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第16話 懸賞

自分の華麗なる槍の舞によって2階層の毒ヘビを蹴散らし、

無事に3階層入口に辿り着いたところで、

入口前で香色の光を放つ魔法陣を見たローレンツが口を開く。


「よしっ、じゃー2階に戻るぞ。

 移動スキルを使ってみろマルッティ。移動先は2階の入口だ。」

「はっ?」


ローレンツが2階層へ戻ると言い出したので、思わず心の声が漏れてしまった。

3階層に着いたばかりだというのに、何を言ってんだこのおっさん。

魔法陣中央でマルッティへ催促しているローレンツに理由を確認する。


「待ってくださいよ、ローレンツさん!

 3階層はどうするんですか、そもそも何故2階層へ戻るんです?」

「おぅ、マルッティはヘビを1匹しか倒せてないだろ。

 そんなんじゃヴァルケア(向こう)に行っても何の役にも立たないからな。

 マルッティが強くなるまで、いや、少なくとも足手まといでなくなるまでは、

 繰り返し特訓だ。

 おぅ、気合入れてけよマルッティ!さぁスキル使ってみろ」

「ハハハ……ハァー」


役立たずと言われローレンツに肩を叩かれたマルッティが力なく笑っている。

これから始まるローレンツによる熱血指導を想像してのことだろう。


マルッティの表情はこわばって見える。

もしかすると、ヘビに噛まれ倒れたのがトラウマで、

ストレスからくる緊張型笑いというやつかもしれない。


いずれにせよ授業が始まるのだ、

ローレンツ先生によるモーレツしごき教室が。


「おぅ、なんだったらここからは別行動にするか。

 この階層はネズミだから、ヒデキの苦手な毒攻撃もねーし、

 ヒデキとカーリナの実力だったら問題ないぞ。

 マルッティだと絶対に無理だがな」


一言余計なローレンツがパーティー解散を提案してきた――想定外だ。

自分のステータス設定による獲得経験値UPと二乗効果のコンボによって、

経験値25倍の恩恵を受けるべくパーティーを組んでいるというのに、

それを解散しようと言うのか。

ますますローレンツの意図が理解できない。


「パーティーを解散してしまったら、

 当初の目的であるマルッティ君のLv.上げができなくなってしまいますよ」

「そこは問題ない、パーティーは解散しないからな。

 ただ、ちょっとした細工が必要だ――

 ほれっ、受け取れ」


ローレンツが肩掛けカバンから何かを取り出し、こちらに投げ渡してきた。

受け取ったものを見ると平べったい鍵、

片面には丸い凹凸が幾つも配置されている。

カバンからもう一つ同じ鍵を取り出したローレンツが説明しだした。


「これは『糸の鍵』って言うやつでよー、こんな風に半分に分けて使うもんだ。

 パーティーが二手に分かれても、それぞれが鍵の半分を持ってりゃ、

 後で鍵を合わせると経験値を共有できるってアイテムだ。

 特に何かする必要はない、ヒデキはただ持っとけばいい。

 こっちの片割れは、マルッティ!お前が持っとけ」


自分の手の上にある鍵をカーリナが珍しそうにのぞき込んでいる。

武具屋で鍵を探していたので鍵には明るいと思っていたが、

カーリナでもこの鍵は知らないようだ。


「へー、そんな鍵があるなんてボク知りませんでした。

 ローレンツさん、これ最近できた鍵ですか?」

「いや、昔っからあるぞ。でも卸してるのは聖騎士団だけだからな、

 騎士団や市場に出回るもんじゃないから、知らないのも無理ねーな」


そう答えたローレンツを見ると、香色の光りに包まれ始めている。

マルッティが移動スキルを使ったのか、魔法陣の放つ光が強くなり、

その光に全身を包まれながらローレンツが言う。


「よし、じゃー五の鐘まで別行動。鐘がなったらここに集合なっ。

 一応忠告しておくと、安全みて4階層は行くなよ。

 4階層からは魔物2匹ずつ出てくるから、

 今日は3階層までにしとけヒデキ」


魔法陣から香色の光が消えると、

マルッティとローレンツの姿はなくなっていた。


***


カーリナと二人で3階層を進む。

自分の武器は銅の剣だ。

カーリナがしつこく言ってくるので、鋼鉄の槍は返してしまった。

それに自分の鋼鉄の剣はマルッティへ貸したままなので、

この銅の剣で戦うしかない。


「カーリナ、ここの魔物はどんなネズミかわかるかな」

「Cランクはファットラットという大きなネズミです。

 それよりも一回り小さいネズミがBランクで、

 頭が黒い毛のブラックヘッドラットというものです」


大きなネズミ……この世界に来て初めて倒した魔物だ。

あの時はラタさんを助けるために必死だったので、

犬みたいにデカかったのと、苦労の末に棍棒でなんとか倒せたこと以外、

よく覚えていない。


ただ、あの時は村人Lv.1だったが、今の自分は戦士Lv.9、

それに棍棒よりも(たぶん)攻撃力が高い銅の剣を装備している。

今の自分なら簡単に倒せるだろう。


Bランクのネズミとは戦ったことがないが、Cランクよりも一回り小さいのか。

素直に考えると、ランクが上がる程に体躯が大きくなってもよさそうだが、

体が小さい代わりに、Cランクとは違った厄介な攻撃があるのかもしれない。

ただ、ローレンツは毒攻撃がないと言っていた。

毒以外で厄介な攻撃となると、思いつくのは状態異常だが、

色々ありすぎて見当がつかない、ローレンツに聞いておけばよかった。


考えても仕方がないし、それにBランクの出現は3階層奥だ。

約束の五の鐘までに、そこまで辿り着けるかもわからないので、

さしあたりCランクのネズミだけに集中しよう。


***


早速、Cランクであるファットラットと対面した。

お久しぶりですと挨拶する間もなく、

ネズミが突進……

と思ったが、トコトコとゆっくり向かって来た。


他の魔物の素早い動きに目が慣れてしまったのか、ネズミの動きが遅く感じる。

多分そうではない、

ファットラットという名前からして、実際に遅いのだと思う。


思い返すに、このネズミから村人Lv.1のラタさんが逃げていたのだ。

ネズミの走りが遅くなければ、自分と出会う前にラタさんは捕まってしまう。

何故、途中で捕まらなかったのかと疑問に思っていたのだが、

ネズミの遅い動きを見て、今ようやく腑に落ちた。


振り上げた銅の剣でネズミに一撃を喰らわせると、

どら声を上げてネズミの足が止まる。

反撃が来る前にすかさず突きを入れると、

再びどら声を発すると同時にネズミは黒い煙へと変わった。


2階層と同様、この階層でも攻撃2回で魔物を倒せる、

ローレンツが言うように問題なさそうだな。


「師匠、お見事です。ドロップアイテムは……

 うー、やっぱりそうだ、うん、そうだよね。

 えーっと……鼠の尻尾です。

 師匠、ボク苦手なので、代わりにそれ拾ってもらっていいですか?」


カーリナが指差す床を見ると、

長さにして約20cmの薄橙色のひも状のものが落ちている。

見た目はミミズみたいで、

カーリナが苦手だというのもわからなくはない。

これがさっきのネズミの尻尾?

ではないな、ファットラットは犬程度の体躯だし、

尻尾は焦茶色だったので、色と寸法が合わない。


これまで出会った魔物は、倒れると全て黒い煙に帰し、

体の部位が残ることは無かった。

分母が少なく、例外もあるかもしれないが、

ファットラットが自身の尻尾を落としたわけでなく、

『鼠の尻尾』というアイテムをドロップしたと考えるのが妥当だろう。


だとしても、尻尾って……一体何よ、用途は?

この尻尾と引き換えに賞金が出るわけでもあるまいし、

まして懸賞があるとも思えない。

試しに役所に持って行ってみようか。


疑問を解消できないまま、使途不明な尻尾を拾い上げると、

カーリナの視線に気づく。

汚いものを見るようにこちらを見ているが、

その視線は尻尾ではなく自分に向けられている。

ちょっと待てカーリナ、そんな目で見るんじゃないよ、

誰の代わりに拾っていると思っているんだ。


「あのーカーリナ、この尻尾って――」

「キャー、冗談でもやめてくださいー!」

「あっ、ごめんごめん。そういうつもりじゃないんだ。

 この尻尾が何に使われるのか知りたくて――」

「本当にやめてくださいー!」

「ああぁ、わかった。わかったから、落ち着いてカーリナ。

 何もしないから、じゃーこれをリュックに入れるね」

「キャー!」

「キャーじゃなくて。いや、逃げないでよ。

 聞いて聞いて、これをリュックに入れてくれないと――」

「もー、師匠!これ以上やったら、ボク本気で怒りますよ!」

「怒らせるつもりはないんだ、だからねこれを――」

「もう、ヤメテー」

「ヤメテーじゃなくて。ねぇ?どこ行くのさカーリナ。

 カーリナ、ちょっと待ってー」


一向に聞く耳を持たず逃げ回るカーリナを追いかけるはめになった。

迷子にならぬように道順を覚えながら、迷宮内を逃げるカーリナを追う。


追いかけっこは暫く続いたが、

常にカーリナは自分との間に一定の距離を取るため、

全く持って近づけない。

リュックにさえ入れてくれればいいのだが、

説得しようにも取り付く島もない。


いい加減諦め、尻尾を自分のズボンのポケットに入れると、

それを見たカーリナが落ち着きを取り戻し、逃げるのをやめてくれた。


この場はひとまず良しとしておこう。

ただ、言っておくが、自分だって気分が良いものではないんだぞ、

他に術がないから、仕方なくだ。

誰が好き好んで鼠の尻尾をポケットに入れるもんか。

迷宮を出たら覚えておけよ、罰としてカーリナにズボンを洗わせよう。


その後、遭遇したネズミをカーリナと交代で相手した。

ネズミ自体、カーリナは平気なようだが、

ドロップアイテムが鼠の尻尾だと解るや否や、

カーリナは迷宮を走り出してしまう。


追い回しても埒が明かないことは立証済み。

カーリナの視界に入らないように気を使いながら、

無言で尻尾を拾い、自分のズボンのポケットにそっと忍ばせる。

涙こそ出ないが、何故だか悲しい気持ちになるので、

弟子思いの良い師匠なのだと、自分に言い聞かす。


カーリナが走り回ったのも相まってか、あっという間に中間部屋に着いた。

部屋に辿り着くまでに遭遇したファットラットは計15匹、

落としたアイテムは全て鼠の尻尾――ポケットがパンパンだ。


部屋に入ってしばしの休息中、

一服しながら、カーリナに時間を確認すると、

まだ五の鐘は鳴っていないとのこと。

ただし、ファットラットの尻尾から逃げ回っている時に、

四の鐘が鳴っていたそうだ。

カーリナは発狂して逃げ回っていたように見て取れたが、

鐘の音を確認する余裕があったとは、意外と冷静だったんだな。


「カーリナどうする?試しにBランクの魔物と戦ってみようか」

「そうですね、五の鐘までにはもう少しありそうですし、

 折角ここまで来たので1匹倒して終わりにしましょう。

 ボクはBランクの魔物とは戦ったことはありませんが、

 師匠がいるので心強いです。

 それに薬草も……うん、まだあるので仮に何かあっても大丈夫でしょう」


そう言うとカーリナは自身の鋼鉄の槍を自分に手渡してきた。

あんなにお気に入りだった鋼鉄の槍、何故に自分へ渡すか。

もう自分は疲れたから、これを使ってお前が代わりに戦えってか。

また悲しい気持ちになってきた。


***


カーリナと武器を交換して3階層奥の探索を開始。

通路奥の床で光る2つの点に気付き近づくと、

後ろ足で立って威嚇しているネズミの目だった。


ローレンツ達との合流時間を心配したが、

探索早々にBランクがお出でなさった。

手短に済まし、ローレンツ達が待つ3階層入口へ向かおう。


ネズミはカーリナの情報通りにファットラットよりも小さい、

体長は座敷犬といったところだろう。

体毛はファットラットと同じ焦茶で硬そうな毛質、

頭部の毛だけが黒色、名前のブラックヘッドラットそのままである。


しばし互いに見つめ合った後、ネズミがこちらへ向かって来たが、

自分を避けるように壁伝いを走っている。

こいつ逃げようとしているな、

こちとら戦いに来たのだ、逃すわけにいかない。

急いで鋼鉄の槍を振り下ろすも、簡単にすり抜けられてしまった。


ネズミが逃げた先にはカーリナが待ち構える。

カーリナが銅の剣で攻撃を、これまたネズミは簡単に避け、

お返しとばかりに体当たりでカーリナに尻餅をつかせた。


直ぐに立ち上がろうとしたカーリナに、ネズミが間髪入れず追撃すると、

カーリナはバランスを崩し床に転ぶ。


「カーリナ!」

「問題ありません、転んだだけです!」


だが、ネズミから続けざまに体当たりを受け、カーリナは起き上がれずにいる。

カーリナが体勢を整える時間を稼がねば、駆け寄ってネズミを相手取る。

ネズミは足元をちょこまかと動き回り、自分の攻撃が当たらない。

というか近接にも程がある、この距離だと槍が長すぎるのだ。


逃げ回りながらもネズミは執拗にカーリナに体当たりを繰り返す。

おかげでカーリナはまだ立ち上がれていない。


「カーリナ!剣、貸して!」


槍を手放し受け取った剣でネズミを攻撃、

あっ、当たった。

一撃をお見舞いされたネズミが怯む――追撃の好機到来。

もういっちょ、と剣を振りかぶったが、ネズミはそそくさと逃げてしまった。


通路の奥へと消えるネズミを見送りながら、

手を差し出してカーリナを引き起こす。


「大丈夫?カーリナ」

「あっ、ありがとうございます、師匠。大丈夫で、イテテッ」

「あらら、足を怪我してるじゃないか。もしかして噛まれた?

 薬草はまだあったよね」

「擦りむいただけなので、この程度大丈夫ですよ」

「まだ帰りがあるから薬草を使いなさい。これは師匠命令だ」


カーリナがリュックから薬草を取り出す……

ん?……取り……出さない。

薬草はまだあったはずだが、どういうことだ。


カーリナは頭を突っ込まんばかりにリュックをまさぐっていたが、

終にはリュックの中身を全て出し、今度は本当に頭を突っ込んだ。

リュックを被ったカーリナが不思議そうに独り言を言う。


「おかしいなー、薬草が一枚もない。毒消し草もなくなってる。

 それに蛇の牙や蛇皮も数が減ってるし……水筒とコップはあるけど……

 んー穴は開いてないから、中身が落ちるようなことないんだけどなぁ」


何とも興味深い。

リュックに穴は開いていないが、戦利品のアイテム数が減っている。

直前にネズミとの戦闘、その前にアイテムがあるのは確認できている。

そして、ネズミが執拗にカーリナへの体当たりを繰り返していた。

物的証拠はないが、状況証拠が犯人はネズミだと導いている。


どうやったかは分からないが、あの頭の黒いネズミが盗んだのだ。

まだそう遠くに行っていないはず、盗人を追いかけるか。

いや、どうやって盗んでいるかわからない、

このまま再戦したところで、残りのアイテムも盗まれるのが落ちだ。


ならばどうする、懸賞金でもかけてお尋ね者にするか、

だめだ、貴重なアイテムならともかく、

盗まれたのはドロップアイテム、懸賞金の方が高くついてしまう。


一応、自分の持ち物も確認してみると、

最重要アイテムのタバコとライターはある、

それに貴重な魔玉と糸の鍵もある、

それと大量にある些末な鼠の尻尾もポケットの中でパンパンだ。


なるほど、アイテムがなくなっているのはカーリナだけ、

やはり、泥棒ネズミは体当たりの際に何かしらの方法で盗んでいたようだ。


「カーリナ、確かなことはわからないけど、あのネズミが盗んだかもよ」

「えっ!でも無くなったのはリュックの中身ですよ。一体どうやって」

「それについてはローレンツさんに聞いてみよう。

 それと、必ず薬草をもらって傷を治すように。

 とにかく、まずは合流地点の3階層入口へ向かおうか」


3階層中間の部屋に入り、魔法陣中央に立つ。

待ちに待ったこの時がやって来た、移動スキルの発動だ。

転生時に所有していたユニークスキルとは異なり、

自らの努力で獲得したスキルなので感慨深い。

ステータスを表示させ冒険者Lv.6を確認、スキル獲得条件は満たしている。

さぁ、冒険者の移動スキルをお披露目するぞ!


「……んー……カーリナ、どうやったら移動できるの」

「スキル名はトランスポートです。お願いします」

「トランスポート?」


おっかなびっくりでスキル名を口にすると、

目の前に階層と場所を示す文字が現れた。

読める、読めるぞ――で、どうしたらいいんだろう。


「えーっと、3階層の入り口は」


1階層入り口  1階層部屋

2階層入り口  2階層部屋

        3階層部屋


「あっ!そっかー…………

 歩いて戻ろっか、カーリナ」

「師匠、どうかされましたか」

「ごめーん、移動先の魔法陣踏んでなかったみたい」

「師匠……」

「ごめんごめん。ローレンツさんとのやり取りがあったから、踏むの忘れててー」

「……」

「カーリナ、黙ってないでさー何とか言ってよ」

「……」

「カーリナ様、大変申し訳ございませんでした」

「師匠、五の鐘が鳴っています」


***


駆け足でローレンツ達が待つ3階層入り口に向かう。

途中出くわしたネズミには目もくれない。

遅刻だとローレンツに癇癪を起こされたら厄介だからだ。


若さの賜物だろう、道に迷うことがない。

迷宮だから多少迷うだろうと覚悟していたが、いい意味での期待外れだ。


あの角を曲がりさえすれば、目的地の入り口だという所で、

ネズミと戦っている冒険者を見る――マルッティだ。

少し離れた場所から、腕組したローレンツが熱を入れて指導をしている。

何とも話しかけにくい状況。


「マルッティ!そこだ、そこで後ろに回り込め。あーだめだ、もう一回」

「ロッ……ローレンツさん、遅くなりました」

「おぅ、来たな。少し待っててくれ、もう少しで片付くから。

 ただ待ってるのもなんだから、マルッティをネズミと戦わせてんだ。

 おーい、マルッティ!ヒデキ達がもう来ちまったぞー。

 あー、また腰が引けてる、ちゃんと構えろ!

 ヒデキがお待ちかねだ、さっさと片付けてとっとと飲みに行くぞ!」

「はっ、はい!おじさん。

 ヒデキさんも、お待たせしてすみません。直ぐ終わらせます」

「あっいえいえ、マルッティ君、お気遣いなく」


ローレンツが余計なことを言ったせいで、マルッティに気を使わせてしまった。

そしてそんなマルッティに気を使うはめになった。

直ぐに終わらせると言っているが、マルッティの戦いぶりを見る限り、

当分、終わりそうにないな。


ローレンツから薬草をもらい、カーリナの怪我を治療させている間、

Bランクのネズミについてローレンツに質問する。


「ローレンツさん、ちょっといいですか?

 ブラックヘッドラットと戦ったんですが――」

「おぅ、アイテムを盗まれたんだろ。

 アレの体当たりを受けると、アイテムが盗まれるから注意が必要だ。

 手に持ってようが、カバンに入れてようが関係ない、とにかく盗まれる」

「あー、やはりそうでしたか。

 リュックに入れていたドロップアイテムがなくなってて、

 そうじゃないかなーと思っていたんですよ」

「まぁー3階層なら盗まれるもんなんて、たかが知れてるがな。

 盗まれたのは薬草ぐらいだろ?

 ここじゃないが、深層にネズミが出てくる迷宮があってな、

 そこのヤツなんかは、装備してる武器や防具を盗むからな」

「えっ、どうやってですか」

「そんなもん、知らねーよ。

 手に持ってる武器が、身に着けてる防具が一瞬にして消えるんだ。

 どこに行ったかわかんねー、消えちまうんだ」


ネズミの嫌疑はスリだけでなく、ひったくりも働くようだ。


「盗んだ後、ヤツは直ぐに逃げ出すから厄介でよー、

 取り戻したかったら必ず倒すことだな。

 倒せば盗んだものを必ず落とすからよっ。

 でもなヒデキ、考え方によっちゃー、悪いことばかりじゃなくてな、

 ネズミを倒すと他の奴から盗んだアイテムを落とすってことだ。

 俺の知り合いは、青の魔玉を拾ったそうだ。青だぞ、100万ラルだ」

「魔玉を拾った場合、どうしたらいいんですか」

「ん?そんなもんは拾った奴のもんよ」

「えっ、もらってもいいんですか」

「そりゃー元の持ち主がわかるわけねーしなっ、

 迷宮で盗まれた奴の方が悪い、自業自得ってもんだ」

「そういうもんですか。それで拾われたお知り合いの方はどうなったんですか」

「おぅ、魔玉を拾って直ぐに冒険者稼業を引退しちまった。

 そんでもって、毎日高い酒飲んで豪遊だ。羨ましいよなー。

 まぁバカみたいに酒飲んでたから、直ぐに体を壊してたな。

 それに派手に遊んでたから、それを良く思わない奴もいてよ、

 質の悪い連中から恨みを買っちまってな、

 魔玉を奪われた挙句、刺されて死んじまった。

 ただ殺されただけならともかく、その後がむごたらしくてな、

 街外れの木に逆さにつられているところを発見されたんだが、

 口の中に大量の石が詰め込まれて、掻っ捌いた腹には土が――」


ローレンツから昔話にも似た、知人の教訓めいた話を聞き終わっても、

マルッティはまだファットラットと戦っている。


ハァー、早く終わんないかなー。

何だか悲しくなってきた。

魔物設定


ファットラット/fat rat

系統:獣 種:ネズミ ランクC

弱点:土 耐性:風 特殊:憂鬱

攻撃:噛みつき

特徴:太ったネズミ、動きは遅い(トコトコ歩く)

ドロップ:素材/鼠の尻尾 素材レア/鼠の毛皮 食料/岩塩


ブラックヘッドラット/black head rat

系統:獣 種:ネズミ ランクB

弱点:土 耐性:風 特殊:憂鬱

攻撃:噛みつき、盗む(体当たり)

特徴:頭の黒い鼠、冒険者からアイテムを略奪

ドロップ:冒険者からの盗品 ラベル/風のラベル


ランページコイプー/rampage coypu

系統:獣 種:ネズミ ランクA

弱点:土 耐性:風 特殊:憂鬱

攻撃:体当たり、噛みつき

特徴:気性が荒いヌートリア

毛皮は防寒服の裏地、肉は柔らかく淡泊で甘みがある

ドロップ:素材/鼠の毛皮 食料/鼠肉 鍵/爽快の鍵


マリー/marie

系統:獣 種:ネズミ ランクS

弱点:土 耐性:風 特殊:憂鬱

攻撃:群れ攻撃

特徴:従えている鼠の群れの攻撃、病気をもたらす

異名:マウスクイーン

ドロップ:アイテムレア/金のくるみ 宝石/黄玉

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