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居待ち月  作者: 一抹
中央学術院への入学
1/23

第一話 王からの依頼

 街の巡回をしていたレイシスが兄に呼び出されたのは、日付が変わる少し前のことだった。一度自室に戻り身なりを整えると、兄の執務室へ向かい扉をノックした。

 入室を許され人払いされたその部屋に入ると、デスクで書類に目を通していた現王ライザールがレイシスと同じプラチナブロンドの髪をかきあげた。


「兄上、お呼びと伺いました」

「レイシス、女の格好でそのしゃべり方は不自然だぞ」


 呆れたように言われ、紺色のシンプルなドレスを着た自分の姿が窓に映るのを見た。

「申し訳ありません」

相変わらず堅苦しいなとライザールが苦笑いをする。レイシスは幼い頃より城から離れて暮らしていたため、兄とは言え尊敬はしていてもどうしても他人行儀にならずにはいられなかった。


「それはまだ女に戻るつもりはないという事か」

「いいえ、兄上のご意向に従います」


 ドレスの裾を持ち淑女の礼を取ったレイシスに、本当にわかってるのかなとライザールは一人つぶやく。


 

「そう言えば、"五番地の用心棒”とは何か?」

レイシスのこめかみに冷たいモノが伝う。説明すべきか誤魔化すべきか考えあぐねていると、アメジスト色の瞳を細めたライザールがふむと頷いてさらに追い打ちをかける。

「ではレイドという男について何か知っているか」

これはすべてライザールに知られていると観念したレイシスは腹をくくり、頭を下げた。


「申し訳ございません」

「またそれか。それにしてもお前はよほど市井に居場所を作るのが好きと見えるね。今回で二度目だ。覚えているかい」


 レイシスはあまりその話はしたくなかったので沈黙で流した。ライザールはそれが不満だったのか、苛立だし気にシャツの首元を弛め溜息をつく。


「お前は父上からその力についてどう説明を受けたんだ?」


 決して他人に知られてはいけない事、しかし上手く使えば女の自分でも男の姿で戦場に出ることが出来る事、父である前王から聞いた話を説明した。話し終えたところで、ライザールはうつむいて「足らん」と漏らした。

「全然足りないよ、父上の説明は。いいかい、直系の王族が両性体の形を取れることを知っているのは基本的にその血が受け継がれている者だけだ。その男の形をしたお前の姿は五番地ではちょっとした有名人だというじゃないか。そのことについてはどう考える」



 グルフィン王国の直系の王族の血はあらゆる難を逃れ、直系を残そうと血に深く刻まれており元の性別とは別に異性体の形も取れるのだ。実際に王家に女子しか生まれなく、末娘が王太子となった例が過去に何度かある。

 しかし、その力は色んな姿をとれる訳ではく、元の姿と異性体の姿の二つだけである。


「申し訳ございません。しかし恐れながら、兄上は健康でいらっしゃいますし、義姉上とも仲が良しく跡継ぎになられる元気な王太子もいらっしゃいます。長い戦争が終わったこの国で私の男姿など何の用途も無いのではないでしょうか」


 レイシスの戸惑いがちな答えはライザールに一喝される事となった。


「甘いよ!私の政策が気に入らない貴族の阿呆どもに直系の王族の男子となれる者が他にいると知られればどうなると思うんだい」


 確かに新しい制度改革を進めるライザールは、昔から甘い汁を吸ってきた一部の門閥貴族達には嫌われていた。暗にライザールが意味したのは、その貴族により男姿のレイシスが王として擁立されること。

 その言葉にレイシスは青ざめ、自分の浅はかさを悔やんだ。初めて外に出た時のレイシスは、まだ幼く単なる変装のつもりでこの力を使いはじめ、成長した今なお慣れという甘えがその危険性について認識を弱くした。


「申し訳ございませんでした」


「謝罪の言葉なんて聞き飽きたよ。よしわかった、そんなに居場所が欲しいなら作ってやる」


「どこかに政略結婚の話でもあるのでしょうか」


 ついに順番が回ってきたかとレイシスはごくりと唾を飲み込む。レイシスには5歳上の姉がいたが、三年前のライザールが王位を継いだ年、隣国の王へ政略結婚によって嫁がされたのだ。返って来た兄の返事は意外なものだった。


「そんな話はない。お前の武術の腕を見込んだ父上が将来手放すのが惜しくなって散々周囲に『我が娘の妹姫はもう先が長くない』と触れ回ったからね」


 確かに常日頃病気で伏せっていると云うことになっているレイシスの顔は、城の重鎮や貴族でさえ知っている者は限られている。5歳で療養目的の静養という名目で城を出されたレイシスに待っていたのは、前王の選んだ鬼教官の元で武術の鍛錬の毎日だったのだ。


「話を戻そう、レイシス。いや五番地のレイド、お前に新たな居場所を与えてやる。もし失敗したら、今度こそ嫁ぎ先を探してやるから安心しろ」


 美貌の若き王が威圧するように冷たく微笑んだ。





******



「ライル、あんな風に脅しちゃって良かったんですの」


 レイシスが退室した後、水色のドレスのフレアを揺らしゆったりと部屋に入って来たのはライザールの妻シシリアだった。その様子に、ライザールは頬を緩め近寄りシシリアの手を取った。


「私が執務室で書類に追われているあいだイキイキと楽しそうにされるとね、ちょっと意地悪したくなるだろ。」

「本当かしら。なんだか可愛い妹が全然懐いてくれないから、ワザと意地悪して構っているようにも見えるわ」

 シシリアの水色の瞳が悪戯っ子のように煌めく。


「シシィは意地悪になったね。私に似ちゃったのかな」

「やだ~、嬉しいっ」


 シシリアはフフフと笑い、上気した頬に両手を当てている。そんなシシリアを抱きしめて、首筋にキスを落とす。


「そこ喜ぶ所かなって、でも今回の計画は私の改革の要でもあるんだよ。なんとしても成功させて、軌道に乗せる必要があるんだ」

「レイド君には頑張って貰わなくっちゃね。でも一人で大丈夫かしら」

「大丈夫だよ、アイツなら。他に手も打っているし。ライザール陛下に抜かり無し!」


 そう胸を張って宣言すると、「素敵~!!」とシシリアが微笑って抱きついた。





週一くらいの更新を目指します。

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