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第28話 教会と奴隷

タバコが詰まった木箱を受け取り、

団長ユーハンからの魔物討伐依頼もついでに引き受けた。

頂ける物を頂いたのでおいとまさせてもらおう、

早くタバコが吸いたいし。


副団長らしき男が部屋を出て行ったので、

自分も適当に挨拶を済ませ部屋を後にしようとすると、

クリスティーナに呼び止められた。


聞けば、キュメンの自分の定宿を手配できておらず、

その代わり、騎士団詰所に部屋を準備したので、

今日、明日と詰所に宿泊してくれとの申し入れだった。


ガド中部への部隊移動があって慌ただしいのは十分理解できる、

だが自分がキュメンに戻ってくる日は決まっていたのだから、

宿屋ぐらいは予約しておいて欲しいものだ。


しかしクリスティーナに文句を言っても仕方がない、

言うとなればクリスティーナの上司であるあの副団長らしき男、

結局名乗らなかったので名前はわからないままだ。


自分で宿を手配となると予約サイトや比較サイトが無いので面倒くさいだろう。

余儀なくクリスティーナの提案を受け入れた。


夕食として出された硬いパンと薄味のスープを食べた後、

クリスティーナの案内で部屋へ移動する。

詰所は宿泊施設では無いので相部屋を覚悟していたが、

通されたのは個室、だが家具も窓もない狭い部屋。

中央に部屋よりも一回り小さいベッドだけが置かれ、

とりあえずの寝場所といった感じの質素な部屋、悪く言えば独居房だ。

ここで自分は二日間軟禁されるのか?


格安のビジネスホテルでももう少し歓待を受けられるぞ。

勿論テレビなんてものはない、有料チャンネルが見られず残念だ。

ベッドもシングルサイズよりもやや幅が狭い。

これでは人を呼んでどうこうできないじゃないか。


部屋に足を踏み入れると、

クリスティーナはお湯の入った桶と手ぬぐいを床に起き、

挨拶をして扉を閉めて去ってしまった。

要望を申し付けて良いとクリスティーナが言っていたので、

彼女と一晩楽しみたかったのにー、どうやら夜伽はないようだ。


口惜しがりながら体を拭いた後、木箱からタバコを一本取り出し、

壁掛けランプから火を貰い一服。


そう言えば、カーリナは何処へ行ったのだ?

キュメンへ戻ってから一度も会っていないぞ。

師匠が一人で心細くしていると言うのに、何をやっているのだ。

不肖な弟子の捜索がてら、建物内を探索してみるか。


タバコを吸い終え、部屋から出ようと扉を押すも、

あれ?少ししか開かない、扉の向こうで何かつっかえている感じだ。

建付けが悪いのか?何度か開け閉めしていると急に扉が開いた。


扉の先に椅子の背もたれを持った人が立っている。

先程タバコが入った木箱を渡してくれた女性、名前は……

確かキャットと呼ばれていた。


「どうされましたヒデキ殿」

「いやー、カーリナを探しに行こうかなと思って」

「お急ぎですか?宜しければ私が呼んで参りますが」

「いやいや、そこまでは結構です。

 カーリナはどうしてるかなって思っただけなので」

「そうですか。それでしたら今日はもう遅いので、

 明日の朝でもよろしいでしょうか?それで良ければ、

 私からカーリナへヒデキ殿に会いに来るよう伝えておきます」

「あっ、朝で問題ありません」


カーリナにどうしても会いたいという訳でもないし、

会って何をするわけでもない。

ただちょっと寂しかっただけだ。

それに弟子が師匠の事をあれこれ気にかけるならまだしも、

その逆なので何とも言い出しにくい。

寂しいから会いたいとは口が裂けても言い出せない。


話しを終わらせたいのかキャットが扉を閉めながら言う。


「もう宜しいでしょうか?他に何かあればお申し付け下さい」

「ちょっと待ってください。えーっとキャットさん?でしたっけ。

 キャットさんはここで何をされているのですか」

「私は護衛として、ここでヒデキさんをお守りしています」

「えっ!お守りって……何か危険なことがあるんですか?」

「いえ、ここは騎士団詰所なのでそう滅多な事は起こりませんが、

 ヒデキ殿は団長の賓客でいらっしゃいますので、

 万が一の事があってはなりません。

 何か起こってからでは遅いので、

 こうやって夜通し見張りを立てさせてもらっています」


なるほどー。


一聴するともっともらしい事を言っているように取れるが、

要するにキャットは自分が逃げないように見張っているのだな。

恐らく先程まで扉の前に椅子を置いて座っていたのだろう、

だから扉が開かなかったのだ、建付けが悪い訳ではない。

これではまるで監禁ではないか。


独居房みたいな部屋も相まってキャットが看守としか思えない。

だが自分は囚人ではなく団長の客人だ。

看守の粋な計らいを期待してキャットを誘ってみる。


「そうでしたか、それはご苦労様です。

 ところでなんだか眠れないのですが……

 良ければ話し相手になってもらえませんか?」

「折角のお誘いですが、私は任務中なのでお断りさせて頂きます」

「そんなつれない事言わないで部屋でおしゃべりしましょうよー。

 おしゃべりしながらでも護衛はできますし、

 さぁ部屋に、中へ入ってください」

「いえ、お断りさせて頂きます。

 それに上からも部屋で二人っきりになるなと命令されていますので」


こちらの目的を察したのかキャットは自分の誘いを断ると扉を閉めてしまった。

くっそー、二人きりになるなと上司からの命令があるだと。

上司とはあの副団長らしき男か!余計な事を指示しよってからに!

キャットを誘うと見透かされていたみたいで恥ずかしいではないか。


イライラを解消するためもう一本タバコに火を点け、

ムラムラを解消するため銜えタバコのまま自分を慰めた後、

一人寂しくネンネした。


***


翌朝――多分朝だと思うが窓がないもので時間がわからない。

カーリナが迎えに来るのを待つ間、

ランプでタバコに火を点けて寝起きの一服。

今日は隣り街のキリルへ向かおうと思う。

ここキュメンよりも大きいらしく、一度行ってみたかったのだ。


天井に向かってゆっくりと上がる煙を見ていると、突如ハッとした。

この密閉された狭い部屋で換気もせず一晩中ランプを灯していたが、

一酸化炭素中毒の危険があるではないかとヒヤリとした。

後でクリスティーナにでもヒヤリハットを打ち上げておこう。

しかし中毒って言っても通じるだろうか、

理解されなくても自己満足のために警告はしておこう。


コンッコンッ


扉を叩く音と共に見知った人影が部屋に入って来た。

カーリナ――ではなくトラヴィスだった。


「よっ、ヒデキさん」

「おはようございますトラヴィスさん。どうされたんですか?」

「ヒデキさんに挨拶に来たんだ。

 オレは今日中部へ移動だからその前に顔を見せとこうと思ってな」

「そうでしたか、トラヴィスさんも中部へ移動になりましたか。

 私は明後日移動なので向こうでまた会うかもしれませんね。

 アイリスさんも一緒に行かれるのですか?」

「ああ、アイリスも一緒に今日出立だ。

 あいつは今、南部に残る連中んとこ行ってる。暫くあえなくなるからな」

「アイリスさんはホントおしゃべりが好きですねー」

「そうだな。あいつのおしゃぶ……ああ、ある意味人気者だからなあいつ」


トラヴィスの言い間違いで、

何となくだがアイリスが何故人気者なのかわかった気がした。

もっと早く気付けば昨晩おしゃべりしたのにー。


トラヴィス曰く、自分のガド中部への移動は副団長が受け持つとのこと。

ただ現地での後方支援はどこの部隊が行うかわからないようだ。

トラヴィスは自分に会いにここへ来る前、クリスティーナに探りを入れたが、

少なくとも副団長直属部隊が後方支援することは無いらしい。

トラヴィスの予想では、

中部の戦況を考慮すると自分への後方支援自体がないかもしれない。

そんな予想からトラヴィスからある提案があった。


「ヒデキさん、どうせだったらパーティーメンバーを増やしたらどうだ」

「メンバーですか……冒険者ギルドで募集するんですか?」

「ギルドもそうだが、もし金に余裕があるんだったら雇う手もあるぞ」


他人に自分の特殊スキルを知られるのは良くない、

従って冒険者ギルドでメンバーを募集するとはいかないだろう。

メンバーは対等な立場であると特殊スキルの秘密が漏洩しかねない。

それよりかは雇う方が防止できるかもしれないが、

それでも絶対的な効力はないだろう。

漏洩防止となれば完全なる主従関係を形成する必要がある。


「んーっと、奴隷を買うって事はできますか?」

「奴隷だぁー?おいおい、いつの時代の話ししてんだよ。

 オレ達獣人がどれだけ苦労して今の自由を手に入れたかわかってんのか!?」


何やら禁忌に触れてしまったようで、トラヴィスが声を荒げている。

トラヴィスの話しでは、過去に奴隷制度はあるにはあったが、

それは約200年前の話しで、現在奴隷など非人道的制度は無いとのこと。

全ての獣人が奴隷だったと言う訳ではないが、

文明が発達していく上で人族が経済の中心となり、

読み書き計算の教育が行き届いていなかった獣人族が、

その食い物にされ債務不払いで奴隷に身分を落とす者が多かったとのこと。

そのような背景から奴隷の多くが獣人だった事もあり、

制度自体が無くなった今でも、

獣人=奴隷という偏見が払拭されずに時折問題が起こっているそうだ。


この世界の文明的に奴隷制度があるかもと思ったのだが軽率な発言であった。

トラヴィスにひたすら謝り続けてようやっと怒りを収めてもらえた。


「間違っても獣人の前で奴隷って言葉を出すなよヒデキさん。

 オレだったから良かったものの、

 どんな目に合わされるかわかったもんじゃないからな」

「はい、肝に銘じておきます。この度は大変申し訳ございませんでした」

「わかればいいんだ。オレの方も少し大人げなかったよ。

 そうそう、これを渡しておかないとな」


トラヴィスが袋を渡してきた。

口を開き中身を確認すると金が入っている、ドロップアイテムを売った金だ。

ずっしりと重くそれなりの金額が期待できる。

この金で奴隷、あっ違った、パーティーメンバーを雇えるだろうか。


トラヴィス曰く、隣り街のキリルには紹介所があるらしく、

そこでパーティーメンバーを雇うことができるようだ。

やはり今日はキリルに向かうので決定だな。


そろそろ移動する頃だと言いトラヴィスが部屋から出て行くと、

入れ違いでカーリナがやって来た。

トラヴィスに謝り倒しているところを見られずに済んで良かった。


「おはようございます師匠」

「おはようカーリナ。今日はキリルに行こうと思うんだが、

 案内をお願いできるかな」

「わかりました。ボクに任せてください」


パーティーメンバーを雇いに行くことは……

現時点で言う必要はないか、雇えるかどうかもわからないし。


***


朝食を済ませ、隣り街キリルに向かうべく騎士団詰所を出ると、

詰所入口でユホに出会う――まだ守衛に回されたままだったのか。

団長の息子だからと言って良い役職は与えられないのだな。

いや、そうではないな。

受付嬢のクラウディアさん会いたさに冒険者ギルドに入り浸り、

その降格処分なのだから、

寧ろ当分守衛のままだろう。


「お久しぶりですヒデキさん。おでかけですか」

「レレ……あっいや、ちょっと隣り街のキリルまで」

「そうですか。でもこの時間だと朝便が終わっているので次は昼便ですよ」

「昼便?あーっそうですか……適当にどこかで時間を潰しますよ」

「そうだ、ちょっと待って下さい。これをヒデキさんに渡しておかないと」


そう言うと守衛所へ入ったユホが木箱を持って出て来た。

おお!手渡された木箱に見覚えがある。

これは宿屋に置いてあった木箱、

そして中には貴重なタバコを保管していた物だ。


小迷宮ラクスへ直接移動してしまい宿屋に取りに戻れず、

自分の代わりにトラヴィスとアイリスが必死に探したが、

とうとう見つからずじまいだったのだ。

中身を確認するとちゃんとタバコが入っている。

今日は朝から縁起がいいな。


「ありがとうございますユホさん。

 これは何処にあったんですか?」

「えっ?宿屋に置いてありましたけど、ほら窓際の机があったじゃないですか、

 その机に置いてあったんですけど」


ん?どう言う事だ?

確かに自分は机の上に木箱を置いていた、

自分の記憶とユホの証言が一致する。

ではトラヴィス達は何故に見つけられなかったのだ。


宿屋は広い部屋ではなかったので直ぐに目に付くはずだ。

となると、ははーん。

さては奴らちゃんと探さなかったんだな。


トラヴィス達への怒りが込み上げてきたので、

冷静を保つべく心の中で6秒を数えていると、ユホが続けて語る。


「ヒデキさんが大切にしていた木箱なので私が保管しておきました」

「ほほーう、それで今までユホさんが持っていてくれたと……」

「はい」


悪びれる様子もなくユホは元気よく返事をしているが、

んー、ひょっとして犯人はユホか?

自分がどれだけタバコを欲していたかわかっての所業か。

目の前のユホをぶん殴りたくなったが、

まだユホが犯人と決めつけるには早い、

そう、まだ黒に限りなく近いグレーなのだから。


「(1、2、3、4、5、6)

 あっ……ありがとうございました。

 因みにいつこれを回収されたのですか」

「ヒデキさんを見送った後、真っ先に宿屋に向かい回収しておきました。

 他の荷物はトラヴィス達に運ばせましたが、

 その木箱だけは私からヒデキさんへ直接手渡そうと思い、

 今まで預かっていました」


幾らトラヴィス達が必死に探しても見つからないはずだ、

ユホが隠し持っていたのだから。

ユホが下手に気を回したおかげで、

トラヴィス達が回収できなかったのだ。


必死に怒りを堪えていると、

状況を理解できたカーリナが自分の背中に手を置き囁く。


「師匠、まずは落ち着いてください。

 納得いかなくても落ち着いてください。

 お願いですから物は投げないでください。

 ユホ兄さんだって必死にやった結果なんですから」

「……」

「そぉーだっ!昼便まで時間があるので、教会に行ってみませんか?

 師匠は教会行ったことありませんよね。ボク案内します。

 そうと決まれば早速行きましょう!ねぇー行きましょ」


未だ状況が理解できないでいるぼんくらユホだが、

カーリナに免じて許してやろう。

良い妹を持って命拾いしたな、但し次は無いものと思え。

ユホに対しメンチを切っているとカーリナに手を引っ張られ、

騎士団詰所を後にする。


***


時間つぶしのために教会へ。

建物に入ると広い空間に幾つもの石板が並び、

その奥には人型の像が鎮座している。


石板はステータスが確認できるステータスボードと呼ばれる黒い石板と、

ジョブ変更が行える神殿と呼ばれる白い石板の二種類がある。

一般的な冒険者達はここでステータス確認やジョブ変更を行うらしいが、

全てできてしまう自分にとっては必要の無い物だ。


石板は目にする程度に留め、奥に進むと像の前までやってきた。

材質は石だろうか、少しだけ濁った白色をしている。

表面は滑らかな仕上がりで光沢感があり、

像の後ろに設けられた窓から注がれる日光を浴びて、

神々しさが演出されている。


教会は迷宮を中心とした街の南に位置していることから、

日中は常に採光できるように設計されているのだろう。


石像はローブを纏った女性をかたどったもので、

右手にランタンを持ち、腰からはロープがぶら下がっている。

あれ?これってあれだよな……


石像を見入っているとカーリナが説明してくれた。


「綺麗ですよね。

 これはヴァンナ教の女神様の石像です。

 火と生命を司る神様なんですよ。

 アトランティコ派ではこの女神様を信仰の対象としています。

 別のトリノ派では狩りの女神としても信仰されているようですよ」

「へぇー、火と生命ねー」


この女神、よぉーく知ってるぞ。

この世界に来る前、三途の川で出会った案内人だ。

忘れもしない、自分の知らない所でこいつに六回殺されたからな。

神ではなく魂の案内人だと言い張っていたが、

やっぱりあいつは女神だったのか。


転生させてもらったので生命を司るのは理解できるが、

それよりも火だ、火を司るのかよー、

もっと早く知りたかったな、

そうしたらライターの替わりになる火起こしできるスキルを、

貰えたかもしれない。


悔やんでも悔やみきれず両手で頭を抱えていると、

カーリナが声をかけてきた。


「師匠って信仰心が篤いんですね」


違うわい!

キャラクター設定


アルフレド

キュメン教区司祭

種族:人族

ジョブ:神官

家族:独身


パーティーメンバーの葬儀で悲しむ冒険者に近づき薬を飲ませ監禁。

墓を掘り起こし屍姦させることに興奮を覚える。

興奮が最高潮に達すると冒険者を絞殺し犯しまくる。死体が腐るまで毎晩楽しむ。

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