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異世界農業実習〜平凡な私がこの世界でできること〜  作者: 長月 朔(旧:響)
【第1章】生きるための場所

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平凡でも描ける村の未来図

拠点の夕暮れは、なぜだか落ち着く。

風が抜け、薄い土埃が舞い込み、薪の匂いと混ざって懐かしい田舎の空気を思い出させるからかもしれない。


私が入口の幕をくぐると、すでに全員が丸いテーブルのまわりに集まっていた。


「結衣!はよ座り!今日は本気出すで!」

明日香さんが手をぶんぶん振る。


「う、うん……」


(ほんまに“本気”って顔してる……)


吉瀬先輩が咳払いをして会議を始めた。


「今日は、水源調査班・燃料調査班・仮設地形班の報告を共有して、浴場とトイレの“最終設計案”を固めたい。まず、位置の候補は2つとも出そろった」


木版が中央に置かれる。


南側の少し窪んだ地形に“トイレ案”。

東側の小高い場所に“浴場案”。


どちらも最終的に村の人に使ってもらう前提で配置されていた。


「ほなまずトイレから行こか!」

明日香さんが木版を指さす。


「匂いが戻らへんように風向き考えて、南側に設置やな。人目も避けやすいし、夜でも行きやすい!」


篠宮先輩がうなずいた。


「排水もこちらに逃がせます。井戸と水脈は完全に外せたので、衛生面でも問題なしです」


「6基だな。一ヶ所にまとめるより、分散したほうが村の負担が少ない」

吉瀬先輩が設計線を引く。


白河さんが静かに補足する。


「消毒の仕組みをどう入れるかが問題ね。薬草を用いた殺菌剤を考えてみるけど……材料が手に入るかは調べてみないといけないわ」


私は手を挙げた。


「あ、あの……その薬草なら、昨日見た川沿いに似た葉っぱがあった気がします……」


「ほんま!?結衣ええやん!」

「さすが観察力あるね」

明日香さんと篠宮先輩が同時に声を上げた。


(わ、褒められた……)

胸の奥があたたかくなる。


次に浴場。


「まず熱源やけど……薪は確保できとる?」

明日香さんが岩城先輩を見る。


「……続けて調達してる。だが、冬には足りなくなる」


岩城先輩は短く答えながら、布袋を一つ持ち上げた。

袋の中では、淡く光る石の欠片がこつりと鳴った。


「森の倒木の陰に……これが落ちてた。光り方と風の冷たさからすると、“風魔石”の欠片だと思う。実物を見るのは初めてだ」


初めて魔石を目にした他のメンバーは、一斉に身を乗り出した。


「ほんまや……なんか涼しい風まとってる感じする……!」

「これが……魔石……」


その驚きの空気を、吉瀬先輩が締める。


「となると、浴場は薪と魔石の併用になるな。魔石交換用の口は最初から作るべきだ」


「この魔石は風だと思われます……湿気飛ばしや換気には応用で使用できます」

白河さんが淡々と補足する。


篠宮先輩は木版に書き込みながら言った。


「男女の入口は絶対に分けましょう。あと……脱衣場所の目隠しを強めに。村の人たち、けっこう“見られるのは恥ずかしい”と言っていました」


「そういやそうやな!」

明日香さんが手を打つ。


「村の人ら、ああ見えて結構シャイやったもん」


吉瀬先輩は静かにうなずいた。


「じゃあ、脱衣場所は仕切り多め。建物は少し奥まった構造にしよう」


私はふと疑問が浮かんだ。


「……えっと、浴槽って、どれぐらいの大きさなんですか……?」


吉瀬先輩が笑う。


「そんなに大きくしないよ。まずはうちら用の小規模な浴場からだ。村の分は、成功してから広げる」


(そっか……“みんなが使えるお風呂”を作る第一歩……)


胸が少し高鳴った。


そこへ岩城先輩が、今日の森の報告を付け加えた。


「……森で……大きい爪痕と、土がえぐれた跡があった。魔物が……最近通ったみたいだ」


「魔物、本物を見たのか!?」

吉瀬先輩がわずかに目を見開いた。


「いや……姿は見てない。気配も薄かった。ただ……跡の大きさからすると、注意したほうがいい」


篠宮先輩が真剣な顔で続ける。


「痕跡だけでも脅威です。しばらくは単独行動を避けましょう。魔物は魔力を帯びているので、遭遇した場合は必ず距離を取ってください」


「は、はい……!」

(魔物……ほんまにおるんや……)


胸が少し震えた。


「でも、食料の幅は広がる可能性がある。安全第一で行こう」

吉瀬先輩は落ち着いてまとめた。


私はポケットに入れていた木片にそっと触れた。

生活魔法の練習でついた、小さな水滴の跡。


(みんなの役に立てるように……もっと練習しよ)


「よし、だいたい方向性は固まったな」

吉瀬先輩が木版をまとめる。


「結衣、明日からも水源の調査お願いね」

白河さんが優しく言う。


「う、うん!がんばります!」


「魔法も、ちょっとずつ扱い慣れていけば大丈夫ですよ」

篠宮先輩が微笑む。


(……平凡やと思っとったのに。

なんでやろ、みんなといると、がんばりたいって思える)


そのとき——


「ほなっ!!明日は風呂の資材と場所の確認やからなーーーっ!!

絶対完成させんでーーー!!」


外から明日香さんの声が炸裂した。


「……今日も元気やな」

「ほんま、すごいなあの人……」


みんなが苦笑する。


私はそっと息を吸い、心の奥に芽生えた小さな熱を感じた。


(平凡でも……

この世界で、できることが、きっとある)


次の瞬間、

世界樹のざわめきが、かすかに胸へ染み込むように響いた。


そして外ではまだ、明日香さんの声が風に乗って響いていた。


(……この村、絶対良くなる)


私は強くそう思った。


25.12.12


誤字報告で主人公の名前ミスってました!

悩んでた頃の残骸が....


本日いけるだけ投稿します!

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