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第24話 猛虎襲来

朝だ。

窓の外が明るい、カーテンが無いのでとても眩しい。

昨日までならそろそろ迷宮探索を始める頃だろうか。


しかしながら、只今、鋭意ふて寝中だ。

カーリナ、トラヴィス、アイリスが変わりばんこに自分を起こしに来たが、

まだ寝ると言い放って追い返した。


ふて寝の理由はタバコが吸えないからである。

昨日、雑貨屋へのお遣いをアイリスに頼んだが、

仕入れのため店が休みでタバコを買えなかったのだ。

アイリス曰く、夕方まで店前で張り込んだが、

店主が戻って来ることはなかったそうだ。


商売なのだから仕入れもあるだろう、店主を責めるのはおかしい。

店を休むな!などと言った日にはクレーマーに成り下がってしまう。

店休日かなんてわかるはずもないのだから、アイリスを非難できない。

アイリスから謝られたが、大丈夫じゃないが大丈夫としか言いようがなかった。


この状況では誰も悪くない、強いて言うなら悪いのは自分の運である。

このやり場のない気持ちを何処にも吐き出せず、

仕方なくふて寝を決め込んでいるのだ。


誰かがまた小屋に入って来た、カーリナだ。


「師匠、起きてください」

「……」

「そろそろ迷宮に――」

「まだ寝るぅー」

「朝食も準備できているので起きてください」


バサッ


カーリナが掛け布団代わりの薄い布を引っぺがしたので、

慌てて取返し頭まで被り言い放つ。


「いぃーやぁーだぁー」

「そんなー、今日の迷宮はどうするんですか」

「今日は迷宮行かない!」

「迷宮に行かないって……」

「そんなに入りたいなら、カーリナ一人で迷宮に行けばいいじゃないか」

「もうっ!」


バタンッ


そっけない返事にカーリナは起こって小屋から出て行ってしまった。

だってしょうがないじゃないか、タバコが吸えないんだもん。


小屋の外からカーリナ達の会話が聞こえる。


「カーリナちゃん、どうだった?」

「まだ寝るって。それに今日は迷宮に潜らないって」

「どうするよー、これってやっぱタバコ買ってこなかったからだよな」

「何よトラヴィス、まるでアタシが悪いみたいじゃない」

「そうは言ってないけどさ、やっぱタバコが――」

「あら?どうしたのカーリナちゃん、武器なんか持って。まさか」

「師匠が行かないなら、ボクが一人で迷宮に入るしかないでしょ」

「それは流石にまずいだろー、従者が単独で迷宮に入るなんて。

 だったらオレ達も一緒に入るよ。なぁ、アイリス」

「ええ、足を引っ張っちゃうかもしれないけど、一緒に入るわよ」

「二人とも……ありがとう」


小屋の外でもめていた三人が結束したようだ。

まるで自分一人が駄々をこねているような口振だが、

何故気付かないかなー、本質的な問題はタバコが入手出来れば解決すると。

三人集まっても文殊の知恵は出なかったようだな。


はぁー、何でこんな所に来ちゃったかなー。

団長からの依頼を安請け合いするんじゃなかった、

後悔先に立たずとはこの事だ。

あの時、上手に断りさえすれば、

迷宮以外何もないラクスくんだりまでやって来ずに済んだのだ。

それに迷宮も何処でも良かったし、

タバコをドロップする魔物がいるからと飛び付いてしまったが、

これからは深く考えてから判断せねば。


ん!?


そうか!タバコが買えないのなら、迷宮で拾えばいいじゃない。

そうと決まればふて寝をしている場合ではない。

でも……何か嫌な予感が、何だろうこの胸騒ぎは。


ベッドから飛び起きると、三人が小屋に入って来た。


「師匠、今日はボク達が迷宮に――」

「カーリナお待たせ、迷宮に行こうか」

「えっ!?」

「あーちょっと待ってもらっていいかなヒデキさん」


そう言うとトラヴィスとアイリスがカーリナの襟を引っ張り、

部屋の隅で声を潜め鼎談が始まった。


「(おいっ、カーリナ!話が違うじゃないかよ。

 ヒデキさん、迷宮に行く気満々じゃないか)」

「(そんな事言われてもボクだってわかんないよ。

 確かに今日は迷宮に行かないって言ってたんだもん)」

「(ちょっとやめてよ二人とも、アタシ達でもめたって仕方ないわよ。

 ここはヒデキさんに確かめる以外ないでしょ)」


会話の内容は全て聞こえた。

幾ら声を小さくしようが小屋が小さいのだ、内緒話をするなら出ていかないと。

三人は自分に振り回された被害者面しているが、

これじゃあまるで自分一人が勝手気ままみたいじゃないか、失礼しちゃうな。


「あのー師匠、先程までは今日は迷宮に行かないって」

「さっきはさっきさ」

「……」


自分の一言にカーリナは呆れた表情をしている。


「じゃあ確認だけど、オレ達は迷宮に入らなくていいんだなヒデキさん」

「はい、ただ送ってはもらいますよ」

「ああ、それは後方支援業務なので勿論やらしてもらう」


***


トラヴィスに送ってもらい迷宮5階層入り口へ。


「カーリナ5階層の魔物は何かな」

「えーっと、5階層は――」

「しっ、静かに!」

「何なんですか師匠、今日は変ですよ」

「あれ見て、魔物だ」


うんざりした様子のカーリナに通路奥を見るよう合図を送る。

四つ足の魔物二匹がこちらに太い尻尾を向けて立っている。


「あれはマスクドタイガーですね」

「マスクド?何か口に付けているのかな」

「付けると言うよりも被っていると言った方が正確です」


今度の魔物はトラの覆面レスラーだったか。


カーリナと二人、武器を構えゆっくりとトラに詰め寄る。

物音を立てないよう慎重にトラとの距離を縮め、

トラの尾を踏まないよう細心の注意を払い、

尻尾を目の前に立つとカーリナに目配せし同時にトラに切りかかった。


ガルッ  ガッ


カーリナの攻撃は勿論のこと、自分の攻撃も効いたようで、

不意の攻撃に驚いた二匹のトラが前方に飛び跳ねた。

トラとの距離が開いてしまった。


「カーリナ!相手の攻撃は?」

「突進です、この距離は良くないので間合いを詰めましょう」


トラを刺激しないようにジリジリと距離を詰める。

近づくとトラは覆面ではなく金属製の仮面を被っているのに気づいた。


何の因果かマッポの手先、もしくは、俺の名を言ってみろ、

と言った感じの鉄仮面だが、獣の前足で自由に取り外し出来るのだろうか。

何にせよ鉄仮面のおかげで噛みつきが無いのは何よりだ。


ガッ


先走ったカーリナがトラを突くと煙に変わった。

残るは自分の相手のみ、見ると頭を低くしている。

これは突進しようと……


うぅ!


トラの突進を正面から受けてしまい、地面に倒れる。

起きあがろうとすると、トラが前足で自分の両肩を押さえて立てなくしてきた。


ガルルル


目の前には鉄仮面を被ったトラ、何ともシュールだが、

仮面の奥でトラが牙を剥き唸っているので恐ろしくもある。

だが、このトラはどうやって食事を取るのだろうという考えに囚われ、

何だか可笑しくなってきた。


楽しませてくれたお礼にトラの腹を銅の剣で刺すと、


ガルッ


痛みに反応したトラが鳴き声を上げ、頭が上がった。

効いているようなのでもう一回、


ドスッ

うぐぉ!


息ができない、トラが自分の胸に頭突きをしてきた。

頭を上げたのはこの為だったか。


苦しんでいると、駆け寄って来るカーリナの姿が見える。

助けに入ってくれるのだろう、出来ればヘッドバット前に来て欲しかった。


「師匠!そのままでいてください」


動きたくても動けないよ。

カーリナの鋼鉄の槍によって自分に覆い被さっていた鉄仮面トラが消える。

カーリナがリュックから薬草を取り出して手当してくれた。


その後、何度もトラに遭遇、何回か突進を受け、数回ヘッドバットを喰らい、

都度、呼吸困難となったがカーリナによって助けられながら、

タバコを手にするまで倒れてなるものかと気持ちを奮い立たせ、

どうにかこうにか中間の部屋までやって来た。


鉄仮面が落としたアイテムは今の自分にとってどうでも良い虎の爪、

暫し休息を取り、タバコを求め迷宮奥へと進む。


奥で出現するBランクの魔物はダークパンサーというこれまた四つ足、

特徴は鋭い牙を見せつけてくるだけで、

マッポの手先でもなければ名前を言えとも言わないシンプル黒豹だ。


カーリナの突き2回で倒せたが、敏捷な身のこなしで攻撃が当たりにくく、

空振りが続き、幾度と無く自分が被害を被った。


「カーリナ、ちょっと厳しいかな」

「ボクは大丈夫です」

「そりゃカーリナは攻撃を受けてないけどさ、

 何か戦術を立てる必要があると思うんだが、どうかな?」

「戦術ですか……」


通路で作戦会議をする訳にもいかず、一度部屋へ戻る。

戻っても良い案は出ず、ない知恵を絞っていると魔法陣が香色に光り、

トラヴィスが現れた。


「おっ、丁度良かった。

 ヒデキさん、昼食の準備ができたので迎えに来たよ」

「あぁ、わかりました。でも少し待ってもらえますか。

 カーリナ、さっきの続きだけど――」


トラヴィスを待たせて、カーリナを引き止め会議を進める。


「あーダメだ、何も良い案が浮かばない」

「師匠、一度昼食を取って、それからまた考えましょう」

「そんなのダメ、食事したらタバコ吸いたくなって、

 余計に頭回らなくなるから」


トラヴィスも含めた三人で戦術を考えるも、

これだという作戦は思いつかなかった。


「ヒデキさん、やっぱ先に飯食っちゃおうよ」

「ああああもぅー、考えても出ないなら仕方がない」

「だろ、じゃあ移動なっ」

「トラヴィスさん、もう少し待って。

 カーリナ、考えるのではなく感じる事にした。

 昼食前にもう一戦しよう!さあっ。ほら。立って。行くよ。急いで」


見るからに嫌そうな表情を浮かべるカーリナ、

戦闘ジャンキーだったはずだが、女心というものはよくわからん。


足取りが重いカーリナを通路に引っ張り出し、

魔物を探すが何処にもいない、

戦いたい時に限って魔物がいない、

これは迷宮あるあるだろうか?


「カーリナ!鈴だ、鈴を使って呼び寄せて」

「宜しんでしょうか使っても」

「あぁ構わない、とっとと呼んじゃって」


カーリナが招き鈴を振る、相変わらず小さな音だ。

こんな音に魔物はどうやって反応しているのだろうか。


「師匠、失敗です。魔物が来ます」

「なーに言っちゃってんの、魔物が来たなら成功だよ」

「師匠、あっちからです、早く構えてください」


カーリナが臨戦態勢を取っている。

構えた槍先の通路奥からこちらに向かって走る人影を捉えた。

走って来る魔物を見据えたままカーリナが口を開く。


「あれは恐らくAランクの魔物です」

「そのようだね、確かに失敗だわこりゃ、ハハハ」


人型の魔物は頭にターバンの様に布を巻き、手には細長い武器を持っている、

あのサーベルの様な剣を使ってくるのだろう。


「カーリナ、あいつはどんな攻撃を仕掛けて来るの?」

「喉元を狙って来ます。喉を鷲掴みにして締め上げるようです」

「えっ、サーベルは?」


鑑定スキルを使う。


サーベルタイガーLv.15


んーわからん、名前からしてサーベルを使いそうなのに、

何故使わないのだろう、サーベルの柄で小突いてくるのかな?


あれこれ考えていると、目の前に猛虎がたどり着いた。

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