雪の太鼓
雪の吹き荒ぶ白い森の中で、男は太鼓を叩き続けている。
太い丸太に穴を開け、動物の皮を張っただけの、何の工夫もない太鼓。
男は太鼓を叩いている。
その単調で大きいだけの音。
誰にも届かない太鼓を、男は叩き続けている。
俺はここに居るぞ。
男は自分がここにいる、ということを示すために太鼓を叩いている。
同時に誰の耳にも届かないことを知っている。
そう、誰もいないのだ。
男の太鼓を聞くものなど。
誰が男を笑えるだろう。
男は疲れ果てるまで太鼓を叩き、やがて誰も居ない家に帰る。
明日も太鼓を叩くために眠りにつく。
その単調で大きいだけの音。