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第36話 カウガール

カウガールが放った投げ縄が、自分にめがけて飛んできた。

空気を切り裂く鋭い音を立てながら、一直線上に近づいてくる。


とっさに身をかわすと、縄が鼻先をかすめた。

獲物を逃した縄は後方の地面を力強く叩きつけ、

乾いた音を迷宮に響かせると、砂埃を舞い上げた。


カウガールは手早く縄を手繰り寄せる。


やべぇ、あんなのがまともに当たっていたらどうなっていたことか。

冷や汗と鼻先の血を拭いながら、必死に考えを巡らせる。


カウガールの武器は投げ縄。

手繰り寄せているところを見ると、縄はあの一本だけのようだ。

現状、カウガールとの距離は20メートルといったところか。

恐らくこの距離が有効射程なのだろう。

そして、カウガールはこの距離を常に保ち、

一方的に攻撃を仕掛けてくるに違いない。


だとすると、非常に厄介だな。

カーリナも自分も遠隔武器など持ち合わせていない。

つまり、近接戦に持ち込まない限り、この不利な状況から抜け出せないだろう。

逆に言えば、剣の攻撃範囲内に持ち込めさえすれば、

投げ縄を無効化するチャンスが増えるはずだ。


ただし、今動いたところで、嫌がったカウガールが距離を取るに決まっている。

間合いを詰めるには……カウガールが攻撃を仕掛けた瞬間だな。

次の攻撃に合わせて間合いを詰めるしかない。


戦術を思案しながら視線をカーリナに向けると、

不安そうな表情でこちらを見ているのがわかった。

ここは一つ、お師匠さまから、素晴らしい戦術を授けようではないか。


「カーリナ、距離を詰めよう!」

「えっ! あっ、はい。でも師匠、近づくと危ないのでは?」

「いや、離れている方がかえって危険だ、相手の射程距離だからね。

 それに、攻撃は直線的で単調だから、多分、左右に動けば避けられるよ。

 考えてもみてよ、一度放たれた縄が途中で軌道を変えることはないでしょ」

「なるほど。さすがですね、師匠! もう敵の攻撃を見切ったのですね」

「ん? あぁ、まあね」


カウガールの投げ縄も、昨日戦ったカエルの舌攻撃と同じだろう。

高速で伸びる舌は真っ直ぐにしか攻撃してこなかった。

体の一部である舌先でさえ直線的な動きなのだ、

まして、一度投げた縄が途中で軌道が変わるはずもない。


残る問題は攻撃を仕掛けてくるタイミングだが、

それはカウガールの動きを注視していればわかるだろう。

しかし……


一度見ただけでここまで見抜けるなんて、我ながらなかなかやるじゃないか。


心の中で自画自賛しながら視線を送ると、

カウガールはとうに縄を手繰り寄せ終わっていたようで、

次の攻撃に備えて頭上で投げ縄を回していた。


「やばっ、次の攻撃が来る前に行くよ、カーリナ!」

「はい、師匠!」


カーリナと共に通路を走り出すと同時に、カウガールが投げ縄を放った。


投げ縄が自分に向かって飛んできたので、

体を傾け重心を変えながら通路中央へと移動した。

何故だかカーリナも同じように通路中央に寄ってきたので、

ぶつかってしまった。

おいー、カーリナ! なーにやってんだよ。

距離を詰めるってこういうことじゃないぞ!


その瞬間、カウガールが手首を巧みにひねり、投げ縄の軌道を変えた。

縄は空中でしなり、まるで生き物が蠢くように異様な動きを見せると、

急に方向を変え、カーリナの槍を捕えた。


おいおい、軌道が変わるだなんて聞いてないぞ。

イカサマだ! イカサマ!

それになんだあの縄の動き、キモッ! そんでもってズルッ!


カウガールは縄を両手でしっかりと握りしめ、

体全体を使ってカーリナを引っ張り始めた。

カーリナも負けじと、槍を両手で強く握り、

足を踏ん張って抵抗し、カウガールとの力比べが始まった。


その綱引き状態の隙を突いて、

自分はカウガールの足に渾身の力で剣を振り下ろした。

しかし、素早く反応したカウガールが足を上げて防がれてしまった。

全力のつもりだったが、カウガールに攻撃は全く効かない。

むしろカウガールは涼しい顔のまま片足で立っている。

なんともまぁ、体幹が強くていらっしゃる。


感心していると、カウガールの強烈な蹴りによって吹き飛ばされてしまった。

地面に頭をぶつけてしまい、痛みに顔を歪めながら、カーリナの方を見た。


「カーリナ、大丈夫か?」

「ボクは大丈夫ですけど。師匠こそ、大丈夫ですか?」


カーリナはカウガールに槍を構えたままの姿勢で、

視線だけをこちらに向け、気遣いの言葉をかけてくれた。

なんだ?知らぬ間に槍を捕えていた縄が外れたのか。

少し気まずくなったが、ここは前向きに考えよう。

カウガールが自分を蹴った衝撃で縄が緩んだ、きっとそうだ、そうに違いない。


だが自己肯定している間に、カウガールの縄が再びカーリナの槍を捕らえた。

今度は逃さないかのように、しっかりとその柄に巻き付いている。

カーリナも槍を引っ張って抵抗するが、

縄は強く絡みついていて、びくともしない。

焦るカーリナを見て、自分は剣を構えて一閃させる。

言うまでもなく、相手はカウガールではない、縄だ。


剣の鋭い刃が縄に当たり、ゴリゴリとした荒縄の感触が手に伝わってきた。

更に力任せに押し続けると、ブチッと縄が斬れた。

おお、この縄は切れるのか。


当然、切るつもりだったが、切れないかもとも思っていたので、

その矛盾が解消されたこともあり、一瞬の驚きと安堵が襲ってきたが、

すぐにカーリナに注意を向けた。

すると、槍に巻き付いていた縄が瞬く間に黒い煙となって消えていく。


縄は切れるし、消えもするんだ。

カウガールの武器はこの投げ縄が一本、予備の武器は無いはずだ。

これ、勝ったんじゃねー?


そんなことはなかった。


カウガールの手元に再び縄が現れるのが見えた。

新たな縄を握り、カウガールがこちらを不敵な笑みで見つめている。


なるほど、あの縄は消えたり現れたりするのか。

魔物が倒されたときに黒い煙に変わるのと同じように、

縄もまた切れると消えてしまう、そして消えた縄の代わりに、

新たな縄がカウガールの手元に現れる――これ、かなり厄介だな。


カウガールが険しい表情に変わると、再び投げ縄を頭上で回し始めた。

その視線は鋭く、こちらを完全にロックオンしている。

まるで獲物として確実に捕らえるハンターのようだ。


「しっ、師匠。次の攻撃はどうしましょう?」


カーリナの声から緊張が伝わる、自分も一緒になって焦るわけにはいかない。

ここで冷静さを失えば……そう、師匠の面目丸つぶれだ。


「落ち着くんだ、カーリナ。カウガールとの距離を詰めさえすれば、

 投げ縄も飛んでこないはずだ。今度は自分が前に出るから、

 カーリナはその隙に攻撃を仕掛けてくれ。頼りにしてるよ、カーリナ」

「えっ!?わかりました、師匠!ボクが倒して見せます。

 師匠を魔物から守って見せます!」


自分は剣を握り直しカウガールとの距離を詰めると、

カウガールが後ろに下がりながら縄を構えているのが見えた。

やはり、距離を取りたがるな、だがそうはさせてなるものか。


自分が先陣を切ってカウガールの足元を狙ったが、

素早く後方に避けられ、剣が地面を叩いて甲高い音を立てた。

その音にカウガールが気を取られた隙に、

カーリナは左足を踏み込み、体勢を低くしながら槍を水平に構えると、

鋭い眼光でカウガールの肩口を狙って突き出した。


ムゥッ


槍先が突き刺さったカウガールは苦悶の声を漏らし、動きが鈍った。

この隙を逃すまいと、カウガールの横腹に自分の剣を振り下ろす。

しかし、カウガールは瞬時に反応し、剣を腕で払いのけた。

その腕はまるで鉄のように強靭だった。


全然ダメじゃん、自分の攻撃は効きやしない。

無力感を嘆いていると、カーリナが再び槍を握り直し、

カウガールの側面を狙って攻撃を仕掛ける。


カーリナの槍は見事に命中する一方で、

自分の剣はまったく手応えがない――何が違うのよ?

その疑問の答えが頭の片隅に浮かんだ――ステータス調整だ。

カーリナは武器攻撃力を5倍に設定、だが自分は3倍にしかしていない……

その分、獲得経験値UPに振っていて、その恩恵は十分に受けている。

だが、今のこの状況下では無用の長物だ、

敵を倒して初めて経験値が得られるのだから、

まずは目の前のカウガールを倒さない限り、何の役にも立ちゃしない。


あー、やっちまったな……面倒がらずにちゃんと調整していれば……

目の前のカーリナとカウガールの交戦を、指をくわえて見ていると、

じわじわと後悔と反省が心の隅々に広がっていく。

次からはちゃんとやろう。

まぁ、無事に生還できたらの話しだけど。


カーリナの槍がカウガールの胴体に深々と突き刺さり、

その痛みに耐えかねたカウガールは手を伸ばしカーリナの顔を掴みかかった。

とっさに身を引いたカーリナ、それを見てすかさずカウガールも後退し、

二人の間に距離が生まれると、

素早く投げ縄を操ったカウガールがカーリナの槍を絡め取った。


「んーもーまたか!カーリナ、今斬るから待ってて!」


縄を斬ろうと素早く剣を振り下ろしたが、カウガールの動きが速すぎた。

カーリナの手から槍が抜け、宙に舞うとカウガールの後方の地面に落ちたのだ。

しまった!槍が奪われた。

これでカウガールへの唯一の攻撃手段がなくなってしまった。

瞬間的に焦りがこみ上げてくるが、ここで慌てても何も解決しない。


冷静に……そう、冷静に……


いや、やっぱ無理だよ、カーリナの槍が無ければ勝てっこない。

どうする?逃げるか!?近くに9階層へ続く階段がある、

あそこまで二人で走れば、ひょっとすれば、ひょっとして、逃げられるかも。


頭の中が『闘争』ではなく『逃走』の二文字でいっぱいになっていると、

カーリナが自らの体勢を整え、拳を握りしめているのが視界に入った。

槍がなくとも戦いを諦めるつもりはない、といった感じだ。

んー、仕方がない、弟子が『闘争』の二文字を選んだのだ、

師匠である自分も、ここで逃げるわけにはいかない。


槍を失ったカーリナは戸惑いの様子もなく、

拳を握りしめたままカウガールに向かって駆け出す。


「えっ!ちょっ、カーリナ、無理しないでーっ!」


自分の情けない叫びが迷宮の壁に反響する。

しかし、カーリナは振り返らず、一直線にカウガールへと突進していった。

素手でどうするつもりだ?カウガールの投げ縄は厄介だが、

距離を詰めれば打撃攻撃も来るのだ、

槍がない今、カーリナの素手などまったく効かないはずだ。


近づくカーリナを見たカウガールは右足を踏み込むと、

左腕を大きく振り上げ、カーリナ目がけて振り下ろした。

体重が乗ったカウガールの強力な腕がカーリナを捉える。

カーリナはその場で体を一回転させた後、

無防備のまま地面に叩きつけられた。


「うっ!」

「カーリナ!」


瞬時に駆け寄ろうとしたが、カウガールがこちらに鋭い視線を向けてきた。

その威圧に飲まれそうになり、一歩が踏み出せない。

でも、このままではカーリナが危ない。

そもそも槍を持たずに戦おうなんて無茶なんだよ、

素手なんかで勝てるわけがない、後でお説教をするとして、

まずは、何とかしてカーリナを抱えて逃げなければ。

大丈夫かな、顔から地面に落ちていたが……


カーリナがゆっくりと立ち上がったのを見て安心したが、

カウガールに向かって再び構えを取った。

その姿は明らかに疲弊していたが、目には決して諦めの色は浮かんでいない。

攻撃が効かないと分かっていながらも、カーリナは一歩も退かない。

自分を守ろうとするその姿を見て、迷いが吹っ飛んだ。


自分がカーリナを守らなければ。


新たな決意をした束の間に、投げ縄が宙を舞うのが見えた、

今度はカーリナ自身が捕らえられてしまった。

何とか踏ん張るも、カウガールの力には勝てず、

バランスを崩したカーリナが地面に倒れ込んだ。

身動きがとれないカーリナを一瞥したカウガールが、

あざ笑うように自分を見て来た。


怒りで剣を握る手に力が入るが、挑発に乗ってはいけない、

ここは冷静にならねば、必死で状況を整理する。


何よりも優先すべきはカーリナの救出なのだが、

無暗にカウガールを攻撃しても無意味というものだ。

カウガールから視線を外すと、その奥に槍が映った。

先ほど奪われたカーリナの槍だ、それが地面に転がっている。


自分はカウガールに剣を構えたまま、静かにゆっくりと槍へと近づく。

カウガールの視線が自分を追っていたが、視界から自分が消えると、

振り返ってまで追うことはなかった。

自分に背後を取られたところで、全く気にしていないのだろう。


槍を拾い上げ、カウガールの方を見ると、

カーリナは縄に引っ張られ、体が擦り切れそうになりながらも抵抗している。

その姿を見て焦りが一層募ったが、一呼吸置いてからゆっくりと剣を構え、

縄を斬り落とした。

縄が煙となり、拘束が解けたカーリナが自由になる。

息を整えながらもすぐに立ち上がろうとしたが、

カーリナは明らかに疲弊している様子だ。


「どうする、カーリナ。一度近くの階段に――」

「ボッ、ボク……まだやれます。槍を……ください、師匠」

「……わかった。ほらっ」


槍を受け取ったカーリナはカウガールに向かって構え直す。

カウガールも新たに出現した投げ縄を構えようとしているが、

こちらにはもう余裕がない。

自分とカーリナは即座に息を合わせ、再びカウガールに攻撃を仕掛ける。


先行した自分が剣でカウガールの隙を作る。

そして、その隙を逃さずに、カーリナが槍でカウガールの胴体を突いた。


ムグゥ


カウガールが苦痛に満ちた声を上げ、よろめく。

これを契機に、形勢は少しずつこちらに有利に傾いていった。

自分とカーリナの連携攻撃は、カウガールの体にいくつもの深い傷を刻み、

徐々にだがその動きも鈍くなっていく。


そんな中、突如としてカウガールが自分を無視し、

縄を回しながらカーリナに向かって突進した。


「まずい……カーリナ!」


叫びながらカウガールに斬りかかるも、相手にもされず、

カウガールの投げ縄が、カーリナの槍を捕えた。

必死に堪えるカーリナだが、カウガールの力には抗えない。


それを見た自分は、気付くと剣を捨てカウガールに飛びかかっていた。

武器などどうでもいい、もうカウガールを止める手段は、

自分の体しか残っていない。


もがくカウガールを必死に抑えながら、カーリナに叫ぶ。


「縄が緩んだ!カーリナ、攻撃だ!うっ……」


叫んだと同時に、腹に強烈な痛みが走った。

身体が重くなり、手の感覚が薄れると、カウガールがするりと抜けていった。

視線を下に落とすと、腹が真っ赤に染まっている――なんだこれ?

何が起きたのか理解できなかった。

意識が遠のき始めたその時、カーリナの叫び声が耳に入った。


「師匠!!」


その声で初めて気付いた、自分が刺されたのだと。

腹には鋭い刃が深く突き刺さっている――ナイフ?

カウガールはナイフを持っていたのか?気付かなかった。

それが自分の命を今、奪おうとしている。

痛みが遅れて意識に届き、力が完全に抜けるとその場に膝立ちになった。

視界の揺れに耐えきれず、そのまま地面に仰向けになった。


……


迷宮の天井って高いんだな……


……


「嫌だ、師匠!師匠!ねー起きてください!」


声の方に視線を向けると、カーリナの姿が見える。

必死に槍を引き戻そうとしながらも、こちらを向いて泣き叫んでいる。


もういいよ、カーリナ。

よく頑張った、十分だよ、その槍を手放して逃げなさい。

カーリナはその若さで十分強い、それにこれからもっともっと強くなれるよ。

確か、立派な騎士になるのが夢だって言ってたな、うん、なれるよきっと。


だから、ここで死ぬ必要なんてない。


死ぬのは……

ひとり…………

自分ひとりで…………


また死ぬのか、また、あの案内人に会うのか……嫌だな。

苦手なんだよなあいつ。


なかなか、お迎えってこないものだな。

体の自由が効けば、カーリナのステータスを調整してやれるものの、

目の前にステータス画面は表示できるが、肝心な操作ができない。


意識が薄れ、考えが霞むように浮かび上がる。

今さらだが、カーリナにもっと力を与えていれば、

あの時、カーリナが取得した「槍使い」と「神官」のジョブ。

あの二つのジョブをセットしてあげられたのに。

だが、面倒で後回しにしていたせいで、

今、カーリナはこの状況に追い込まれている。


もし、あの時カーリナに槍使いか神官のジョブをセットしていれば、

今とは違った結果になっていたのに……

自分のせいで、カーリナは危機に陥っている。


どうせ死ぬなら……

せめて、ジョブくらい……

だが、今となってはもう……


意識が遠のく中、カーリナが槍を手放したのが見えた。

そう、それでいいんだ、お逃げなさい。

だが、カーリナは真っ直ぐ自分に駆け寄ってくる。

泣きじゃくって顔はぐちゃぐちゃだ。

強いといっても、カーリナはまだまだお子ちゃまだな。


カーリナの姿がぼやけ、かすんで見えなくなっていく。

涙が勝手に溢れていた、泣いているのは自分もだったか。

自分は何もできなかった、もっとうまく立ち回れていたはずなのに、

深い後悔が心に残りながら意識が薄れていく。


***


ムモゥゥゥウッ


けたたましい叫びが聞こえ、ゆっくりと目を開けると。

目の前に黒い煙が立ち昇っている――お迎えってこんな感じなのか。

高い天井まで立ち昇る煙をぼんやりと見つめていると、

煙の中央にはカウガールが、そして徐々に姿を消していく。


状況についていけず、茫然自失で目の前の光景を眺めていたが、

直ぐにその答えは煙の向こう側に立つカーリナが教えてくれた。

カーリナは自分の剣を持ち、息を切らしながら立っている。

カウガールを倒したのはカーリナだった。


そうするとだな……やっぱり……


腹に刺さったナイフを見ると、ゆっくりと煙となって消え、

それと同時に大量の血があふれ出した。

だが、もう何も感じなかった。


「師匠、もう大丈夫です!」


カーリナが駆け寄り、すぐに自分のそばに膝をついてきた。

顔は疲労がにじみ出ているが、自分のことを心配してくれている。


「倒したのか、凄いなカーリナは……役に立てなくてごめんね」


かすれてまともに声が出ないが、心から謝罪を述べると、

カーリナは首を大きく横に振った。


「師匠、しっかりしてください!今、薬草で手当てします!

じっとしていてください」


カーリナがすぐに手当てを始めた。

もう既に体を触れられても感覚はないが、

薬草を介してカーリナの手のぬくもりだけは伝わって来た。

感謝の言葉がいくらあっても足りない。


「ありがとう」


カーリナは優しい笑みを浮かべて答えた。


「ボクがいる限り、師匠は絶対にやられません!」


その言葉を聞いて、命の危機を乗り越えたのだとようやく実感した。


全身の痛みが少しずつ和らぎ、体に感覚が戻ってくる。

まだ完全に動けるわけではないが、カーリナのおかげで死を免れた。


「師匠……もう少し休んでください。無理はしないで……」

「そうする……カーリナ……ありがと……」


かすれた声で何とか感謝の言葉を口にした。

カーリナは優しく微笑みながら、自分の手を握ってくれた。


二人の間に静かな空気が流れる中、

カウガールとの戦いはようやく終わりを迎えた。

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