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ストック②

 魔法使いギルドに来るのは初めてだ。


 うちの店には色々な花が入荷するので、鮮やかな色合いが毎日楽しめる。それと同じようにこの魔法使いギルドも、実験用なのか、色鮮やかな魔物達が庭に設置された檻に閉じ込められていて、見る分には綺麗だ。魔物特有の奇声と口から垂れる粘液さえなければ綺麗なのだが。剥製にすればまだ見れそうだ。


 入り口に立っている魔法使いは目があってもニコリとも笑わない。白く長いひげも黒いローブもいかにも魔法使いという出で立ちだ。


「その辺で花屋をやってるミシェルといいます。剥製を作る魔法について聞きたいんですけど、誰か話せる人はいますか?」


 魔法使いはじろりと俺を見てくる。


「私が責任者だ。何用かな?」


 いきなり当たりを引いたらしい。あまり話しやすそうな人でないのが若干の懸念点。


「その……花を枯れないようにしたいんです。剥製を作る魔法を花にかけることはできますか?」


「花に? フンッ。そんな道楽のために魔法を使うというのか? そもそも花は枯れるから良いのだろう? 剥製魔法というのはもっと高尚な生物の展示や研究に用いるために――」


 魔法使いはブツブツと言葉を並べ立てる。要は「金を払えばやってやらんこともない」という事を物凄く遠回しに言っているようだ。


 造花ではなく生花を枯れないように出来るのであれば遠方の花も簡単に取り寄せられるようになる。これはある意味ではビジネスチャンスだ。


 だから、勉強も兼ねて魔法をかける料金は俺持ちで、ダンの花を剥製魔法で枯れないようにしてもらうことにした。プロポーズへの餞別としてはそのくらいは許されるだろう。


 ◆


 店に戻るとダンはアンナの手を握り、至近距離で目を見て話していた。


「戻りましたよ」


 俺が背後から声をかけるとダンは驚いた様子でアンナから離れる。こいつ、もしかしてアンナを口説いていたんじゃないだろうか。


「おかえりなさいませ。ダン様はお花を決められました。赤いストックが良いそうです。魔法使いギルドでの首尾はいかがでしたか?」


 アンナは顔色一つ変えずに俺を出迎え、自分の首尾を報告してくれる。


「あぁ、やってくれるってさ。今から花を持っていってくるよ。プロポーズの日には受け取れるように整えておくから今日はひとまずモノはないけどな」


「ほ、本当か!? ありがとう、ミシェルさん!」


 ダンはさっきまでアンナの手を握っていたその手で俺の肩を叩いてくる。調子のいいやつだと思う反面、若干イラッともする。


「いいんですよ。『彼女さん』にきちんとプロポーズしてくださいよ。うちの看板娘じゃなくてね」


 こいつのチャラさだと手当り次第な気もしてしまう。本当に結婚して大丈夫なのか? と老婆心ながら思いもする。


「あ……あはは……それじゃ、また!」


 ダンは苦笑いをして逃げるように去っていく。


 アンナは俺達のやり取りが理解できなかったようで首を傾げている。男同士の話なので分かる必要もないだろうが。


「あいつに何かされなかったか?」


「何か、というのは具体的にどのようなことでしょうか?」


 アンナは無表情で俺に尋ねる。


「例えば、愛の言葉をささやかれたり、体を触られたりとか、そういうのだよ」


「されましたよ。プロポーズの練習をしたかったそうなので、キスの手前まで」


「おっ……おい! マジかよ!?」


「冗談です」


 アンナは真顔でそう言う。


「お前……冗談とか言えるようになったんだな……」


「ミシェルさんに『体を触られたか?』と聞かれたら先程の台詞の後、『冗談です』と言えとダン様がおっしゃったので、そう答えました」


「あの野郎……殺してやる……」


 アンナは花を整えるためのハサミを俺に渡してくる。


「あ……本気じゃないからな」


「難しいですね」


 アンナは真顔で首を傾げると店内に引っ込んでいった。


 ◆


 

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