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フォレスト~忘れられた記憶  作者: 大禍時
2章 せまる影
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2章 迫る影

       Ⅰ


「シーク… 行っちゃうの?」

クリアの大きな目から涙がこぼれ落ちた。

「ごめん。母さんの故郷に行く事になった」

シークはぎゅっと握りこぶしに力を込めて、泣くまいとした。

「これ、やる」

シークは一本のリボンを手渡した。クリアは、そのリボンを自分のお下げ髪につけた。

「似合う?」

クリアは笑顔で聞いた。

「うん」

小さくうなずくとシークは待っている母親の元へ走った。

「さようなら、シーク!」

…… 「あ、また夢」 ここの所、続けてシークの夢を見る。

森の世界樹が朽ち果てて長老は何か災いが起きる前触れではないかと心配していた。

村は、いつもと同じはずなのに何か押しつぶされそうな嫌な予感が長老にもクリアにもしていた。

「クリア… 世界樹の葉を全部、薬にしてしまおう」 クリアは長老の顔を覗きこんだ。

「お前も感じておるんじゃろ…この嫌な空気を」 二人は一日中、薬作りを続けた。

「よし!これだけあれば… 。わしの酒のビンに入れておこう。 これは村のみんなの分じゃ。あとはクリアお前の分じゃ」

「おじいちゃん、やっぱり…」

クリアは世界樹が枯れた時から自分が、この村を去る日が近いと感じていた。

「旅支度をしておいた方がよい」

長老から世界樹の葉で作った薬を受け取り、自分の部屋に持って行った。

クリアは窓から外の景色を眺めた。 森へと陽が傾き、美しい夕焼けが村を照らしていた。 東の空には夕月がかかり、あと数時間もすれば湖に美しい姿を映すだろう。

クリアは、この美しい村と村人達が大好きだった。なぜ自分がこの村を去る事になるのか…

クリアは思いを振り払うように頭を振って、旅支度を始めた。



         Ⅱ


今日の夕食はクリア特製のシチューとオムレツ。 「うーん、いい匂いじゃ」

長老は、分厚い本を閉じると鼻をヒクヒクさせた。「クリア、パン焼いたから貰っておくれ」

隣のマーサおばさんがやって来た。 木の実がたっぷり入ったベーグルが、山程かごに入っていた。 「マーサありがとう。」

クリアはお返しに自分の作ったシチューをたっぷりと土鍋に入れて渡した。

「こりゃあ、おいしそうだねぇ」

マーサは、にこにこしてそれを受け取った。 土鍋を覗き込み

「森のキノコがたっぷりだね。あら、珍しい!イシイオ茸まで入っているよ」

マーサが帰ると長老とクリアは食事を始めた。

「行きたくないな…」

クリアはポツリとつぶやいた。

「行かんで済むならそうしたいもんじゃが…。何か起こりそうな気がするんじゃよ」

長老はシチューを美味そうに口へ運びながらそう言った。

「何か… 私にしか出来ない事なのかなぁ?」

クリアは納得のいかない顔で聞く。

「この村は昔、エルフが住んでおったと言い伝えがある。 そのせいか村に住んでおると、この世界に流れる気のような物を感じるようでの。 世界樹が枯れた頃から急にこの村の中へ悪意の霧の様なものが漂ってきたと思うとるんじゃ」

それはクリアも感じていた。

「世界樹はなぜ枯れたのかしら…」

食事が済むと長老は分厚い本を取り出した。

「わしは、この本を読んだ時おとぎ話が書いてあると思ったんじゃ。 しかし、お前を預かった時、この本は遠い昔にあった本当の話じゃと思い始めたんじゃ」

「何ていう本なの?」

クリアは尋ねた。

「わからん。じゃが村に昔から伝わる古文書なんじゃ。 ほれここに、こう書いてある。」

長老は古文書の裏表紙を指差した。 そこには、こう記されていた。

ー 魔王目覚める時 古の記憶 よみがえり 世界樹に護られし 民の女王が現れ 魔を打ち砕く その胸に白き花を抱きて ー



         Ⅲ


「この黒い霧のような気は魔王?」

「いや、わからん。わからんが何か悪しき物には間違いなかろう」

長老は深いため息をつくと何かを取り出した。

「古地図じゃ。この古文書と共に伝わっておる」

長老は茶色に変色した紙を広げた。

「ここが、わしらの住んどる村じゃと思う」

指差した所には森しか書かれていない。しかし森の東には湖があり、森の中には泉のある洞窟も書かれていた。

「これ、ずいぶん昔の地図みたいだね」

クリアは地図の中に、ほとんど町や城などがなく森がとても多いのに驚いた。

「そうじゃの。ほれここを見てごらん」

そこは周りを高い山に囲まれた広大な森が広がっていた。 その中央には世界樹の木と記されている。

「ここに世界樹が?」

「うむ。この村の世界樹の木は親木から挿し木されたものらしい。 この親木はクリア、お前の故郷かもしれんのう」

長老はそう言って大切そうに古地図をたたんで古文書に挟み込んだ。

夜も更けて来た。 長老は窓から外を見上げた。 満天の星空。中空には月がかかっていた。

「クリア見てごらん。きれいな空じゃな。この景色はもう何百年も変わらん。山も川もな。 あの地図は古い物じゃが今は忘れ去られた土地も載っておる。きっとお前の役に立つ。そう思うての」

クリアは長老の横に並び一緒に夜空を眺めた。 一つ流れ星が流れた。

「クリア何か願い事をしたかね」

クリアは頷いた。でも口にはしなかった。口にしたら願いは叶わなくなる…

そんな気がして。 クリアの願いは… (この村が、いつまでもこのままでありますように。そして私がこの村に戻って暮らせますように)




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