表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/79

第22話 兎追い

小迷宮ラクスに来て二日目、

朝食で出て来たお茶はいつもと違い味がしっかりしている。

こちらの世界のお茶は殆ど白湯だったはずだが、

今日のお茶は旨味と渋味がある。

更に要らぬ苦味とエグ味までもがある。


「ちょっと!何よこのお茶」

「うぁ!不味いなこれ」


アイリスとトラヴィスが濃すぎるお茶に文句を付けていると、

騒ぐ二人を見たカーリナがおっかなびっくりお茶を口にし、

声に出さずとも顔で不味いと言っている。

自分は普段の白湯よりもこっちの方が好きだがな。


「カーリナ、これどうやって淹れたんだ?」

「えっ、どうやってって言われても……

 普通に鍋に水とハーブを入れてそのまま火にかけただけだけど……」

「あちゃー、そりゃ不味い訳だ」

「カーリナちゃん。お茶はね、煮出すんじゃなくて蒸すのよ」

「大体カーリナは――」


お茶の淹れ方を皮切りに普段からいかに非常識かをトラヴィス達になじられ、

すっかりめげてしまったカーリナがそばに寄ってきた。


「師匠すみませんでした……お茶を淹れ直します……」

「あーそう?でも全部飲んじゃった」

「えっ!ヒデキさん、これ飲んだの?」


アイリスが好奇の眼差しで自分を見てくる、

味覚障害とでも思われているのだろうか。

普段のお茶に比べると濃いのは確かだが、これは不味いというよりも、

皆が飲み慣れていないだけだと思うのだが。

萎縮したカーリナが恐縮しながら話す。


「師匠、お心遣いありがとうございます」

「カーリナ、同じので良いからお代わり頂戴」

「うぅ……ご配慮痛み入ります」

「いや、そんなに変な味じゃないと思うんだけどなー」

「……十分反省しますので、もう無理をなさらなくても」

「無理なんかしてないって、それよりお代わり頂戴よ」

「わかりました!師匠だけにこんな物を飲ませる訳にはいきません。

 ボクも覚悟して飲みます。全て飲み干します」

「えっ?別に我慢して飲まなくても。それよりもお代わりを――」

「いいえ、ボクは師匠の弟子なので死ぬも生きるも一緒です」


そう言うと、眉間にこれでもかとシワを寄せながらお茶を一気に飲むカーリナ、

だが気持ちとは裏腹に、体が受け付けないのかなかなか飲み干せないでいる。

無理をしなくても良いのに、それに死ぬとは大袈裟だな。


こうなってしまったカーリナに何を言っても無駄だろうから、

立ち上がり今もなおグツグツと煮立つ鍋まで行き、自分でお茶を注ぐ。

自分がお茶を飲み終えてもカーリナはまだ飲み干せずにいる。

足が震えているが大丈夫だろうか。


自分達の一連のやり取りを静観していたトラヴィスとアイリスは、

カーリナの決意を当てこするかのようにコップを逆さまにしてお茶を捨てた。


皆が食事を終えてもカーリナはまだお茶を飲み切れないでいる。

行き過ぎた給食指導のように、飲み終えるまで休み時間無しと言った感じだ。

ここは師匠である自分がなんとかせねば。


故郷の味を思い出させてくれて感謝するなどと、

適当な事を言ってカーリナを慰め、

次もこのお茶を自分だけに淹れてくれとでも言っておくか。

不出来な弟子を思いやっていると、


「師匠、お待たせしました。全部飲みました」


飲み切れたんかいっ!

空になったコップを見せてくるカーリナに心の中でつっこむ。

たかだかコップ一杯のお茶を飲むのに結構な時間がかかったようだが、

まだ鍋にはお茶が残っている、本当に全部飲み干す気なのだろうか。

カーリナのことだから鍋の存在を忘れているだろう、

後でこっそり捨てておこう。


***


トラヴィスとアイリスが朝食の後片付けを始め、

カーリナは迷宮探索の準備のためリュックにあれこれ詰め込んでいる。

その光景を見ながら自分は食後の一服を決め込む、これが手持ち最後の一本だ。

アイリスがキュメンで買ってくるまでタバコとは暫しのお別れなので、

この一本を十分に満喫しよう。


本日の迷宮は四人で入る、と言っても一緒に戦闘する訳ではない。

昨日ほっぽらかしたドロップアイテムを回収すべく、

アイリスまでも一緒に付いて来た――流石に石までは回収しないそうだ。


トラヴィス達は回収したその足でアイテム売却のためキュメンに向かい、

それから昨日見つけられなかったタバコが入った木箱を本日捜索するとのこと。

アイリスにタバコ購入も忘れぬよう念押しすると少し怖がられた。

両肩を掴んで揺すったのがまずかったかな。


トラヴィスのトランスポートで1階層入口の魔法陣から2階層部屋へ移動、

昼に4階層入り口へ迎えに来ると言い残し二人は去っていった。


カーリナと二人で対メタルゴーレムの戦略を立てる。

議論の末に出した作戦はメタル野郎の攻撃前に先手を打つもの。


メタル野郎のあの攻撃もそうだが、衝撃波自体も厄介なのだ。

そもそもメタル野郎は攻撃を当てるつもりがあるのだろうか、

当たりもしない距離で地面を殴っているので、

ただ癇癪を起しているとしか思えない。

それとも衝撃波自体が攻撃手段なのだろうか、

知能が低い魔物が考えることはわからん。


メタル野郎に二人の攻撃が一回ずつ当たりさえすれば、

倒せるだけの十分なダメージを与えられる事は昨日確認できているので、

課題はいかに先手を取れるかだ。


部屋を出ると早速、通路幅とほぼ同じ幅のメタル野郎を視界に捉える。

相手もこちらに気付き両腕を上げ始めたので、

拳が地面を叩く前に仕掛けるべくカーリナと同時に走り出す。


先に間合いが広いカーリナの突きが当たり、

次に自分の剣がメタル野郎に入ると黒い煙へと変わった。


倒せたのでこの戦術で問題ないだろう。

しかし、メタル野郎の腕が自分の頭上まで来ていたのでちょっと危なかった。

改善点は初動をもう少し早くする必要がある――要するに全力ダッシュだ。


その後、メタル野郎を見かける度に全力ダッシュを繰り返し、

3階層に続く階段に到着した。

一体、何本ダッシュしただろう、もう足が限界だ。

カーリナも足に来ているようで槍を杖代わりにしている。


「カーリナ、何体倒したかな」

「えーっとですね……1、2、3……全部で9体倒しました」


疲労感に比べると案外と少ない、取りこぼししていないだろうか。

メタル野郎が落とす小山からカーリナが鉄くずを一つ回収、

回収した鉄くずの総数が9個なので討伐数9体だと言っている。

まぁ、真実を確かめようがないので良しとしよう。


それよりも先程Aランクの黒い大岩を見かけ、

カーリナが戦いたいと言い出すのではと肝を冷やしたが、

疲労のせいだろうか、カーリナは存在にすら気付いていない。

このままAランクとは戦わずに済みそうだ。


「よしっ、3階層へ降りようか。次はどんな魔物かな」

「3階層はウサギですね。

 トラヴィスとの約束は昼に4階層入り口なので急ぎましょう」

「あぁ、もう二の鐘は鳴っちゃったの?」

「……」

「ん?どうしたのカーリナ」

「師匠、あれを見てください。何か黒い塊が動いていませんか」


カーリナがAランクの魔物の存在に気付いてしまった。


「あれってもしかして……」

「きっ、気のせいじゃないかなー」

「いえ、Aランクの魔物ですよ。

 えーっと……そうだそうだ、あれは絶対にバーニングゴーレムです。

 見てくださいよー、だって特徴が同じですもん」


カーリナが紙を見せてきたが自分は文字が読めんのだよ。

屈伸をしながらカーリナが言う。


「ボクはいつでも大丈夫です。さぁ師匠、行きましょう」

「ん、あ、えーっと、どうしよっかなー」

「ボクはいつでも大丈夫です。さぁ」

「あー、んー、やっぱダメ。

 昼までに4階層入り口に到達することを優先とする。いいね。」


後ろ髪を引かれるカーリナを無理やり引っ張り3階層へ移動した。


***


3階層Cランクの魔物は帽子をかぶったウサギ、

難なくカーリナ一人で倒せるが、攻撃回数が2回必要となった。

魔物がLv.3ともなると一撃で倒せないか。


カーリナのステータスに調整の余地がないか確認してみる。

サブジョブに着けていた戦士がLv.8になり、

それに伴いスキルポイントが元々余っていた1から8になっている。

但し、攻撃力を8倍に上げるにはあと18ポイントも必要なので、

現状ではポイント不足だ。


ならばパラメータをいじってみるか。

パラメータは、腕力、敏捷性、器用性、知力、精神力、体力の6種類。

攻撃力が上がりそうな腕力にポイントを全部使ってみよう。


カーリナ・ストールベリ 14歳 村人Lv.23

HP回復速度  2倍 使用スキルポイント2

攻撃力     5倍 使用スキルポイント17

サブジョブ数  1  使用スキルポイント2

 ┗戦士Lv.8

腕力      8  使用スキルポイント8


まずはこれで戦ってもらい、修正があれば都度としよう。

丁度良く通路先にウサギを見つけたのでカーリナを向かわせると、

思惑通りに槍攻撃1回でウサギが倒れた。


「師匠、魔物が弱くなりました」

「あぁ、パラメータを少しいじってみたんだ」

「……パラ?」

「あぁ、カーリナの腕力の数値を上げたんだよ」

「……腕力?」


勘が悪い奴め。


カーリナの疑問を解消する事なく3階層部屋に着いた。

終始質問攻めに遭う休憩を経て階層奥の探索を開始。


ツノが一本生えたウサギ、Bランクのスパイクヘアと遭遇する。

カーリナがすぐさま突きを繰り出すが一撃では倒れない、

2階層と同様に自分の出番か。

ツンツンウサギに銅の剣を構えると、恐れおののいたのか逃げ出してしまった。


次のウサギもカーリナから攻撃を受けると逃げ出す――たまたまだろうか。

その次もそのまた次もウサギは逃げる、

二兎を追ったつもりはないが一兎をも得ずじまい。


こうも連続で逃げるとはもう偶然ではない、

何かしらの法則による必然と考えるのが自然だろう。


カーリナが例の紙を見て何かに気付く。


「師匠、スパイクヘアはある程度の攻撃を受けると逃げるようです」

「それは見ればわかるけど……

 カーリナ、どうすれば奴らを倒せるのか書いてないかな」

「倒し方の記載もあるにはありますが、

 一撃で倒す、または逃げない程度痛めつけてから最後にズバッと倒す。

 んー、当たり前の事しか書いていませんねー」

「そうか……いや大変参考になった。

 自分が先発を受け持つよ、カーリナは抑えをお願い」


カーリナよりも火力が低い自分が相手取れば逃げ出さないかもしれない。

そこへカーリナの突きを入れてもらおう、中継ぎの必要は無かろう。


次に遭遇したウサギに駆け寄り銅の剣を振り下ろすと、

読みは的中、自分の攻撃ではウサギは逃げずにこちらを威嚇している。

次いでカーリナが突きを入れるとウサギは黒い煙に変わった。


この戦法で迷宮を進み、

4階層への階段手前でツノの形がおかしなウサギに出くわす。

ツノが生えている時点でおかしいのだが、

頭から枝分かれした立派なツノが2本生えたウサギだ。

立派過ぎるツノは体と同じ大きさ、正面からだと殆んどツノだけだ。

鑑定スキルの結果はジャッカロープLv.13だった。


眼でカーリナへ合図し、

自分が先行でウサギに切りかかるとツノで弾かれた。

今のはダメージに加算されたのだろうか。

もう一度切りかかるも再度ツノで弾かれウサギの突進を喰らう。

正面からだとツノが邪魔で攻撃が入らない。


「師匠、大丈夫ですか!?」

「何ともない」


カーリナが隙を突いてウサギの胴に槍を突くと鳴き声を発した。

今のはダメージに加算されただろう、ウサギの注意がカーリナに向いている。

今度は自分がウサキの胴に剣を振り下ろすと、

攻撃が効いたのか鳴き声を出した。

ウサギは自分を向いてツノを左右に振って威嚇している。


「カーリナ、ウサギの側面から胴を突いてくれ」

「はいっ!」


カーリナの突きが決まるとジャッカロープは倒れた。


「師匠、やりました!ボク初めてAランクの魔物を倒しました」

「あぁ、それはおめでとう」

「あっ、ドロップアイテム!

 これなんでしょうかね、師匠」


そう言うと、カーリナが毛玉のようなものを見せて来た。

鑑定スキルを使うと、


麝香


なんと読むのだろう。

手に取ってみると少しだけ甘い匂いがした。

用途はなんだろう、あとでトラヴィスにでも聞いてみるか。


階段を降り4階層入り口へ到着するもトラヴィス達の姿はない。

カーリナ曰く、既に三の鐘は鳴ったとのことなので、

いつ来てもおかしくない。


「師匠、どうしましょう?スライムを倒して時間を潰しますか」

「いやいや、もう少し待てば来るって。

 それにスライムは午後からね」


暫くは大人しくしていたカーリナだったが、

一人でスライムを狩りに行くと言い出したのでもみ合いになる。

一悶着していると魔法陣が光り、トラヴィス達が現れた。


「ヒデキさん、お待たせー。あらどうしたの?

 二人して抱き合ったりして。迷宮では変な事しちゃダメよ」

「えっ、あっ、いや、これは違うんです。

 カーリナが一人でスライムを倒しに行くと言って聞かないもんで。

 それよりもタバコはどうなりました」

「それなんだがヒデキさん、やっぱ木箱は無かった。

 オレとアイリスで必死に探したんだがどこにも無くてさ、

 宿屋にも聞いたんだが木箱なんて見てないってさ」

「ええええー」


打ちひしがれてその場にうずくまると、


「あっ、でもでも、頼まれたタバコは買って来たわよ」

「そうそう、小屋に置いて来たからとりあえず地上に戻ろう。

 なっ、ヒデキさん」


買ってきたタバコがあるならそれでも構わない。

こちとらタバコさえ吸えればそれで良いのだ。


***


小屋に戻り、トラヴィスに火を起こすよう伝え、自分はタバコを探す。


「アイリスさん、タバコはどこですか!」

「そんなに慌てなくても――」

「アイリスさん!!」

「はいはい、これよ」

「えっ!?」


アイリスが茶色い葉っぱを手渡して来た。


「ヒデキさんから銀貨10枚も預かったけど多すぎよ。

 薬師ギルドで1枚60ラルだったわ。普段は販売してないらしいけど、

 そこを無理言って売ってもらったの」

「これって……」


タバコを買いに行かせたら原料の葉たばこを買って来やがった。

アイリスにとって初めての買い物だったからしょうがないかもしれないが、

タバコを吸わなくても普通わかるだろ!

人に頼んで銘柄は間違われたことはあっても、

葉たばこを買ってこられるなんてこっちも人生で初めてだ。


「えっ、これでしょ?葉たばこが欲しかったのよねー。

 もしかして足りなかったかしら」

魔物設定

マッドヘア/mad hare

系統:獣 種:ウサギ ランクC

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:突進

特徴:狂った野兎、帽子をかぶっている

ドロップ:素材/兎毛、素材レア/フエルト


スパイクヘア/spiked hare

系統:獣 種:ウサギ ランクB

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:ツノ攻撃

特徴:一角兎、HPが減ると逃げる

ドロップ:素材レア/兎の角、食材/兎肉、ラベル/氷のラベル


ジャッカロープ/ jackalope

系統:獣 種:ウサギ ランクA

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:突撃、ツノ攻撃

特徴:頭部にシカのツノが生えているウサギ

ドロップ:素材/兎の角、香料/麝香


バニーガール/ bunny girl

系統:獣 種:ウサギ ランクS

弱点:- 耐性:氷 特殊:誘惑

攻撃:格闘

特徴:背中からサイドにかけて開いた黒のパンツドレス

シルバー髪、兎耳(黒)、白い尻尾、黒のピンヒール

ドロップ:アイテム/花束、アイテムレア/ラビットフット、宝石/翡翠

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ