表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地震屋たち  作者: 春市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

オオナマズ

 東京都小金井市、そのどこかで何とも言い表し難い二人組が闊歩していた。

 一人はデカイ。身長185センチメートルはあるだろうか。顔は五十代半ばといったところだ。そしてもう一人は小柄だ。まだ少年の匂いが抜けない男がフードを深めに被って大男の三歩後ろをついてゆく。

 彼らに何か共通点を見いだすとするならば、一つ。

 それぞれ、身の丈ほどの長さのバッグを縦に担いでいる。遠目で見ればゴルフの帰りに見えないこともないが、それは異様な雰囲気を醸し出していた。

 そして、大通りを左にまがり小道に入る。五分ほど歩くと、古びた建物の前で足を止めた。


 「木佐貫(きさぬき)さん、ここが今回の現場ですか。なかなか...味がある建物ですね。」

 「うん、古いなあ。俺の婆さんの家がこんな感じだったな。遥斗(はると)はどう思う?」

 「まあぼろっちいですね。」

 「右に同意。」


 それもそのはずだ。全体から木造の匂いがするし、屋根は瓦屋根。窓がところどころ破れ、庭は薮になっている。

 ずいぶん前放置されたとみえる、タンスにストーブにゴミ袋の山。それがうず高く積まれ、塔のようになっている。

 神の怒りで人類の言語が分かたれるのも時間の問題だろう。


 正真正銘のゴミ屋敷である。


 「はあ~こんなごみ溜めに入らといかんなんて、()()()とは、な~んて不憫な職業なんだ。」

 「木佐貫さん...」

 「あ、悪い。お前の気持ちは分かってるから...。まあまあ、そんな恐ろしい顔するんじゃねえよ。福が逃げるぞ。」


 「じゃあ、いきますか。」

 「おう。」


 そういって、二人はバッグからそれぞれの装備を取り出した。

 木佐貫はドでかいハンマー。100tって書いてありそうなヤツだ。

 遥斗の武器(エモノ)はメリケンサックだ。グローブに痛そうなトゲトゲがついているものだ。

 それぞれ装備を手にとり、馴染んできた頃。彼らは屋敷に踏み込んだ。


 ガシイイイイイン!!!

 ハンマーでいくらドアノブをいくらガチャガチャやろうが開かないドアをぶち壊す。

 

 「うーん。なんか悪いことした気分だなあ。」

 「しょうがないです、もともと立て付けが良くなかったみたいだし。家主も家の解体費用が浮いて良かったんじゃないですかね?」

 「そうかなあ?」

 木佐貫が無精髭をなでながら受け答えた。

 ぶち壊したドアを乗り越え、二人は家屋に侵入する。

 「今回の標的(ターゲット)はなんだっけか?」

 「たしか...三級相当でしたっけね。」

 「三級か。なら、俺たちで十分イケるな。」

 「気は抜かないで下さいよ。」


 わかってらア、と木佐貫が答えると少し付近の空気が揺れた。


 「近いぞ...。一階と二階...どちらかな?」

 「じゃあふた手にわかれて標的(ターゲット)を探しましょう。」

 「見つけたら、笛で呼べよ。」


 隊員には緊急笛が支給されている。


 「じゃあ僕は二階を探します。」

 「分かった。じゃあ俺は一階だな。

...これは骨が折れそうだ。」


 とりあえず、二階に上がってみる。

 歩くたびにギシギシなる階段を一段一段気をつけながら上がっていく。昔の家あるあるだが、階段の一段一段が異常に高くて足をとられそうになる。


 階段を上がると、廊下が一本はしり、左手にドアがひとつ配置されている。

 

 (ドアは一つか...)


 「こういうときに片手がふさがらないのがこの武器(メリケンサック)のいいところだよな...」

 

 ドアノブに手をかけ、一気に開く!


 部屋のなかは六畳ほどの部屋だった。壁際に本棚が一つ。マンガ雑誌がうず高く積まれ、奥の窓際には勉強机がおいてある。壁に掛けられた時計は3時21分で止まったままで、まるでこの部屋の時が止まったような(さま)を如実に表していた。

 しかしそのなかに特異な存在が放たれていた。

 少年が、たたずんでいる。背中をこちらに向けて。

 少年は何もしていない。動きを見せる様子はない。

 だが、

 遥斗が殺意を向けるには十分だった。

 「お前が、()()()だな?」


 少年が沈黙を破る。


 「そうか...存外早かったな。」


 「お前は、人間の世界には危険過ぎる。抵抗しないのなら...楽に殺してやらんこともない。」


 少年はケタケタ笑いながら


 「君は待てといって、待つ泥棒を見たことがあるのかい?」


 遥斗が言い返す。

 「どちみち、お前は殺す。死ぬ運命に吸い込まれてんだ。」


 拳を向けながら威嚇する。


 「じゃあ...抵抗するしかないね!!」


 ピイイイィィィィイイイイ、!!!


 笛の音は甲高く東京の深夜に吸い込まれた。


 「そう簡単に殺られるために伊達に50年生きてきたわけじゃないよ!」


 そういった少年の足が畳の床にズドンと突き刺さり、一瞬で床にメリメリとヒビが入って、崩れ落ちた。


 ズドッドドン!!


 「クソ...やってくれたな。」


 「悪いね、こっちも生きるので必死なんだ。」


 「気分が悪い。さっさと決着をつけようか。」

 木佐貫を待とうかとも思ったが、思考より先に拳が振り上げられていた。


 瞬間、遥斗に拳の先から()()が発せられ、あたりの食器類をめちゃくちゃに壊す。

 

 少年が驚嘆の表情でこちらをみている。

 「驚いたね...人間が()()を操るなんて...」


 「人間を舐めちゃいけないさ...」

 静かな怒気が混もっている。


 「そうっかあい!!」


 少年が足で古びた床を踏みつけ一気に遥斗の懐へはいる。そのままあしを

 (来るっ!)

 とっさに腕で防御したが、ビリビリと痛む。

 (コイツ、パワータイプかな...!)


 だったらなおさらさっさとしなければ。

 その間にも少年は一撃一撃と重い拳を遥斗に向けて放ち続ける。

 「おら、どうした、どうした!?」

 「オレを殺すんじゃなかったのかあ?ああん?」


 少年の打撃を防御し続けると、縁側が近くなる。

 そろそろ息が切れてきた。

 「ここは、逃げだ...!」

 少年に聞こえるよう、大きく声を張り上げた。


 「待てえええぇ!!」

 二人とも縁側から跳び出し、庭へ―


 「はあい!ドオオォォォオン!!」

 

 少年の土手っ腹に強烈な一撃がはいる。

 「ガハッ!!!!!!!」

 (仲間がいたのか...!)


 「ナイスタイミング!木佐貫さん!」


 木佐貫が得意げな顔を張り付けて「グワングワン」と鳴っているハンマーを担ぎながらやってきた。


 少年が咳き込みながら倒れ込む。

 すると、少年口から何やらもぞもぞと黒い物体がうごめき出てくる。


 ヌルッポン!

 

 ナマズだ。


 少年にこのナマズがとり憑いていたのだ。

 ナマズは玉石の上を懸命に這ってゆこうとするも、人間二人がナマズの行く手を阻む。

 「くっそぅ!頼む、許せ!」

 「こんな...こんなとこで死にたくねえんだよ!!分かってくれよォ!」


 「ここ最近このあたりで地震が多く発生している。...お前の仕業だな?」


 ナマズの身体が一瞬硬直する。ナマズは隠したように思っているらしいが、二人は見逃してはいなかった。


 「そ、そんなこと知らねぇ!オレじゃねえんだ。」


 「お前...ウソついただろ?」

 自分でも驚くほど冷たい声だった。


 「ウソなんて..」

 「こっちには分かってる。」


 「関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災...地震にはマントルやらプレートテクトニクスなんて科学者の考察だけじゃ説明できない()()がある...」


 「それがお前ら()()()()()だ。」


 「もう時間のムダかな。聞きたいこともあったけど...仕方ない。」


 遥斗の拳が不意に()()()()()、次第にそれが大きくなってゆく。

 「待ってくれぇ!!家族が!」


 「ウソ言っちゃあいけない。」

 そして、

 「待っ..」


 「(ハッ)!!!!」


 遥斗のおおきく振りかぶった拳がナマズの顔面にめり込み、大きく抉られた。

 ナマズはすこし痙攣(けいれん)したあと、動かなく、なった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ