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異世界農業実習〜平凡な私がこの世界でできること〜  作者: 長月 朔(旧:響)
【第1章】生きるための場所

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平凡は回り始める

壺の完成から数日前

そしてパンを焼いた日から、数日が過ぎた。


拠点の周囲には、自然と人の姿が増えていった。


「また、あの穂のある作物を刈るのだろう」

「なら、手伝わせてほしい」


声をかけてきたのは、村の女性たちだった。


──────


収穫は、学生だけでやるつもりだった。


けれど、人手が増えると、作業の進みはまるで違う。


「こうやって束ねればいいのだな」

「穂先は落とさないように……これで合っているか?」


結衣は、隣で鎌を動かしながら答える。


「はい、それで大丈夫です」

「刈る位置は、そのくらいで」


口にした瞬間、自分でも少し驚いた。


(……ちゃんと、出てくる)


高校時代の実習。

何度も繰り返した作業。


忘れたと思っていた感覚が、自然と手に戻ってきていた。


「慣れているな」

「教え方が分かりやすい」


そう言われて、結衣は少しだけ視線を伏せる。


──────


脱穀は、収穫のあとに始まった。


束ねた穂を持ち、台に叩きつける。

粒を落とし、殻を外す。


「……思ったより、硬いな」

「何度も叩かないと、落ちない」


村の女性たちは、黙々と作業を続けた。


腕を振る。

粒が落ちる。

また振る。


「単純だが……地味に力がいる」

「腕が重くなるな」


それでも、手は止まらない。


脱穀は“できる”作業だった。

時間はかかるが、手応えがある。


「ほら、落ちたぞ」

「だいぶ溜まってきた」


笑い声も、まだある。


結衣はその様子を見て、胸の奥で静かにうなずいた。


(脱穀までは……何とかなる)


──────


問題は、その先だった。


粉にする作業。


すり鉢に粒を入れ、石で潰す。

潰して、ふるう。

残った粒を、また潰す。


「……終わりが、見えないな」

「全然、細かくならない」


一人が言う。


別の人が、無言で手を止める。


「力を入れても、思ったようにいかない」

「時間ばかり、かかる」


結衣は、その場の空気が変わるのを感じていた。


脱穀とは違う。

成果が見えない。


「……これ、毎日やるのは無理だな」

「腕も、心も持たない」


誰かが、ぽつりと漏らす。


学生たちは、誰も前に出なかった。


(知ってる)


しんどい。

時間がかかる。

しかも、量が増えれば増えるほど終わらない。


粉にする作業は、結局そこで止まった。


すり鉢の中には、まだ粒の形が分かる欠片。

ふるいに残るものばかりが増えていく。


「……今日は、ここまでにしようか」


誰かが言った。


反論は出なかった。

腕も、気力も、もう限界だった。


結衣は、すり鉢の中を見つめながら、静かに息を吐く。


(これを毎日やるのは……無理やな)


その時だった。


「──おい」


低く、通る声。


振り向くと、グランが立っていた。

グランの後ろには、木製の簡易台車があった。

その上に、布で包まれた石臼がどっしりと鎮座している。


「完成したぞ。石臼だ」


一瞬、空気が止まる。


「……え?」

「今、なんて?」


グランは、にやりと口の端を上げた。


「だから、石臼だ。試すんだろ?」


次の瞬間、全員が動いた。


据えられた石臼。

粒を入れる。

取っ手を回す。


ごり、と低い音。


粉が、落ちた。


「……え」


結衣が、思わず声を漏らす。


指ですくった粉は、さっきまでとは明らかに違っていた。

揃っている。

軽い。


「回してるだけなのに……」

「全然、力いらない」


誰かが笑う。

別の誰かも、つられて笑う。


「さっきまでのは、何だったんだ」

「これなら……これなら、できる」


空気が、はっきりと明るくなった。


グランは腕を組み、満足そうにうなずく。


「そういう顔を見るために作るんだ」

「無理を続けるな。道具にやらせろ」


結衣は石臼を見つめ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


(……これで、先に進める)


世界樹のざわめきが、静かに、でも確かに弾んだ。


石臼は、ゆっくりと回り続けている。

この村の“次”を運びながら。


25.12.31


筆が進まずアイデアも出ず困ってました...

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