第五章43 【12月23日/初等部4年生活動中】8/【芳一】がかっこよく見えた1
【芳一】と【祈清】が買い物をしている途中で、【芳一】のファンだと言う男性【谷口 仁】に声をかけられた。
【仁】は、
「【ちょいちょいちょいな】さんですよね?俺、あんたのファンなんだ。
あのさぁ、どうすればあんたの様になれるか教えて欲しいんだけど」
とちょっと失礼なものいいで聞いてきた。
【芳一】は、
「それはありがとう。だけど残念ながら君は僕とは全く違うタイプの様だから、僕じゃなくて違う人を目指す事をお薦めするよ」
と返した。
【仁】は、
「あ?何でだよ?俺はあんたに憧れてるっつったろうが。
あんたみたいになれる方法を教えろっつってんだよ」
と横柄な態度になった。
「君には無理だ」
「何でだよ?あんたに出来たんだから俺にだって出来たっておかしくねぇだろうが」
「それがそもそもの間違いだよ。君は僕に【道】を聞いた。
だから君には僕の様になるのは無理だと言ったんだよ。
確かに君の態度はかなり悪いけど、それで判断した訳じゃない。
【道】を聞くことが間違っているんだ」
「はぁ?何言ってんだてめぇ?」
「なるべく君にも解る様にたとえ話をしよう。
目の前に【川】があり向こう岸に渡りたい時、僕は自分で渡る方法を探した。
そこで、右や左に行けば橋がある事を知り、岸には渡し船がある事も知った。
だけど、君は僕に【川】の渡り方を聞いた。
だから、君は僕の様にはなれない」
「はぁ?言っている意味がわかんねぇんだよ」
「君は渡れる方法を安易に聞いたんだ。
右や左に行けば川を泳いで危険な目に合わなくてすむ橋があることを聞いたんだ。
だけど、僕は調べたんだよ。
右に行ったり左に行ったりしてね。
そこで橋がある事を確認した。
そして、探しながら川を渡る事以外にも変わった石が落ちていたり、草で寝そべれば気持ち良い事も知った。
つまり、川を渡る事以外も発見したんだ。
それの積み重ねで今の僕がある。
それで実際に工夫したり調べたり行動したりして新しい発見が出来る様になったんだ。
だけど、君はそう言う大事な工程を一切省いて安易に同じ力を持つにはどうしたら良いかを聞いた。
そんな方法は無いよ。
地道な積み重ねがずっと積み重なってそれまで無かったものが見える様になったんだ。
そう言う下地を全くしていないだろう君には逆立ちしても無理だと言っているんだ。
上辺だけ真似ても次が続かない。
薄っぺらなものが出来るだけ。
真似だけしたいならモノマネ芸人にでも弟子入りしたら良いんじゃないか?
もっとも、モノマネも技術がいるだろうから安易に答えを求める君じゃ、務まらないと思うけどね」
「て、てめぇ・・・」
「発想に対しては近道は無いんだよ。地道な積み重ねで引き出しの数を増やして、実戦を重ねてアレンジする事が出来る。
この言葉が全く響かないと言うのなら、悪いが君には全く才能は無いよ。
楽な方に楽な方に行きたいなら僕の様になるのは100パーセント無理だ。
僕はね、ずっと狡い人達の尻ぬぐいをしてきた。
評価される事も無くね。
狡い人達は本当に狡いから、自分達が楽をするために姑息な方法で楽をしてきた。
僕はそれを正攻法で立ち向かってきた。
多くの人が引っ込んでしまう事柄に対して前に進んできた。
人が避けてしまう問題も自分なりに模索して解決してきた。
名刺を300枚配りながら1人1人と話した事もある。
あんまり言うと嫌味になるから言わないけど、もの凄くいっぱいやってきたんだよ。
君ならたった1つでも逃げ出してしまいそうな事もね。
君は死を意識した事は何度ある?死にそうな目にあった事は何度ある?
理不尽な要求に応えるために、何もない所から答えを引っ張り出してきた経験は何度ある?
僕は何もない所から自分で道を探して結果を見つけ出したんだ。
君はそれを安易に聞こうとしている。
この姿勢の違いは、決定的で絶対的な差になる。
僕がこれを始める時は、色んな人から【絶対に失敗する】、【馬鹿な事はやめろ】、【うまく行く訳がない】など散々な言われ方をしたよ。
応援してくれる人なんてただの1人も居なかった。
1人もだ。それでもやったんだ。
最初は何をやっても上手く行かず失敗の繰り返し。
先は全く見えない。やっているだけで不安で吐き気がした。
楽しいことをやっているはずなのにつまらない。
だけどつまらないのは自分がつまらないからだと言い聞かせて、楽しくなる様に楽しくなる様に形を変え続けたんだ。
それを繰り返していく内に少しずつ楽しくなり、ファンだと言ってくれる人も少しずつ増えて行った。
それらの工程を全てすっ飛ばして、君は結果だけを求めて居るんだ。
君が軽い気持ちで言った言葉にその意味が込められている。
あまり舐めないでくれるかな?僕の人生、僕の他の人が気付かない事が見える力は、そう言った事の積み重ねで得た力だ。
君は何一つ自分で探しに行かないタイプでしょ?
君は茨の道を痛がって行かないタイプだろ?
それじゃあ、その先に居るお姫様は救えないよ。
安易に答えを求める君じゃ、一生賭けても得られない力なんだよ」
「ぶっ殺す」
「ぶっ殺すと言ったね?だったら覚悟すると良いよ。
僕は、自分の夢を守るためなら土下座でも何でもするし、気にくわない人間にぺこぺことへりくだる事も厭わない。だって大切な我が子を守るためだからね。
そのためならプライドだってすぐに捨てるさ。
だけどね、僕の夢を潰すと言うのなら全身全霊を賭けて君を潰す。
楽には殺さないよ。君の軽口が何を敵に回したか、じっくりと教えてあげるよ。
僕と命のやりとりがしたいのならその覚悟を持って言ってくれるかな?
もう一度聞くよ。僕と殺し合う覚悟はあるのかい?」
「て、てめぇ、いかれてんだよ」
と言うやりとりがあり、【仁】は去って行った。
それを黙って見ていた【祈清】は、
「本気の目をしてたね、君」
と言った。
【芳一】は、
「そうだね。本気だったよ。僕の夢は僕の子供の様なものだからね。子供を守るためなら親は強くなれると思うけど?」
と答えたのだった。




