訓練を楽しみにしておくことね!

 そうして私が芋虫状態のまま引き摺ってこられたのは、城の裏手にある小さな門だった。なぜか戸口に見覚えのある顔が立っていた。

「メアリーお嬢様、お久しぶりでございます」

「……どうしてここにいるのかしら、チェスター」

「俺が呼んだんだよ」

 私の疑問にチェスターではなくジェームズ隊長が答えてくださった。

「ホーカー様からお嬢様が今日から四日間の休暇をお取りになるとの連絡をいただきましたので、急いで迎えに参った所存です」

 慇懃に我が家の執事であるチェスターが腰を折る。

「観念して邸に戻れ、メアリー」

 ジェームズ隊長が私を担ぎ上げると、門前に待機していた馬車へと乱雑に放り込んだ。

「ジェームズ隊長! お願いです、私を邸に戻さないでください!」

 私の懇願も虚しく、目の前で扉が閉められた。

「それでは、参りましょうか、お嬢様」

 反対側から乗り込んできたチェスターが涼しい顔をして言った。

 それを合図に、馬車が静かに動き始めた。私は身を捩ってなんとかロープから抜けだそうとしたけれど、あのジェームズ隊長自ら縛り上げたロープが緩むはずもなく、私は市場に売りに出される子牛のごとく、馬車に揺られながら邸へと運ばれていったのだった。




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