第10話 冒険者ギルド
ドタドタという騒音を寝耳に聞く、誰かが階段を駆け上がっているのだろうか。
まだ眠たいというのに、うるさいなー。
「師匠!おはようございます……また変な臭いが……窓を開けますね」
騒音の原因はカーリナだった。
そしてまたもや男子臭を指摘してくる。
若さゆえ、夜になると始末の悪い虎が目覚め、やり場のなさに苦慮するのだ。
昨晩は虎の背に乗って2回ほど滅亡の谷に落ちてしまった。
後始末が悪いのは善処します。
「おはようカーリナ、今日も早いね、今は何時かな」
「ん?一の鐘が鳴りましたので遅いくらいです。
これからお湯と朝食を取ってきますので支度をお願いします」
そう言うとカーリナは昨夜自分が床に脱ぎ捨てた下着を拾い、
全裸の自分に手渡した後、部屋から出て行った。
自分はまだ眠いというのに、カーリナは朝から元気な娘だ。
何時かという問いに一の鐘と言っていたが、時を告げる鐘があるのだろうか。
下着を穿き、目覚めの一服をしながら窓の外を見ると、空が白んでいる。
一の鐘というのは夜明けを知らせるものだろう……二度寝したいな。
廊下から『師匠』と呼ぶ声がしたので扉を開けると、
お湯の入った桶で両手がふさがったカーリナが立っていた。
腕に手ぬぐいを掛け、脇には大きなパンを挟んでいる。
落とさぬようにしっかりと脇に挟まれているパンは、しっかりと潰されていた。
カーリナから桶を受け取り顔を洗う。
目は覚めたが、ゆくりなく虎も一緒に目覚めてしまい、
朝からすっきりしたい考えに囚われた。
ここはひとつ師匠命令で、カーリナには部屋の外で待ってもらって、
その間にササッとすっきりしよう。
下着に手をかけているところに、ユホがやってきてしまった。
「ヒデキさん、おはようございます。
あれ?どうしたカーリナ、廊下で突っ立ってないで部屋に入ったらどうだ」
「おっ、おはようございます――ユホさんも早いですね」
腰まで下ろしていた下着を急いで穿き直す。
「いえ、既に一の鐘が鳴ったので遅いくらいです。
早速ですが、こちらが昨夜お伝えしました懸賞金です。
5千ラルの大金なので、手続きに時間がかかってしまいました」
2人が口を揃えて遅いと言うとは、
日々の生活において一の鐘は余程重要なのだろう。
ユホから袋を受け取り、
口を縛っている紐を緩め、逆さにして中身を机に出す。
ジャラジャラと音を立て銀色のコインが数十枚現れた。
数えると銀貨50枚、ということは銀貨1枚で100ラルのようだ。
こちらの貨幣価値がわからないが、5千ラルとはどれくらい大金なのだろう。
カーリナの脇からパンを引き抜くついでに、助けを求める。
「カーリナ、この宿なら5千ラルで何泊できるかな」
「えっ、あっはい、ここは一泊300ラルなので……えーっと――」
自分の問に困った表情でカーリナが指を折っている。
3本ずつ指を折っていることから、どうやら割り算ができないようだ。
足し算で答えを導こうとしているカーリナを見兼ね、
自分の質問の意図を理解したユホが援護する。
「ヒデキさん、相部屋で食事が付かない安宿ですと一泊100ラルです。
食事代も含め、冒険者が生活するには一日最低でも200ラル稼ぐ必要があります」
「そうすると、この大金は駆け出しの冒険者の25日分ということですか」
まだ指を折って計算しているカーリナにこの宿なら約16日泊まれると伝える。
ユホが言う相部屋の安宿を、元の世界のゲストハウスだと仮定すると、
一泊100ラルは日本円にして3~4千円ぐらいか。
いや、そうすると食事代100ラルも3~4千円になってしまう。
冒険者は体が資本だと思うが、流石に一日の食事代としては高すぎるか。
駆け出しの冒険者が稼げる程度の生活費なのだから、
200ラルは5千円ぐらいと見積もっておこう。
元の世界の貨幣価値に換算したところで然程意味はないが、
1ラルは約20円、そうすると懸賞金は10万円となる、大金といえば大金だな。
カーリナの脇にサンドされていたパンを食べながら、本日の予定を聞く。
まずはカーリナ、ユホと共に冒険者ギルドに向かい、そこで登録手続きを行う。
その後、ここキュメンの街を案内してもらえるとのことなので、
ドロップアイテムを売却、武具は勿論、生活用品も忘れずに購入しておきたい。
できれば迷宮も入っておきたいものだ。
「ドロップアイテムは冒険者ギルドで買い取ってもらえます。
生活用品はここ第2管理区、武器や防具は第3管理区で売っています。
5千ラルもあれば、ヒデキさんが今必要とされる物は揃えられるでしょう」
「ユホさん、その管理区ってなんですか」
「冒険者の街は迷宮を中心に造られ、均等に3つに区分されています。
これは迷宮が地上に出現した後に、街が造られるためです。
街の南は教会によって田畑と穀倉が管理され、第1管理区と呼ばれています。
この宿があるのは街の東に位置する第2管理区でして、
冒険者ギルドが管理する宿屋、食堂の他に、
日用品、食料品、衣料品を取り扱う店が軒を並べ、生活必需品が買えます。
最後の第3管理区は街の西側で、騎士団が薬師ギルド、戦士ギルド、
鍛冶師ギルドなどの多種のギルドを管理しています。
また鍛冶屋、鍵屋、武具屋などがあるので、冒険に必要な装備が揃えられます」
そうすると、効率よく買い回りするとなると、
今いる宿屋が第2管理区なので、生活用品の購入が先か。
その後、街の中心にある冒険者ギルドで登録手続きを済ませ、
最後に第3管理区で武器と防具を購入しよう。
鍵屋もあるようだが、金物を扱う鍛冶屋が鍵屋を兼ねているのだろうか。
宿屋暮らしは当分続きそうなので、今のところ金物は不要だな。
「そうですか、ではギルドへ向かう前に生活用品を買いに行きましょう」
「いいえヒデキさん、朝のギルドというのは混み合うものでして、
特に魔力禍によって、このキュメンにも多数の冒険者が転移してきました。
ここ数日は、順番待ちのための行列がギルド建物の外まで続くほどです。
手続きは買い物前に済ませた方がよいでしょう」
「いや、混んでいるからこそ後回しに――」
「さぁギルドへ行きましょう」
そう言ってユホは部屋から出て行った、どうしてもギルドに行きたい様子だ。
そんなユホを見たカーリナが、何かを理解したのか呆れた表情をしている。
「師匠すみません、まずは冒険者ギルドからでお願いします。
買い取ってもらうアイテムは、こちらの袋でよろしいですか」
そう言って袋を担いでカーリナも部屋から出て行ってしまった。
カーリナの脇サンドパンの残りを口に放り込み、自分も部屋を後にする。
冒険者ギルドへの道すがら、キュメンについてカーリナが説明してくれた。
「ここキュメンには約500人の人が暮らしています。
冒険者の街としては中規模ですので、ある程度のものは揃います」
「タバコを買いたいんだけど、どの店で売っているかな」
「んー、タバコですか……ボクはわかりませんねー、ユホ兄さんはどう?」
「そうですねー、薬師ギルドか雑貨屋だと思いますが」
「わかりました、カーリナ、あとで薬師ギルドと雑貨屋への案内もよろしく」
「ヒデキさん、もし買えないようでしたら、
近くにキリルというキュメンよりも大きな街がありますので、
そこまで足を伸ばしてみるのもいいかもしれませんね」
***
冒険者ギルドに到着すると、建物前の人だかりを整理している女性がいた。
白シャツに紺色のベストとパンツのセットアップ、
左胸元にはネームプレートのようなものを付けているからギルド職員だろうか。
「カーリナ、あの人ってギルド関係者かな」
「はい、あの人はギルド職員の――」
「クラウディアさーん!おはようございます」
「あっユホ君おはよ、今日も来たの?」
「クラウディアさんに会いに来ました」
「嬉しいこと言ってくれるわね、ありがと」
女性の一言にユホがデレデレしている。
彼女に会うため、朝から混んでいるギルドに来たかったのか。
確かにブラウンのマッシュショートが似合う可愛らしい女性だ。
ベージュメッシュが入っているが、
こちらの世界にも美容院があるのだろうか。
頭に動物の耳を模したカチューシャを付けているのが、
自分が持つ職員像とはかけ離れている。
だらしないユホを見ていると、カーリナが説明してくれた。
「あの人はユホ兄さんがご執心のクラウディアさんです。
任務でキュメンに来たら、必ず朝からギルドに立ち寄っています。
クラウディアさんのような可愛い獣人さんがユホ兄さんの好みなんです」
カチューシャではなく本物の耳だったようだ。
獣人と言ってもほとんど人間と変わらない容姿だな。
ペンギン村とは違うようだ。
確かにギルド前の人だかりの中にも、
クラウディアさん同様、頭から耳が生えている人がいる。
ここに来るまでにもちらほら見かけたが、
てっきり近くにテーマパークでもあるのかと思っていたが、
彼らも獣人なのだろう。
正面からはわからなかったが、
クラウディアさんに太い尻尾が付いている。
スキルを使ってクラウディアさんを鑑定してみよう。
クラウディア 獣人族/リス耳 女 23歳 村人 Lv.1
リス耳は聞き馴染みがないが猫耳みたいなことか。
18歳のユホにとって、
ちょっと年上の綺麗なお姉さんと他愛ない会話をするだけでも、
朝早くからギルドに来る価値があるのだろう。
それも好みのタイプならなおさらだろう。
それにクラウディアさんはリス耳で可愛らしい見た目をしているが、
ギルド職員に就くぐらいなのでしっかり者の性格なのだろう。
ユホはこの外面と内面のギャップにコロッとやられたんだな。
青春だなー。
鼻の下を伸ばしているユホは放っておいて、
手続き用の行列にカーリナと二人で並ぶ。
ゆっくりとだが列が進み建物内に入ると、中は大勢の人でごった返していた。
自分達の後ろにも次々と人が並んでいる、聞いた通り朝のギルドは混むのだな。
やはり買い物を先に済ませた方が良かったなと後悔しながら、建物内を見渡す。
自分が並んでいる列の先にはカウンターがあり、複数の受付があるようだ。
いわゆるフォーク型並びだった。
入口から見て右側の壁には掲示板がある。
依頼書が貼られているのだろう、掲示板の前に冒険者達が集まり、
なるべく報酬が高い依頼を選りすぐっているようだ。
建物の左側にはテーブルが幾つもあって、会話している冒険者達が見える。
本日の探索階層や、戦術の作戦でも立てているのだろう。
順番待ちの列にならんでいると、入口付近がなにやら騒がしい。
騒ぎの方へ振り返ると、男達5人に絡まれている一人の女性が視界に入った。
黒髪のミディアムロング、服装はスクエアネックの長袖カットソーに、
丈の長いスカート、足元はショートブーツで、全て紫烏色で揃えている。
黒を基調とした装いが、腰に携えた剣を際立たせている。
あの女性も冒険者なのだろう。
「おいおい、どーしてキュメンに化け物がいるんだ」
「お前も飛ばされてきたのか」「こいつ人間を襲いに来たんじゃねーのか」
「もう出て行くんだから、アタシに構わないでよ」
「化け物の分際で、人間サマに口答えするんじゃねーぞ」
「ここは俺達人間サマの街だ」「化け物は出て行け」
「人間以外の種族は全て化け物だ!」
ここからは耳は見えないが、あの女性も獣人族なのだろうか。
どこの世界でも差別はあるのだなと思っていると、カーリナが口を開く。
「あれはトリヴルツィオ派の連中ですね。
人族至上主義を教義に掲げ、ああやって他種族を差別するのです。
師匠はここで待っていてください、あの女性を助けに行ってきます」
助けに向かおうとするカーリナの首根っこを押さえ、状況を見守っていると、
立派な髭を蓄えた小柄な男が一人、差別男達に近づいていくのが見えた。
「おいお前ら、今のは聞き捨てならんな、経典もまともに読めんのか」
「ドワーフはすっこんでろ!」「短足のおっさんは家で鉄でも叩いてな」
差別男達はドワーフの忠告に聞く耳を持たず、食ってかかっている。
ドワーフは悠然たる態度で差別男達を睨んでいる。
「あれ?どうしてローレンツさんが……」
「ん?カーリナの知り合いか」
「はい、ヴァルケアという街で鍛冶師をされているローレンツさんです。
でもどうしてキュメンに……」
ドワーフの鍛冶師に知り合いがいるなんて、これは良いことを聞いた。
お近づきになって武器でも作ってもらおうかと考えていると、
鍛冶師のローレンツという男と差別男達5人の乱闘が始まった。
オレンジブラウンのドレッドヘアのローレンツは男達よりも頭一つ小さいが、
臆する様子もなく、男達5人全員を相手にするようだ。
1人の男が襲いかかろうとローレンツの間合いに入った瞬間、
男の踏み込んだ足の膝をローレンツが体重を乗せて蹴り抜いた。
バキッ!と嫌な音が鳴り、男が悲鳴と共に床に倒れた。
倒れた男のズボンから白い物が突き出ている。
別の男が殴りかかるも、その拳を片手で受け止めると、
ローレンツは自分に引き寄せながら、男の顔に頭突きを入れる。
ゴンッ!と良い音が鳴り、男が膝から崩れ落ちた。
倒れた男の顔面は真っ赤になっている。
2人を倒されたことに怒ったのか、はたまた恐怖からなのか、
ローレンツの背後にいた男が、叫び声を上げながら飛びかかる。
体を旋回させたローレンツの裏拳が男の顎を打ち抜いた。
ガコッ!という音の後、
男の口から小さな白いものが幾つも飛び出し、
放物線を描き床へと落ちた。
顎を打ち抜かれた男が藁をも掴む感じで味方の男の服を掴み、
二人して床に倒れる。
巻き添えで倒れた男にローレンツはゆっくりと近づき、
躊躇なく男の腹を踏みつけた。
ゴリッ!という音の後、
男は色付いた液体を吐きながら、のたうち回っている。
次々と男達が沈み、窮地に追いやられた最後の男が剣を構える。
武器らしい物を持っていないが、ローレンツにたじろぐ様子はない。
近くにあった4人掛けのテーブルを片手で持ち上げると、
剣を構えている男に叩きつけた。
テーブルは壊れ、その下敷きになった男は泡を吹いている。
ローレンツが圧勝したタイミングで、
ギルド奥から1人の男が忠告にやって来た。
クラウディアさんと同じ紺色の服装なのでギルド職員だろう。
「おい貴様ら!騒ぎを起こすなら騎士団へ突き出すぞ」
「もう終わった、止めるのが遅いぞエーダム」
そう言うと、ローレンツは伸びきった男達を次々と建物の外へ投げ捨てている。
「これに懲りたら、もう二度と変なこと口にするんじゃねーぞ。
ほれ、持ってけ治療代だ」
ローレンツが胸元から小袋を取り出し男達に投げつけるのを見届けた後、
忠告しに来たギルド職員が話しかける。
「この騒ぎはローレンツが原因かー、朝から揉め事を起こすなよ」
「わりーわりー、あいつらの態度が目に余ったものでついな。
それによー、俺は嬢ちゃんが絡まれてたところを助けに入っただけだ、
悪いのはあのバカ共だ」
「どこにそのお嬢さんがいるんだ」
「えっ、あれ?さっきまでここにいたんだが、ハハハどっか行っちまった」
「ハハハじゃねー!テーブル代は請求するからな」
騒ぎが収拾すると、野次馬が散り散りになっていく。
「カーリナ、あの人強いな」
「ローレンツさんは鍛冶師ですが、元騎士団員です。
団長と同じ部隊に所属し、今でもその武勇を謳われています」
「へーそうなんだー、そんな人が今は鍛冶師をやってるんだ」
「そうなんですよ、ローレンツさんは副団長にまでなったんですよ。
そんな人が騎士団を辞めるだなんて、ボクには考えられません」
カーリナと話しながら列に戻ろうとすると、順番が抜かされていた。
並び直すのかと辟易していると、
「こちらでも受付ます。まずは冒険者登録の方からお並びください」
受付カウンター内からクラウディアさんが声を上げる。
クラウディアさんの声に反応して動いたのは自分だけだ。
カウンターの前からユホがこちらに声をかけてきた。
「ヒデキさーん、こっちですこっち」
「はいはい、行きます――えーっと、冒険者の登録をお願いします」
「ではこちらに手をかざしてください」
クラウディアさんがカウンターの上に石板を置く。
石板は白色にわずかに黄みがかっているので、
卯の花色といったところだ。
手をかざすと石板から青白い模様が浮き上った。
クラウディアさんがその模様を見て、
「えーっと、ヒデキ……トモ?……トモナ、トモナーガ……さん……
ですね。登録は以上です」
「えっ!もう終わり?」
「はい、冒険者登録は完了です、登録料として500ラルを頂きます」
自分は読めないが、この青白い模様がこの世界の文字なのだろうか。
クラウディアさんもちゃんと読めていないようだが、
文字が読みにくいのだろうか。
いや自分の名前が珍しく読みにくいだけだろう。
この世界の難読苗字みたいなものか。
名前だけにしては読めない文字が多いので、
名前以外にも何か書かれているか、覗き見ているカーリナに後で聞いてみよう。
それにしても騎士団団長から聞いていた通り、冒険者登録は簡単な手続きだ。
この簡単過ぎる手続きに500ラル、1万円相当も支払うのか。
名前を読み間違えられて金を取られると思うと悔しいな。
銀貨5枚をカウンターに出す。
「はい確かに500ラル頂きました。
こちらが認識票の引換券です、これを持ってお待ちください」
「師匠、登録おめでとうございます。
続けてこちらも買い取ってもらいましょう」
カーリナがカウンターに魔物のドロップアイテムを並べる。
キャタピラーの糸もゴブリンの火打石も買い取り額は1個5ラル、
23個で115ラルの買い取りとなった。
オーガキングの鎧通しは武器屋での売却を勧められた。
クラウディアさん曰く、武器屋の方が武器の買い取り額が高く、
鎧通しなら3千ラルは下らないらしい。
苦労しただけあって、オーガキングのドロップアイテムは高価だった。
武器としてどう使うかわからないが、資産として持っておくことにしよう。
ついでに、漁村の子供達から貰った貝も売ろうとしたが、
冒険者ギルドではドロップアイテム以外の買い取りは行っていないとのこと。
糸と火打石を売却し、銀貨と大銅貨を各1枚、それと銅貨5枚を受け取る。
他のアイテムとして大きな豆があったはずだが、あれ以来見ていないな。
スウェットのポケットに入れっぱなしだ、洗濯したがまだ入っているだろうか。
一応、買い取り額を聞くと45ラルとのこと。
豆にしては高いが微妙だな。
「師匠、あとは魔玉を購入してください、絶対に必要です。
それと薬草と毒消し草も3つずつ買ってください」
「締めて340ラルです」
カーリナの言葉を聞いたクラウディアさんが、
カウンター上に直径20cm強の小さく黒い石と、葉っぱ6枚を並べる。
まだ、買うとは言ってないのだがなと思いながら、
クラウディアさんに銀貨4枚を出す。
お釣りの大銅貨6枚を受け取っていると、
カウンター奥から出て来た人からクラウディアさんが何か受け取った。
「こちらヒデキさんの認識票です。
ギルド登録の証明にもなるので、無くさないように気を付けてください」
金属のプレートに何かが刻印されているが自分には読めない。
後でカーリナに聞いてみよう。
先程もらった引換券をクラウディアさんに渡しながら質問する。
「この認識票を無くしてしまったらどうなるんですか」
「その場合は再登録が必要となります、再度500ラルを頂きます」
ぼったくられた気持ちが拭い去れない、500ラルって適正額なのだろうか。
でも手続きから認識票の受け取りまでが素早く終わった、ユホのおかげだな。
当のユホはまだクラウディアさんに喋りかけている。
クラウディアさんの顔が、ユホを連れて帰ってくださいという表情に見えるが、
今日の功績を考慮し、ユホはこのまま放っておいてやろう。
頑張れユホ、すまんクラウディアさん。
出口に向かう途中、カーリナが先程のドワーフに話しかける。
「ローレンツさん、お久しぶりです」
「おお、キュメンに派遣されてたか、ユホもいるのか」
「はい、ボクと一緒に派遣されました、今は――受付さんの所にいます」
「ハハハ、相変わらずだな。
オレはよー、義甥のマルッティが冒険者になるってんで、面倒見に来てんだ」
「そうでしたか――」
しばらく世間話が続いた後、カーリナがローレンツに自分を紹介する。
師匠ですと紹介されて説明に困ったが、
自分が団長の客人だとカーリナが補足すると、ローレンツは何やら納得した。
ローレンツと別れ、冒険者ギルドを後にした。
キャラクター設定
クラウディア/村人Lv.1
冒険者ギルド職員(キュメン)
種族:獣人族/リス耳 性別:女 年齢:23歳 瞳:ブラウン
髪型:マッシュショート、ブラウンにベージュメッシュ
一人称:私
家族:独身
ユホに好意を持たれているのが迷惑、無下にできないので困っている。
エーダム/冒険者Lv.50
冒険者ギルドマスター(キュメン)
人種:人族 性別:男 年齢:43歳
ローレンツとは旧知の仲
ローレンツ/鍛冶師Lv.19
ヴァルケアの鍛冶師(元騎士団副団長)
種族:ドワーフ 性別:男 年齢:41歳
身長:150cm 瞳:ブラウン 一人称:俺
髪型:オレンジブラウン(ドレッド) 髭:あり
装備:鎖帷子、鋼鉄の斧(両刃)
家族:妻エミー(死別)歌が好きな女性
息子ライノ(双子の兄、20歳)、騎士団(南部沿岸)
娘アイノ(双子の妹、20歳)、鍛冶師Lv.1
5年前に妻エミーが病死、最後の言葉は『ありがとう』と『子供達をお願い』。
ローレンツは仕事にかまけ、子供のことを何も知らない事に気付かされる。
妻の葬儀には騎士団が来てエミーの好きな歌を皆で歌った。
数か月後、騎士団を退団し鍛冶師になる。
エミーの最後の言葉が心残りのまま、今年、ライノが騎士になった。
エミーの妹から義甥(15歳)の面倒を見てくれと依頼を受ける。
義甥の面倒をみることでエミーとの約束を果たそうとキュメンに来た。
その他設定
宗教
ランタニア大陸の人々は一つの宗教、ヴァンナ教を信仰している。
ヴァンナ教
今から500年前に生まれ、時代と共に分流し、現在10の宗派が存在する。
トリヴルツィオ派
ヴァンナ教の一つ、10の宗派の内、最も近年に生まれた宗派。
信仰心が強い人族が多かったことから、徐々に他種族を排斥するようになり、
現在では信者は人族のみという形となった。
一つの種族だけが信仰する宗派はこのトリヴルツィオ派のみ。
他の宗派にはない特殊な信仰を続け、他種族を排除する考えが主流となり、
現在では人族至上主義を掲げるようになった。