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詰んでる状況と親友の善意


「ミュゼちゃんは、この後どうするの? ……フェリクス様と結婚なんて、したくないでしょう?」


 そういってイリアは気遣わしげに眉を潜めた。


 イリアは私を心の底から心配してくれている。

 イリアは伯爵位の出の身分の高い令嬢なのだが、貴族にしては珍しく、誰に対してもとても素直で真面目な子だ。身分的には下位の零細男爵令嬢である私にまで優しくしてくれる。


 ちゃんとした社交界ではまた別だが、私とイリアが学園内にてこうしてタメ口で仲良くする仲にまでなれたのは、イリアの人柄による所が大きい。

 ……まぁイリアは素直すぎてたまに人の地雷を踏む事を言う点は問題ではあるのだが。やはりそれで何度も社交界でやらかしてはいるらしい。


 だからこそ、私もイリアに今回のフェリクス様との婚約についての話を話せた。イリアなら面白半分に誰かに話したりしないだろうし、きっと真摯に私を心配してくれるだろう、と。


 私にとって貴族の中で一番本心を話せる友達はイリアだった。イリアにとって私がどうなのかは分からないけど……。


 本来ならこの婚約話はまだ公にされているものではなく、ぶっちゃけ私の好きな人の正体以上に外でしない方が良い話ではあったんだけど、自分の中だけで抱え込むのもしんどかった。


 ……ここは裏庭だ。誰も聞いていない事を切実に祈るしかない。


 私は本気で私の事を想ってくれていそうなイリアに内心感謝しながら、本心をぶちまけた。


「それは本当にその通りだよ。フェリクス様みたいな無駄にハイスペックな王子様と結婚なんて重荷、私は絶対に背負いたくなんてない!」 


 あんな頭脳明晰で容姿端麗で文武両道な才色兼備の王子様との結婚だなんて、社交界でどんな妬みや恨みを買うか分からない。

 零細男爵令嬢として、平民とそこまで変わらない人生を歩んできた私にとっては、とてもじゃないけど身に余りすぎる事案だった。


 私がこの世で一番嫌いなのは面倒な事や厄介な事に自分がかかわり合いになる事だ。フェリクス様との婚約は見事に両方に当てはまる。

 何がなんでも、絶対に回避したい。


「サザンドラ様と結婚できなくなる問題についてはいいの?」

「それはもう最初から出来ない事が確定してるから、ぶっちゃけどうでもいいかな。私はサザンドラ様と結婚する事だなんて、端から諦めてるし」


 今回のフェリクス様との事でそれは確定的になった。

 ……サザンドラ様には高貴な身分の貴族令嬢の婚約者がいるのだから。


 サザンドラ様は何で私に、その事を話してくれていなかったんだろう。サザンドラ様の女友達の中では私が一番仲がいいと思っていたのは、私の思い上がりだったのかな。


 まぁもしかしたら、フェリクス様の結婚事情と同じように、王家の内部だけで秘匿されてる情報だったのかもしれないし、あまり深く考えても仕方がない問題なのかもしれないけど。


「ミュゼちゃんとサザンドラ様、いい感じなのになんかもったいないよね~」

「それは友達の贔屓目だよ、そしてもうそれ以上サザンドラ様の名前を出すのはやめよう。今回は関係ないし、誰が聞いてるかわかんないんだから」

「……ミュゼちゃんがサザンドラ様の事を好きなのは、二人の共通の知り合いなら、たぶんみんな知ってそうだけどね」

「何か言った?」

「う、ううん。なんでもない」


 イリアは気まずそうに目を泳がせた。一体、どうしたのだろう。

 イリアは話を変えるように、「ごほんごほん!」と言った。こういうの本当に口に出して言う人っているんだな。

 

「ミュゼちゃんはフェリクス様とこの後ちゃんと話す予定はある?」

「え? いや、ないけど」


 私はそれで困っているのもある。


 朝食の時に親が言っていたが、これから王家との顔合わせなどの時にフェリクス様と会う予定はあるらしい。

 が、私とフェリクス様が一対一で会う予定は一回も今のところないらしい。


 心配性の父は「圧倒的身分差婚な上に愛のない結婚になったらミュゼが可哀相だ」と言っており、逆に母親は「フェリクス様はミュゼと時間をかけて仲良くなりたいのかもしれないわ」と言っていた。

 少なくとも両親達の耳には私たちの結婚は私が電撃プロポーズをした事がきっかけであると伝わっていない事は分かった。

 

 そういう事の詳細も含めて、本当はフェリクス様をちゃんと問い詰めなくてはいけないのに、私は何もできていない。


 学園内のフェリクス様はいつも高位貴族の取り巻きの皆さん達に見事にガードされているから、私が声をかける隙間なんてないのだ。


 でも、このまま流れに身を任せていては絶対に駄目なのも事実だった。


 ……私は一体どうしたら!?


 私は「今の状況ってひょっとしたら、かなり詰んでるのかもしれない」と本気で参っていた。


 そんな私を見て、イリアは何かを決心したかのように「うん!」と気合いを入れるかのように言った。


「ミュゼちゃん、私、フェリクス様を捕まえてくる!」

「は? どういうこと?」

「ミュゼちゃんとフェリクス様が一対一でちゃんと話せるようにセッティングするよ、ってこと!」

「そ、そんなのいいよ。イリアに悪すぎる」

「元々は私のせいでミュゼちゃんはフェリクス様と結婚する羽目になっちゃったんだよ。私、この件に関してはミュゼちゃんに出来る限り全力で協力する!」


 イリアはそういってむん!と再び気合いを入れるように言った。

 まずい、イリアが善意からの暴走を始めてしまった……!


「ミュゼちゃんがなんて言っても、絶対にミュゼちゃんの力になれるように頑張るから! じゃあ私は今日の放課後にフェリクス様とミュゼちゃんがお話しできるように場を整えてまいります! ミュゼちゃんはゆっくり心の準備をしててね~」


 そういってイリアは秒でお弁当を片付けると、私が止める間もなく、校舎へ向かって駆けていった。

 い、いやいやいや。正直フェリクス様とお話しできる機会を作ってもらえるのは大変ありがたいけどさ。


 ……猛烈に、嫌な予感しかしないかも!

 


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