表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/81

第48話 セカンドハウス

魔物部屋に足を踏み入れた瞬間、

無数のドロップアイテムが床一面に散らばる異様な光景が飛び込んできた。


「……これは、いったい……」


思わず口をついて出た声が、静寂に溶けていった。

無意識に息を呑みながら、視線を部屋全体に巡らせた。

魔物の姿はどこにもなかった。

あれだけ騒がしかった気配が、

まるで最初から存在しなかったかのように消え去っている。

その静寂は耳鳴りすら覚えるほどで、背筋に冷たいものが走った。


カーリナも、目を泳がせているように見える。

何が起きているのか、まだ状況を掴み切れていないのだろう。

レオノールはというと――淡々とアイテムを拾っている。

手に取ってじっと見つめている様子は、まるで宝探しを楽しむ無邪気な子どものように見えた。


状況からして、ユーハンたち前線部隊によって魔物が殲滅されたと思うのだが、

ではそのユーハンたちは何処に行ったのだ?

考えられるのは……

魔物部屋の奥にある通路――魔物が次々と入って来ていたあの通路、

その先に向かったのだろう。


その奥から鈍い足音が響き、こちらに向かって何かが近づいてくる。

瞬時に身を低くして剣を構える。

視界の端でレオノールも動きを止め、奥の方をじっと見つめているのが見えた。


足音がだんだんと大きくなり、

やがて視界の奥から人影が揺らめくように現れた。

騎士たちが互いに肩を貸し合い、

足を引きずる者や血に濡れた鎧をまとった者が、

疲れ切った表情でこちらに近づいてくる。


その中の一人が足を止め、荒い息をつきながらこちらに顔を向けた。


「おお、ヒデキ殿。丁度良かったこれから、探しに行くところでした」


その声の主は、

自分たちと同じように魔物部屋以外の討伐任務に参加していた分隊長だ。


「いったい、どうなっているのですか? 団長はどこですか?」

「まず、戦況を見てください。この奥です。こちらへ――」


分隊長が魔物部屋の奥に歩きながら、状況を説明してくれた。


分隊長が討伐任務を遂行していると、前線部隊からの救援要請を受けたらしい。

魔物部屋に入ると、今と同じくアイテムが散乱した状況で、

今まさに奥の通路へ進軍するところであった。

通路の先は別の魔物部屋に繋がっていて、

前線部隊に討伐部隊が加わり計10の分隊で戦闘が始まったとのこと。


「別の魔物部屋!?」

「ええ、今も戦闘は続いています。戦況はかなり厳しく……

 負傷者も多く出ています」


通路を抜けると視界が開けた。

まるで広場のようなその空間に、魔物が埋め尽くしていた。

左右の壁が遥か彼方にまで続き、一つ目の部屋とは比べ物にならない広さだ。

これだと三桁は間違いなくいるな――2、300体ほどだろうか?

前線ではユーハンたちがその無謀ともいえる数の魔物を相手にしている。


「団長! ヒデキ殿を――」


案内してくれた分隊長が声を張り上げた途端、

足元の地面がわずかに揺れ、左側から鋭い風を切る音が響いた。

巨大な拳が分隊長目掛けて振り下ろされたのだ。

体が勝手に反応し、剣を一閃。硬い衝撃が手元に伝わると、

拳の主であるメタルゴーレムが煙へと変わった。


「大丈夫ですか?」

「ああ、……助かりました。ありがとうございます!」


分隊長は震えた声で礼を言い、顔を上げるとすぐに団長の元へ駆け寄った。


部屋のあちこちでメタルゴーレムによって衝撃波が放たれ、

周囲からはブルーピーコックの甲高い鳴き声が響く。

その間を縫うように黒い霧が走っていた――あれはナイトメアだろう。

視線を巡らせると、ラウリの分隊が左翼で防戦し、

右側ではユーハンの分隊がメタルゴーレムと交戦していた。


「全員聞け!ヒデキ殿が到着した。これで勝機が見えたぞー」

「「「「「オオーー!!」」」」」


ユーハンが高らかに剣を突き上げると、一斉に騎士たちの歓声が響いた。

その騎士たちにラウリの指示が飛ぶ。


「前線を立て直す。まず、第三分隊は負傷者の手当てと一つ目の部屋への避難。

 第七分隊は地上へ援軍を要請」


ユーハンによって士気を取り戻した騎士たちに活気がみなぎっているようだ。

槍を肩に担いだ騎士たちが素早く負傷者を担いで動き出し、

武器を構えたまま周囲を警戒する者もおり、その動きには無駄がなかった。

戦場で勝機という言葉は団結力の向上に重要なのだと思うが、

その根拠が、自分が来たからって……プレッシャーだな。

ともあれ、全力で戦ってユーハンの期待に答えねば。

そう、武勲をたてれば、追加でタバコを貰えるかもしれない。


「レオノールちゃんはここで待機してて。カーリナ、行くぞ!」


前線に駆け寄り、目の前のメタルゴーレム二体に一閃。

そのまま体をひねり、ブルーピーコック、ナイトメアを立て続けて斬りつける。

四体の魔物が同時に黒い煙に変わるのを見て、

ユーハンから感嘆の声が漏れ出ている。

フフフ、追加報酬(タバコ)は確定だな。


「ヒデキ殿に魔物を集めろ! 第一、第二分隊は援護に回れ!」


えっ、自分が全部を相手するの? ちょっと張り切りすぎたかな。


***


カーリナの助力もあり、魔物部屋の中央あたりまで前線を押し込んでいった。

まだまだ魔物は相当数いるが、ユーハンたちの表情から余裕がうかがえる。


「カーリナ、強くなったな。父として嬉しいぞ」

「はい。全て師匠のおかげです。これからもっと強くなります」

「おお、そうか、そうか。聞いたかラウリ」

「ええ、聞こえています」

「これでヒデキ殿が我がストールベリ家に入ってくれたら安泰だな」

「団長……少し戯言が過ぎます」


カーリナを自分の妻にすることをユーハンはまだ諦めていなかったのか。

ローレンツも愛娘のアイノさんを嫁にと言い出し、

もめていたが結論は出たのだろうか。

カーリナと気まずくなるから、これ以上は迷宮封印した後にして欲しいものだ。

年頃のカーリナだって父親がこんなことを言っているのだ、

何か反論をして欲しいのだが。


カーリナに視線を向けると、足元に光るものが見えた。

ブルーピーコックが翼を広げ、自爆の構えを見せた瞬間、


「下がれ! カーリナ!」


ユーハンの声が響き、カーリナを抱えて地面に飛んだ。


「団長―! 団長が倒れた! 神官、早く治療を!」

「御父様!!」

「何をしている、治療だ、早くしろ!!」


ラウリの怒号が飛ぶと、

倒れたユーハンの両肩を持って騎士が後方へ引きずっていった。


「だめだ、MP切れだ。誰か、薬草を持ってないか!」


後方から神官だと思われる叫び声が耳に飛び込んできた。

疲れ切った様子で周囲を見渡している姿が目に映る。

すかさずカーリナが駆け寄って行った。


「どいて! ボクが手当てする」


カーリナが薬草を取り出しユーハンの手当てを始めた。


これはまずい、団長が倒れては騎士の士気がいっきに下がってしまう。

副団長の指示が頼りだが、ラウリはこの状況を冷静に判断できるだろうか。


「援軍はまだか……くっ、……全員退避!

 一つ目の部屋へ退がれ。弓と魔法の援護を頼む」


焦燥感が募る中、後方から矢と魔法が一斉に魔物へ放たれ始めた。


「前衛は退却! さあヒデキ殿、行きましょう!」


ラウリの指示で前線の騎士と共に、通路へ走り出した。

振り返りざまに魔物部屋の奥へ目をやると、

黒色の巨大な魔物が複数体こちらに向かっていた。

メタルゴーレムよりも二回りは大きく、

まるで影そのものが近づいてくるようだ。


ラウリの退却命令が響き、

後衛からの矢や魔法の援護を受けながら通路へと向かう。

前方にはユーハンを抱えた騎士と、それに付き添うカーリナの姿が見えた。

そのさらに前では、

小柄な体を必死に動かしながら走るレオノールの背中が確認できる。


背後からは魔物たちの怒声のような鳴き声が追いかけてくる。

振り返ると、後衛の騎士たちが交互に攻撃と後退を繰り返しながら、

矢や魔法で魔物の進行を遅らせているのが目に入った。

ラウリの的確な指揮が、その秩序立った動きの支えとなっているのがわかる。


部屋に足を踏み入れると、

木材や金属が組み合わさって作られた壁のようなものが設置されていた。

それを確認したラウリが安堵の声を漏らした。


「おお、防柵が間に合ったか」

「こちらです!」


手を振る騎士の指示に従い、防柵の間を駆け抜ける。

狭い通路を走りながら、

その構造が防御に特化していることが自然と伝わってくる。

そして通路を抜けた瞬間、大きな音を響かせながら防柵が閉ざされた。


「副団長、全員配置についております。直ぐにでも開始できます」

「わかった、始めてくれ。私は団長の様子を見てくる。

 しばらくの間、フレデリック、お前に指揮を任せる」

「はい、かしこまりました。団長は魔物部屋の外で治療を受けています」

「ヒデキ殿、この男はフレデリックという私の右腕です。

 これから防柵で防御を固めながら魔物の分断と殲滅を行います。

 ここから反撃開始です。少し休息ください」


そう言ってラウリは去っていった。

防柵越しに見える魔物たちは、動きが鈍っている。

確かに、これで防御は出来ると思うが、

果たして、殲滅までできるのだろうか。


「弓兵、魔物後列の意識を分散させろ!」


フレデリックの命令によって、防柵の小窓が開くと、一斉に矢が放たれた。

後列の魔物たちは矢を避けるように身を縮め、前列を押し出す動きが止まった。


「左右両翼、解除!」


さらにフレデリックの合図で、魔物たちの左右の防柵が取り除かれると、

行き場を失っていた魔物がそれぞれに流れ出した。


「左翼、三体確認」 「右翼は五体通過しました」

「よし、防柵を閉じて後列を分断! 右翼は魔法攻撃で足止め!

 両翼の槍兵、集中攻撃開始!」


フレデリックの号令とともに、

防柵の狭間から槍を持った騎士たちが、次々と槍を突き出した。

槍の先が逃げ場のない魔物たちを貫く。

右翼では魔法使いが詠唱を完了させると、

魔物の頭上で鋭い風が渦巻き、突風が吹き付けると、群れが一瞬後退する。

騎士たちは一糸乱れぬ動きで攻撃を繰り出し、

防柵内の魔物の勢いを確実に削いでいった。


「左翼撃破!」

「よし、左翼解除!」


なるほど、これは効率的だ。

守りを固めて魔物を分断し、集中攻撃する戦術か。

防柵内の緊張感は高いが、

守備の優位性が徐々に士気を高めているのが感じられる。


感心しているとフレデリックが話しかけてきた。


「いかがですか? これなら時間はかかりますが、確実に魔物を殲滅できます」

「確かにそうですね。あの柵の高さならメタルゴーレムも越えられないので、

 簡単に破壊されることも……あっ!」

「どうかされましたか」

「巨大な魔物を見たんです。団長に伝えないと。通路でしたよね」


二つ目の魔物部屋で見たあの巨体について団長に伝えなければ。


ユーハンのもとへ向かうと、ちょうど意識を取り戻したところだった。

簡易的な椅子に腰かけ、支援部隊から治療を受けていた。

そばにはラウリ、カーリナ、レオノールの姿が見える。

ユーハンは顔に隠しきれない疲労を浮かべながら、戦況を確認していた。


「ラウリ、状況はどうなっている?」

「神官は全員、MPが尽きたため地上に帰しました。

 現在は一つ目の魔物部屋にて、防柵を活用し、

 魔物を小規模な群れに分断しています。

 フレデリックの指揮の下、防柵の隙間を利用して槍兵が攻撃を仕掛け、

 弓兵と魔法使いが後方から援護しています。

 時間を稼ぎつつ、徐々に魔物の数を減らしていますが、

 圧力は増してきています」


状況を確認し軽く頷いた後、ユーハンが切迫した表情の自分に気付いた。


「ヒデキ殿、どうかされましたか?」

「団長、巨大なゴーレムを見ました。

 あれは……メタルゴーレムの比じゃない、

 ただのゴーレムじゃない気がします」


ユーハンは真剣な目で頷いた。


「それは……バーニングゴーレムでしょう」


バーニングゴーレム?

それなら以前、小迷宮ラクスで見かけたAランクの魔物のはずだが、

あの時のよりも一回りは大きい。

それに全身から漏れ出す熱気が周囲を歪ませていたぞ。


「それって、Aランクの魔物ですよね。でも複数体いましたよ」

「なるほど、となれば近くに今回の討伐対象であるシェリーがいるはずです。

 シェリーは五体の巨大なバーニングゴーレムを引連れ、

 その高い知能で指揮能力を発揮します。

 ゴーレム・エンプレスという異名で恐れられるほどです。

 まずいな……防柵は突破されるな」


ユーハンの言葉にカーリナは顔を強張らせ、手にした槍を強く握りしめると、

防柵の向こうを鋭い目つきで見つめている。

レオノールは小さな手で大きなリュックを抱えたまま、

真剣な表情で話を聞いていた。


ユーハンの言葉の直後、

防柵の向こうから思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音が響き渡った。


「来たか……」


ユーハンが小さく呟いた。


振り返った瞬間、防柵が砕け散り、

土埃を巻き上げながら大きく崩れ落ちるのが見えた。

周囲は一瞬で視界を奪われ、咳き込む音が聞こえる中、揺れる熱気とともに、

巨大なゴーレムのシルエットが赤橙色の光を放ちながら現れた。


体からは蒸気があがり、地面を踏みしめるたびに振動が伝わる。

その傍らに、ひとりの女性が堂々と立っていた。


「あれが……シェリー……」


黒髪に黒いドレスをまとい、冷たい目つきで戦場を静かに見渡している。

その視線は周囲を威圧し、まるで逃げ場のない牢獄を作り上げているようだ。

ドレスの裾を揺らしながら威風堂々と進むたび、熱気が波紋のように広がり、

騎士たちは額に汗を滲ませながら武器を構え直し、じりじりと後退していく。

その動作には、戦場全体を支配する女帝(エンプレス)の冷徹な力が感じられた。


シェリーを見据えながら、ユーハンが立ち上がった。

その目に鋭い決意が宿っているのを見た。

影響されたのか、自分も剣を握り直す手に力が入った。

キャラクター設定


フランキー

第十分隊長

種族:人族 性別:男 年齢:27歳

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ