第12話 初迷宮
昼食を終え速足で宿屋に戻る、タバコを吸いたいからだ。
部屋に入ると机の上に鎮座する木箱から、貴重なタバコを1本取り出し、
お気に入りのオイルライターで火を点け、
寝タバコよろしく、硬いベッドに仰向けになって一服した。
天井に向かってゆっくりと上がっていく煙を見ながら、
こちらの世界での今後について真面目に考える。
タバコはべらぼうに高いが、雑貨屋で購入できることが分かった。
次の課題は火の確保だ。
今のところライターオイルは残っているが、
そのうち揮発してなくなってしまう。
火自体は食堂の調理場に行けば貰えるだろう。
恐らくこの世界の火起こしは大変だろうから、常に種火があるはずだ。
ただ気軽に吸うことを考えるとライター用オイル、
それも揮発性が高いオイルをどこからか調達したい。
ただし、保管には気密性が求められるため、売り買いも難しいだろう。
果たしてそんな容器があるだろうか。
窓を閉め切った部屋の中でタバコをくゆらせ、たゆたう煙を目で追いながら、
オイルの入手方法について思慮していると、視界にカーリナが映った。
部屋の隅で所在なさげに立っている。
食事中は終始静かだったし、何か役割を与えなければ可哀そうだと思い、
迷宮について説明をしてもらった。
「ここキュメンの1階層の魔物はスライムです。
次の2階層はヘビ、3階層がネズミと続き、29階層まであります」
「カーリナはどこまで行ったことある?」
「ボクはキュメンの迷宮には入ったことがありませんが、
パーティーを組んで小迷宮の18階層までなら潜ったことがあります」
「そうかー、ではキュメンの魔物とは戦ったことがないのか」
「いえ、迷宮毎に棲みつく階層が違って強さは異なりますが、
迷宮に出てくる魔物は全部で33種類しかいません。
更に、1種類の中でもC、B、A、Sとランク付けされています。
ボクはCランクの魔物限定ですが、33種類全てと戦ったことがあります」
つまり、33×4=132の魔物がいるということか。
確か魔物のランクについては、祝宴の席でユホに聞いた記憶がある。
自分が倒したオーガキングはナントカ迷宮の17階層の魔物で、
Aランクだから27階層相当の強さだとか言っていた。
「そのランクってのはC、B、A、S順に強いのかな」
「はい、Cランクの魔物を基準として、
Bランクは3階層下の魔物相当と言われています。
Aランクは10階層下、Sランクは30階層下の強さとのことです。
33階層よりも深い階層にはSランクより強い魔物もいるらしいのですが、
ガド地区の迷宮は33階層までしかないので、ボクは詳しく知りません」
「へー、つまり1階層でもSランクの魔物はLv.31もあるってことか」
「んーどうでしょう。 昔から魔物にもLv.があるという考えはありますが、
確認しようがないので俗説扱いされています」
自分が使っている鑑定スキルは誰も持っていないのだろうか。
いや仮に持っていたとしても、公言する者はいないのだろう。
魔物ならともかく人までも鑑定できてしまうので、
面倒事になるのは目に見えている。
タバコを吸い終えベッドから起き上がると、
カーリナが扉の方へ歩きながら話し出した。
「師匠でしたら低階層の魔物は…………」
「ん?どうしたカーリナ怖い顔して」
「いえ、師匠なら低階層の魔物は相手にならないと思います」
起き上がって2本目のタバコに火を点けると、
カーリナが眉間にしわを寄せている――煙たいのかな?
「そうだ、魔玉の使い方を教えてくれないか」
「特別に何かをする必要はありません。
持っているだけで、倒した魔物から勝手に魔力を吸収してくれます。
ただ小さいので、なくさないように袋に入れて、
ボクはこんな風に首から下げています」
カーリナは胸元から小さな革製の袋を取り出し見せて来た。
袋は1枚の革からできているようで継ぎ目は見当たらない。
これって動物の睾丸じゃないのかな?
いやたまたまそれっぽいだけか。
たまたまタマタマだ!
魔玉は碁石ぐらいの大きさなので、カーリナの言う通りなくしそうだ。
後日適当な袋を準備するとして、今日のところはタバコの箱に入れ、
ズボンのポケットにしまっておこう。
こういう時にソフトではなくボックスタイプは大変役立つ。
ステータス設定に魔玉成長率UPがあったはずだ。
キュメンについてから一度もステータスを見ていないので、
迷宮に行く前にしっかりとステータスを調整しよう。
村人と戦士が共にLv.9なので、ジョブによって獲得したスキルポイントは16、
ボーナス100ポイントとの合計で116ポイントとなっている。
ヒデキ・トモナガ 15歳 戦士 Lv.9
HP回復速度 3倍 使用スキルポイント7
攻撃力 13倍 使用スキルポイント66
獲得経験値UP 5倍 使用スキルポイント17
二乗効果 25倍 使用スキルポイント17
┗対象:獲得経験値UP
魔玉成長率UP 3倍 使用スキルポイント7
サブジョブ数 1 使用スキルポイント2
┗村人 Lv.9
スキルポイントを余すことなく気持ちよく全て使い切った。
カーリナに手伝ってもらって装備を身に着けたので、
出発する前に忘れ物がないか確認しよう――指差呼称だ。
初めての迷宮に少し気持ちが浮かれているが、
迷宮は危険なのだ、命がけなのだ。
装備は付けた――よしっ、
武器は持った――よしっ、
必要な物はリュックに入れた――よしっ、
そのリュックはカーリナに持たせた――よしっ、
命の次に一番大事なタバコを持った――よしっ。
宿屋を後にする。
***
街の中心に向かって石畳の道を進むと迷宮が見えてきた。
キュメンに来た昨日から、何度も迷宮前を行き来して視界には入っていたが、
いよいよ迷宮に入るとなると楽しみと不安で気分が高まる。
迷宮の地下へと続く入口が見えてきた、まるで自分を飲み込まんとばかりに、
大きく口を開け待ち構えているようだ。
入るのは簡単だ、無事に戻って来るのが重要なので気を引き締めてかからねば。
やったことのない精神コントロールを試みていると、
突如、カーリナが耳元で大声を出す。
「あっ、忘れてました!
街にある迷宮に潜るには、入場料をトークンで支払う必要があります。
冒険者ギルドで購入できるのですが、本当にお金ありませんか師匠?」
「さっきも言ったでしょ、お金ないよ。
なぁーんでそんな大切な事忘れちゃうのよー」
「騎士団は迷宮の治安維持をしているので、支払いが不要なので忘れてました。
お言葉ですが、お金がないのはボクのせいではありません!」
カーリナを咎めたところでどうにもならないのはわかっている。
それにタバコに有り金をはたいたのだ、多少だが自分にも非があるかもしれない。
今日のところは喧嘩両成敗ということで許してやろう。
トークンの購入が必要だと言われても、先立つものがないのでどうしたものか。
そもそもトークンって何よ、入場料を現金で払えばいいじゃない。
まぁその現金がなくて困っているのだが。
これからだという時に肩透かしを食らい、迷宮前で途方に暮れていると、
冒険者ギルドからこちらに向かう見知った人影を見る――ローレンツとユホだ。
ユホの奴、朝から今までずっとギルドにいたのか。
どうせ仕事もせずにクラウディアさんとくっちゃべっていたのだろう。
ここは一つ、ユホに金を出させるか。
「おぅ、カーリナどうした。迷宮前でなにやってんだ?」
「ああローレンツさん。トークンが無いので迷宮に潜れなくて困ってるんです」
「ん?騎士団は取られないだろ」
「師匠の分を買うのを忘れてまして。
そうだユホ兄さん、お金貸してくれない?」
「えーっ!急に言われてもー、10枚で100ラルでしょ。ないない、持ってない。
今朝、ヒデキさんに渡した懸賞金があるだろ。それを使えよカーリナ」
ユホよ、トークン代100ラルぐらいの金は持っとけよなー。
言うに事欠いて懸賞金があるだろうとはなんだ、人の金をあてにしやがって。
あーこれだから貧乏人は嫌だ嫌だ。
しかたがない、ここは正直に答えておくか。
「いやーユホさん、それがなんと言いますか……全部使っちゃいまして」
「え!!5千ラル全部ですか。鍵でも買われたのですか?」
「鍵は買ってないんですけどー、
えー、タバコを……少々買い込みまして……カラッケツです。
お恥ずかしい限りで、ハハハハ」
ユホと自分の会話を聞いていたローレンツが口を開く。
「おぅ兄ちゃん。困ってんならトークン1枚ぐらいならやるぞ」
「おお、ありがとうございま――」「そんな悪いですよ」
せっかくのローレンツからの申し出をカーリナが断ろうとする。
自分の思惑通りにローレンツからトークンを1枚出させたというのに、
師匠の作戦を邪魔するんじゃないよ。
そもそも貰うのは自分なのだから、カーリナが遠慮する筋合いはないだろ。
「カーリナ、子供が遠慮すんなって。それにお前だって困ってんだろ。
この兄ちゃん、ユーハンの客人だろ。
金なら後でユーハンから貰うから心配すんな」
「もう!ボクは14歳です!子供じゃないですよーローレンツさん!」
ユーハンとは騎士団長のことだ。
ローレンツは退団した今でも団長と付き合いがあるのか。
そんなことより、目下の課題であるトークン入手に向け、
障害であるカーリナを黙らせよう。
「あーこらこらカーリナよ、折角のご好意を無下にするんじゃありません。
ローレンツさん感謝します。有難く頂戴します。
ほらほら、カーリナも一緒にお礼を言いなさい!」
「えっ……でも……
あ……ありがとうございます。ローレンツさん」
カーリナはぐずっていたが、しぶしぶお礼を言った。
師匠命令が効いたのか、師匠の他人へ敬意を払う所作に感服したのだろう。
ローレンツに深々と頭を下げながら両手を差し出し、
ありがたくトークンを頂戴する。
カーリナ、良く見て覚えられるよう、気持ち長めにやっておいた。
これでいつでも卒業証書を受け取れるぞ。
お礼は言ったものの、カーリナは膨れっ面だ。
大人になりなさいカーリナ!
ここは何としても迷宮に入らなければ、タバコ代が稼げないのだよ。
受け取ったトークンは丸い銅製、一見すると硬貨のように見える。
大きさは……銅貨と大銅貨の間ぐらいといったところだろうか。
文無しの自分は比較する硬貨がないので、当てずっぽうだ。
「兄ちゃん、確かヒデキって言ったか。
トークンやる代わりと言っちゃーなんだが、一緒に迷宮に入ってくれないか?」
「こちらこそ是非。迷宮は初心者ですがよろしくお願いします」
「おっ、そうか助かる。マルッティ!お前も挨拶しろ」
「どっどうも、先日冒険者になったばかりですがよろしくお願いします」
ローレンツの後ろからマルッティという子供が緊張気味に挨拶してきた。
先日冒険者になったということは年齢は15歳、
今の自分と同い年だが、見た目は幼い。
ローレンツの義甥だからなのか、ドワーフだからなのか、
髪の色はローレンツと同じオレンジブラウン、それをオールバックにしている。
幼い顔とオールバックが不釣り合いなので、つい笑いが込み上げてくる。
必死に笑いを噛み殺しながら、マルッティと握手を交わす。
***
仕事があるとのことで貧乏人のユホとは別れ、
迷宮にはローレンツ、マルッティ、カーリナの3人と入ることになった。
カーリナに教えてもらい、迷宮入口近くにある小屋の前に立っている男に、
誇らしげにトークンを手渡す。
男は無愛想にトークンを受け取ると、認識票を見せろと言ってきた。
認識票を差し出すのは当然のようで、振り返るとカーリナは頷いている。
男は自分の認識票を奪うように取ると、小屋に入っていった。
迷宮に入った冒険者の記録を取るらしい。
迷宮で行方不明になったら捜索してくれるのだろうか。
後から莫大な費用が請求されないか心配だ。
ヘリコプターを飛ばさないから大丈夫だと思うが。
無愛想な男が認識票を自分に返した後、こちらを見ることもなく、
手でもう行っていいという仕草であしらわれた。
迷宮入口の前に立って、地下へ続く階段を目にする。
緩やかに右に曲がっていて先は見えない。
迷宮から外に向かって空気が吹き出ているようで、顔に冷たい風を感じる。
いざ迷宮に入るとなると緊張してきたので、深呼吸をして心を落ち着かせる。
そんな自分を横目に、ローレンツ達は階段を下りていった。
カーリナぐらいは待てよと思いながら、3人の後を追って階段を下りた。
数えていたわけではないが、20段程度下りると少しひらけた場所に出る。
地面の一部がほのかに香色に光っている。
カーリナが魔法陣だと教えてくれた。
「各階層にはこのようにひらけた場所がありまして、入口と呼ばれています。
そして入口には必ず冒険者が使える移動用の魔法陣があって、
一度踏んでおくと、別の魔法陣から移動することができます」
この魔法陣は人が造ったものではなく、迷宮内に自然と発生するとのこと。
パーティー内で一人でも魔法陣を踏んだ者がいれば、
メンバー全員を連れて移動ができるらしい。
その特性を利用した職業もあるらしく、
冒険者ギルドで金を払えば階層移動用のガイドを雇えるようだ。
ローレンツを先頭に迷宮を進む。
迷宮の造りは平坦な床、垂直な壁、曲がり角は直角で自然物ではない。
人工的に造られた遺跡といった感じだ。
どこにも灯りはないが暗くはない、壁や床が青白く光っているからだ。
天井は……暗かった。
「1階層から10階層まではこのように青白いため、『青の迷宮』、
11から18階層までは『黄の迷宮』と呼ばれています。
ボクは小迷宮で18階層までしか潜ったことがありませんが、
19から33階層までは『緑の迷宮』と呼ぶらしいです」
深層に進むにつれ青、黄、緑と壁や床の色が変わるのか、期待度が上がるな。
カーリナ曰く、ガト地区にはないが、34階層以降は『赤の迷宮』らしい。
まるで保留玉だな、流石に大当たり濃厚の金や虹はないだろうな。
何故光るのか不思議で壁を触っていると、カーリナが突如叫ぶ。
「師匠、ブルースライムです!」
一匹のスライムが通路奥からぴょんぴょん跳ねながらこちらに向かってくる。
漁村タンペで見た光景だ、辛かった千本ノックを思い出しながら駆け寄り、
スライムが跳ねたタイミングを見計らい銅の剣を横に振る。
やってしまった。
勢いよく通路奥へ飛んで行くスライムを見送りながら後悔する。
相手が一匹だとこのやり方は効率が悪い。
次は飛ばし過ぎないよう手加減しなければ、と考えながらスライムのもとに走り、
銅の剣を叩きつけると煙に変わった――もう終わり?
攻撃2回でスライムを倒してしまったことに拍子抜けしていると、
喜び勇んでカーリナが走り寄ってきた。
ドロップアイテムの葉っぱを拾ってくれた後も、カーリナは興奮している。
「流石です師匠!1階層とはいえ、2撃で魔物を倒すだなんて。
ローレンツさん、師匠の強さ見ましたか?これがボクの師匠です!」
「あっ、ああ。わかったからカーリナ落ち着け。
おぅ兄ちゃん、武器見せてもらってもいいか」
ローレンツに銅の剣を差し出すと、舐め回すように見ている。
「どこにでもある銅の剣だな」
「フフフ、そうなのですよローレンツさん。
ボクも初めは武器が特殊なのかと疑いました。でもですよ――」
「兄ちゃん、転移者か?なんかスキル持ってるだろ?」
「ぎっ!えーっと師匠はけっけっ決して、てってっ転移者ではありません。
ふっふっ普通の、どこにでもいるスキルがない師匠です」
カーリナが絵に描いたような動揺を見せている。
これだと自分が特殊スキル持ちの転移者ですと言っているようなものだ。
「あーわかった、わかったよカーリナ。言えないんだな。
団長の客人ってのはそういうことか。
これだけ強けりゃユーハンが客人として引き止めたいのもわかるってもんだ」
「いえ、ですから師匠は――」
「おぅ兄ちゃん!」
カーリナが身振り手振りを交えて必死にごまかそうとしているが、
ローレンツは聞く耳を持たず自分に話しかけてきた。
「通路に打ち返すんじゃなくて、壁に当てた方がいいぞ。
こいつらスライムは壁に当たると、一時的にだが動きが止まるんだ。
俺はその間に倒しちまう。その方が効率がいいからな。
よし次に行くぞ。次も兄ちゃんが倒していいから壁打ちを試してみな」
てっきり自分の特殊スキルについて問い詰められると思ったが、
ローレンツは戦い方の助言をしてくれた後、再び先頭を歩き始めた。
後に続きながら質問してみた。
「あのー後学のために教えて欲しいのですが、
ローレンツさんなら1階層のスライムを何回で倒せますか」
「ん?俺も2回だな。ただこの鋼鉄の斧での話しだ。
兄ちゃんが持っている銅の剣だと……多分3回だな」
大きな斧をこちらに見せながらローレンツが答える。
見た感じ重量がありそうな両刃の斧だが、片手で軽々と持っている。
自分が斧に興味があると思ったのか、
持ってみるかと聞かれたが重そうなので断った。
通路を曲がった所でスライムに遭遇、
早速、ローレンツの助言通り壁打ちを実践し追撃1回で倒す。
またも背後でカーリナが師匠、師匠と騒いでいる。
いい加減慣れて欲しいものだ――だが悪い気はしない。
通路の先にスライムを見つけたのでローレンツに視線を送ると、
次はマルッティに戦わせて欲しいと頼まれたので快く譲った。
緊張しながらもマルッティはスライムに向かって走り出す。
銅の剣を振るも初撃は空振り、次もその次もそのまた次も空振り。
ローレンツの義甥ということで期待したが、やはり新人とはこんなものなのか。
「おいマルッティ、動きをよく見ろ。遅い!スライムの軌道を考えろ!
早い!跳ねあがった時に剣を振れ。空中では方向は変わらないぞ」
ローレンツの忠告のおかげで、マルッティの攻撃は当たるようになったが、
ぴょんぴょん跳ねまわるスライムに苦戦し、まだ半分以上は空振りしている。
大きく空振りしたマルッティがバランスを崩し、派手に転ぶ。
ローレンツの目配せでマルッティの代わりに自分がスライムを1撃で倒した。
カーリナが床の葉っぱを拾い、マルッティはローレンツに指導を受けている。
「よし、スライムを倒しながら部屋に向かうとするか。
えーっと、確かこっちだ」
そう言うとローレンツは通路を進みだした。
部屋とはなんだ?カーリナに訊く。
「部屋とはですね、魔物が入ってこられない広間のことです。
各階層の中間地点にありまして、入口と同じ魔法陣があるので、
移動に使ったり、休息所として使ったりします」
昔のRPGで見られたセーブポイント見たいな所か。
本当にセーブできたらいいけどな。
部屋に到着するまでに計7匹のスライムに遭遇したが、
ローレンツは熱血指導でその全てをマルッティに相手させた。
マルッティはひーこら言いながら必死に戦い、
その間の周囲警戒はカーリナと自分が受け持つ。
残念ながら熱血指導は実を結ばず、自分が全てとどめを刺すことになった。
銅の剣を振り回し体力が削られ、空振りにより気が削がれたのだろう、
中間地点の部屋に到着する頃には、マルッティの体力と気力はなくなっていた。
部屋の中はカーリナが言っていた通り、中央に魔法陣があり香色に光っている。
部屋の隅には他の冒険者パーティーが数組休憩していた。
冒険者達は若く、装備は軽装というよりも安物といった感じだ。
1階層なのでマルッティと同じ新人なのだろう。
ローレンツがマルッティに声をかける。
「よーしっ、マルッティ!休んでいいぞ。全員ここで少し休憩だ。
今日は水売りが来てないようだが、
水筒はあるなマルッティ」
「はぁ、はぁ……だっ大丈夫です。持ってます」
そう返事をしたマルッティは壁を背に座り込むと、
ボディバッグから水筒を取り出し、勢いよく飲んでむせ込んでいる。
大丈夫?と声をかけ、カーリナがマルッティの背中をさすっている。
「ローレンツさん、水売りってなんですか?」
「ん?街の迷宮には冒険者相手に水を売りに行商人が来るんだ。
魔法陣を使えば魔物と戦わなくとも部屋までこれるからな。
水だけじゃなくアイテムなんかも売りに来るんだ。
一度、迷宮から出ちまうとまた潜る時にトークン取られちまうからな、
それをケチる冒険者の足元をみたアコギな商売だ」
迷宮内での水商売か。
高い水を買わされるのかな?
少なくとも楽しい会話は期待できそうにない。
「師匠!迷宮の中で必要な物が買えるのは便利で助かりますが、
外で買うよりも高いです。なるべく買わないようにお願いしますよ」
想定通りに割高のようだ。
しかしカーリナの説明は少し含みがある言い方だな。
まるで自分の金銭感覚が狂っているような言い回しだが、
そこは師匠を信頼してもらいたいものだ。
一服しようとポケットからタバコとライターを取り出すと、
タバコの箱の中に黒い石を見つける。
そうだ魔玉も入れていたのだった。
「あっ、師匠の魔玉!赤色に変わっていますね」
魔玉が赤色に変色していると、カーリナが指摘する。
タバコの箱に入れておいたのがまずかったか。
どう見ても黒色なのだが、これが赤色なのだろうか。
カーリナが説明を始めた。
「魔物を10匹倒すと赤色へ、100匹倒すと橙色へ、
魔物から吸収した魔力量によって色が変わります」
「それでこれが赤色……なのか?どう見ても黒色だけど」
「真っ赤になるわけではないので、こうやって見比べるとわかります」
カーリナの魔玉を借りて自分の魔玉と見比べたが、
なんとなく赤っぽいかなという程度、言われないと絶対にわからない。
どう見ても黒色の魔玉をタバコの箱にしまうと、ローレンツが質問してきた。
「おっ、文無しになった原因のタバコか?火はどうするんだ?」
「うっ、こっこれで点けます」
「なんだそれ、魔道具か?見たことない形してるが」
「いえ、これはただの道具です。こうやって火を点けるものです」
嫌味を言われた仕返しに、ローレンツの目の前で火を点けてみせる。
「おぅ、びっくりしたー。 おいおい、どうなってるんだそれ?
ちょっ、ちょっと見せてくれ」
「どうぞ」
「ヒデキ!これバラしても――」「ダメです」
ローレンツにオイルライターを取り上げられ、休憩の間に一服できなかった。
魔物設定
魔物のLv.は迷宮深層程に高くなる。
Lv.はランクによって異なる。
Cランクの魔物Lv.は迷宮階層と同じ
Bランクの魔物Lv.は迷宮階層+3
Aランクの魔物Lv.は迷宮階層+10
Sランクの魔物Lv.は迷宮階層+30
魔物の強さは単純にLv.に比例し、
C〜Sのランク付けは絶対値ではなく相対値である。
1階層のSランクの魔物Lv.31(1+30)と、
31階層のCランクの魔物Lv.31は同じ強さになる。
系統と種類
迷宮内の魔物は全部で33種類が存在、7系統に分類される。
獣系:12種類、魔獣系:6種類、植物系:3種類、
海生系:3種類、虫系:種類、魔法系:3種類、
その他:両生類:1種類、爬虫類:1種類、アンデッド:1種類
その他設定
魔玉
直径22.2mmの小さな円盤状の石、
魔物を倒すと魔力が蓄積され、倒した数によって色が変化する。
10匹で赤、100匹で橙、1千匹で黄と、倒した魔物数が10倍毎に変化。
色の変化:黒、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、白
吸収される魔力は魔物1匹につき10ラル分となる。
魔力蓄積により少しずつ小さくなり、
1億匹倒した白色では直径21.9mmになる
ガド地区での俗称は『クジラ玉』
冒険者認識票
冒険者ギルドで登録するとその証として一人一つもらえる。
金属製のプレートには個人を識別するための数字が刻印されている。
刻印される数字は、
迷宮に入る冒険者の管理・把握の効率化のための6桁の数字と、
冒険者自身の利便性を高めるための7桁の数字からなる。
主人公ヒデキの認識票
354057
1394510