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第27話 依頼ふたたび

「師匠、冷めないうちに食べてください」

「はいはい、わかってるって。

 そんな焦りなさんなっ、先ずは一服させて頂戴よ」


例の雑貨屋で購入してもらったタバコをアイリスから受け取ると同時に、

カーリナが昼食を食べろと()かす――もう少し待ってくれよ。


受け取ったタバコは5本、10本分の金を渡していたはずだが……

残りの5本はどこいった?

もしかしてアイリスが着服したのか?


受け取ったタバコとアイリスを交互に疑いの目で見ていると、

嫌疑がかかっている事に気付いたのか、

店主に5本しかないと言われたとアイリスが釈明した。

まぁ今回は大目に見てやろう。


5本のタバコの中から1本を選び焚き火から火を貰う。

一気に吸い込むと脳天にガツンと来た。

それに口に広がり鼻から抜ける独特の香ばしさ、

更に少し舌にまとわりつくこの感じ、

最高に美味い、はぁー生き返るー。


一服して至福の時を過ごしていると、

カーリナが食事の手を止め、冷めた眼差しをこちらに向けているのに気付いた。

わかってるって、冷める前に食べろってんだろ?もう少し待ってくれよー。

留立てるべく、カーリナに向かって煙を吐くと、

往生したのかカーリナが視線を外した――勝ったな。


団長のユーハンから受けた魔物討伐依頼は明日までだ、

午後にもう一度アイリスを遣わしたとしてもタバコは買えないだろうな。

それに明日も在庫があるかどうか疑わしい。

そうなると残り4本のタバコは大切に吸わないといけないな。


……そう……大切に……だ。

でも……


昼食前にもう1本だけ吸う。

カーリナが再び白い目でこちらを見ている、懲りない奴め。


***


昼食中、アイリスへお礼を言う。


「アイリスさん、ありがとうございました」

「ううん、いいのよ。

 ホントは昨日買ってこればよかったんだけどね」


聞けばアイリスは昨日もキュメンに行ったのだが、

同僚とのおしゃべりに興じた後、

アイテムを売りに行った冒険者ギルドで顔なじみの職員と楽しくくっちゃべり、

ギルドで知り合いの冒険者に出会うとその冒険者の知人を紹介され、

三人でブランチをしに行ったとのこと。


「そんなこんなで、アタシ昨日は4人も相手したものだから疲れちゃって、

 雑貨屋へ行く時間がなかったのよ」


おい、アイリスよ!随分と悠長な事をしてくれてるな。

それにおしゃべりとブランチしただけだろ、何をそんなに疲れる事があるのだ。

相手したって言葉が少し引っかかるが。

まぁタバコを買って来てくれた事だし、今回は大目に見てやろう。


食後も勿論一服。

おい、どうゆうことだ5本あったタバコがいつしか2本しかないぞ!?

まぁ自分で吸ったんだし、今回は大目に見てやろう。


***


午後の探索は6階層奥から再開。

カーリナと一緒になってBランクの魔物であるニコチアナを倒して迷宮を進む。

自分が参戦したのはひょっとしたらタバコをドロップするかも、

と期待したものだったが、ニコチアナがドロップするのは葉たばこだけだった。


これが全部タバコだったらなー。

どうせならタバコを落とせばよいのに、何故葉っぱなのだろう。

拾い上げた葉たばこを見ながら、

ニコチアナのドロップアイテムが徐々に疎ましい物となってきた。


タバコと葉たばこを勘違いしたためこのラクスへやって来たのだが、

そもそも魔物はタバコをドロップしないのだろうか。

この6階層のBランクの魔物が葉たばこを落とすなら、

AランクかSランクのどっちかが、

もしくはその両方がタバコをドロップしてもおかしくはないと思う。


ドロップアイテムについてカーリナに聞いてみるか。

拾った葉たばこをリュックに入れているカーリナに問うと、

迷宮について書かれた紙を手に説明してくれた。


「Aランクの魔物はカイエンと言う人型魔物らしいです。

 全身は赤色で舐めると辛いようです」

「舐めると辛いか……それってどうやって知り得たんだろうね。

 魔物は倒すと黒い霧になってしまうから、

 倒してから確認とはいかないでしょ?

 かと言って生きている魔物を舐めようとも思わないし」

「さぁーそこまでは書いていませんが、

 ドロップアイテムにスパイスがあるので、

 もしかしたら全身にスパイスを纏っているのかもしれませんね」


スパイスを全身に纏う?そんな奴おらんやろー。

発想が貧困だぞカーリナ。


「そうかー、それ以外のアイテムについては?」

「えーっと、スパイス以外ですと……

 魔除け、形代、それと胃薬があります」

「何それ、それよりもタバコはないのかな」

「んー、タバコについては書かれていませんね」


タバコを落とさず舐めると辛く、

そんでもってドロップアイテムに共通点がない魔物。

得体の知れないカイエンとか言う魔物は討伐対象から除外だな、

Aランクだし。


「そうか、じゃあダメだ。Sランクはどうかな?」

「Sランクは……2体いるようです。

 タバカムとルスチカという人型魔物で、

 2体は常に行動を共にしているので双子と考えられているようです」

「2体!?それは遭遇したら手強いな」

「あっ、でも敵対行動を取らない限り彼女達からの攻撃は無いようです」


6階層のSランク魔物も4階層のスライムガールと同じくノンアクティブ、

それに彼女達と言う事は女性なのか。

魔物に性別があるとなると有性生殖で繁殖するのだろうか。


「カーリナ、もしかしたらオスのSランク魔物もいるの?」

「オス?ですか。んー、聞いたことないですね。

 ボクはSランクの魔物は全て女性の人型だと教わりました」


そうかそうか、魔物は迷宮から生まれるらしいから、

そもそも魔物同士の生殖行動は必要ないか。

迷宮で交尾している魔物に出くわした日にゃー、腰を抜かしちゃうよな。

例えば、5階層で遭遇したフォークを持ったネコちゃんが、

ニャーニャー鳴きながら交尾をすると想像したら……ちょっと興味あるな。


となるとSランク魔物は女性のように見えるだけで、

実際に女性かどうか怪しいものだ。

偶然にも鱗の模様が人の顔に見える鯉がいるのだ、

たまたま女性っぽい見た目の魔物だって事もありうるだろう。


カーリナの説明では、魔物姉妹のアイテムにタバコはなかった。

このSランク魔物も討伐対象外だ。


***


依頼最終日の今日も6階層奥で討伐を続けたが、

ニコチアナがタバコを落とす事はなく、

ドロップアイテムは全て葉たばこだった。

本日の迷宮探索は四の鐘で切り上げた。

依頼完了を団長へ報告しにキュメンへ戻るためである。


移動準備を終え、キュメンへ向かうべく小屋の中のゲート前に立つと、

何だか憂鬱な気分になった。

初日のゲート酔いを思い出し気乗りしない。

またこの黒い霧を通り抜けるのか……


しかし、ここラクスからだとキュメンには馬車で一日かかってしまうらしい。

キュメンからこちらへ向かう際、カーリナがそんな事を言っていた。

クッション無しで馬車に一日揺られて尻をぶっ壊すか、

それともゲート酔いを取るか、ジレンマから抜け出せないでいると、

自分の後ろで順番待ちをしているカーリナが背中をツンツン押してくる。


わかった、わかったカーリナ。

わかったからそのツンツンをやめてくれ。

勘弁してくれカーリナ。


昨晩でタバコが切れ、今朝からヤニ切れなのだ。

早くタバコを買いにキュメンに戻りたいからゲート移動しか選択肢はない。

深呼吸をし、覚悟を決めて黒い霧へと飛び込む。


ええいままよ!


黒い霧を抜けると……

あれ?今回は大丈夫そう……


うぅ!


違った、大丈夫ではなかった。

吐き気に襲われ地面にしゃがみ込む。


トラヴィスに担がれ建物内へ、通された部屋の硬いベッドで横になる。

自分が横になるのを見届けると、

トラヴィスは無言で部屋から出て行ってしまった。


うぅー気持ちが悪い、誰か看病してくれー。


吐き気を覚えながら部屋を見渡すと、

部屋の隅に鎧を身に着けた知らない人が二人立っているではないか。

二人は若い女性、頭から耳が飛び出ているので獣人だ。


誰だろう、暫く寝たいので出て行って欲しいな。

追っ払って欲しいのだが、見回してもカーリナが見当たらない。

弱り切った師匠を置いてカーリナはどこ行ったんだ。

看病してくれカーリナ。


やばい、目が合うと知らない人が近づき話しかけて来た。

えー、喋るのもしんどいんだけどな、自分が対応しないとダメなのか。

おいおい、よしてくれよな。


「ヒデキ殿、ご気分はいかがですか?」

「気分は……悪いです。少し寝たら良くなると思いますけど。ですので――」

「そうですか、では副団長を呼んでまいります。

 じゃあ、お願いキャット」

「あっ、ちょっと待って下さい」


寝ると言ったつもりだが伝わっていない。

カーリナ、助けてー。


「あのー、カーリナ達はどこでしょうか」

「只今、彼女達は任務報告を行っているところです。

 もう少ししたら来ると思います」

「そうですか。でしたらもう少し後に――」


カーリナの居場所を聞いている間に、

キャットと呼ばれた女性は部屋から出て行ってしまった。

部屋に残った女性がまだ喋る。


「わたしは副団長直属部隊所属のクリスティーナと申します。

 それと今出て行ったのは同僚のキャスリーンです。

 お疲れのところ恐縮ですが副団長からお話がありますので、

 少々お待ちください。

 何かご要望がありましたら、わたしに何なりとお申し付けください」


このクリスティーナという女、自分を少しも寝かせないつもりなのか。

それに要望を受けてくれるとの事だが、

良いのか軽はずみにそんな事言っちゃって、後悔するぞ。


こちとらラクスではカーリナと起臥を共にしていたので、

一人の時間が全く無かった。

そう、全く持ってすっきり出来ていないのだ――もうパンパンで悶々なのだ。


コンコン ガチャ


クリスティーナをベッドに呼び寄せようとしていると、

扉を叩く音の後に部屋に人が入って来た。

――くそー好機を逃したか。


先程出て行ったキャスリーンとか言う女性の後ろに見知らぬ男が立っている、

男も頭から耳が生えているので獣人だ。

この男が副団長だろうか。


「ヒデキ殿、団長の特命任務ご苦労さまでした」

「あっ、どうも」

「早速なのですが、団長より伝言があります――」


自己紹介もせずに副団長らしき男が団長の伝言を説明する。


伝言内容は再び魔物討伐依頼だった。

だが次の場所は南部ではなく中部、

団長は中部の難民キャンプにいるらしい。

依頼の詳細については明後日の朝に説明するので、

難民キャンプまで来て欲しいとのこと。


おいおい、これって断らない前提じゃないか?

中部まで詳細を聞きに行って、やっぱ引き受けませんとは言えないだろう。

思い切って断ってみるか?

断った瞬間にベッドを追い出されるかな。


「お聞きしても宜しいでしょうか。

 そうすると、南部の迷宮はどうなるのですか。

 隣接する騎士団への派遣要請が通ったのでしょうか」

「団長はそこまで話していたのですか……

 ヒデキ殿はかなり信頼されているのですね。

 その点はご心配なく、予てよりラピヤンマー騎士団へ交渉していましたが、

 大隊1つを派遣してもらう事になりました」


聞けば、南部沿岸連隊の3つある大隊の内、

2つを北部と中部それぞれに派遣したものの中部の魔物鎮圧に苦戦し、

未だ戦況は厳しく、残りの1つも中部へ移動させると共に、

自分にも助力を求めるものだった。

その間の南部にある小迷宮をラピヤンマーが管理するとのこと。

大隊を動かすなら、自分はいらなくねぇ?


状況は理解できたが、団長の依頼をどうしよう。

引き受ける動機付けが欲しいな。


「私への報酬はどうなっていますか」

「団長からはヒデキ殿が必要なものは何でも全て、

 騎士団で手配せよと指示を受けています。

 出立前に必要な物がありましたらこちらで手配致します」

「必要なものは何でも?」

「はい、何でもです」

「例えばタバコが必要と言っても大丈夫ですか?」

「キャット、こっちへ持って来てくれ」


副団長らしき男が声をかけると、

キャットと呼ばれた女性が木箱を出して来た。

高鳴る鼓動を抑えながら木箱を開けると、

中にびっしりとタバコがつまっているではないか。


「団長の依頼、引き受けましょう!」

キャラクター設定


ラウリ・レランデル

ガド騎士団副団長

ジョブ:騎士

種族:獣人族/犬耳 性別:男 年齢:29歳

身長:173cm 瞳:ブラウン 髪型:銀色長髪

一人称:私 家族:既婚者(妻、息子)


従騎士時代、酒に酔って店に居合わせた女性を無理やり犯したことがある。

事件にはならなかった。被害を受けた女性は後のユーハンの妻アマンダ。


クリスティーナ(愛称:クリス)

ガド騎士団副団長直属部隊

ジョブ:騎士

種族:獣人族/犬耳 性別:女 年齢:22歳

身長:166cm 瞳:ブルー 髪型:アッシュグレー、ミディアム

一人称:わたし 家族:独身(ラウリ副団長の遠縁)


従騎士時代、パーティーを組んでいた同僚男3人から継続的に性被害を受ける。

一年間被害を受け続けたが、事故に見せかけ迷宮内で3人を殺害。

騎士団は3人の死亡を事故として処理。

同僚のキャットとは幼馴染。


キャスリーン(愛称:キャット)

ガド騎士団副団長直属部隊

ジョブ:騎士

種族:獣人族/猫耳 性別:女 年齢:21歳

身長:153cm 瞳:ブルー 髪型:アッシュグレー、ミディアム

一人称:あたし 家族:独身

酒に酔って一度だけ弟と肉体関係を持ったことがある。

以後、弟とは会話できない。

同僚のクリスとは幼馴染。

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