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君のくれた毒入りチョコレート

「このチョコレートには毒が入っています」

 2月14日、バレンタインデー。

 恋も愛する恋する乙女たちが奮闘する日。

 彼女が僕に話し掛けてきたのはそんな日の放課後、僕が一人教室で何をするでもなくただボーっと、空中を眺めている時だった。

 夕焼け空が眩しく輝く教室。ひたすらの赤にグラウンドから部活動部員の声が木霊する。

 僕は自身の席に腰掛け、頬杖を突いて彼女を見ていた。

 そんな退屈そうな僕に対し、前の席に座る彼女といえば、どこか楽しそうに微笑んでいる。

「なら渡すなよ」

 彼女の言葉に素っ気なく返してみる。無意味な行動であることを理解しつつ。

「今年こそ受け取ってもらうから」

 意地の悪そうな笑み。

 君がそんなだから、僕は正直に訳を話すことが出来ないんだ。

 思いながら二人の間の机に置かれた『それ』を見る。

 チョコレート。

 赤い包装紙に白のリボンであしらった『それ』。

 彼女曰く、今年の『それ』には毒が入っているらしい。冗談だと思うが、どちらにしろ関係はない。

 どうせ、僕は『それ』を受け取らないのだから。

「毎年言っているが、受け取らないぞ。しかも毒入りじゃあなおさらだ」

 彼女が僕にこうしてチョコレートを渡すのはこれで五度目。

 申し訳がないことにこの四年間、毎年彼女は僕にチョコレートを渡してくれていた。苦労をかけていることは承知している。

 しかし、僕はその思いに答えることができない。

「毒入りと言ったけれど、食べられないわけではないわ」

「世の中に食べられない毒はないよ」

 食べられるから死ぬんだろうが。

 いや、というかそもそも――。

「なんで毒なんていれたんだ?」

「うん? いえ、どうせ食べてもらえないのだろうし。ちょうど今年で四年目だし、『四』ということで縁起も悪いだろうし。ね」

「今、死ねって言ったか!?」

「言ってないわ」

 僕の気のせいだろうか。

 なんだかそう、ちょうど句点一つ分空けて言われたような気がするのだけれど。

 まぁ、ただの言葉の綾ならぬテンポの綾だろうし、気にするようなことでもないか。

「ネス湖に住む怪獣の名前」

「あん?」

 彼女が急にそんなことを言い出したため、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 ネス湖がなんだって?

「ネッシーよね?」

「ああ。そうだけど、それがどうした」

「ネッシー、ネッシーネッシーネッシーネッシーネッ――」

「連呼するのをやめてくれませんかねぇ!」

 やっぱりわざとかよ!

 嫌がらせなら、そんな回りくどくするんじゃあなくて直接――

「――死ね」

「直接言うなよ……」

 前フリするまでもなかった。きっと僕らは以心伝心なのだ、そりゃ好かった。

 僕がそんなことを思っていると、「でも」と彼女が言う。

「でも、実際どうなの? この四年間、一度も他の男に目を眩ますことなくあなただけを見てきたというのに、この仕打ち。それは許されることなの?」

「まぁ、許されないだろうな」

 そんなこと、自分でも理解している。

 四年間、ずっと一人の女の子からアプローチを受け続け、好意を向けられているというのに、それに答えないなどというのは男のすることじゃあない。

 据え膳食わぬは男の恥じゃあないけれど、女を泣かせるような男はヘソでも噛んで死んじまえ、ということだ。

 いや、それこそ――。

「私を泣かすような男は、チョコでも食べて死になさい」

「って、ことなんだろうな」

 嫌な諺だ。ヘソを噛むとは、自分のヘソを噛もうとしても噛めないことから、物事がどうにもならず後悔するさまのことを言うらしいが。僕の場合、チョコを食べたいのに食べられないことから、どうにもならないという感じだ。

 せめて後悔はしたくないものだが、毒入りなのだから仕方がないという気もする。

「というかそもそもチョコレート自体が、厳密に言えば毒の塊みたいなものなんだよな」

「え、何それどういうこと?」

 自然と頭上にクエスチョンマークを出す彼女。

 こういう時のこの娘は本当に可愛いと思うのだが、いかんせん仏頂面が板についてしまっているのが残念でならない。もっと笑えばいいのに。

「いや、チョコレートだけがそうと言うわけじゃないんだけどさ。この世の全ての物には致死量があるってだけの話で。ただ、チョコレートに含まれるカフェインやテオブロミン――特にテオブロミンは劇薬だよ。人間以外の生物が摂取すれば、それだけで死に至る」

「ああ、よく言うものね。犬にチョコレートを与えないで下さいって」

「うん。つまりはそういうこと」

 まぁ、何もチョコレートに限った話じゃあないのだけれどね。動物に食べられて人間に食べられない物だって、世界には五万とあるし。致死量は、水や酸素にだってある。

 そんなことを考えながら、夕焼け空を見る。紅蓮に燃えるそれは明るさのわりに、どこか切ない気がした。

 ……よし。話も切りが良いし、そろそろ僕は帰ることにしよう。

 そう思い、学生鞄を手に取って席を立とうと椅子を引いた。

「で、それがあなたが私のチョコレートを受け取らないこととどう関係があるわけ?」

「…………」

 どうやら、話を逸らすことに失敗したらしい。

 うまく行ったと、うまく言ってやったと思ったのだが、作戦は不成功に終わったようだ。

 彼女の「sit down」の一言で、椅子は戻され、僕は再び席に着かされた。

 ちなみに彼女の英語発音は流暢なそれで、よく英語の先生にも褒められているらしい。あくまで彼女発信の噂なので真偽のほどは知れないが、少なくとも僕の耳には外国人教師のそれよりもかなり威圧的に聞こえた。

 気のせいではなさそうなので、多少真面目な面持ちになる。

「誤魔化しは利かない?」

「この期に及んで、まだ誤魔化すつもりなの?」

 呆れた、と彼女は言う。

 僕も呆れてる、と内心返事をした。

「私のことが嫌いなら、そう言えばいいじゃない」

 どこか拗ねた様にそう言う彼女。いや、実際拗ねているのだ。そして、そうさせているのは紛れもなく僕だ。

 女を泣かす奴は、ヘソでも噛んで死んじまえ、か。

「嫌いじゃあないさ」

 彼女の言葉にそう返す。

 成る丈真摯に、思いが伝わりますように。

「君が好きだ」

 別段、恥ずかしい言葉ではない。だから僕は恥ずかしげもなくそう言った。それに、やっぱり別段、初めてというわけでもないのだ。すでにこの言葉は何十回と繰り返されている。

「じゃあ――」と彼女が口にする、それを遮るように。

「でも、今日という日は駄目なんだ。それだけは受け取ることが出来ない」

 机の上のチョコレート。それを見ながらそう言った。

 赤い包装紙が夕日に染まって、さらに赤みを増している。このまま置いておいたら、日暮れまでに溶けてしまいそうな気さえした。

 自然、彼女は俯いて、小さく「……そう」と呟く。

「来年からは、やめるわ。ごめんなさい」

 言う彼女の表情は、俯き加減で窺いづらかったが、それでもあまり好い顔はしていないのだろうなと分かった。

 ああ、そんな顔をさせたいのではないのに。僕はそんな顔をさせたくて、君の好意に答えないわけではないのに。しかしきっと、これは僕のせいなのだ。誰でもなく、僕のせい。

 だからせめて、とそう思った。

「最初にくれた物の包装紙は青だった」

 僕がそう言うと、正解だと告げるように彼女は顔を上げた。

 彼女の驚いた顔に僕は続ける。

「次の年は花柄、そのまた次は黒と白のストライプ。去年はハート型の箱だったかな」

「憶えてたの?」

 変わらず驚きの表情を彼女は隠さない。本当に心の底から驚いているという感じだった。

「僕だって、これでも毎年楽しみにしていたんだ」

 言いながら、机の上のそれに手を伸ばす。

 赤い包装紙を順に剥がし、綺麗に取り外す。中から出てきた茶色の箱を机に置いて、蓋を開けた。

 中には、手作りと思われる一口サイズのチョコレートが、ハートやら星やらに形作られ、緩衝材のペーパーパッキンと紙の飾りに包まれて入っていた。

 その様子を呆気に取られたまま見守る彼女。

 ハート型のチョコレートを一粒手に取ったところで、思い出す。

 そういえば、このチョコレートには毒が入っているのだった。

 まぁ、いいか。と、そう思った。

 どうせ死ぬ覚悟は出来ているのだ。それに、彼女の毒で死ねるのなら、それも本望だろう。

 溶けぬうちにと、そのチョコレートを口に放った。

 久しぶりの味だ。甘みと苦味が同調し、冷やりとした口触りの後、口の中でどろりと溶け始める。

 この苦味はカカオでなければ出ないのだろうな、とそんなことを思っていると。

「どう?」

 と、なぜか彼女が心配そうな面持ちで聞いてくる。

 何がそんなに不安なのかは分からなかったが、とりあえず、

「うん、うまい」

 素直な感想を言った。何も嘘はない。ただ、比較する前例が少なすぎるというだけで――。

 そこで、気が付く――違和感。

 ――喉が熱い。

 まるで焼けるように熱かった。いや、実際焼けているのかも知れない。さらに体全体も熱っぽくなっていき、呼吸も不規則に……。

 全身の毛穴から冷や汗のような、嫌な液体がぶわっと噴き出したのが分かった。

 ――はぁ、はぁ、こ、呼吸が……胸が……。

 呼吸が不安定なボーっとする頭で彼女を見る。なぜか思い出されるのはあの言葉。

 このチョコレートには――

 ――『毒が入っています』

「違うんだ……君の――」

 君のせいじゃあ、ないんだ。

 焼ける喉でそんな言葉をなんとか吐き出そうともがく。しかし、出てくるのは掠れた空気音だけ。

『この四年間、一度も他の男に目を眩ますことなくあなただけを見てきたというのに、この仕打ち。それは許されることなの?』

 許されないのだろうな、きっと。

 だからこんなことになる。

 でもこれは――全然、これっぽっちも彼女のせいじゃあなくて、ただの僕の自業自得なのだ。

 ……分かっている。

 女を泣かせるような男は――ヘソでも噛んで死んじまえ、だ。

 彼女を見る。

 視界もすでに霞んでほとんど識別は出来ない。かろうじて、彼女の顔だけが判別できるくらいだろうか。彼女が笑っているのか、泣いているのか、それは分からなかったけれど。

 分からなかったけれど――せめて、泣いていてくれたらな、と思う。

 彼女の口元が、わずかに動いたような気がした。

『私を泣かせるような男は――

 ――チョコでも食べて死になさい』

 何と言ったのかは分からなかったが、僕はただ一言「ごめん」と呟いた。

 何に対しての謝罪なのかは、やはり自分でも甚だ見当は付かなかったが、それでもきっと、僕にはこの言葉しかないのだろう。

「ごめん」

 もう一度、その言葉を繰り返して――そしてそこで、僕の意識は途切れた。

 最後に見た彼女の顔は、やはり霞んでいて判然としなかった。



   ………………



 意識を取り戻すと、そこは暗闇だった。

 いや、暗闇ではないのか。体の感覚を感じ、頭の後ろの何か軟らかい物体を知覚し、自分が目を瞑っていることに気が付いたのはその後だった。

 目を開ける。

「……何を、してらっしゃいますか」

「いえ若様、膝枕を少々」

 誰が若様だ、誰が。

 目を開けると、真っ先に見えたのは彼女の顔だった。顔といっても、上下反転した状況だったので一瞬認識に手間取ってしまう。見下ろすように僕を覗き込むものが彼女だと分かったのは、目を開けてから十秒も後だった。

 このまま体を起こすと彼女の頭にぶつかりそうだったので、そのままの姿勢で辺りを見渡す。

 体を包む純白の掛け布団とベッドに、それを囲むように張られた薄水色のカーテン。その向こう側からはラジオだろうか、ノイズ交じりの話し声が聞こえてくる。

 見覚えのある景色だった。あのじいさん、まだ退院してなかったんだな。

 一応の確認を彼女に取る。

「病院?」

「yes」

 これまた良い発音での返事だ。将来の夢が六ヶ国語通訳士だと、言うだけのことはある。

 ……病院、か。

 曖昧な記憶を呼び起こし、断片を繋げて行く。

 そうだ、確か僕は彼女のチョコレートを食べて……。

「倒れて、失神して、救急車で運び込まれたの」

 僕の記憶を彼女が引き継ぐ。ああ、そうか……ってことは――。

「――駄目だったか」

 結局、この年齢になっても治りはしないのか。

 そんな風に落胆している僕に、彼女が「バカね」と笑いかける。

「アレルギーがあるのなら、そう言いなさいよ」

「うん、ごめん」

 言葉もない、という感じだ。それこそ「ごめん」しか言葉が出てこない。

「カカオアレルギーなんですってね」

 お医者様から聞いたわよ、と彼女。

 今時はあまり医者に『様』を付けて聞かなくなったな、なんて思いながら、彼女の話を聞いた。

「アナフィラキシーショックを起こして、担ぎ込まれたの。お医者様の話だと、あなたのように二月十四日にアレルギーで運び込まれる人をバレンタインデー症候群と呼ぶそうよ」

「それはまた……お恥ずかしい」

 バレンタインデーに、彼女からもらったチョコレートを食べて倒れてしまうとは。まぁ、僕はまだ良い方なのかな。問題は――。

「私の方よ」

 言うまでもなく以心伝心で実に助かる。意識を取り戻したと言っても、アレルゲンが抜けるまでは喋ることすら辛いのだ。喉もまだ、焼けているような感覚がある。

 落ち込んでいるのか、俯きがちに彼女は言う。

 まぁ、俯いた先にあるのは僕の顔なので、呪詛を唱えられているような気分になったけれど。

「考えてもみなさいよ。養護教諭の先生に、彼氏がチョコレート食べたら失神したので救急車を呼んでください――とか言う私の気持ち」

「…………」

 想像して、吹き出してしまいそうになった。十割が僕のせいなので、そこはぐっと堪えやっぱり一言「ごめん」と繰り返す。

「ごめんじゃないわよ」

 額をコツンと叩かれる。

 その通りだ、と頭の中で返事をしてから話を続けた。

「青年期になれば体質が変わるから、アレルギーが治る可能性もないわけじゃあないんだ。だから大丈夫かもしれないと、その可能性に賭けてみた」

 結局駄目だったけどね、と付け足すことも忘れずに。

 本当、改めて『食べられない毒はない』ということを実感させられた。

「チョコレートにやたら詳しかったのはそのせい? テオブロミンがどうとか、致死量がどうとか」

「うん。恐怖は無知から生ずというからね、アレルギーが見つかったときにカカオの入った食品のことは一通り調べたんだ」

 チョコレートはその最たる物だった。まず最初に、避けなければならない毒。

「受け取ることは出来なかった」

 食べられない物を受け取って、食べないままというのは気が咎める。

「でも、それならそうと言えば良かったじゃない。そうしたら……

 ……そうしたら、私が毎年、無駄に泣くことなんてなかったのに」

「……ごめん」

 もう今日だけで、何度この言葉を使っただろうか。数えてはいなかったけれど、きっと四年分くらいだ。

 ……四年か。

 そうだな。ちょうど切りも良いし、『四』ということで縁起も悪いし。四年間、言えなかったことを言おう。と、そう思った。

「嬉しかったんだ」

「…………」

「言っただろう? 毎年楽しみにしてたって」

「なんで?」

 食べられもしないのに、と彼女。

「食べられないからこそだよ。僕さ、チョコレート大好きなんだ」

「えっ?」

 彼女が不思議なそうな顔をする。まぁ、そりゃそうだ。

「特別珍しいことじゃあない。意外といるんだ、アレルギーがあるけれど、その食品が好きって人」

 可笑しいだろ、と笑ってみせるが、彼女は笑わなかった。

 話を続ける。

「だから嬉しかったんだ。自分のために作られたチョコレートが、自分のチョコレートがあることが。本当は凄く食べたかった。そして今日、ついに手が出た。結果はこの様だ」

 話を続ける。

「もし、このことを言ったら、きっと君は僕にチョコレートを作ってきてくれなくなる。それが至極嫌だった。だから言えなかった。言わなかったんだ。自分の我が儘のために」

 君を毎年泣かしていたんだよ、とそう言った。

 四年間、言えずにいたことを言い切った。僕はなんて最低の奴なのだろう。改めてそれを自覚する。

 ……返事は、ない。

 病院のベッドの上、僕を膝枕するためにベッドに座り(おそらく正座し)、僕の頭を両手で支えるように触れる彼女。頭上にある彼女の顔は寝ている僕からは見上げなければ見えない位置だった。

 返事がない以上、表情を見なくては彼女の気持ちすら分からない。

 おそらく怒っているのだろうな。先ほどから沈黙が、際限なく僕を責め立ててくる。

 もしくはどうだろう、大穴だが、泣いているかもしれない。基本的には気丈な彼女だが、弱いところはいくつもある。それに彼女はこの四年間、ずっと泣き続けてきたのだ。その可能性はむしろ……。

 それは――嫌だな、と思った。どの口が言うのだ、とも。

 思いながら、顔を上げた。一体、彼女はどんな表情をしているだろうか、出来れば、泣いて欲しくはな――。

「……ぷっ」

「…………」

 笑っていた。いやいや、正確には笑いを必死に堪えていた。

 どういうことだ、一体。

「ぷっあはあはははははははっあははははっ!」

 僕が見上げていると、しばらくして彼女が吹き出した。

 え、何一体。どういうことなんです?

「だって、っぷ、あなた、あは、それだけ詳しいのに、ふっ、キャロブも知らないんですもの、あはははは!」

 何だって?

 彼女の話は笑い混じりで聞き取りづらかった。

 キャロブって言ったのか?

「本当に知らないの?」

 しばらくして、ある程度笑いを抑えた彼女が言った。僕は「知らないな」と答える。

「簡単に言えば、カカオの代用品よ」

 代用品、という言葉に耳がピクリと動く。

「和名はイナゴ豆というのだけれどね。このキャロブを使ったチョコレートが世の中にはあるのよ。それこそあなたのようなカカオアレルギーの人のためのチョコレート」

「それは……」

 ……本当に知らなかった。

「あなた、カカオを使った食品については調べたのでしょうけれど、それの代用品にまでは気が回らなかったのね」

 ホント、バカな人。と彼女は笑った。

 くっくっくとお腹が捩れるんじゃあないかというほど笑っている。……少し笑いすぎだ。

 とりあえず、今一番聞きたいことを聞いた。

「それで? そのチョコレートを自作することは可能なんですかね?」

「ええ。完璧なチョコレートとは行かないけれど、スナック系の菓子やクッキーにすれば、違いもそう目立たないでしょうね」

「…………はぁ」

 思わず溜め息が出てしまった。それも仕方がないことだろう。まったく、一体何だったんだ、この四年間は。本当に自分が馬鹿野郎だったとは気が付かなかった。

 結局のところを、僕は言う。

「じゃあ、来年はそれで」

「はい」

 彼女はあっさり了承してくれた。あれほど迷惑を掛けた僕なのに、今頃になって罪悪感で胸が張り裂けそうになった。

 そんなことを思っていると、「ただし」と彼女が言葉を続けた。

「ただし、あと四つチョコレートを食べてもらいます」

「まだ残ってたのか」

 四年分の借金は、まだ当分返せそうにないらしい。まぁ、チョコレートには基本的に消費期限はないし、味の方も保障されていることだろう。ああ、殺される。

 せめて一口で許してもらえないだろうかと思案していると――。

「……そういえば」

 と彼女が言った。

「もし本当に、あのチョコレートに毒が入っていたら、あなたどうするつもりだったの?」

「うん?」

「このチョコレートには毒が入っています」

「ああ、あれか」

 頭の中で、彼女のチョコレートの味を思い出す。甘みと苦味が同調し、冷やりとした口触りの後、口の中でどろりと溶け始める――あの感覚。最高のチョコレート。

 もしあれに、毒が入っていたら、か。

 ふふっ、と笑って僕は言った。

「チョコでも食べて死んでるさ」

 ヘソを噛むより、よっぽど良い。

 僕がそんな風に言うと、彼女は「そう」と一言口にして、あとは何も言わなかった。

 病室の窓から暖かな風が入り、薄水色のカーテンを揺らす。

 春が近い。

 来年がこんなに待ち遠しいのは初めてだった。




                                      《fin.》


                      《May your St Valentine's Day be happy!》

                                   《Thank you.》



久しぶりに小説を書いた結果が、これだよ!

いちゃいちゃしやがって!

リアル友人の『小説家になろう』作家、西田奈美緒さんのバレンタインデー作品『毒牙』に中てられて書きました(嘘)

彼のそちらの作品も宜しければ、拝見してやってください。

感想をくれたら幸いです。

皆さんのバレンタインデーが幸せなものでありますように。では。

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