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第37話 雨の午後

カウガールとの戦闘の翌日、9階層奥を進んでいると、

目の前に女性の後ろ姿を見かけた。

昨日に続いてまたもSランクのお出ましか。


この辺境にある小迷宮オタラでは冒険者と出くわすことはないが、

魔物との遭遇率は高い、騎士団の魔物討伐が遅々として進んでいない証拠だ。


だが、魔物がSランクだからといって恐れるに足りぬ。

昨日のカウガール戦を反省し、ステータスは調整済みで万全の態勢だ、フフフ。


経験値獲得UPに使用していたスキルポイントを、

攻撃力へ割り振り直し、今や自分の攻撃力は13倍、

そのおかげで、この9階層で遭遇したCランクのマッドヘア、

それと、Bランクのスパイクヘアを一撃で仕留め、

難なくここまでやって来られたのだ。


カーリナに目配せしてから、鋼鉄の剣を構え直し、

Sランクの魔物にゆっくりと近づきながら、鑑定スキルを発動。


バニーガールLv. 39


えっ、えっ、えっ、バニーガール?

魔物ではあるんだよね。


バニーちゃんは、まだこちらに背を向けて立っていた。

スラリとした脚を堂々と広げ、高いヒールがより一層に脚を綺麗に魅せる。

左手の甲を腰に当て、右下を見るようなポージングを取り、

背中からサイドにかけて大胆に開いた、呂色のスリムなサロペットに身を包み、

洗練された佇まいが印象的だ。

自分が思うバニーガール像とは異なり、フォーマルに寄っている。

そして、ファッションモデルのような立ち姿のまま微動だにしないが、

まさか、撮影でもしているのか?

周りに照明もなければ、カメラマンもいない――いる訳がないか。


そんなバニーちゃんだが、

ウェーブがかかった銀髪にサロペットと同色のうさぎ耳カチューシャを付け、

黒を基調とした全身に、白く丸い尻尾がワンポイントアクセントとなっている。

カチューシャと尻尾だけがカジュアルなので、

まるで、ハロウィンのコスプレみたいだな、と内心苦笑した。


こりゃ、もう少し詳細に確認する必要があるな。

物理的に近づいて、バニーちゃんと『お近づき』になろう。

喜び勇んでバニーちゃんに近づこうとすると、カーリナが服の裾を引っ張る。

カーリナはため息をつくと、自分の顔を見ることなく、

淡々と魔物の情報を読み伝えた。


「いいですか、師匠。あれはバニーガールという魔物です」

「うん、わかっているよ。バニーちゃんでしょ」

「武器は持っていません。ただ強烈な蹴り技を繰り出します。

 特にあの踵が尖った靴での横蹴りに注意が必要だそうです。

 あとは……美人なので、誘惑されてしまう男性が多いようです」

「なるほど、魔物は魔性の女なのだな。

 ありがとう、カーリナ。注意しないといけないね」


確かにバニーちゃんは美人だ、そしてセクシーでもある。

ここからでは、横顔しか見えないが、エキゾチックな顔立ち、

それに、物憂げな表情なのが神秘的で、なんだか見とれてしまいそうだ。


「師匠、ほいほい付いて行かないように気を付けてくださいよ」

「バッ、バカなことを言うんじゃないよぉー。美人と言っても魔物でしょ?

 そんなのに引っかかる訳ないじゃないか」

「……」

「えっ?何だよカーリナ、その疑いの眼差しは。自分は硬派なんだよ。

 そこいらの軟派者と一緒にしてもらっちゃー困るよ」

「はい。はい」

「あー!何だよその言い方は、ひっどーい!」


カーリナに見透かされて、焦って大声を出してしまった。

声に気付いたバニーちゃんがこちらを向くと、手招きのジェスチャーを始めた。

その途端、手の力が抜けて剣を落としてしまった。

あぁ、拾わなければ、でも……拾う気になれない。


「ちょっと師匠、言ったそばから何やってるんですか!」

「ほ~ら、カーリナ。バニーちゃんが呼んでるから行こう~」

「待って下さいって、師匠。行っちゃダメですって」


カーリナの忠告が迷宮に響くが、どこか遠くに聞こえ、自分の心には響かない。

忠告の意味は理解できるのだが、足が勝手に……どうしたと言うのだ。

バニーちゃんへ吸い寄せられる……これは……状態異常攻撃か……?


「師匠、すみません」

「あっ、痛てぇ!」


突然、頭に痛みが走り、振り返るとカーリナが槍の石突を自分に向けていた。


「何するんだよ、カーリナ!もしかしてそれで小突いた?おー痛てて」

「師匠こそなにしてるんですか!まったくもー、鼻の舌伸ばしちゃって。

 どこが硬派なんですか!あんな魔物に誘惑されるだなんて」

「いや、違うんだって、バニーちゃんが誘惑してきて」

「だから、それを言ってるんですって」

「そうなんだけど……」


バニーちゃんとお近づきは叶うことなく、

カーリナに手を引かれ10階層へ移動した。


10階層の魔物はアリとハチだとカーリナが教えてくれた。

鋭く的確なジャブを打ち出すヘビー級のボクサーかと思ったが、

カーリナ曰く、Cランクがキラーアントという大きなアリで、

Bランクがキラービーという大きなハチらしい。

ボクサーではないのはわかったが、どっちもデカく、そしてキラーなのか。


迷宮を暫く歩くと、2匹のキラーアントと出くわした。

デカいと聞いていたが、大き過ぎやしないか?

目の前のキラーアントは想像以上だ。

小型犬ほどの大きさで、全身は飴色に輝き、

鋭い顎が威圧感を放っている。


大きさにたじろいていると、アリは顎でカチカチと音を立てながら、

こちらに向かって来た。


「手前は自分が。奥は任せた、カーリナ!」

「はい!」


自分に向かって来るアリの動きを注視しながら、鋼鉄の剣を横に構え、

間合いに入った瞬間を見計らって、素早く剣を振り抜いた。

横薙ぎの一撃がアリの頭を捉えると、


キョキュッ


聞いたことのない断末魔の叫びと共に、アリが黒い煙となって消えた。


カーリナは襲って来るアリの前で鋼鉄の槍を回転させて間合いを取る。

一瞬、アリの動きが止まったのを見て、即座にアリの顔目がけて槍を突き出すと、

ガチーンと甲高い金属音が迷宮に響く。

カーリナが突いた槍をアリが顎で受け止めたのだ。


カーリナが必死に槍を引き抜こうとするも、

そうはさせまいと、アリも首を左右に振りながら抵抗する。

頑丈に噛みついているのを見ると、カーリナは片手だと無理そうだな。


昨日の激戦の反省点として、今日から盾を持つことにしたのだ。

初期装備として冒険者の街キュメンで購入して以降、

迷宮での活躍の場はなく、ただただお荷物となっていた木の盾だ。

これまで小屋でお留守番していたが、本日から使う事にしたのだ。

カーリナも騎士団から木の盾が支給されていたが、

槍を両手で扱いたいらしく、盾は邪魔だと言っていた。

だがしかし、そこは伝家の宝刀『師匠命令』で強制的に装備させている。

不満そうな顔をしていたが、宝刀を抜いてねじ伏せた。


片手で苦戦していたカーリナだったが、木の盾を放り捨て、

両手でしっかりと槍を握ると、アリの頭を足で押しながら、

力任せに槍を引っこ抜いた。

抜けると同時に、アリの脳天目がけて槍を振り下ろす。


キューウ


槍先が頭にめり込むと、アリは情けない鳴き声を発したが、未だ倒れない。

カーリナが再びアリの頭を足蹴にして槍を抜くと、

アリは足元をふらつかせながら、再び顎を鳴らし始めた。


カチカチ……カチカチ……


威嚇のつもりだろうか、なんとも頼りない。

そんな威嚇に臆することないカーリナは、

素早く体を一回転させ、アリの側面に回り込むと鋭い一撃を放った。

横腹に槍が貫通すると、アリは鳴き声も出さずそのまま煙へと帰る。


お疲れ様と労をねぎらいながら、地面から拾い上げた木の盾を渡そうとすると、

カーリナから不満の声が上がった。


「どうしても、木の盾を持たないといけませんか?」

「ああ、どうしてもだ。命を守るためだからね」

「……師匠はいいですよ、武器が剣だし、それに一撃で倒せるから。

 ボク、片手だと戦いにくくて」

「片手で戦うのもいい練習になるからね、これも修行の一環だ。

 まだ、攻撃2回で倒せる相手なんだから、いい練習になるよ。

 それにさ、もうカーリナは『槍使い』なんだから――」

「えっ!ボク、槍使いになったんですか?

 あっ、もしかして、今のキラーアントを倒したからですか?」

「いや、その前から――」

「ああ!昨日のカウガールを倒したからですね。

 そうか、そうか。とうとうボクも槍使いかー。わぁーうれしいなぁ」


槍使いのジョブを獲得したと知ると、カーリナは大変上機嫌になった。

笑みを浮かべながら、喜んで木の盾を受け取ってくれた。

随分と嬉しそうだ、だからこそ……言い出せない。

カウガールと戦う前から、槍使いのジョブは獲得していたと。

確かに、サブジョブに槍使いをセットしたのは今朝だし、

んー、このまま黙っておこう、嘘は言っていない、ただ真実も言っていないが。


カーリナの持つ地図に従い迷宮を進む。

通路の角を曲がると2匹のアリに遭遇、

出会って早々にカチカチと威嚇し始めた。


まず目の前にいるアリを一振りで倒すと、

隣りではカーリナがもう1匹のアリに槍を突きたてた。

まだ煙にならないアリだが、深手を負ったのか明後日の方向を向いて、

カチカチと顎を鳴らして威嚇している。


カーリナのあと一突きで倒せるだろう、と気を抜いていると、

通路の先から2匹のアリがこちらに向かって突進してくるのに気付いた。

一気に駆け寄り、剣を一閃。

1匹を仕留めた瞬間、もう1匹に向かうカーリナが追いつく。

勢いよく振り回された槍の石突がアリの顎を捉え、

顎が外れたのか、それとも手負ながらも懲りずに威嚇しているのか、

アリの顎がカチカチと鳴っている。


よし、こいつもあと一突きだな、とまた気を抜いていると、

またしてもキラーアントの姿が、

今度は別の通路からこちらに突進してきている。

休ませてはくれないか、でも妙だな、ここに集中し過ぎじゃないか?

ゲームのバグでもあるまいし……

いや、アリは(バグ)ではあるが。


突進してくる2匹に向けて剣を一閃させた。

2匹を同時に斬り伏せ、ようやく静寂が戻って来た。

(バグ)に快勝で、バグ解消だな、フフフ。


戦闘がひと段落したので、カーリナに訊ねた。


「カーリナ、アリって仲間を呼んだりする?顎を鳴らしてたでしょ。

 あれで仲間を呼んでんじゃないかな?地図に何か書いてたりしない?」

「あれは威嚇の行動ですよ。

 んーっとちょっとまってくださいよ。あっ、あった。読みますね。

 キラーアントの特徴を記す。まず、注意すべき点は強靭な顎である。

 武器をも破壊するので、側面からの攻撃が有効。

 なお、触角に攻撃すると暴れ出すため、不用意に触れるのは避けること。

 また、顎を鳴らす行為は威嚇である。

 しかし、仲間を呼ぶために使用することも……」

「やっぱそうじゃん、あれって仲間を呼んでるんだよ」

「あー確かに……そうだ、ボク、聞いたことがあります。

 キラーアントに囲まれて全滅するパーティーがあると」

「そうじゃんやっぱ、危ないとこだでー。対策は書いてない?」

「一応書いていますけど……頑張って戦えとしか……」

「……」


それから、カーリナと二人で頑張った。


***


中間の部屋に到達する頃には、キラーアントのドロップアイテム、

砂糖ときのこでカーリナが背負うリュックがパンパンになっていた。


部屋で一服していると、既に三の鐘が鳴ったとカーリナが教えてくれたので、

魔法陣を使って階層を移動した。


「あれ?師匠、ここって」

「3階層だよ。食料を確保してから小屋へ戻ろう」


3階層のシーオッターから貝、マッドオッターからはハーブを入手してから、

地上へ戻った。


***


昼食の支度が終わった頃、突如として激しい雨が降り始めた。

食事を急いで小屋に避難させていると、

ふと、茂みの中に人影を見つけた。


茂みから現れたのは、全身びしょ濡れで震えている一人の少女。

頭には垂れ下がった長い耳――獣人の少女だ。


疲れ果てた様子で、深緑のワンピースは泥だらけ、それに所々破れている。

足元を見ると、長い間歩き続けたことが一目でわかるほど、

靴は擦り切れていた。

少女の青色の瞳には、不安と疲れの影が映り、

森の中を数日間さまよっていたのだろうと直感した。


「カーリナ。あの子……迷子かな?」

「それとも、近くの集落に住む子供かもしれませんね。

 ただ、ここから一番近くても大人の足で半日かかる距離ですが……」


内心ホッとした。

カーリナにも少女が見えているようだ。

状況が状況だけに、自分にしか見えない幽霊かと思ったが、

口に出さなくて正解だったな。


少女を脅かさないようにゆっくりと近づき、

しゃがんで目線を合わせ、落ち着いた声で尋ねる。


「こんにちは。私の名前はヒデキって言うんだけど、

 お嬢ちゃんのお名前を教えてくれるかな?」

「……レオノール」

「ありがとう。レオノールちゃんは一人なのかな?

 お父さんやお母さんは一緒じゃないの?」

「……いない。ひとり……」


少し怯えているようだが、自分の目を見て質問に答えてくれた。

しかし、少女は胸の前で指を組んでいるところを見ると、

精神的に不安定であることには違いない。


「どうしましょうか、師匠。一人きりなのが本当なら、

 事故や事件に巻き込まれたのかもしれません」

「そうだな……とりあえず小屋に入ってもらおう、雨が降ってるから。

 事情を聞くのはその後だ。カーリナ、人命救助だ」


レオノールという少女を小屋の中へ招き入れた。

カーリナから手ぬぐいを受け取り、濡れた髪を拭くレオノールだったが、

その視線は棚に並べているパンを捉えていた。

腹が減っているのだな、まずは安心させるためにも食事を取らせるか。


「よかったら一緒にこのパンを食べるのを手伝ってくれないかな?

 たくさんあって困ってるんだ。ねぇ良いかな?」

「食べても……食べてもいいの?」

「もちろん。そうか手伝ってくれるか、ありがとね。

 カーリナ!レオノールちゃんにスープを出してあげてくれ」


一番大きなパンをレオノールに手渡すと、直ぐにかぶりつこうとしたが、

自分の視線に気づくと、頭をペコリと下げてから、改めてパンにかぶりついた。

やっぱり腹が減ってたんだな。


カーリナは不思議そうな顔で、スープをよそっている。

自分が言った、食料が余っているというのを理解できなかったのだろう。

嘘も方便、安心させるための必要悪なのだよ、カーリナ。

下手に遠慮されても困るだろ?


カーリナがスープを渡しながら、レオノールに質問する。


「レオノールちゃんは森で何をしていたの?」

「何もしてないよ……あたし、ずっと逃げてたの」


レオノールがこれまでの出来事を冷然と話し始めた。


幼い時に両親と兄を亡くし、祖父母の手によって育てられたが、

その祖父母とも死別し、12歳からカーリナは天涯孤独となった。

近所の人々の助けを受けながら何とか暮らしていたところ、

数日前、暴走した魔物によって村が襲われ、村全体が壊滅。

水汲みの帰り道にその惨状を目の当たりにする。

身を隠していた村の人たちと共に逃亡を図ったが、

途中で魔物に襲われてしまう。

その際、近所の優しいおばさんが彼女を逃がすために犠牲となった。

それ以来、村の人たちを目にすることはなく、ひとりで森をさまよっていた。


ううぅ……不憫よのぉー、何故、こんな小さな子がそんな目に……

辛い経験を教えてくれたレオノールに自分がお礼を言うと、

カーリナは鼻をすすりながらレオノールにパンのお代わりを渡した。

レオノールの話にカーリナも熱いものが込み上げているようだ。


レオノールを放っておけるわけがない、自分たちで何とか保護しよう。

とは言え、騎士団からの後方支援がいつ来るかわからない。

今朝はゲートを使ってやって来たが、明日も来るとは言っていなかった。

一度、難民キャンプまで戻るか?いや、だめだ。

移動手段は徒歩となる、途中で魔物に襲われたらレオノールが危険だ。

んー、とりあえず一服だ、ニコチンが妙案を授けてくれるかもしれない。

タバコに火を点けようとすると、涙目のカーリナが言葉を発した。


「師匠!ボクは我慢できます。でも、この子の前ではやめてください!

 吸うなら外でお願いします」


確かに、副流煙を喜んでいるとは思ってはいなかったが、

今までカーリナが我慢していたなんて、

知りたくない真実を伝えられショックを受けてしまった。

それに、外で吸えと言うが、雨なんだけどな……


本当に猫の額ほどの軒下で、雨音を聞きながら一服する。

タバコの煙がゆっくりと空に溶けていくのを見つめながら、

既婚者の愛煙家諸君は家ではこんな待遇を受けていたのかと、

しみじみと煙に思いを馳せる。


小屋へ戻ると、カーリナとレオノールは既に打ち解けあっていた。

ボクっ()のカーリナがお姉さんぶっている様子に思わず笑みがこぼれる。

レオノールも親しげにカーリナをお姉ちゃんと呼んでいる。

やっぱり女の子同士ってすぐ仲良くなるもんだな。


「ちょっといいかな、カーリナ」


雨に打たれ震えながら絞り出した自分の考えをまとめてカーリナへ伝えた。


騎士団の迎えまであと3日。

レオノールが魔物から逃げてきたことを考えると、

この森にはまだ魔物が潜んでいる可能性がある。

従って、この小屋にレオノールをひとり残すのは危険だ。

一番安全なのは迷宮の中間部屋だろう。


伝家の宝刀『師匠命令』は鞘にしまったままだが、

カーリナは自分の提案に同意してくれた。

残るは当の本人の説得だが、迷宮に連れて行かれるのだと聞いて、

レオノールの顔は恐怖でこわばっている。

魔物に襲われた経験があるのだから、当然の反応だろう。

カーリナがレオノールの説得を試み、徐々にこわばった表情がほぐれていく。


「お姉ちゃんホント?あたし……危なくない?」

「絶対に大丈夫。これから行くところは魔物が入れない部屋だから。

 それに、万が一の事があっても、ここにいるお兄ちゃんが助けてくれる。

 こう見えても、このお兄ちゃんはすっごく強いんだよ。

 そうですよね、師匠!」

「ん!?ああ、レオノールちゃんは必ず守るから」

「うん……わかった。あたしも迷宮に行く」


こう見えてって……自分はどう見えているのだ。

ともかく、レオノール本人の了承は得た、あとはしっかり準備を整えるだけだ。

まずは、レオノールの擦り切れた靴を何とかしてあげなければ。

カーリナが履いている革のサンダルを脱がせてレオノールに渡し、

小屋に置いてあった革のブーツをカーリナが履く。


そして、あってはならないことだが、考えておくべき最悪の事態、

自分とカーリナが迷宮で命を落とした場合の対処だ。

その事態に備え、カーリナに頼み、

迷宮にレオノールが取り残されている旨の書置きを小屋に残すことにした。

3日後には騎士団が迎えに来るはずだから、

レオノールは無事に救出されるだろう。

これで一安心……とはいかない、

救助されるまでの間に必要な食料と水の準備だ。


カーリナがリュックの中のドロップアイテムを棚に並べ、

空になったリュックに食料を詰め混んでいる。


「お姉ちゃん、そのリュックはあたしが持つよ」

「重たいからいいよ」


申し出をカーリナに断られ、レオノールは悲しい表情を浮かべた。

役割を果たしたいのだろうな。

そこで、レオノールに水筒を持たせ、護身用に銅のナイフを渡すことにした。

購入して以来、迷宮で活躍していないナイフだ。


「ありがとう、お兄ちゃん」


このお礼は護身用にナイフを渡したことにではなく、

水筒を持たせたことによって、

レオノールの自尊心が保てたことに対する感謝だろう。

それにしても……お兄ちゃんか……何だか照れくさいな。


扉を開けると、先ほどよりも雨脚がさらに強くなっている。

迷宮の入口は小屋からわずか10メートル先にあるが、

その短い距離でもびしょ濡れになるのは避けられそうにない。


「よし、行こう!」


二人に声をかけ、雨の中へと駆け出した。

これから始まる午後の迷宮探索に向かって――

この時、ヒデキたちは知る由もなかった。

鍋敷きを使わなかったために、スープの鍋が小屋の床を焦がした事を……

そして、後にカーリナが始末書を書かされる羽目になる事を……


魔物設定

マッドヘア/mad hare

系統:獣 種:ウサギ ランクC

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:突進

特徴:狂った野兎、帽子をかぶっている

ドロップ:素材/兎毛、素材レア/フエルト


スパイクヘア/spiked hare

系統:獣 種:ウサギ ランクB

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:ツノ攻撃

特徴:一角兎、HPが減ると逃げる

ドロップ:素材レア/兎の角、食材/兎肉、ラベル/氷のラベル


ジャッカロープ/ jackalope

系統:獣 種:ウサギ ランクA

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:突撃、ツノ攻撃

特徴:頭部にシカのツノが生えているウサギ

ドロップ:素材/兎の角、香料/麝香


バニーガール/ bunny girl

系統:獣 種:ウサギ ランクS

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:格闘

特徴:背中からサイドにかけて開いた呂色のサロペット

シルバー髪、兎耳(黒)、白い尻尾、黒のピンヒール

ドロップ:アイテム/花束、アイテムレア/ラビットフット、宝石/翡翠


キラーアント/killer ant

系統:虫 種:アリ・ハチ ランクC

弱点:風 耐性:土 特殊:毒

攻撃:噛みつき

特徴:攻撃的な巨大なアリ。顎の力が強い。

   顎をカチカチと鳴らして威嚇や仲間を呼び寄せる。

ドロップ:食材/砂糖、アイテム/きのこ、薬レア/毒消し草

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