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クローバー②

 店を閉め、3人で公園にやってきた。俺達を取り囲むように数人の屈強な男がさり気なくウロウロしているが、ディルもアンナも気にしていない。


 石畳がぐるっと覆っている中心部は大きな噴水を先頭に、草花が生い茂っている。大都市シェブールで自然を感じられる数少ない名所だ。


 そして、俺達はその地面で四つん這いになり、必死に草をより分けている。


「ない……ない……これも……だぁぁぁ! 金を払ってもっと人増やそうぜ。無理だろぉ……」


 俺がそう叫ぶと近くにいるディルも共感したように頷く。


「それでは意味がありません。お相手のことは存じ上げませんが、花も咲いていない草を貰って喜ぶ人などいるはずがありません。もらって嬉しいのは、渡してくれた人の苦労、汗、そしてその原動力となった想い。そういうところなのではないですか?」


 アンナがとてつもなく人間に見えるほど真っ当なことを言っている。そんなに客が来ない店が暇だったのか。


 そして、アンナの手には既に複数のクローバーがあった。


「アンナ……これ、全部四葉なのか?」


「はい。先程お二人が探していた場所に生えていました。もう少し細かく見て頂きたいものですね」


 そう言ってアンナはディルにクローバーを渡すと自分はまた探しに戻る。


 アンナは地面に顔をこすりつけるくらいに近づけると、蜘蛛のように4本の手足を使って移動しながら素早く選別をしている。見た目は気持ち悪いけれど効率を求めた結果があれなのだろう。


「すごいね……もうこんなに。意外と珍しくないのかな?」


「珍しいさ。十万本に一本って言われてるからな。まぁこんなに広い公園なら探せば見つかるだろうけど、探すのが大変だよ。アンナが言うように見落としだってあるわけだし」


「そっか。じゃあ、これでも十分に奇跡なんだね」


「奇跡?」


「幸運をたくさん集めて束ねたら奇跡になるって言ってたんだ。友達が」


「いいこと言うじゃないか、その子」


「そうだよね! 自慢の友達なんだ!」


 ディルは素直にへへへと笑う。金持ちの子だからと少し斜に構えていたが、中身は子供らしく素直だ。


「じゃ、必死に探さないとな。奇跡っていうくらいなら十本くらい欲しいだろ?」


「う……うん!」


 何よりもアンナが成長していることが嬉しい。


 ひたすら草を選別する作業だが、少しだけ前向きになって取り組めたのだった。


 ◆


 日が落ちてきた。結局、俺とディルは一本も見つけられていない。


「ミシェル様、ディル様。お待たせしました」


「おぉ……すごいな」


「お姉ちゃんこんなに見つけたの!?」


 アンナは両手一杯の四葉のクローバーを持っていた。これだけあれば紛うことなき奇跡だろう。


「お二人の戦果はどうでした?」


「あ……あぁ、一本もな。見つけられなかったよ」


 俺達が探しているところはアンナが先んじて狩り尽くしていたんじゃないかと思えてくる。それくらい見つけられなかった。


「おや……そうですか。ディル様、もう少し頑張りませんか?」


「えぇ……もう疲れたよぉ……」


「一本で良いのです。ディル様の手によって見つけられたものがあれば、お相手の方も必ず喜ばれます」


「そういうものなのかなぁ……」


「あちらの木の根本付近はまだ探しておりません。見てきてください」


「はぁい……」


 幸運を百本は束ねているであろうアンナの指示には逆らえないようで、ディルは素直に木の方へ近づいていく。


「アンナ、さっきあの辺にいなかったか? 一本だけあいつに取らせるためにわざと残してたんじゃないのか?」


「記憶にございません」


「お前が記憶喪失なんてなるわけないだろ。誰がいつ来たか細かく覚えてるくせに」


「はて……私もついに人間らしさを手に入れたのかもしれませんね」


 アンナは恐る恐る笑みを作る。人間らしい心を手に入れつつあることに当の本人も困惑しているのかもしれない。


 今日のアンナは人の気持ちを考えて行動していた。今だってディルの事を考え、彼に成功体験を積ませようだなんて殊勝なことをしている。


 俺も嬉しい反面、不安も覚える。なんだかんだで融通の効かないアンナに好感を持っていた節もあるからだ。


「あった! あったよ! お姉ちゃん!」


「上々です。ディル様、こちらで数えましょう」


 アンナはディルに優しい顔で笑いかけると、ディルが戻ってくるのも待たずにその場にしゃがみ込んで四葉のクローバーを数え始めた。

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