第六話 信じること
「ー本地垂迹っていうのはそういうこと。どうかしら。」
私がそう問いかけると目の前の死神の書生は大きくうなずく。
「わかりました。ありがとうございます。」
「そう、良かったわ。」
「はい、お時間をとりました。ありがとうございました。」
彼はそう言って一礼してから部屋を出ていった。
扉が閉まると、途端に部屋が静まり返った。
「・・・さて、と。」
私はゆっくりといすに手を掛けて腰かけた。
大学という場所は何かと騒がしい場所だ。
書生や学生の意欲は結構なのだが私がついて行けるのか時々不安になる。やっぱり私にはあってない気がする。まあ、そういって辞められることでもないのだけれど。
私は丸い窓から外を眺める。
中華風の赤い色が基調の建物ももう見慣れてしまった。昔はなんとも思っていなかったが、いざ近くで見なくなると、黒と白しかなかったあの殺風景が恋しく思えてくる。
「あれは、白玉楼だったかな。」
私はぽつりとつぶやいた。
最後に本格的な日本庭園を見たのはあの時だった。
そういえばあれから数か月がたったが、特に何か続報があるわけでも何でもない。
小鈴は元気にしているのだろうか。私の思いは十分に伝えたつもりだが、どれだけ彼女自身に伝わっているのか自信がなかった。
小町さんには何かあれば伝えてくれるように頼んである。
何もないということは特に問題はないということなのだろう。
私は座ったまま窓枠に肘をついた。そよ風が耳の後ろを撫でていく。
心配はつきないが、私には確認するすべはない。私にできるのは祈るのみだ。
「信じて頂戴、ね。」
我ながらよくあんなに自身をもって言えたものだ。無責任にもほどがある。
でも彼女には信じてくれといった。そしてきっと彼女は私を信じてくれているはずだ。
「私も、信じてみるかな。」
私には私にできることをするだけだ。
小鈴は私を、私も小鈴を信じる。
全ての答えはいつ出るのだろうか、ずっとわからなくても構わないのにな。
私は一人部屋の中でそう思った。