No.2
「酷い臭いだ…」
「みっともない顔…」
「こら! 近寄っちゃだめ!」
道行く人は、いつだって俺を蔑む。
臭い? みっともない?
百も承知だ。
死んだドラゴンや人間の目。
窓ガラス、水溜りを見れば一目瞭然。
俺のような人の背景を考えたことがあるのか?
記憶があるかないかの幼い頃、人攫いの被害者になった。
出身なんて、家の形なんて、親の顔なんて覚えてない。
攫われては、雑用として売り出され、それを繰り返し、不要になれば捨てられ、夜寝ていたら、また攫われる。
ロープで縛られ、口を開けば腹を蹴られ、余計に動くと骨を折られた。
仮に逃げても、逃げる先にロクな場所なんてない。
村の外に出れば、腹を空かせたドラゴンが腐るほどいる。それでも、なんとか脱走を繰り返した。
ドラゴンを殺しては、血を浴びながら切り裂いて、焼いて食べる。
村の外で人の死体を漁っては、売るための金品を漁った。
なんて恨み言も、最近はブツブツ呟くこともなくなってきた。
慣れというものだろう。
青年と呼ばれる頃には、自分を守る体も、知識も増えた。人攫いには数年あってない。
とはいえ、生活水準というものは中々上がらないもので、普通の生活というのは、いつまで経っても手に入らなかった。
これまでを振り返って、ふと思う。
そこらの金持ちでも脅かして金をもらえば、住む場所くらい買えたんじゃないか?
いくらするかはわからないけど、小屋くらいならいけるのか?
これまで刃を向けてきた人を殺したことはあっても、決して私利私欲で殺したことはなかった。
俺の根は真面目なんだと、1秒くらい自分を褒めてみた。
でも、たとえどれだけ性根が良くても、今日も、これからも、変わらない底辺の生活。
今日は、清々しいくらいの快晴だけど、太陽を浴びると暑いし、無駄に体力を使う。
村のゴミ捨て場の影で涼んでいた。
この辺りは、服や装備の店が密集していて、人も交差しているから落とし物が多い。