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ムー大陸神々の笑い祭 - ユーモアと愛の叙事詩

作者: 108
掲載日:2024/10/05

その日、俺――全知全能の主神ゼウスは、絶望の淵に立っていた。


「……ここ、どこ?」


 目の前には、巨大な液晶画面。  鉄の塊が走り抜ける轟音。  そして、光るスマホを見つめながら無表情で歩く大量の人間たち。


 ここは太古のムー大陸ではない。  西暦2026年、日本の『渋谷』。


 俺とオーディンは、太陽女神・天照大神によって、現代日本へ強制転送(追放)されたのだ。


「いい? 世界を笑顔で満たすまで、神界の門は開かないわよ。せいぜい下界で泥水をすすって笑いを取りなさい!」


 そんな無慈悲なセリフと共に、俺たちの全能パワーは「ライターの火を出す程度」まで封印されてしまった。


「おい、オーディン……。どうする、このままでは餓死するぞ。神だけど」 「ゼウスよ、安心しろ。俺の『知恵』が、この街に一軒の避難所を見つけた」


 オーディンが指差した先。  地下へと続く階段の入り口に、象の頭をした奇妙な看板が出ていた。


【急募:神対応できるバイト。時給500徳。店長:ガネーシャ】


「……ここだ。ここしかない」


居酒屋『大聖天ムー』での初仕事

「はい、新人。私語は慎んで。早くビール運んで!」


 店長のガネーシャ(本物の象の頭)が、エプロン姿で俺たちを怒鳴りつける。  俺は震える手でビールジョッキを持ち、3番テーブルへ向かった。


 そこにいたのは、死んだ魚のような目をした中年サラリーマン。


「あーあ……仕事辞めてぇ。宝くじ、神様が当ててくんねぇかなぁ……」


 ……。  俺の全能センサーが、ピクリと反応した。


「おい、人間」 「え? あ、はい。ビール……遅くない?」 「宝くじだと? そんな紙切れに頼るな。この俺が、お前の運命に**『ライトニング・ボルト(雷)』**を落として書き換えてやろうか?」 「えっ、何このお兄さん。怖いんだけど」


 すかさず、背後からオーディンのスリッパが俺の後頭部を直撃した。


「すみませんお客さん! こいつ昨日までギリシャでカルト宗教の教祖やってたんです! 気にしないでください!」


「オーディン、痛いぞ! 俺は神だぞ!」 「神ならビールより先に愛想を振りまけ! 笑顔を作れ、笑顔を!」


決意の路上漫才

 バイトの休憩中。  俺たちは「徳ポイント」を稼ぐため、渋谷の路上で漫才をすることになった。  観客は、スマホを片手に通り過ぎる若者たち。


ゼウス: 「どうもー! 全知全能のボケ担当、ゼウスです!」


オーディン: 「片目と引き換えにツッコミを習得した、オーディンです。お願いしますー」


ゼウス: 「いやー、さっきのバイトでも困ったんだけどさ。注文を取るときに、つい癖で『汝の望みを言え』って聞いちゃうんだよね」


オーディン: 「接客用語を覚えろよ。客は何て言ったんだ?」


ゼウス: 「『とりあえず生中なまちゅう』って」


オーディン: 「普通だな!」


ゼウス: 「俺、その『ナマチュウ』ってのが新種の使い魔か何かだと思ってさ。厨房に向かって『生け捕りにしたネズミを中サイズで持ってこい!』って叫んだんだ」


オーディン: 「ピカ〇チュウじゃねえんだよ! 保健所が来るわ!」


ゼウス: 「そしたら店長が象の鼻で俺をぶん殴ってさ。俺、悲しくて自分の頭に雷を落としたんだよ。セルフ神罰」


オーディン: 「お前が死ぬだけだろ! もういいよ!」


二人: 「ありがとうございましたー!」


 しんと静まり返る渋谷の街。  ……と思いきや。


「……プッ、何あのジャガイモみたいな人たちww」 「ウケるw コスプレのクオリティ無駄に高いww」


 数人の若者がスマホを向け、クスクスと笑い声を漏らす。


【徳ポイント:+1】


 目の前に、薄っすらと光る通知が現れた。


「……見たか、オーディン。これが『笑い』の力か」 「ああ。だが先は長いぞ。俺たちの伝説は、まだ始まったばかりだ」


 その様子を、物陰から冷笑する二つの影。  スサノオとツクヨミの暗躍が始まるとも知らず、神々は渋谷の夜に第一歩を踏み出した。

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