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第20話 海獣とゴーレム

愛くるしいラッコが落としたアイテムは大型の丸みを帯びた二枚貝、

漁村で食べた旨かった貝の記憶がよみがえってくる。

見た目は大きなアサリだが食べられるだろうか、

魔物がドロップした物だから砂抜きの必要はないだろう。


どうやって持ち歩こうか、リュックは街に置いてきてしまった。

ヌメヌメして少しだけ生臭いので直接ポケットに入れたくない。

選択肢は手で持つかポケットに入れるかの二択、

有料でもいいからレジ袋が欲しい。


残念ながらこの世界にはそんな三択目があるはずもなく、

カーリナにお願いすれば持ってくれるだろうが無理強いするのも心苦しい。

やむなく自分のズボンのポケットに貝を入れる。

セカンドサービスを打つわけでもないのにこんもりして動きにくい。


「師匠、次の相手はボクにやらせてください」


カーリナが魔物相手を買って出る――その意気込み買った。

そんでもって魔物を倒した者がドロップアイテムを持つ事にしよう。

次のドロップも貝ならばカーリナが持つ事になるので一石二鳥だ、フフフ。


「わかった。次はカーリナが戦っていいよ。

 考えたのだがドロップアイテムは――」

「師匠、ボクのジョブって戦士になっていますか?」

「えっ、ああ……そっ、そうだね」


すっかり忘れていたので、

慌ててカーリナのステータス設定を変更しながら言い訳する。


「えーっと、カーリナの戦士ジョブはまだLv.1なので、

 セカンドジョブに付けておくよ。あとドロップアイテムは――」

「セカンド?」

「ん?あぁ、強さは今まで通りの村人だと思ってくれて良い。

 戦士Lv.がある程度になったらメインジョブに付け替えるから」

「メイン?」

「んーっと、どう説明したらいいかな……

 悪いようにしないからこっちに任せてくれるかな?」

「わかりました。宜しくお願いします」


パーティーメンバーのステータス設定画面を確認すると、

カーリナには経験値獲得率UPと魔玉成長率UPの項目がないが、

そこは自分のステータス設定が反映されるから問題ないだろう。

また自分のようなボーナススキルポイントもなく、

スキルポイントはたったの22、不憫よのーカーリナ。


まずはサブジョブに戦士を付けるため2ポイントを使用し、

あとは7ポイントを使って攻撃力5倍に設定だ。

ポイントを余らせるのももったいないのでHP回復速度を2倍にしておこう。


カーリナ・ストールベリ 14歳 村人Lv.23

HP回復速度  2倍 使用スキルポイント2

攻撃力     5倍 使用スキルポイント17

サブジョブ数  1  使用スキルポイント2

 ┗戦士Lv.1


よしっ!1ポイント残ったがこれで十分だ。

これ以上でもこれ以下でもない設定、と言うかこれ以外やりようがない。


今よりカーリナには非情になってもらい、

前途に立ちはだかる愛くるしいラッコ達をばっさばっさとなぎ倒してもらおう。


ん?待てよ……


全ての魔物をカーリナに任せて迷宮を他力本願で進められたら、

スキルポイントを66も使っている自分の攻撃力16倍が無用の長物になる。

この際だから自分のステータスを見直そう。


ステータス画面越しに見えるのは、

自分の正面に立ってこちらをじっと見ているカーリナ、

まるで散歩を楽しみにしている犬みたいだ。

カーリナにはもう少し待ってもらい自分のステータスを再設定する。


まずは攻撃力に振っているポイントを獲得経験値UPと二乗効果へ……

いつの間にやら解放されている剣士ジョブをサブジョブに付けて、

ちょっと余るスキルポイントを魔玉成長率UPに振って、

んーまだ7ポイント余る、非常時を考慮して攻撃力3倍にしておくか。


ヒデキ・トモナガ 15歳 戦士Lv.11

攻撃力     3倍 使用スキルポイント7

獲得経験値UP 8倍 使用スキルポイント35

二乗効果   64倍 使用スキルポイント35

 ┗対象:獲得経験値UP

魔玉成長率UP 8倍 使用スキルポイント35

サブジョブ数  3  使用スキルポイント17

 ┗村人Lv.11 冒険者Lv.10 剣士Lv.1


「もういいですか師匠、あそこに魔物がいます」


通路奥に浮かぶラッコを見つけ落ち着かない様子のカーリナ、

見えない尻尾を振っているので、こちらも見えないリードを外してやらねば。


「カーリナお待たせ、行って良し!」

「はっ、はいっ!行ってきます!」


ラッコに向かって走り出すカーリナの後ろ姿は、

まるでフライングディスクを取りに走る犬のようだ。

ディスクではなくラッコの(タマ)を取りに行くのだが。


カーリナが先手を取り、素早く槍を突き出す。

槍先が命中したラッコは愛くるしい顔のまま黒い煙となって消えた。


おぉ、魔物とはいえ少し気が引ける。

違った、Cランクの魔物とはいえ一撃、鋼鉄の槍の威力5倍は相当なものだな。

弟子のカーリナがここまでやってのけたのだ、

師匠である自分も負けてられない。


よし、自分は全力で後衛に徹しよう。


今の自分が装備しているのは銅の剣、その威力は3倍しかない、

カーリナよりも戦力が劣る自分が足手まといになってはならない。

それに自分が魔物を倒してしまったら、

誰がドロップアイテムを持つんだぁーい?自分だよ。

それだけは避けねば。


カーリナもポケットが貝でいっぱいになるのも嫌だろうが、

魔物を一撃で倒せて有頂天だろうから気にも留めまい、

それでも難色を示すようなら、褒めて称えて煽てて唆したら何とかなるだろう。


カーリナの様子をうかがう。

あれ?槍を突いた体制で固まっている。


「おーいカーリナ、大丈夫?」

「……」

「えっ、ホント大丈夫?」

「……いです」

「どうしたカーリナ、動けないのか」


もしかしたら絶命寸前のラッコから状態異常攻撃を受けたのかもしれない。

そうであれば自分にはどうすることもできない、

治す手段など持ち合わせていないぞ。


なにせ装備以外は手ぶら同然で迷宮に入っているのだ、

唯一できる事と言えばカーリナを担いで迷宮を出る事ぐらい。

可愛い弟子のためだ、ちょっと嫌だが頑張るか。

動けないカーリナが声を出す。


「師匠……」

「えっ!なになに?」

「しっ……師匠、ボク強いです」

「……そう……だね」


心配させよって、一撃で魔物を倒せたことに感無量で動けないだけか。

取り越し苦労だったことには安堵したが、

本当に状態異常になったら……それも二人同時だったら全滅だ。


ここは魔物が巣くう迷宮、お気軽に来るような場所ではない。

対策も練らずに迷宮に踏み入るなど無謀にも程がある。

革靴で登山もしくは初デートでのプロポーズ、

または異次元の少子化対策のように軽率短慮だ。


それに覚悟を持って訪れたとしても、同時に生きて帰らねば意味をなさない。

にもかかわらず自分は薬草すら持っていないのだ、

これではまるで筏で太平洋横断もしくは小説投稿で億万長者、

またはデフレ脱却のように成功確度が低い、

自ら低確度を選択しているようなもの、慎重さに欠ける行動を反省せねば。


「カーリナ、胸いっぱいのところ悪いけど、

 1階層の魔物について知っている事を教えてくれるかな」

「今倒したのはシーオッターという魔物で攻撃は打撃しかしてきません。

 ドロップアイテムは貝です。あっ、師匠これどうぞ。

 それと稀に波動石を落とします」


カーリナが話の流れでしれっと貝を渡してきた、こやつ上手くやりおるわい。

受け取った貝を入れるとポケットはもうパンパン、

これだと三つ目が入ったとしても歩いたら落ちるな。


ひとまずラッコからは状態異常攻撃はなさそうなので一安心していると、

カーリナがポケットから紙を取り出し説明を続ける。


「Bランクはマッドオッターという魔物で噛みついてくるようです。

 それから……Aランクはリヴァイアサンでボディプレスという技らしいです」

 あとSランクは――」


この1階層では魔物による状態異常はないとのこと。

カーリナはHP回復速度2倍、滅多な事がないかぎり倒れないだろう。

Aランクと遭遇したら自分も参戦するとして、

それまでカーリナに前衛を張らせて魔物を受け持ってもらおう。

その代わりと言っちゃ何だが自分は貝を受け持とう。

各個人の技量に適した業務分担だ。


***


「師匠、この角を曲がれば……部屋です。

 少し休憩しましょう。あっ、あそこに魔物がっ!

 ボク倒してくるので師匠は先に部屋で待っていてください」


そう言うとカーリナは魔物に駆け出してしまった。

自分は部屋へ歩き出す。

カーリナ一人で魔物に向かわせるのは危険だとは思うが、

追いかけようにもポケットと両手が貝いっぱいなので無理なのだ。

それに……これ以上は……もう限界。


ガラガラガラガラ


部屋の床に貝をまき散らす。

どうしたものか、これを持ったまま迷宮奥には進めやしない。

床に転がった13個の貝を見ながら思案するも解決策が浮かばない。


部屋を見渡すと隅に積まれた木箱がある。

エンブレムが刻印されているので騎士団の持ち物のようだ。

役に立ちそうなものを探すが木箱の中身は葉っぱだけで、

今必要な肝心な入れ物がない。


床にまき散らかった貝を木箱に入れ終わるとカーリナが到着した。

手には貝を二つ持っている。


「師匠お待たせしました。

 あっ、その木箱は薬草専用なので、貝はこちらの木箱に入れ替えてください」

「あ、うん」

「この後もボクが戦ってもいいですか?」

「あ、うん」


不毛な貝の入れ替え作業を終え、

一服しようとタバコを銜えライターを取り出し思い出す、

そうだオイルが切れていたのだ、火、火、火……火はないかな


「カーリナ、火ってあるかな」

「騎士団では迷宮内での火起こしは禁止行為とされています。

 なので道具も持って来ていません」


タバコは吸えずじまいのままカーリナを先頭に迷宮奥を進む。


「カーリナ、その見ている紙って何が書いてあるの」

「これはですね、各階層の地図と魔物について書かれています」

「じゃあ2階層への階段まで最短距離でお願いするよ」

「わかりました師匠、あっ魔物です。ボク行ってきます」


カーリナが駆けて行く先に胴長の魔物が見える。

Cランクのラッコは宙に浮いていたが、このBランクは後ろ足で立っている。

確か名前はマッドオッターだったはずなのでカワウソか。

帽子をかぶって見た目は可愛らしいが、

カーリナが近づくと牙をむき出し威嚇し始めた。


槍を構えたカーリナがカワウソの横を通り抜ける際、

土手っ腹に一撃を喰らわすとカワウソが後退りした。

背後を取ったカーリナが槍を叩きつけるとカワウソが黒い煙となる。


魔物がBランクになるとカーリナの攻撃が2回も必要になるのか。

いや、攻撃1回だけだとHPを削り切れないだけかもしれない、

そうであるならばカーリナの後に自分の追撃があれば倒せるかも、

カーリナにまかせっきりで楽は楽だが自分も参戦してみるか。


カーリナがドロップアイテムを渡してきたので次からは二人で戦うと伝える。

受け取ったアイテムは葉っぱ、

回復アイテムかと思ったが鑑定するとハーブだった。

例の殆んど白湯みたいなアレか。


次のカワウソから二人で相手取る。

カーリナが先制攻撃を与え怯んだ隙に自分が攻撃、

カワウソが煙へと変わった。

やはりそうだ、カーリナの現状の攻撃力ではあと一歩といった感じ、

もう少しLv.が上がれば一撃で倒せるだろう。


しかしこれいいんじゃないか、初めて連携攻撃っぽいことをやっているぞ。

正義のヒーローではないのだから一人で相手する必要なんてない、

まして相手は魔物、複数人で相手してもおかしくはないだろう。

これまでが正々堂々過ぎたのだ。


遭遇の際、必ずカワウソは後ろ足で立っているので胴ががら空きだ、

そこへきて胴長なものだから非常に狙いやすい。

それにドロップアイテムもハーブなので嵩張らないし、

この1階層はCランクのラッコよりもBランクのカワウソの方が都合良いな。


***


初めこそ嵩張らなくて良いと思ったドロップアイテムだったが、

2階層への階段に到着する頃には10匹も倒しそこそこの量になっていた。

やはり入れ物は必要だ、明日は必ずリュックを持参しよう。


Aランクの魔物とは遭遇することなく、2階層への階段を下る。

えーっと、2階層はゴーレムだっけ?

忘れずに2階層入口の魔法陣を踏んでいるとカーリナが声を発する。


「師匠、あれ見てください」

「どうしたカーリナ、あっ」


2階層入口へ繋がる通路に岩の塊を見つける――ゴーレムだ。

ゴーレムが1体立ちすくみ通路を塞いでいる。

魔物は各階層の入口と中間部屋には入れないらしいが、

その真ん前までなら来られる。


「カーリナ、このゴーレムはこっちには来れないよね」

「はい、そのはずです。攻撃もできないはずです。

 でもボクもこんなの初めてなのでどうしたらいいかわかりません」

「んーそうか、これを倒さない限り先には進めないよね

 そうだ、ちょっといいかな」


カーリナに鋼鉄の槍を借りてゴーレムをつついてみる。


グゴー


こちらの攻撃に対しゴーレムが喚くだけで反撃はしてこない。

やはりそうだ、ここ入口は魔物が攻撃できない聖域だ、

ただし、聖域からの攻撃がダメージとして入るかはわからない。

もういっちょつついてみる。


グゴッ


ゴーレムが黒い煙となった。

なんかゲームのバグみたいだけど、こういうこともあるか。

魔物設定

マッドオッター/mad otter

系統:海生 種:海獣 ランクB

弱点:火 耐性:水 特殊:石化

攻撃:噛みつき

特徴:帽子をかぶったカワウソ

ドロップ:素材レア/水銀、食材/ハーブ(ランダム)、

カード/腕力のカード


リヴァイアサン/leviathan

系統:海生 種:海獣 ランクA

弱点:火 耐性:水 特殊:石化

攻撃:ボディプレス

特徴:浮遊した巨大くじら

ドロップ:素材/鯨ひげ、アイテム/鯨油、香料/龍涎香


ジョアンナ/ johanna

系統:海生 種:海獣 ランクS

弱点:火 耐性:水 特殊:石化

攻撃:ノンアクティブ

特徴:浮遊したイルカを従えている、ブロンド、白ブラウスのみ、

異名:ブルーレディー

ドロップ:素材/人魚の鱗、素材レア/人魚の血、食材/人魚の肉、

アイテム/グランブルー(インク)、アイテムレア/人魚の髪、

武器レア/王子殺しの短剣、宝石/菫青石


ロックゴーレム/rock golem

系統:魔獣 種:ゴーレム ランクC

弱点:風 耐性:土 特殊:石化

攻撃:掲げた両手を振り落とす

特徴:頭は小さく、腕が大きい、ごつごつした大きな体

ドロップ:素材/石(石材)、アイテムレア/羊皮紙

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