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第21話 石と鉄

2階層に到着して早々、ゴーレムによる通せんぼという迷宮の洗礼を浴びるも、

聖域に守られながら簡単に倒し、文字通りの通過儀礼をこなした。


「カーリナはあのゴーレムを一人で倒せそうかな」

「ええ、体は大きいですがロックゴーレムとは戦ったことがありますし、

 ここはまだ2階層なのでボクでも倒せると思います。

 それにボクにはこの鋼鉄の槍があります」

「そうか、じゃあ次からはお願いするよ。

 その代わりにドロップアイテムの回収は任せてよ」

「そんな骨が折れるような事を師匠にして頂くわけには――」

「気にしなくて良いって」


カーリナの心遣いはありがたいが、何を今更言っているんだ。

1階層のアイテムは全て自分が拾ったんだぞ。


さてと、ゴーレムのドロップアイテムはなんだろう。

ゴーレムを倒した場所には漬物石程度の石が転がっているが、

ドロップアイテムらしい物は見当たらない……


きっとアイテムが小さくて見つけられないだけだ、

そうであって欲しい、いやそうに違いない。

視界に入る石を無視してドロップアイテムを探していると、

何か言いたそうな表情でカーリナがこちらを見ている。


自分にとって不都合な真実を言われそうなので、

気付かぬふりをしてアイテムを探し続ける。

しかし、どうしてもドロップアイテムが見つからない。


んー、信じたくない事実なので意識して考えないようにしていたが、

勝手に頭の中に浮かんでしまう……

ドロップアイテムがこの漬物石だと。


カーリナに目をやると、自分の心を読み取ったのか無言で頷いている。

あぁ、やはりこの石がドロップアイテムなのか。

地面にでんと構える漬物石は見るからに重そうだ、

果たして自分一人で持ち上げられるだろうか。

持ち上げたところで手を滑らせて落としたら大怪我をしてしまう、

カーリナが言った骨が折れるとは物理的な話だったか。


屁っ放り腰ではダメだ、ここは一つ腰を据え本腰を入れねばなるまい。

膝を曲げて腰を落とし抱え込むようにして石を持ち上げ……


そのままゆっくりと地面に置き直す。


ダメだこりゃ、下手に持ち上げると腰がやられてしまう。

何とか上げられるがこんな石を抱えて迷宮探索など絶対に無理だ。

一連の行動を傍観していたカーリナが口を開く。


「いくら師匠でも石を持ち歩くのは無理ですよ」

「そのようだね。

 まず確認だけどドロップアイテムはこの石で合っているかな。

 だとしたらこの石をどうやって回収するのか教えてカーリナ」

「ロックゴーレムのドロップアイテムはその石で間違いありません。

 でも買い取り額は5ラルなので冒険者もわざわざ拾いません。

 ただそうすると迷宮が石だらけになってしまうので、

 騎士団では必ず回収する事が義務付けられています。

 それと騎士団では定期的に迷宮内の石の回収活動も行っています」

「へーそうなんだ。それって大変じゃない?人手もいるし」

「回収には騎士団より支給される魔道具を使います。

 その魔道具を使えば作業自体は一人でもできます」


回収に適した魔道具があるんかいっ!早く言ってよカーリナ。

危うく腰をやってしまうところだったじゃないか。


ビーチクリーン活動ならぬ迷宮クリーン活動で使用しているという、

その便利な道具を使わせてもらおう。

再度、腰を落としてゆっくり石を拾い上げカーリナにお願いする。


「カーリナ、早いとこその魔道具ってのを出して頂戴」

「魔道具は騎士にのみ支給されるので見習いのボクは持っていませんよ」


魔道具を持ってないんかいっ!先に言ってよカーリナ。

地面にゆっくりと石を置いて回収を諦めた。


ついでに1階層の戦利品であるハーブも2階層入口に置いて行こう、

量が多く嵩張って持ち歩きにくいのだ。


***


カーリナの地図を頼りに暫く歩くと、通路を塞ぐ岩の塊を見つける。

2階層入口で見たのと同じゴーレムだ。


ごつごつした大きな体、ほとんど地面に着きそうな太すぎる腕、

一見すると無機物のゴリラなので移動はナックルウォークだろうか。

巨躯に比べると頭は小さく知能は低そうなのでパワータイプに違いない。

一体目は安全地帯からのらくらく戦闘だったので攻撃を受けなかったが、

あの太すぎる腕には注意だな。


ゴーレムの身体的特徴を偏見の目で見ていると、

カーリナが駆け出し、ゴーレムへ一番槍を突く。

槍先がゴーレムの太い腕に触れると目の前から岩の塊が消えた。


1階層のCランクと同じく、2階層のCランクでもまたも一撃か、

そして見掛け倒しのゴーレムが落としたのはまたも石か。


槍が触れただけで倒されるなんて、ゴーレムもやるせないだろうな。

生まれてきた意味や存在意義を感じることなく黒い煙になって、

生きた証であるドロップアイテムも放置されるなんて、

自分がその立場だったらと考えると悲しくなる。


「カーリナ、この石も置いて行くけどいいよね」

「はい、後で回収すれば問題ありません。

 あっ、ちょっと待って下さい。場所だけ記録しておきます」


ゴーレムの生きた証である漬物石を持ち歩かずに済むようだが、

誰が後で回収するのかそれが気になる。

しかしそれに触れてしまうと自分に火の粉が降りかかりそうなので、

ここはおざなりではなくなおざりとしよう。


その後もカーリナがゴーレムを快調に打ち取り、

自分はドロップアイテムの石を順調に打ちやり、

難なく迷宮を進み、中間の部屋まで辿り着いた。


2階層入口からここまでの道のりに石が続いているので、

ある意味マイルストーンと言える。

ならば重い石など回収せずにもっと間隔を詰めれば、

地図などなくともいいのではなかろうか。


***


部屋で暫しの休息、

カーリナは元気がありあまっているのか素振りをしている。

一撃で魔物を倒せることが嬉しいのだろう。

貰ったばかりの鋼鉄の槍、それがステータス調整によって攻撃力5倍となり、

いとも簡単に魔物を倒せるのだ、その気持ちはわからなくもない。

その内に当たり前になって感動も薄れてしまうだろうから、

今しか味わえない感情をしっかり噛みしめさせてあげよう。


そんな事を考えながら、ポケットからタバコを取り出し……あっ。

違った、火がないのだった。

参ったなー、タバコが吸えないのでもう上がるか。


「カーリナ、今日はもう終わりにしようか」

「えっ、五の鐘はまだ鳴っていませんよ」

「丁度中間でしょ、切りが良いかなと思うんだけど」

「師匠、お願いです。Bランクに挑ませてください。

 戦ってみたいですボク。五の鐘まででいいのでお願いします」

「んー明日もあるから無理に今日戦わなくても、それにタバコ――」

「お願いです師匠!五の鐘まであと少しなのでお願いします」

「んー無理しなくても明日もあるし、それにタバ――」

「今戻っても夕食もまだできていないと思います。

 どうせ暇を弄ぶなら、あと少しだけ戦わせてください」

「んーでもタ――」

「お願いです師匠、お願いです。お願いお願いお願いです。」

「あぁ、わかったわかった。鐘が鳴るまでだよ」

「ありがとうございます師匠」


早く地上に戻って一服したいのだが、

聞かん坊のカーリナがどうしても納得しないので、

もう少しだけカーリナに付き合うとしよう。


しかし五の鐘が鳴るまでとの約束をしてみたものの、

自分にはその鐘の音が聞こえない、

鐘が鳴ったら正直に申告してくれることをカーリナに願う。


カーリナ曰く、ゴーレムのBランクはメタルゴーレムとのこと。

ハードなロックではなくヘヴィなメタルらしい。

部屋から出ると通路奥にそれらしい光る塊を目が捉える、

あいつがBランクのメタルか。


光沢が眩しいが見た目はロック野郎と同じくゴリラだ。

おや?メタル野郎もこちらに気付いたようで両腕を挙げている。

ちゃんと挨拶ができる子のようだ、感心感心。


自分も手を上げて友好的な魔物に近づこうとすると、

後方のカーリナが声を張り上げる。


「師匠、来ますっ!」


ドーン


衝撃波を受け、地面に倒れ頭を打つ。

メタル野郎が両腕を勢いよく振り下ろし、拳を地面に叩きつけたのだ。

挨拶ができる子だと思わせておいて、実は癇癪持ちだったか。


「師匠、ボク行きますっ!」


倒れている自分を追い越し、カーリナがメタル野郎に突撃する。

地面に叩きつけた腕を目掛け一突きするも、メタル野郎はまだ倒れない。

カーリナの攻撃に反応したメタル野郎が腕を持ち上げ反撃体勢に移る。


「師匠、また来ます」


メタル野郎と距離を取るためカーリナが後ろ走りで戻って来た。


ドーン


起き抜けで衝撃波を受けてしまい、またも倒れて地面に頭を打つ。

カーリナがメタル野郎に再び突きを繰り出すと、黒い煙となった。


「よくやったカーリナ、じゃあ地上へ戻ろうか」

「ありがとうございます師匠。でも鐘はまだ鳴っていませんよ。

 あともう少しだけ、あっ、あっちにいます。

 ボク行ってきます」


別のメタル野郎を見つけると、カーリナが駆け出してしまった。


戦闘ジャンキーは放っておいて、ドロップアイテムを回収しよう。

地面には鉄くずから成る小山ができている。

ロック野郎が漬物石をドロップしたので、

メタル野郎のドロップアイテムは鉄鉱石あたりかと思っていたが、

しゃがんで手に取ってみると、いびつな形をしているが製鉄済みの様だ。

形も大きさもバラバラで一つとして同じ形の物はない。

これはこれでまた回収は面倒だなと思っていると、


ドーン


メタル野郎が地面を叩いたのだろう、

背後からの衝撃波を受けて鉄くずの小山に倒れこむ。

とっさに手を出したので事なきを得たが、

顔から突っ込んでいたら大事になっていた。

怪我に注意しながら起き上がり、カーリナの方を振り向くと、


ドーン


今度は背中から鉄くずに倒れこむ。

顔の直ぐ横に鋭利に尖った鉄くずを見つける。

あぁ、もう嫌だ、地上へ戻ろう。

魔物に倒されるならまだしも、

ドロップアイテムで命を落とすだなんて、

そんな不名誉な死など迎えたくない。


本日の探索は終了、直ぐに帰還すると伝えるためカーリナのもとへ急ぐ。

言うことを聞かなければ、無理に引っ張ってでも地上へ戻ろう。


師匠が鉄くずの小山で死にそうになっていたというのに、

カーリナの視線は遠くを見ている。

少しは師匠の身を案じて欲しいものだ。


「カーリナ、もう今日は――」

「師匠、あっちにもう一体います。ボク倒してきます」


カーリナの背中を追いかけながら声をかける。


「カーリナ、もう帰るよ」

「師匠、あと一体だけお願いします」


メタル野郎の正面に立つとカーリナが腰を落とし構える。

衝撃波に耐えるためだろう、自分もカーリナを真似して腰を落とす。

メタル野郎がゆっくりと腕を上げる。

……

どうした早く癇癪を起こせよ、こっちは準備できているのだ。

……

こちらから仕掛けるか。

……

えっ何?降参?


「カーリナ、こっちから――」

「来ますっ!」


ドーン


転びそうになったが何とか衝撃波に耐えられた。

カーリナがメタル野郎の右腕に一撃を入れるも、やはり倒せない。

少しだけメタル野郎のHPが残っているのだろう。


あの衝撃波は御免なので、自分の追撃で仕留めよう。

メタル野郎の左腕を銅の剣で切りつけると黒い煙へとなった。


「師匠、ありがとうございます」

「あぁ、いーいー、じゃあ地上へ戻ろうか」

「あっ!あれを見てください師匠!」

「もうダメだよ、戻るんだから。続きは明日ね」

「違います師匠、アイテムです。ドロップアイテムを見てください」


カーリナが指差す方を見ると、地面に紙切れが落ちている。

手に取ると読めない文字が書かれた札のような紙だ。


「カーリナこれって……何?」

「ラベルですね。ゴーレムが落としたので『土のラベル』です。」

「……えっ、何?もう一回お願い」

「これは『土のラベル』というアイテムです」

「ラベル?」

「はい、これを使うと武器や防具を強くすることができるのです」

「……あっ、武具の強化アイテムってことね」

「ただし、鍛冶師に依頼する必要があるのと、

 請求額がかなり高額な割には成功確率が低いと聞きます」

「……」

「師匠どうされました」

「あぁ、聞いてるよ。強力な武具を入手できたらラベルを使うとして、

 それまでは売却せずに取っておこう」


カーリナはラベルの説明で気付いていない。

カーリナの背後にある丁字路をゆっくりと黒い大岩が通過している。

岩の隙間がオレンジ色に光っていたのでメタル野郎ではないのは確かだ。

AランクかSランクだと思い、黒い大岩に鑑定スキルを使う。


バーニングゴーレムLv.12


ここは2階層なので、階層+10のLv.12ということはAランクの魔物のようだ。

カーリナに言ったが最後、戦いたいと言いかねないので黙っておこう。

中間の部屋とは逆方向なので都合が良い、

このまま黒い岩が通り過ぎるのを待とう。


***


カーリナの手を引っ張るようにして2階層部屋に戻って来た。


「ヒデキさん、おかえりなさい」


部屋の中でトラヴィスとアイリスが待っていた。


「どうしてここへお二人が」

「夕食ができたので迎えに来ました」

「そうでしたかアイリスさん。でもどうしてここだとわかったんですか」

「トラヴィスがここだろうって言うものですから」

「あぁ、1階層の部屋にいなかったし、

 それに2階層入口にアイテムが置いてあっただろ?

 なのでここかなって思ってさ」


なるほど、持ち運びにくいアイテムも思わぬ形で役に立ったな。

トラヴィスがトランスポートを使用し1階層入口へ移動、

初めての魔法陣移動だったが然程の感動もなく、急いで小屋へ向かう。

トラヴィスから火を貰い一服。


たった半日しか迷宮に入っていないが、長い探索だった。


夕食を取りながら、明日の探索を2階層中間から再開したい旨を話すと、

階層移動をトラヴィスが買って出てくれた。

そもそも後方支援要員だし、置いて来たアイテムの回収もあるのだから、

当たり前の話しだ。


「そうだ、トラヴィスさん。荷物は持って来てくれましたか」

「キュメンの宿屋に置いてあったヒデキさんの荷物は全て持ってきた。

 ただ、一番大事だって言う木箱は無くてさ」

「えっ、えっ、えっ、どういうことですか」

「あたしも一緒になって探したんだけど、木箱がどこにもないのよ」

「ああああ」


取り乱す自分を見てアイリスが声をかける。


「落ち着いてヒデキさん、大切な物なのね。

 もう一度明日探してみるわ。ねぇ、トラヴィス」

「あぁ、よっぽど大切な物なんだな、因みに何が入ってるんだ」

「タバコです」

「タバコ!?なんだよそれー、どこがそんなに大切なんだよー」


喫煙者の気持ちが理解できないトラヴィスに懇々と説明する。


「わかったわかった、もうわかったから、勘弁してくれヒデキさん」

「ヒデキさん、見つからなかったことも考えて、

 よかったらあたし達がタバコを買って来ましょうか」

「えっ!いいんですか?」

「ええ、キュメンには毎日行くことになりますし、それに――」

「カーリナ、アイリスさんへお金を渡して!」


カーリナがアイリスへ銀貨10枚を渡す。


「えっ、こんなにも。ヒデキさん、ちょっと多くありません?」

「それでたったの10本分です、それほど高価なものなのです。

 アイリスさん、よろしく頼みましたよ」


喫煙者の気持ちを理解してくれたアイリスの手を包むように握手をし、

喫煙者の敵であるトラヴィスを睨みつける。

魔物設定

ロックゴーレム/rock golem

系統:魔獣 種:ゴーレム ランクC

弱点:風 耐性:土 特殊:石化

攻撃:掲げた両手を振り落とす

特徴:頭は小さく、腕が大きい、ごつごつした大きな体

ドロップ:素材/石(石材)、アイテムレア/羊皮紙


メタルゴーレム/ metal golem

系統:魔獣 種:ゴーレム ランクB

弱点:風 耐性:土 特殊:石化

攻撃:掲げた両手を振り落とす

特徴:光沢のあるごつごつした体

ドロップ:素材/鉄鉱石


バーニングゴーレム/ burning golem

系統:魔獣 種:ゴーレム ランクA

弱点:風 耐性:土 特殊:石化

攻撃:両手振り回し

特徴:黒い大岩、岩の隙間がオレンジ色に光っている、高温

ドロップ:素材/鉄(塊)、素材レア/ミスリル、ラベル/土のラベル


シェリー/ shelley

系統:魔獣 種:ゴーレム ランクS

弱点:風 耐性:土 特殊:石化

攻撃:バーニングゴーレム5体

特徴:黒髪、黒ドレス、クールビューティー、バーニング5体引連れ

異名:ゴーレム・エンプレス

ドロップ:素材/白銀、素材レア/オリハルコン、アイテムレア/いのちの石、

     宝石/黒玉、指輪/ゴーレムの指輪


その他設定

魔法のカード/ラベル・・・魔物Bランクのレアドロップアイテム

鍛冶師の手によって武器・防具へ合成することでスキルが付与できる。

合成することはラベリング、またはレッテル貼りと呼ばれ、

専門にする鍛冶師のことを札師と呼ぶ。

ラベルよりもカードの方がスキル付与成功率が高い。

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