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逃げられるチャンス


 その表情をどう解釈したのか、縦ロール令嬢は嬉々としてフェリクス様の傍へとずずいとにじり寄った。


「この女に無理に告白されて、さぞ迷惑されているでしょう。私はどうにかして彼女の暴走を止めようとしたのですが、この女がどうしてもフェリクス様に告白したいと言って聞かず……力不足で、ごめんなさい」


 しおらしい様子でフェリクス様へと謝る縦ロール令嬢に、私は困惑する。

 縦ロール令嬢は花瓶をうっかり割った私の友達をノリノリでいびり、私の事も「オーホッホッホ!」なんていう今どき聞かないような高笑いをしながら射撃勝負でボコボコにしていたのに。


 とても短い付き合いだけど、明らかにこんな大人しいキャラじゃない事は分かる。さては縦ロール令嬢、フェリクス様の前で猫を被っているな?


「気にしないで。僕はミュゼちゃんに告白してもらって、とても嬉しかったから」

「まぁ、フェリクス様はお優しいのですわね!」

「いいや、僕は利己的な人間だよ。ミュゼちゃんは分かってるかもしれないけど」

「…………?」


 いや何がなんだが全然分かっていないですが? と私が無言で首を傾げていると、縦ロール令嬢は残念そうな顔で「フェリクス様が困っていらっしゃらないのでしたら、良かったですわ」と言った。言動と表情が全く一致していない。


「もう遅いから、ミュゼちゃんも君も帰るといい。送迎の馬車も待たせているだろう?」

「まぁフェリクス様、お気遣いいただきありがとうございます! お言葉に甘えて帰らせていただきます」


 縦ロール令嬢はしょぼくれた顔から一転し、ニコニコ微笑みながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 令嬢らしかねる仕草だけど、すごく可愛いっちゃ可愛くはある。私と獰猛な顔で射撃対決していた人と同一人物とは思えない。


「ミュゼちゃんは帰る? ……それとも、僕ともう少し話してから帰る? 君とは話したいことがたくさんあるんだ」

「…………う」


 私にもフェリクス様に言いたい事はたくさんあったが、彼がいう「たくさん話したいこと」の内容とは絶対に違う気がして、何と返事をするか、困ってしまった。


 縦ロール令嬢は何とも言えない顔で私とフェリクス様を見ていた。今はこっち見ないでくれ。


「今日は、やめておきます」


 キラキラした顔で「私とお話ししたい」と話すフェリクス様に「告白なんてものは嘘さ!」などといった話は出来ない。かといって、フェリクス様とこのまま他愛ない話を続けるのも負い目があるので苦痛だ。


 ここではっきりした態度を取れないような所が、私の駄目な所なのかもしれない。


「よかったの? 君が僕から逃げられるチャンスだったかもしれないのに」

「はは、本当にそうですね………って、え?」


 今この人、とんでもない事を言ったな?


「何でもないよ」


 そういうフェリクス様は本当に何でもなさそうに笑っていて、先ほど言っていた事がまるで私の幻聴だったのかのようにも思えた。


「じゃあ、僕は今度こそそろそろ帰るよ。また明日」


 そういうフェリクス様の様子はあまりにもいつも通りで、まるで真意が読めない。


「あの、フェリクス様……」


 私はまたフェリクス様を呼び止めようとするが、今度はフェリクス様は振り向いてくれなかった。

 もし引き止めれる事が出来たとしたら、私はフェリクス様にちゃんと先ほどの言葉の真意を聞けたんだろうか?


 ……無理だったかもしれないな。


 縦ロール令嬢は私の顔を指を差して、プークスクスと笑っていた。

 おおかた、フェリクス様にシカトされた事を嘲笑ってるのだろう。こいつめ。


 大変ムカついたので、フェリクス様の事でむしゃくしゃしていたのもあり、射撃勝負をもう一戦挑んでしまった。

 試合はとても熱戦だったが、怒りの力のお陰か何と今度は私が勝てたりなどした。


 これがさっきの勝負で出来ていれば良かったのに……と、結局、私は余計にむしゃくしゃしたのだった。


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