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談話室にて


 ここは談話室。


 フェリクス様がラナお母様と話している間、私は温かいお湯を飲みながら彼の事を待っていた。


 本当はフェリクス様とは自分の部屋で話そうと思っていたのだけど、男性陣が全員反対をしたため、この部屋で話す事になったのだった。


 ウルジお父様もショルメお兄様もフェリクス様も揃って「未婚の女性がいくら婚約者でも自分の部屋に男性を招くな」と言うのだから、困ったものである。


 なんならフェリクス様が一番その主張をしていた。

 本人曰く「俺を試さないでほしい」との事で、ショルメお兄様はうんうんと頷きまくっていた。どういう事なのだ。


 ラナお母様はそんな私を見て、「まだまだお子さまね」とため息をついていた。激しく遺憾である。


「ごめんね、待った?」


 と、つらつら考え事をしていたら、フェリクス様が談話室へと入ってきた。


「いいえ、大して待ってないですよ」


 そういいつつ、フェリクス様の分のお湯を用意する。


「ラナお母様と何を話されていたんですか?」

「ちょっとした昔話をね…………ん?」


 フェリクス様は私の手元を見て、首をかしげた。


「僕にお湯を用意してくれるのは嬉しいけど、君はお茶やジュースでも飲めばいいのに。僕は気にしないよ」

「私がフェリクス様と同じものを飲もうと思っただけなので、フェリクス様こそ気にしないでください」


 本人の希望通りとはいえ、お客様にお湯を飲ませておいて私だけぶどうジュースなどを飲んでいる訳にもいかない。


 フェリクス様は「意外と君って細かい気の遣い方をするよね」といって小さく笑った。意外とはなんだ。


 フェリクス様は談話室のソファへとゆったり腰かけつつ言った。


「でも、僕が味覚鈍麻だからって、これからは一々君まで合わせる必要はないからね」

「でも」

「僕たちは結婚するんだから、そんな事を気にしていたら、ミュゼちゃんの身がとてもじゃないけどもたないよ。自分を犠牲にするような気遣いを、ずっと一緒にいる家族にするものじゃない」


 そういうフェリクス様の口調はなぜだかとても重々しくて、私は「私はあなたと結婚したくないです」などと色々言いたい事があったのに、つい閉口してしまう。


 フェリクス様はにっこりと笑い、私に問いかけてくる。


「それで? 僕に聞きたい事があるんだろう?」


 フェリクス様はものすごい話の方向転換のさせ方をしていたが、乗るしかないと思った。このビックウェーブに。

 今まで散々、フェリクス様と深くお話しができる機会を逃してきたのだ。ここでちゃんと色々聞けないと後悔するだろう。


「あの、私は一昨日、フェリクス様に告白……しましたよね?」


 思いっきり嘘の告白だが、事実としてそれはあった。

 一連の出来事があまりにも怒涛すぎて、あれからまだ二日しかたっていない事が信じられない気持ちもなくもない。


「あぁ。まぁ、そうだね」


 フェリクス様は奥歯に物が挟まっているような、歯切れの悪い同意の仕方をする。

 私はそんな彼の様子に疑問を感じつつも、ずっと気になっていた事を問いかけた。


「私が告白して、フェリクス様はプロポーズに承諾をされました。ただ、昨日私の家族たちに説明した時は王家の都合で私達の婚約が決まったと話されていましたよね? 私がプロポーズしたからフェリクス様の婚約者が私になったんですか、それとも元々王家の都合でフェリクス様はちょうどいい相手を探されていたんでしょうか?」


 フェリクス様は顎に手を当てて、「へぇ、そこまで考えられていたなんて偉いじゃないか」と言った。一体、どこから目線による意見なんだ。


「ふふ、よく考えが整理できていて素晴らしいね……君はどちらだと思う?」

「分かりません」


 それが分からないから聞いているのである。


 フェリクス様は椅子の上で足を組む。フェリクス様の佇まいは相も変わらず優雅ではあったけど、こういう姿勢をとるといつもの彼よりも育ちが悪そうな雰囲気に見えた。

 心なしか、フェリクス様の微笑みもいつもよりも少しだけあくどいものになっている気がする。


 私はそんな彼の姿に少しだけ驚いてしまう。何だか少しだけいつもとは別人のように思えたから。

 そんな私に気づいたのか、フェリクス様は「あぁ、ごめん」とあまり悪びれた様子でなく言った。


「今からミュゼに少しだけ本当の事を教えてあげようと思ったら、「お綺麗な王子様」を取り繕おうという気持ちが削げてね」

「…………は?」

「はは、知らなかった? 僕は実はサザンドラや君よりも、礼儀作法が苦手なんだ。貴族社会における礼法なんて、僕にとっては全く意味を感じないから」


 私はフェリクス様の言っている事の意味は毎度のごとくよく分からなかったが、今の彼がいつもよりも露悪的な感じになっている事だけは理解できた。



 そして恐らく、それが彼にとっては素に近い事も。



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