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やまびこごろし  作者: Patching a Poet
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最終章:終焉の中で

山他彦彦は、深い森の奥で、誰にも知られず、ただ静かに生きていた。その静けさは、血の代償によって維持されている。木々の間に作った簡素な寝床、落ち葉や苔に覆われた地面、周囲を巡る小川のせせらぎ――すべてが、わずかに安息を与える舞台だった。しかしその安息の影には、常に冷徹で苛烈な行為が潜んでいた。出会った人間はためらうことなく排除され、血は土と落ち葉に深く染み込み、痕跡は完全に消される。誰も、二度と山他の存在に気づくことはない。その孤独は森に溶け込み、影のように日々の呼吸の隙間に潜んだ。


山他は日々、山道を慎重に歩き、動物の声や風のざわめきに耳を澄ませ、自身の存在を隠す。森で偶然人と出会えば、刃はためらいなく血を運ぶ。反射のように振るわれるナイフは皮膚を裂き、骨や筋肉を貫き、血が飛沫となって地面や木の幹に飛び散る。低い唸りと共に、人間の体が痙攣し、倒れ、口や鼻から赤い熱を帯びた液体が溢れ、落ち葉や苔に浸透する。そのすべては森の奥深くに静かに溶け込み、痕跡は山他の計算された動作によって徹底的に消される。


ある日の昼下がり、林の奥で散策者の男と出くわした。男の存在を感知した瞬間、山他の目は即座に状況を把握する。男は森の奥に迷い込み、不意に立ち止まった。刃を握る手に冷たい力が走り、血流が僅かに速まる。山他は距離と角度を精密に計算し、最も静かに行動できる方法を選ぶ。踏みしめる落ち葉の音さえも最小限に抑え、影に潜み、男の背後へと忍び寄る。呼吸を殺し、ナイフを水平に構える。視界の端で揺れる枝葉の影も、微かな風の匂いも、すべて計画の一部だ。

男の背中に刃が走る。低く抑えた唸りとともに、男の体は痙攣し、血が服を赤く染め、滴となって苔に落ちる。山他は倒れた者の体を引き、落ち葉で覆い、足跡も血痕も徹底的に消す。刃を置く手は微動だにせず、呼吸も乱れない。胸の奥に潜む罪の感覚は冷徹さに覆われ、すぐに沈黙する。行為と孤独は不可分のものとなり、森の静寂と一体化していく。


その日の夕暮れ、森の小道を歩くアベックに遭遇する。山他は木陰に身を潜め、周囲の枝や落ち葉の微かなざわめきさえも聴き逃さない。夜空の光を反射した刃が一閃すると、女性の体が痙攣して倒れ、血が髪や服に広がる。続いて男性も同様に動きを止める。血液は地面に滲み、小川の水面に赤い影を映す。山他は冷静に体を茂みの陰に引き、落ち葉や小枝で覆い、周囲に血の痕跡を残さない。森に残るのは、ただ風と小川のせせらぎだけ。生き延びるための行為は、彼にとって連鎖する儀式となり、時間の経過とともに身体に染み込む。森は息を潜め、日差しの残滓すらも彼の存在を明かさなかった。


夜が更けると、山他は低い土手に身を潜め、小さな焚き火を起こす。火の揺らめきに映る背中、手、落ち葉――すべてが孤独と冷徹さを象徴する。火の温かさは短く、冷たい夜気が全身を包む。木々の影が揺れ、枝が風にざわめくたび、山他は一瞬の緊張を胸に感じる。夜風に混ざる湿った土の匂い、遠くで響く動物の声、落ち葉の重なる音――すべてが彼の世界の輪郭を形作る。


翌朝、遠くの小道で別のハイカーグループの気配を察知する。狙いは正確で、笑い声や荷物の擦れる音は血の行為の前兆となる。瞬間の判断、動きの速さ、刃の走りにより三人は地面に倒れ、血が小川の流れに反射して赤く光る。山他は手際よく体を枝葉で覆い、痕跡を完全に消去する。森の空気は再び静寂を取り戻すが、その静寂は血で塗り固められたものだった。

痕跡を消す作業は無意識の儀式となり、日常の一部となった。


夜明け前、山他は再び移動を始める。昨日の行動の痕跡を踏み固め、落ち葉や小枝で地面を整え、新たな場所へと潜む。森の孤独は血の連鎖の冷たさとともに刻まれ、救いも赦しもない。あるのは深い森の静寂と、影の足音、そして血で塗り固められた痕跡だけ。時間は森に吸収され、血と影の記憶だけが薄暗い空間に累積していく。

森の奥深くでの孤独、罪、そして血の記憶だけが、最後まで山他の世界に積み重なり続ける――静かに、確実に、夜の深淵の中で溶け、人としての輪郭が森と影に溶解していく。


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