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第11話 買い物

店が近いという理由で、生活必需品よりも先に武器と防具を買いに行く。

カーリナがお勧めだという武具屋だ。


「師匠着きました、ここがボクのお勧めする武具屋『鉄の窓』です。

 武器と防具の両方扱っていて、品数も多いので、

 あちこち回るのではなく、このお店で一式全部買いましょう。

 ――こんにちは、武具を一式揃えたいんですが」

「おう、いらっしゃい!」


仏頂面の店主が店の奥で腕組をしたまま、客である自分達を出迎える。


1人だったらまず入らない店だな。


店の広さはコンビニぐらいで、壁や棚に武具が所狭しと並べられている。

仏頂面の店主が腕組をしたまま、こちらに声をかけてきた。


「おう、好きなのを選んでってくれ!」


1人だったら直ぐに出て行く店だな。


「ボクが師匠の装備を選んでもよろしいでしょうか」

「ああ頼む、一般的な冒険者の武器でいいのでよろしく」


装備品の良し悪しなんてわからないので、ここはカーリナに任せよう。


これなんか師匠に似合いますとか、あれなんか色が素敵ですなどと、

カーリナは楽しそうに選んでくれている。

聞いたことない鼻歌交じりだ。


ここだけを切り取ると買い物デートみたいだが、選んでいるのが武具だけに、

長さの違う剣を構えさせられたり、素振りをさせられたりする。

また、大きさの違う盾を付けられ、棍棒でボコボコと叩かれる。

盾も棍棒も売り物なのだが、大丈夫だろうか。

小心者の自分は心配になってしまう。


親身になって選んでくれているカーリナには悪いが、

ある程度の武具なら、正直なところ自分はなんだってよい。

ステータス調整で攻撃力と防御力を上げてしまうからだ。

こだわりもないので、使いにくくなければそれでよい。


でも、カーリナが楽しそうなので、しばらく付き合ってやってもいいか。


ギルドで少し使ったが金はまだまだある。

武器や防具がどれくらいするのだろう、幾分か残るだろうか。

カーリナに槍を構えるように指示されながら、残金の心配をする。

何故なら、宿屋からギルドに向かう途中にアレを見つけたからだ。


朝だというのに薄暗い路地があって、店は閉まっていたが絶対にそっち系の店だ。

看板のような物が見え、読めない文字が書いてあったが、

雄の本能でスケベーな店だと直ぐにわかった。


今考えると、あの文字すらスケベーに思えてくる。

カーリナがいた手前、ユホに聞くに聞けなかったが絶対そうだ。

夜になったら1人で行ってみよう、今から楽しみだ。


あれこれ妄想している間に、カーリナの武具選びが終わり、

全部で8点の武具を自分がカウンターに運ぶ。


銅の剣、木の盾、皮のグローブ、厚布のブーツ、厚布のボトムス、

麻のかたびら、皮の胸当、銅のナイフ


仏頂面の店主が全部で1,900ラルだと言う。

手持ちで十分足りるが、一式をそろえるともなると結構するな。

会計しようとするも、カーリナはカウンター横にある棚を物色している。

まだ何か買うのか、支払い前に一応確認してやるか。


「カーリナ!これで全部だよね、会計してもいいかな」

「あっちょっと待ってください。

 店長さん!(うい)の鍵か(つい)の鍵ってありますか?」

(うい)(つい)は品切れだな。ちょっと前までなら在庫があったんだがな。

 大勢の転移者が来たろ?おかげで全部売れちまった。

 今あるのは黒と白だけだな。

 あんたら二人で潜るんだったら、丁度いいと思うがどうだ?」

「確かに潜るのは師匠とボクの二人ですけど。

 それだと2つ買わないといけないからなぁ……」

「魔物だったら、覚醒、述懐、真相があるぞ」

「いやいや魔物の鍵はとてもじゃないですが買えませんよー。

 それより(うい)の鍵っていつ入荷しますか」

「発注はしてるんだがな、こればっかりはわからんのでなんとも言えんな。

 1つ言えるのは、この店はキュメン一の品揃えだ。

 ここになければ多分他の店でも売り切れだろうな。

 自分で言うのもなんだがいい店なんで、まぁ根気よく通ってくれ」

「そうですか……

 師匠お待たせしました。会計をお願いします」


店主に銀貨19枚を渡し、カーリナが選んだ武具を全て購入する。

支払いを済ませ、タバコについて店主に訊ねてみた。


「タバコって薬師ギルドで売ってますかね」

「タバコだーぁ?薬師ギルドは葉たばこの買い取りはしているが、

 タバコ自体の販売はしてないぞ」

「じゃあ、どこなら買えますか」

「んーそうだなー、キュメンは冒険者の街としては中規模だからな、

 高級な嗜好品に手を出す奴なんていないんじゃないか。

 それでも売っているとしたら雑貨屋だろうが、商売になるとは思えんな」

「そうですか、雑貨屋に行ってみます」

「おう!また来てくれよな」


会計の時も、仏頂面の店主はずっと腕を組んだままだった。

話してみるとなかなかいい人だ。


これなら1人でも来られる店だな。


武具屋から出て、店主とのやり取りについてカーリナに質問する。


「カーリナ、さっきの店で鍵、鍵と騒いでいたけど、

 鍵なんて買ってどうするつもりだったんだ。カーリナは鍵っ子なの?」

「ボク騒いでなんかいませんよー。カギッコって何ですか?

 鍵は装備の一種なんです。種類によって様々な効果が発動するんですよ。

 ボクが欲しかったのは(うい)の鍵、もしくは(つい)の鍵というもので、

 たまにですが、先行攻撃ができたり、反撃攻撃ができたりするんです」

「へー、そんな鍵があるんだ。

 店主が別の鍵なら在庫があるって言ってたけど、それだとダメなのか」

「黒の鍵と白の鍵のことですね、ダメではないです。

 効果としては2人の攻撃連携が上手くいきます。

 ただ2つで一対ですので、鍵を2つ買う必要があります。

 ボクが前見た時は2つで5千ラルでした」


黒の鍵と白の鍵か……黒鍵と白鍵……ピアノみたいだな。

それも2つで5千ラルとは随分と高価な鍵だな、ピアノとしては格安だが。


「最後に言っていた、魔物ってのもそれくらいなのか」

「いえいえ、魔物の鍵はもっと高価です。

 そもそも(うい)の鍵や黒の鍵は、鍵師の手によって作製されるもので、

 第二の鍵と呼ばれています。

 一方で魔物の鍵は、Aランクの魔物が稀に落とすものでして、

 買うと10万ラルぐらいはするそうです」

「10万ラル!?これまた高価だなー」

「魔物の鍵を持つということは、必然的に高ランク冒険者になるので、

 仲間内からは敬意を込めて『キーホルダー』と呼ばれます。

 余談ですが、魔物の鍵を見せるだけで、酒場で女性を口説けるらしいですよ」


キーホルダーって……タイトルホルダーみたいなことか。

ところ変われば言葉の意味も変わるもんだな、異世界ならなおさらか。


それに女性を口説くのに鍵が役立つなんて、

一昔前の、高級外車の鍵を見せびらかして口説くようなものか。

鍵で釣れる女性なんてものは、程度が知れているが、

一夜のアバンチュール相手にはもってこいだな。

良い事を聞いた、魔物の鍵の取得を目下の目標としよう。


生活用品とタバコを求め第2管理区まで移動する。

その途中、教会が見えたのでカーリナに質問してみる。


「カーリナ、今朝一の鐘って言っていたけど、

 やっぱり教会が鐘をならすのかな」

「ん?どういうことですか、教会が鐘を……なんですって?」

「いや、教会の上にある鐘をね、

 決まった時間に鳴らすのかなと思ったんだけど」

「そもそも教会に鐘なんてありませんよ。

 師匠がいたところは、そんな風習があるんですか。

 それって、毎日決まった時間に鳴らせるものなのでしょうか」

「今はないんだけど、昔はそうしてたみたいなんだ。

 季節によって時間が変わったらしんだが、

 いや、自分がいたところの話はどうでもいいんだよ。

 じゃあ、一の鐘って誰が鳴らしているの?」

「迷宮です。毎日5回鳴ります。

 朝に鳴る一の鐘から始まり、午前中に二の鐘、昼に三の鐘、午後に四の鐘、

 一日の最後に五の鐘が夕方に鳴ります」

「迷宮から鐘が鳴るの?」

「はい、実際に鐘を見た人はいませんが、鐘の音がするのです。

 先程、武具屋に行く途中に二の鐘が鳴っていましたよ。

 聞こえませんでしたか師匠?」

「いやー、鳴ってた?昼に三の鐘がなったら教えて」


***


カーリナのお勧めの雑貨屋に向かう、購入した武具は持ったままだ。

武器がガチャガチャとうるさく音を立てるし、防具がかさばって歩きにくい。

泊っている宿屋の前を通ったのだから、荷物を置きに行けばよかった。


後悔しながら歩いていると、目的の雑貨屋に辿り着いた。

カーリナ曰く、種類は少ないが服も扱っていて、買い取りも行う店らしい。

今の自分にとって最適な店だ、生活必需品を揃えて荷物を売るぞ。


売りたい荷物は、村の子供達から贈られた貝殻の首飾り、そして大きな巻貝だ。

漁村タンペを魔物の手から救った感謝の気持ちとしてもらったものだが、

数が多く用途もないので、正直なところお荷物になっている。

感謝の気持ちは十分受け取ったので、できれば全て売り切りたい。

金額は期待しないが、昼食の足しにでもなってくれればありがたい。


店構えは先程の武具屋よりも広いが、

店内は色々なものがごたごたと沢山あって狭苦しい。

ここでの買い物もカーリナに一任しよう。


また楽しそうに鼻歌交じりで商品を選んでいる。

カーリナが口ずさんでいるあの鼻歌は何なのだろう。

流行歌なんてものがあるのだろうか。


小声なので良く聞き取れないが、同じフレーズをずっと繰り返している。

辛うじて『情熱』と『ジェラシー』が聞き取れたが、歌詞まではわからない。

あとてカーリナに歌ってもらうか。


カーリナが選んだ商品を持ってカウンターに向かう。


下着(3セット)、普段着上下(3セット)、リュック、

手ぬぐい(2本セット)、水筒、房楊枝


店長が全部で1,475ラルと言う。

全てカーリナに任せたら意外と高くついてしまった。

どれが高いのかがわからないが、恐らく革製のリュックだろう。

しっかりとした作りで背面と左右にポケットがあり、

山登りに使うような沢山荷物が入るタイプだ。


動きやすさを考えると、肩にかけるボディバッグの方がいいと思うのだが、

カーリナが大容量のリュックの方がいいと譲らなかった。

あと、ボディバッグよりもこっちの方がかわいいとも言っていた。

何がかわいいのかわからないが、勧められるがままに購入を決めたのだった。


銀貨14枚、大銅貨7枚、そして銅貨5枚を雑貨屋の店主に渡しながら、

買い取りもやっているか確認した。


「この店は買い取りもしてくれると聞いたんですが」

「ああ、品物にもよるがやってるよ、何を売ってくれるんだい」

「貝殻の首飾りと巻貝です。カーリナ!袋貸して」


カーリナに持たせていた袋から、

村の子供達にもらった感謝の気持ちを取り出し、カウンターに並べて行く。


「おいおいちょっと待ってくれ、どれだけあるんだよ。

 全部はカウンターに乗りきらないぞ」

「大丈夫、これで最後です」

「えーっと、全部買い取りでいいんだな。

 今勘定するからちょっと待っててくれ」


査定を待つ間に店内を見て時間をつぶす。

カーリナは楽しそうに商品を見たり、手に取ったりしているが、

自分は直ぐに飽きてしまった。

しかたがない、所持金でも確認しておくか。


今朝は50枚あった銀貨が今はたったの9枚、つまり900ラルしか残っていない。

必要経費だとはいえ、カーリナの口車に乗って散財してしまった。

宿屋にエアコンはないが生活保護は受けられないだろうな。

そもそもそんな制度はこの世界にないか。


生活を切り詰めなければならないな。

今日の買い物はこれから生活費を稼ぐための初期投資だ、

これからはつつましい生活を送ろう。


1ラル20円だと思うので残金18,000円か。

まあ、エステ的なお店なら行けるか……

いかん、つつましい生活だ。


***


「お待たせー、えーっと全部で1千ラルだ」

「えっ!そんなに!」

「首飾りがいいな、まず1つ1つが綺麗だし、色の配置もいい。

 それに丁寧な仕事だ、これは女性への贈り物にしたら喜ばれるぞ。

 あとこの巻貝、これ程に大きなものなんて滅多にない。

 欠けてるのが何個かあったが、それも買い取らせてもらうよ。

 ただ、この薄紅色の貝殻だけは値が付かないな、

 もしいらないんだったら、こっちで処分しておくがどうする?」

「あっ、これはいります、いります」


ラタさんにもらったお守りが、間違って紛れていた。

危うく売ってしまうところだった……いや値が付かないのだったか。

世話になったラタさんの大切な思い出だし、

それに毎晩ラタさんの思い出に世話になっているし、処分なんてできない。


それにしても、お荷物としか思っていなかった貝殻が1千ラルに化けた。

昼食の足しになればと思っていただけに、高額査定に驚きを抑えられない。


これだけの資金だと、今日のナイトレジャーはエステ的なお店どころではない。

大衆的な自由恋愛ができるスケベーなお店にランクアップだな。

つつましい生活なんてどこ吹く風だ。

妄想と興奮を抑えつつ、店主に訊ねる。


「売っといてなんですが、巻貝なんか買い取ってどうするんですか」

「用途は色々あるからな、そのまま置物として飾ったり、装飾品に使ったり。

 何個かはこの店で売って、残りは家具屋や細工師に売るんだ」

「ほぅー、貝殻はいい小遣い稼ぎになるんですね」

「いやいや、お客さんが持ってきたのが良質で量が多かったからだよ。

 そんな簡単じゃないぞ、どこでこんなに集めたんだ」

「近くの漁村に寄ることがあって、そこで手に入れました」

「ああ、ストメリ湾か……

 ストメリ湾だったらナマコは持ってないか。あれが一番高く売れるんだよ」


ナマコ……確かアスル君が自分にでかいナマコを渡そうとしていたな。

ラタさんが阻止してくれたけど、受け取っていればよかったかもしれない。

店長が続けて言う。


「俺は苦手なんだが、あれが旨いって言う奴がいてな、世の中は広いよな。

 高い金を出して買ってくれる客がいるんだよ、なあ、持ってないかナマコ」

「いや持ってません。因みになんですが、買い取るとしたら幾らになりますか」

「でかけりゃでかい程、高値で買い取るよ。そうだなー2千ラルは下らないかな」


おおおお!あの時、我慢してでかいナマコを受け取っていれば、

高級な自由恋愛できるスケベーなお店に行けたのか!?

くぅー、逃したナマコはでかかった。


師匠が意気消沈しているというのに、カーリナは楽しげに雑貨を見て回っている。

失意の中、僅かに残っている気力を振り絞って、

タバコを取り扱っているか店主に尋ねた。


「ときにご主人、ここってタバコも売ってますか」

「ああ、嗅ぎと噛みの両方あるよ。どっちだい」

「欲しいのは紙巻タバコなんですが、ありますかね」

「ほー、いい趣味してるなーお客さん。

 あるにはあるが値が張るよ。出せるかい?

 いや愚問だな、わかった!ちょっと待ってな」


そう言って店の奥へ店主が消えた。

嗅ぎタバコと噛みタバコがあるようだが、試したことがない。

あるのなら慣れた紙タバコを吸いたい。


店の奥から木箱と火が灯ったロウソクを持って店主が戻って来た。


「嗅ぐのはいいが、ただ1本100ラルするもんで試喫できないよ。

 試したいなら1本買ってもらうことになるがいいかい」

「構いません。では1本買います」

「お客さんきっぷがいいね、ここで吸って構わないから感想聞かせてくれ」


店主に銀貨1枚を渡し、引き換えにタバコを1本受け取る。

吸いたいので背に腹は代えられないが、タバコ1本が2000円か。

受け取ったタバコはフィルターなんてものはなく、両端が切りっぱなしだ。

匂いは……香しい、甘ったるかったり、歯磨き臭かったりしなくて一安心だ。


店主に火をもらい、その場で一服する……悪くないな。

自分が愛飲しているタバコと比べると少しだけ軽いが、

まったくもって問題ない、普段吸っているタバコがきつすぎるのだ。

こちらの世界の食事は口に合わないが、タバコは合いそうだ。


「いいですねー。香りも匂いもいい。味とこのちょっとした刺激も好みです。

 買えるだけ買います、売ってください」

「毎度あり!太っ腹だねーお客さん、残りは18本ある。

 この木箱を付けるからまた買いに来てくれよ。

 昨日キリルから買い付けたんだが、実のところ売れるか心配だったんだ。

 まさか仕入れた翌日に全部捌けるとは驚きだよ、ハハハ。

 お客さん、しばらくはキュメンにいるんだろ?

 俺の名はエルウッドだ、また仕入れとくから贔屓にしてくれよな」


店主は嬉しそうに、タバコを1本1本、丁寧に数えながら木箱に入れている。

銜えタバコで銀貨18枚を店主に渡して木箱を受け取っていると、

背中に視線を感じる。


振り返るとカーリナが無表情でこちらを見ていた。

嗜好品のタバコに大金を支払っているのがばれてしまった。


カーリナは何も言わず、まだこちらを見ている。

こいつの金銭感覚はどうなっているんだ、とでも幻滅しているかのようだ。

仕方がないのだ勘弁してくれ、タバコだけは絶対に譲れないのだよ。


カーリナはまだ無言を貫いている。

あくまでも心情は口には出さず、目だけで訴えかける戦法か。

本当に必要な買い物なのか、他人の意見ではなく自問自答せよということか。


自分でもわかっている、わかっているんだが……

くっ、何も言い返せない。

カーリナなかなかやりおるわい、師匠は誇りにすら思うぞ。


2人の沈黙は静かで激しい戦いを成していたが、カーリナの一言が静寂を破る。


「師匠、荷物を置きにいったん宿屋に戻りますか」

「えっ、そっ、そうだね戻ろうか」


2人の戦いはカーリナが引く形で幕切れとなった。


宿屋に戻ると、雑貨は部屋の隅に置き、

貴重なタバコが入った木箱を机の上に鎮座させ、ついでに柏手も打った。

早速だが、武器を手に入れたので迷宮に向かおう。

皮の胸当の付け方がわからないので、カーリナにお願いすることにした。


「カーリナ、装備を付けるのを手伝ってくれるかな」

「今から迷宮ですか、昼食はどうされますか」

「もうそんな時間か、あれ?三の鐘って鳴ったの?」

「はい、雑貨屋で師匠が支払いしている時に鳴っていましたよ。

 もしかして聞こえませんでしたか。ボク静かにしてたんですけど」


カーリナのあの無言は、鐘の音を聞かせるためだったのか。

一人で勝手にあれこれ思考を巡らせていた時間を返して欲しい。


「聞こえなかったなー、次は鳴っていると言ってくれると助かる」

「わかりました、四の鐘が鳴った際はお伝えします。

 それで昼食はどうしましょうか、ボクが何か食べるものを買って来ましょうか」

「外に食べに行こう、隣の食堂でいいや」


宿屋に併設されている食堂に入り席に着くと、

注文を取りに食堂のおばさんがやって来た。

昨夜と同じおばさんだ。


カーリナに任せると、パンとスープを2人分注文してくれた。

おばさんに1人20ラルだよと言われ、昼食代が無いことに気付く。

昼食代どころか、有り金を全部タバコに使ってしまったのだった。


「カーリナ~お金かしてくれ、今朝貰った懸賞金、全部使っちゃった」

「……」


カーリナは何も言わずこちらを見ている。

あっ、四の鐘が鳴っているのか!?

耳を澄ましたが何も聞こえなかった。


おばさんに大銅貨4枚を渡しながらカーリナが言う。


「ボクがまとめて払います、もとより師匠がキュメン滞在中の生活費は、

 騎士団が持つことになっていますので、その点は問題ありません」


言葉では問題ないと言いつつも、カーリナはなぜだか不服そうな顔をしている。

直ぐに食堂のおばさんがパンとスープを配膳してくれた。


「お待ちどーさん、パンとスープ、それにこっちのサラダはおまけだよ」

「ありがとう、あと追加で飲み物を注文したいんですが、何がありますか」

「今出せるのは酒なら果実とハーブだね。

 それ以外となるとヤギのミルクとお茶だね」


ヤギは癖がありそうだし、お茶はほとんど白湯のアレだろう。

果実酒は昨晩飲んだが味がいまいちだった、ハーブ酒を試してみるか。


「ではハーブ酒をお願いします。カーリナはどうする?」


カーリナは無表情で自分を見ていたが、

一つため息を吐くとスープを飲み始めた――カーリナは猫舌だったか。

どうやら追加の飲み物はいらないようだ、ハーブ酒の注文は1杯だけにした。


相変わらず硬いパン、薄味のスープ、それに今日のサラダはパサパサだった。

食後の一服だけを楽しみに、口に合わない食事をしていると、

おばさんがハーブ酒を持って来てくれた。


どれどれハーブ酒の味は…………


流石に残したらカーリナ、金を出してくれている騎士団に申し訳ないな。


頑張って全部飲む…………


という気概だけはあったが、半分残して店を出た。

キャラクター設定


ジェイク

武具屋『鉄の窓』の店主

雑貨屋店主のエルウッドとは幼なじみ。


エルウッド

雑貨屋『ジョリエット』の店主

武具屋店主のジェイクとは幼なじみ。

年上のジェイクを兄のように慕っている。


ジャック

宿屋『オーバールック』の店主

家族:妻ウェンディ、息子ダニー


キュメンで一二を争う宿屋の孫として生まれる。

父親はおらず、母親と祖父母の4人で暮らしていた。

子供の頃は庭師になって迷路園を造りたいと夢見ていた。

ある日、母親が蒸発、自分を捨てたと母親を恨んでいる。

祖父母が亡くなり、しぶしぶ店を引き継いだ。


癇癪持ちで、ウェンディの説得も聞かず、

度々客とトラブルを起こしていた。


ある日、いつものように客とのトラブルで怪我を負う。

その日を境にカウンター下に護身用の斧を置くようになる。

それからはいつでも相手を倒せると自信を持ち、トラブルが減った。

妻ではなく護身用の斧が心のよりどころとなっている。


昼間から酒浸りのアルコール依存症でまともに働いていない。

そのため、ここ数年はウェンディがひとりで切り盛りしている。

先のトラブルもあり、店の評判は悪かったが、

ウェンディのおかげで客足が戻り、今ではキュメン一の宿屋になった。


今日もジャックは酒を飲んでいる。


アニー

食堂のおばさん

元冒険者(ジョブ神官)

家族:息子ポール


20年前、妹ミザリーと共に親の反対を押し切って冒険者となる。

冒険者となって5年後、

妹ミザリーは同じパーティーの恋人バスター(戦士)との間に子供を身ごもる。


出産が近づきミザリーがパーティーから抜けると、

バスターの後押しもあり、出産を手伝うためアニーもパーティーから一時離れる。

残されたパーティーはメンバーを補充し迷宮に潜っていたが、

深層攻略中、バスターが迷宮で命を落としてしまう。

補充メンバーには回復職がいなかったのが原因。


知らせを受けたミザリーは、やり場のない怒りをアニーにぶつけた。

深い悲しみの中、ミザリーは息子ポールを出産するも大量出血により亡くなる。


自分がパーティーに残っていればバスターは死なずに済んだのではないか。

そうすれば、ミザリーも生きていたかもしれないと、

生まれたばかりのポールを抱きながらアニーは自分を責めた。


アニーはポールを自分の息子として育てるため、冒険者を廃業する。

生活のため親の食堂を引き継いだ。

ポールは今年15歳、親の血を引いたのか冒険者になった。

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