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フォレスト~忘れられた記憶  作者: 大禍時
4章 旅の始まり
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4章 旅のはじまり

          Ⅰ


月が昇り始めた頃、クリアは森を抜け山のふもとへと出た。

「ふーっ」

小さな岩に腰を下ろし、竹筒に入れておいた泉の水を飲む。

「!!!」

モンスターの気配を感じ振り返る。 ケバオノキという。 火に弱いという特性を持つ。 クリアが魔法を使う前にモンスターが倒れた。  

「えっ?」

クリアが驚いていると

「大丈夫か?」

ぶっきらぼうな声がして大きな帽子をかぶり白く長いひげを生やしたおじいさんが立っていた。

「女の子一人で危ないな。わしの小屋はすぐそこだ。」

クリアはおじいさんの後を追った おじいさんの小屋は山のふもとにあった。

「おじゃまします。」

クリアはおじいさんの小屋に入った。中はこざっぱりと していて、燻製肉が天井からぶらさがり、たくさんの毛皮が敷かれていた。

おじいさんは手で座れと合図し、燻製肉をナイフで薄く切り取り渡した。 クリアは袋の中からベーグルを取り出しておじいさんに手渡した。

2人は燻製肉をベーグルにはさんで、かぶりついた。 それに暖かいヤギの乳。 食事が終るとおじいさんは何やら作り始めた。

「どこまで行く?」

手を休めず、おじいさんは聞いた。

「隣の国まで」

クリアは答える。

「ふーむ。山超えと国境の川超えか。」

おじいさんは難しそうな顔をしてクリアを見た。

「大丈夫よ、おじいさん。」

クリアはにっこりと笑う。おじいさんはクリアをじっと見つめ力強くうなずいた。

「おまえさんには不思議な力を感ずる。よし!出来た。」

おじいさんは団子のような物を木の皮に包んでクリアに渡した。

「モンスターの嫌うハーブ団子だ。わしは猟の時これを持って行く。」

「おじいさん、ありがとう。」

クリアはモンスター避けのハーブ団子を受け取った。 2人はそれからほどなくして眠った。 早朝、おじいさんに見送られクリアは小屋を後にした。



         Ⅱ


山の中のけもの道を登っていくと、数人の男達が山の中で何かを必死に探しているようだった。

何だろう?と思いながらも昼時になったので近くの木陰でマーサおばさん特製の弁当を広げて食べ始めた。

(村の香りがする) 村のみんなの顔を思い浮かべながらお弁当を食べ終えると竹筒の水を飲み干した。

(お水を汲んでこなくちゃ) クリアは立ち上がると泉を探しに歩き出した。 しばらく行くと男達に出会った。見かけない少女の出現にびっくりしたようだ。

「あ… あの水を汲みたいんですが泉はこの近くにありますか?」

クリアが尋ねると一人の男が

「ああ、案内してやりでえが今、急ぎの用があるですまんな。もうちっと、この道を行ぐと村がある。そこで汲むとええ。」

男達に礼を言おうとした、その時山道を下から男達が登って来た。

「おーい!おめえら草はあっただか?」

山にいた男達に早口で尋ねる。

「いんやねえ。おめえだち町で薬は手に入っただか?」

「だめだったあ…」

うなだれる男達…。 クリアはどうしたものかと立ちつくしていると 山にいた男の一人が

「ああ、ここにいてもしょうがねえ。村に戻ってばあさんに聞いてみよう」

男達はうなずいてクリアの方を見る。

「この娘っこは?」

「ああ忘れてただ。水が汲みたいらしいで…。おい娘っ子、村に戻るだで一緒に行くだか?」

クリアはホッとして、お礼を言い男達と村に向かった。

村へ入ると村人達が男達の帰りを待ちわびて村の入り口に集まっていた。

「どうだった?あっただか?」

その問いかけに男達は首を横に振り

「いんや、なかっただ。草も薬も」

「町で聞いても、そんな薬はねえというし、本当にあるだか?そんな薬」

「草もねえ。ばあさんの言うとるような形の草、山中探したが、なかっただ」

一人の老婆が進み出て

「そんなことねえ!昔、同じ病が村で流行ったんじゃ。その時に、その薬と草で助かった。」

クリアは近くにいた小太りのおばさんに話しかけた。

「あの、誰か病気なんですか?」

その声にみんながクリアを見る。

「見かけない顔だね。どこから来なすった?」 おばさんが聞いた。

「あ、ホープ村です。」

クリアが答えると老婆が興奮して口から唾を飛ばしながら

「ホープ村じゃあ!!ホープ村のじいさんがたまたま村に立ち寄ってクキクヨ薬とイシラズメ草で治したんじゃ。」

男の一人が

「じゃあ今からホープ村へ行って、その二つを貰ってくるべ」

と言うとクリアが進み出て

「クキクヨ薬なら私が持っています。」

と言った。 おーっ!と村人達は喜んだ。

「でもイシラズメ草は持っていないんです。あれは採ってすぐ使わないといけないから…」

男が老婆に

「イシラズメ草は本当にこの山にあるだか?」

と聞いた。

「ある。その時もこの山に採りに行った。」

老婆は即答する。クリアは首をかしげて

「おばあさん、その時夜採りに行きませんでしたか?」

と聞いた。

「夜?そうじゃったか…?」

老婆の記憶は曖昧だった。 男が言った。

「わしらは朝から一日中探してとるがみつからん」

クリアはうなずくと

「イシラズメ草は夜暗くならないとみつからないんです。陽の光が射している時は地に伏せて、他の草でわからないんですが、夜になると上に伸びて葉

と葉がこすれて音を出すんです」

村人達はクリアに一緒に探しに行ってもらえないかと頼んだ。

「はい。一緒に参ります。」

クリアは答える。 老婆は目を細めて

「おまえさん、まだ若いのに薬草に詳しいねえ。誰に教わったのかね」

と聞く。クリアはにっこりと笑い

「私のおじいちゃんです。村の長老なんです。」 夜になるの待つ間クリアは病気の子供の家に行ってみた。 小さな女の子がベッドにぐったりと横たわっている。 その子の体から木の根のような物が出て床に延びている。

これはひどい。部屋中がその子から延びた根で張り巡らされている。 このままにしておくと、この子の体は木へと変わってしまうだろう。

母親らしき人がクリアをすがるような目で見た。 クリアは力強くうなずいて手を握る。 子供に近ずいてオデコに手を当てる。すごい高熱だ。

クリアは口の中でレガサヨツネと呟き、そっと子供の頭を触る。

クリアの手から柔らかな光が子供へと注がれる。すると子供の真っ赤だった顔が治っていく。 クリアは

「もう少し待っててね。お薬作るからね。」

女の子にそう言って立ち去った。

夜になり、ランプを手に男達とクリアは山に入る。 静かな山の中、耳を澄ますと微かに聞こえる音。 その音を頼りにイシラズメ草を探す。

「あった!」

クリアは月の光に照らされた草を見つけ根元から手折る。

「これだけあれば大丈夫です。」

クリアは草をカゴへ入れた。 男の一人が

「引っこ抜かなくていいだか?」

と聞くと

「根は使いませんし、根を残しておけば又生えてきます。山の恵みは使う分だけ分けて頂くというのが村の教えなんです。」

とクリアが答えた。 男達はなるほどなあとうなずき、帰り道を急いだ。

村に戻りクキクヨ草とイシラズメ草で薬を作り始める。その手際の良さに村人達、特に老婆は驚いた。

出来上がった薬を持って病気の子供の家に行く。 子供の口に少しずつ薬を含ませる。

薬の芳香で森の爽やかな空気が部屋に充満したようになる。

ひと口ごとに体から生え出ていた根が崩れ落ち灰になっていく。 すべての根が灰になると子供は目を開けた。

「おかあさーん」

子供は母親に抱きつく。クリアは灰になった根を集めてビンに詰めた。 老婆が聞く。

「その灰、薬になるのかね?」

クリアは答える。

「いいえ、なりません。でも山の土に還してあげようと思って。」

老婆はうなずいて

「昔々から人は自然の恵みをもらい感謝して、そして敬意を払っとった。その心忘れられ近頃じゃ恵みを根こそぎ奪い取るだけじゃ。忘れてはならんのう。なあ、皆の衆。」

村人達はうなずいた。

クリアが村を後にする時、老婆はクリアに一つの玉を渡した。

「これは、村に伝わる玉じゃ。災いある時に現れる白き救世主に託せと言い伝えられておる。おまえは何も言わんが理由があって、おなご一人で旅立ったんじゃろう。風の便りで聞いた事があってのう。ホープ村の長老が古木で不思議な赤子を預かったと。お前がその時の赤子じゃろ?長老に預けたのは古木の意思じゃろうて。達者でな。」

村人達も名残惜しそうに別れを告げる。 病気だった女の子が一輪の花をクリアに手渡した。

「おねえちゃん、ありがとう。この花あげる」

「ありがとう」

クリアは女の子のほほを優しくなでて立ち上がった。

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