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第18話 団長の依頼

騎士団長のユーハンから迷宮に入るための部隊編成を要請された。

どこから隊員を調達していいものやら、募集するにもアテもツテもない、

傭兵を手配するとなっても、肝心な先立つものがない、

無い無い尽くしの自分にとって部隊編成は酷な話だ。


それに隊長は誰が就くのか、順当に考えると編成した者――つまり自分か。

自分はそんな器じゃない、人を束ねられる自信なんてないぞ。

まして迷宮で魔物と戦おうという血気盛んな輩などをまとめてしきるなんて。

そもそも部隊って何人必要なのだろうか。


「では、ヒデキ殿には隊を率いてこちらが指定した小迷宮に入って頂きます。

 ユホ、早速だが中部駐屯地所属から候補者の選定を頼む。

 人数は一個小隊規模で考えてくれ。それと南部の地図をここへ」


承知とは一言も口にしていないのだが、ユーハンが独り善がりに話を進める。

騎士団が人員を確保するようで、ひとまず人集めの苦労はなさそうだが、

ついでに隊長も騎士団員から立ててもらい、自分を重責から解放してもらおう。

騎士団から要請を受けてできた即席の部隊で隊長をやったところで、

誰からも敬われず、責任だけ負う責任者になってしまう。

オーナーからあれこれ口を出される雇われ店長のような立場だと、

気苦労が絶えないからな。


ユホから受け取った地図をテーブルに広げるとユーハンが説明を始めた。


ここガド地区には13の迷宮と208もの小迷宮があり、

自分への依頼は南部にある48の小迷宮の1つに向かい魔物を討伐、

小迷宮の成長を遅らせるというもの。

街にある迷宮は冒険者達によって日々魔物が倒されているが、

人里離れた小迷宮に冒険者が足を踏み入れることはない。

従って、騎士団が巡回することで、

小迷宮の成長を監視し、魔物討伐による管理を行っているとのこと。

魔力禍の現在、迷宮内の魔力増大に伴い魔物が活性化、

地上への氾濫を制圧すべく、平時よりもより多くの人員投入が必要となるが、

北部、中部への派遣優先のため、南部の小迷宮巡回が人手不足となっている。

現在、隣接するラピヤンマー地区の騎士団へ折衝中とのこと。


「ちょっといいかユーハン。一個小隊規模って後方支援も含む人数か。

 なら前線の戦力は10人ってとこだろ、それも従騎士と騎士見習い。

 なら小隊なんて必要ない、ヒデキ一人で十分だ。

 数日だが一緒に迷宮に入った俺だからわかる」


ローレンツが分かった風な口ぶりで分からないことを言っている。

自分を買いかぶりすぎだ、自分の能力が10人力ってことだろ?

確かに同じ新人冒険者のユホよりかは強いかもしれないが、

それは自分がステータス調整したことによって、

武器の攻撃力が13倍になっているからであって……あっ。

ローレンツは13倍の攻撃力を見て、自分の力量を10人分だと思っているのか。


「おぅ、心配すんなヒデキ。

 何も深層階に行くわけじゃねー、目的は魔物の数を減らすことだ。

 低階層の魔物を数多くぶっ倒すだけでもいい。

 それならキュメンでやってたのと大差ないだろ」

「これまでと同じなら問題ありませんが、

 一人で相当な数の魔物を相手するとなると――」

「なーにっ、ヒデキなら大丈夫だろ。

 おぅ、カーリナ!ヒデキは毎日何匹の魔物倒してたよ」

「だいたい50匹程度といったところですかね」

「聞いたろユーハン。ヒデキ一人で小隊と張り合えると思わねーか。

 できるだけガド中部に人と物を送りたいんだろ。

 一人分の物資さえ確保すりゃ、後はヒデキが勝手に迷宮一個を抑えてくれるぞ。

 とは言え、従者として一人ぐらいいるかもな」


好き勝手に言いたいことを言い終えたローレンツがカーリナに目配せすると、

手を挙げたカーリナがここぞとばかりに声を張り上げる。


「だっ、団長。ボクを従者に、師匠の従者にボクを選任してください。

 師匠はとてつもなく強いですが、魔物に関する知識がありません。

 ですがボクなら、このボクなら師匠の補佐ができます。

 師匠の口外できない秘密もあるので、ボクが適任です。

 是非ボクを選んでください。お願いします」


ボクっ()のカーリナが必死にボクボクと自らを売り込んでいる。

確かカーリナは立派な騎士になるため強くなりたいと言っていた。

新人のマルッティが通常1年はかかるところを、数日でLv.10になるのを見て、

自分とのパーティーを続けることに有益性を認めたのだろう。


「そうかわかった……

 まず、ローレンツの意見を受け入れよう。小隊編成はなしだ。

 こちらとしても貴重な人員を中部に配置できるのはありがたい。

 ただ、物資輸送用に数名は付ける。ユホ、人選を頼む」


後方支援として知らない人が数人付くようだ、

活動内容にもよるが、パーティーを組む必要はあるだろうか。


「それとヒデキ殿の従者だが……ユホを任命する。

 カーリナ、お前はまだ騎士見習いだ、ヒデキ殿の足手まといになるやもしれん。

 ここは従騎士のユホに任せる。ユホ、直ぐに迷宮に入る準備をしておけ」

「団長、ボクは師匠と一緒にキュメンの迷宮に入っています。

 これまで師匠に迷惑をかけるようなことはありませんでした。

 これからも絶対にありません。ですので――」

「違うぞカーリナ……

 確かにお前にヒデキ殿の従者を命じたが、

 それはキュメン滞在中の世話係としてのこと。

 一緒に迷宮に入るなどと許可した覚えはない。

 それをお前が勝手に解釈を捻じ曲げたのだ。

 それに問題を起こし処分を受けたそうだな、報告を受けている。

 カーリナよく考えてみろ、規律を守れない者に従者が務まると思うか。

 お前は規律が守れない者に迷宮で命を預けられるか」


ユーハンは規律を重んじる性格のようだ、

大勢の命を預かる団長ともなると当然の思考だろう。

それに引き換え、カーリナは鼠の尻尾で大騒ぎしていたのに、

あれを迷惑だと思っていないようだ――師匠の心、弟子知らず。

それをここで自分が口にしてしまうと、

ただでさえユーハンの指摘に反論できないカーリナに、

追い打ちをかけることになってしまう、可哀そうだから黙っておいてやろう。


「お願いします団長。師匠の下で強くなりたいのです」「許可できない」

「ボクを従者に」「ダメだ、従者はユホだ。これは決定事項だ」

「お願いです御父様」「しつこいカーリナ!この話はここまでだ」


ん?カーリナがユーハンのことを御父様と言わなかったか?

あれか、先生を間違ってお母さんと呼ぶ学校あるあるか?


「いいじゃねーかユーハン、カーリナがここまで言ってんだからよー。

 何も中部の最前線に連れてけって言ってんじゃねーんだから、

 この程度の娘の我がまま、聞いてやれよ」

「すまないローレンツ……これは団長と団員ではなく親子の問題だ。

 口を挟まないでもらいたい」


ローレンツが娘、ユーハンが親子とも言っている……


えーっ、親子なの?


ということはユホもユーハンの息子、同じ赤毛はそういうことだったのか。

新事実に一人感心しているところに、カーリナが助け舟を求めて来た。


「師匠からも説得してください。

 師匠もユホ兄さんなんかよりもボクの方がいいですよね」

「ちょっとカーリナ!『兄さんなんか』とはなんだ」

「だってユホ兄さんってば――」


親子喧嘩の次は兄妹喧嘩が始まった、自分は何を聞かされているのだろう。

暫く終わりそうにないので、ユホが淹れたお茶でも頂くとしよう。

カップに口を付けると少し冷めているのに気付く――今の自分と同じか。

相変わらずこちらの世界のお茶は薄味だ、ほとんど白湯。

それにこの騎士団はお茶請けも出さないのか、まったくー。


***


ゆっくりとお茶を飲み干し、まったりとしていたが、

目の前では親子三人と他人一人の言い合いがまだ続いている。

仕方あるまい、可愛い弟子のため師匠が一肌脱いで、

お茶一杯分の恩義を果たすとするか。


「あのーちょっといいですか。

 カーリナがまだ騎士見習いで能力不足を心配されているなら、

 その点は私の方で解決できます。

 最近判明したのですが、私のスキルは他人の武器攻撃力も高くできるようです。

 あっ、他人と言ってもパーティーメンバーに限るので、

 その点は誤解なきようお願いします。

 このスキルによってローレンツさんから頂いた鋼鉄の槍の攻撃力が増加し、

 カーリナは魔物相手に十分戦えるでしょう」


ユニークスキルの一つであるパーティーメンバーのステータス設定を使えば、

カーリナの攻撃力を上げられるだろう、一度も試してはいないが。


「おぅ、ヒデキ!まだ隠してやがったか」

「それはいいローレンツ……

 ヒデキ殿の話しが本当ならばそれはカーリナに限ったことではなく、

 パーティーを組みさえすればユホでも同じ効果が得られることを意味し、

 カーリナが必要な理由になっていると思えません」


なんだ、感情むき出しのローレンツとは対照的に、

ユーハンは随分と冷静に判断するな、少しはローレンツを見習えば良いのに。


「はい、確かにこのスキルを使えば誰でも攻撃力があがります。

 ただ一つ条件がありまして、ジョブLv.が必要になるのです。

 ジョブLv.の数値に応じて効果が高くなるので、

 カーリナのジョブは村人ですがLv.23もあり、

 ユホさんの剣士Lv.18よりも高いことから、適任なのはカーリナだと言えます」


これならユーハンも反論できまい、勝ったな。

すまんユホ、カーリナを援護するためとはいえ引き合いに出してしまった。

だがな、そもそもユーハンがユホの名を出してきたのだ、

お兄ちゃんなら妹のために我慢しなさい。


勝利を確信したので空になったカップを指さし、

ユホに対してお代わりを催促するも、何か言いたそうな表情をしている。

おいおい、この騎士団はお茶を一杯しか出さないのか。

客人へのおもてなしがなっていないなー。


「ヒデキさん、どうして私のジョブ、それにLv.をご存じなのですか。

 カーリナ、もしかして剣士がLv.18だと話したの?」

「ボク言ってないよ。それにユホ兄さんのLv.知らないし」

「おいおいヒデキ!お前ってヤツは恐ろしいなー、一体何ができないんだ」


しまったまた口をすべらし、余計なことをしゃべってしまった。

どうも機密情報の管理というのは難しくて敵わない。


「ヒデキさん、どうして私が剣士Lv.18だとわかるのですか」

「ユホ兄さん、師匠ならそんなこと造作もないよ」

「そうすると……ユホよりもカーリナの戦力が勝るということでしょうか」

「御父様、もとよりボクの方が強いのはご存じでしょう」

「おぅヒデキ!そのスキル使ったら、カーリナもヒデキぐらい強くなるのか」

「えっ、本当ですか師匠!!」


三人がそれぞれ好き勝手に質問してきたが、カーリナが好き勝手に答え、

終いに自分に抱き付いてきた。

カーリナを押しのけながら三人に答える。


「団長、これから話す私の特殊スキルについて秘密にしてもらえますか」

「勿論……ここにいる者以外には口外しないと約束しましょう。

 ローレンツもそれでいいな」

「おぅ、これまでのスキルも誰にも言っちゃいねー、心配するなヒデキ」


これ以上の情報漏洩を防止するため、釘を刺しておいた。

ユーハンから目で合図をされたユホが扉を開け、

部屋の外に誰もいないことを確認して鍵をかけた。


「ではユホさんのLv.ですが、使用したスキルは『鑑定』というもので、

 人や物、ひいては魔物の情報がわかります。

 漁村へ先遣隊としてこられた際、ユホさんに『鑑定』を使いました」

「ヒデキさんと初めて会ったあの時ですか、

 スキルを使われたなんて気付かなかったなー」

「フフフ、ユホ兄さんらしいな、そんなことに気付かないなんて。

 剣は強いけどどこか抜けているところがあるからね。

 その点、ボクだったらスキルを使われても察知できていたでしょうね」

「言いにくいけど、カーリナにも鑑定スキルを使ったよ」

「えっ、ウソだ師匠!」


カーリナからジョブとLv.について直接聞いていないのだから、

ユホのように感づいてもよさそうなものだが。

どこか抜けているカーリナとのやり取りにローレンツが割って入る。


「そんなことよりヒデキ!その魔物の情報ってのは何だ。

 そのスキル使うと、魔物の何がわかるんだ」

「ああ、それは名前とLv.です」

「おいおい本当か、こりゃ一大事だぞユーハン」

「ああ大発見だ……そうか魔物にもLv.があったか。

 確かにそのような説を唱える研究者はいるにはいる。

 だが立証しようにも出来る術がないので推測の域を出ないままだ。

 ヒデキ殿のスキルが研究者連中に知れたら飛びつくな」


いやユーハンよ、だからこそ口外してもらっては困るのだよ。

何だか不安になってきた、果たして口約束は守られるのだろうか。

念書を書かせるべきだったと後悔の念が押し寄せてきたが、

今更どうこうできまい、こうなれば個人情報の流出大サービス!

やけのやんぱちだ。


「次に、『ステータス調整』というスキルを使用することで、

 パーティーメンバーのステータスをLv.の数字に応じて増加させられます」

「それでカーリナがヒデキ殿と同程度の攻撃力が得られると……」

「ハハハ、ユーハン!攻撃力だけならカーリナに抜かされるんじゃないか。

 だってそーじゃねーか、カーリナが一個小隊の戦力を持つんだぞ。勝てるか?」

「確かに……」


ローレンツの冗談を受け、ユーハンの表情は険しいものとなり、

腕を組んで一点を見つめ考え込んでしまった。


「そんなに落ち込むなよユーハン。カーリナのジョブはまだ村人だ。

 本格的に強くなるのは来年、成人した後だな。

 こりゃー戦士にでも就いた日にゃとんでもねーことになるぞ」

「師匠!ボク……ボク……」


ローレンツの言葉を聞いて、またもカーリナが抱き付いてきた。

今度は自分の首に腕を回しているのでカーリナの顔が近い。

父親の前で照れもなくよくできたものだ、逆にこっちが照れてしまう。

ほら見てみろ、呆れかえったのかユーハンが黙ってこっちを見て……

あれ?もしかしてユーハンは怒っている?

ちょっ、ちょっとカーリナ、一旦離れようか。


「だがよー、幾ら攻撃力が上がるとは言え、カーリナのジョブはまだ村人。

 ヒデキ、ちょちょいとカーリナのジョブを変えられねーか?ハハハハッ」

「多分、パーティーメンバーのジョブも変えられると思いますよ」

「……おいおい本当か、普通は神殿でやるもんだぞ。

 それにその言い方、ヒデキは自分のジョブも自由に変えられるのか?

 今のジョブは何だ。確か冒険者だよな」

「いえ、メインジョブは戦士です。サブジョブに冒険者と村人を付けています」


空いた口が塞がらないといった感じでローレンツが固まってしまった。

自分に抱き付いたままのカーリナが耳元でしゃべりだす。


「と言うことは師匠!ボクも一度に複数のジョブを持つことができるのですか」

「ああそうだね、寧ろそうしないと……ちょっと離れてもらえるかな。

 さっき説明したように、武器の攻撃力を上げるためにLv.が必要なんだけど、

 1つよりも複数のジョブがあった方が効率良いからね」

「かーっ!そうするとだな、数日でカーリナは戦士Lv.10になるだろ、

 その後は剣士か?あっという間にユホは抜かされるな。

 その調子で騎士になって、一年もあれば聖騎士になっちまうんじゃないか。

 ユーハン、冗談じゃなく本当にカーリナに越されちまうな」

「すまないローレンツ……

 話に付いて行けないのだが、数日でなぜLv.10になれるのだ」


自分の獲得経験値UPによって冒険者に成り立ての義甥マルッティが、

数日でLv.10に到達したことを、ローレンツがユーハンへ説明する。

どことなくローレンツが自慢げに見えるのは気のせいだろうか。


「これは……総長の耳に入ると大事になるな」

「ヴィルホか。あいつに知られちゃーやっかいだな。

 ところでよーユーハン、ヴィルホのあの噂は本当か?例のアレ?」


声を落としたローレンツが質問すると、

口元を手で覆いユーハンも小声でローレンツに答える。

人に聞かれてはまずい話しなのか、

おじさん二人がひそひそ話を始めた、仲が良くていらっしゃる。


***


「そうか。馬鹿もそこまでいくと狂気だな。

 ユーハンも大変だな、そんな騎士団なんかやめちまえよ」

「……とにかく魔力禍を乗り越えるのが先だ」


ユホからお茶のお代わりをもらい、お茶請けは準備していないと謝られ、

カーリナがポケットから干し肉を取り出し勧めてきたが、

それを断りお茶だけを飲んでいるとおじさん二人の密談は終わっていた。


「さて……少し話がそれてしまいましたが、

 ヒデキ殿の特殊なスキルについて、

 私の理解をはるかに超えていることがわかりました。

 先程はユホを従者にと言いましたがヒデキ殿のスキルを信じ、

 これからもカーリナを従者として付けようと思いますがいかがでしょうか」

「えっ!本当ですか。ありがとうございます御父様。

 師匠!これからもよろしくお願いします」


カーリナよ、耳元で大声を出すんじゃないよ、それに早合点が過ぎるぞ。

自分が『やっぱユホさんで』と言うかもしれないじゃないか。

まぁ、この話し合いがなんだったのだとなるから、言わないけど。


「それと……来年、カーリナは15歳になります」

「ああ、来年成人ですね」

「ヒデキ殿……カーリナを妻に迎え入れる気はありませんか」

「おいおい、何を言い出すユーハン!ダメだ、それはダメだ。

 ヒデキにはうちのアイノを娶らせることになっている」

「そうでしたか……知らなかったとはいえ失礼なことを――」

「いやいや、ローレンツさんが勝手に言っているだけでして、私は――」

「ならば問題ない……是非カーリナと婚姻を、そして我がストールベリ家へ」

「ダメだユーハン。ヒデキはアイノに――」

「ローレンツ……ヒデキ殿にはカーリナの方がお似合いだ」


おじさん二人が娘を自分と婚姻させるべく譲らない――なんだこの光景。

元の世界で独身のおじさんだった自分にとって理解できない状況だ。

知らなかったけど結婚ってこんなものなのかな。


おじさん二人は互いに譲らないので結論が出るはずもなく、

この話は後日に持ち越された。


***


本来の依頼である小迷宮での魔物討伐について、ユーハンが話しを戻す。

取り急ぎ期間は5日間とし、その間の必要な物は騎士団で準備する。

自分が迷宮に入っている5日間で、

ガド騎士団はラピヤンマー騎士団へ派遣要請について協議を進めるとのこと。


一応確認してみたが、必要な物の中にタバコは入っていない。

自分にとって必需品と主張するも、やはりタバコは嗜好品、

それも高価ということで許諾されなかった。

昨日20本を購入したばかりだが、依頼が5日間ともなると絶対に足りない。

常連となりつつある例の雑貨屋でタバコを買い込んでおいた方がよさそうだ。


ユーハンから向かう先の小迷宮として幾つかの候補を挙げられたが、

何処であろうが魔物と戦うことに変わりはないので、

何か決め手になる判断材料はないものだろうか。


「おぅ、ヒデキ!ここなんかいいんじゃないか」


選択に悩んでいる自分に、

各小迷宮の魔物一覧をまとめた紙を見てローレンツが提案してきたのは、

ラクスというキュメンから近い小迷宮。

推薦理由としてタバコをドロップする魔物が6階層にいる――ここに決めた。

他の小迷宮にもタバコをドロップする魔物はいるが、

より深い階層なので、ここラクスが御手軽だろうとのこと。

ラクスを選ばない理由があるだろうか、自分としては願ったり叶ったりだ。


「では……ヒデキ殿、早速ですがこれからラクスへ移動願います。

 宿屋の引き払い手続きは騎士団の方で行います。ユホ頼むぞ」


荷物は後からラクスへ届けてくれるとのこと。

立ち上がったユーハンと握手を交わし、応接室を後にする。


待合室に数人の人影を見る、立派な鎧を着ているので、

ユーハンが言っていた隣の地区の騎士団だろうか。

――自分のスキルは漏れ聞こえていなかっただろうな。


詰所入口へ歩きながら、ローレンツと話す。


「マルッティの件では世話になったな」

「こちらこそお世話になりました。ローレンツさんはいつ出立されるのですか」

「俺もこれから準備して直ぐに移動になった。マルッティの手続きもあるしな」


冒険者であるマルッティが鍛冶師ギルドと一緒に移動できるように、

ローレンツが裏から手を回すとのこと。

まず鍛冶師ギルドから冒険者ギルドへヴァルケアでの魔物討伐を依頼、

それをマルッティが受ける形を取って鍛冶師ギルドと一緒に移動するらしい。


鍛冶師ギルドが支払う報酬には成功報酬とは別に前金を用意したそうだ。

これはローレンツが立てた計略で、

仮にマルッティに万が一の事があっても親に金を渡せるという考えによる。


ローレンツの策略は何となくグレーっぽいが、

自分が容喙すべき事ではないので聞かなかった事にしよう。


詰所入口で引換券を渡し武器を受け取り、改めてローレンツと別れの挨拶をする。


「おぅ、ヒデキ!ここでお別れだな。

 そうだいいもんやる。感謝の気持ちだと思って受け取ってくれ」


ローレンツが手渡してきたのは金属製の銀色の球体――なんだこれ?鈴?

何かのアイテムだろうか、重さは……軽い。

中空になっていて切り込み部分から、中に小さな玉が入っているのが見える。

振ると音がなる――やはり鈴だ。

良い物だと言っているから熊よけとかお守りだろうか。


「ありがとうございますローレンツさん。ところでこれは何でしょうか」

「おぅ、いいもんだぞそれ。それを持ってっと魔物が寄って来る」


ローレンツから魔物が寄って来るアイテムをもらった。

魔物だぞ、寄って来るのだぞ、そんなアイテムが良い物か!?

キャラクター設定

ヴィルホ・オッツァモ

種族:人族 性別:男 年齢:19歳

家族:未婚

オッツァモ家の三男、ガド地区領主、エリアス城城主

魔力禍を引き起こした張本人。

漁業しか産業がないガド地区は近年の漁獲量減少により衰退、

召喚術師レズリーの甘言によって勇者召喚を決意、

隣接するラピヤンマー地区(長男アンテロが領主)への軍事侵攻を目論むも失敗。


迷宮設定

ランタニア大陸の地下には魔力が水脈のように流れていて、

濃度が高い場所に迷宮の核となるものができる。

核が周りの魔力を吸収、その濃度が一定量を超えると核が迷宮に変わり、

地下へ階層を広げ、10階層に到達すると迷宮への入口が地上に出現。

その後も成長は続き、33階層まで到達すると魔物が地上へ現れるようになる。

迷宮内で魔物を討伐すると、迷宮成長を遅らせることができる。

これは成長に使うはずの魔力を魔物生成に注ぐためである。

騎士団によって小迷宮の成長管理を行っているが、

抑止困難と判断された場合、迷宮を中心に新たな街が形成される。


現在、ガト地区には13の迷宮があり、迷宮を中心に冒険者の街が創られている。

北部:ラティス、コルボラ、エンバーラ、ヘノラ、ノルデ

中部:タマラ、ヴァルケア、ボルボルグ、トネア、エリアス(城郭都市)

南部:キュメン、キリル、ヒマキ


各階層の空間と成長速度

階層が深くなる程に空間が広がり、成長にかかる年数も増える。

空間の広さと成長速度は比例、1階層の空間を1とした場合、

次の式が成り立つ。

空間比(成長速度)={n(n+1)(n+2)-(n-1)n(n+1)}/6


1~3階層:n=1、空間比1、成長速度:1年/階層

4~10階層:n=2、空間比3、成長速度:3年/階層

11~33階層:n=3、空間比6、成長速度:6年/階層

34~100階層:n=4、空間比10、成長速度:10年/階層

101階層以上:n=5、空間比15、成長速度:15年/階層


迷宮分類

階層によって分類される(ランタニア大陸の迷宮数)[ガト地区の迷宮数]

1~18階層:小迷宮(8128)[208]

19~33階層:迷宮(496)[13]

34~100階層:大迷宮(28)[0]

101階層以上:最大迷宮(6)[0]


魔物出現数

階層によって一度に出現する魔物の数が変わる。

1~3階層:1匹

4~10階層:2匹

11~30階層:3匹

31~100階層:4匹

101階層以上:5匹

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