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MVP

忠司は、綺麗に票を振り分けた。


7美智子←俊三、茂男、喜美子

14武←正成、由子、貞吉

16敏男←美智子、忠司、憲子

1俊三←昭三

2茂男←恵子

3喜美子←敏男

4正成←富恵

6貞吉←政由

10昭三←武

11明子←浩二

15昌雄←源太

18浩二←昌雄

19政由←明子


「名前の前に番号も書いておいたから。」忠司は、書き終えて皆を振り返った。「全員、自分の名前の前に書いてある人の番号に入れてくれ。これで、今決めたように票が振り分けられるはずだ。後は、ドクター達の票だが、どう流れるかは分からないな。あちらも票を操作してるんだろうか。」

すると、また腕輪が答えた。

『こちらは、誰が誰に入れるのか、全く分かっていません。なので、皆さんが思う通りにならない可能性もあります。』

あっちはガチらしい。

なんなら、もう投票を終えている可能性まであった。

『投票を始めますか?』

腕輪が言うのに、忠司は皆を見た。

「いいか?もうこれで始めるぞ。」

浩二が、手を振って言った。

「時間を使っても仕方ない、早いとこやってくれ。金をもらったら新しいクワを買いに行きたいんだよな。」

クワかよ。

浩二は、妻を亡くしてからずっと畑仕事に精を出しているのだ。

確かに、クワの木の持ち手がかなり痛んで来ていた。

忠司は、苦笑しながら腕輪に言った。

「こっちはオッケーだ。」

腕輪が、頷いたように感じた。

『では、投票を始めてください。』

全員が、腕輪を開いて自分の受け持ちの番号をせっせと入力した。

憲子は、茫然と力が抜けたような顔をしていたが、夫の昭三が憲子の側に行って、代わりに入力してやっていた。

恵子はというと、せめてしっかり投票しなければと思ったのか、きちんと入力していた。

『…こちらの投票もしております。しばらくお待ちください。』

あっちも今やってるのか。

皆、ドキドキしながら待った。

もしかしたら、向こうからの評価は案外に良かった人が居るかもしれないのだ。

そうなると、こちらで決めた以外のMVPも決まる可能性があった。

そのまま、皆が固唾を飲んで結果を待っていると、声がまた唐突に言った。

『結果が出ました。表示します。』


1俊三→4

2茂男→1

3喜美子→1

4正成→3

5由子→0

6貞吉→1

7美智子→5

8忠司→4

9憲子→0

10昭三→4

11明子→1

12源太→0

13富恵→0

14武→5

15昌雄→3

16敏男→4

17恵子→0

18浩二→1

19政由→5


結構割れてる…!

俊三は、思って見た。

画面をスクロールして結果を確認して行ったが、どうやら5票が最多得票で、ドクター側では政由に票が多く集まったようだった。

『MVPは、上位三名です。5票の得票がある、7番美智子さん、14番武さん、19番政由さんの3人に決定しました。』

ということは、政由は勝利陣営でもあるので、最多の報酬になる。

「え、オレ?!」政由は、驚いたように腕輪を見つめた。「マジか。」

声は、続けた。

『続きまして最下位の発表です。0票の、5番、9番、12番、13番、17番の五名のかたになります。皆様には、参加賞だけお渡し致します。』

それでも、8日間ゲームに付き合っただけで10万円だ。

中には、初日に離脱した人も居るので、臨時ボーナスとしては良い方だろう。

腕輪は、続けた。

『それでは、長い時間お疲れ様でした。これで、この度の健康診断及び自己啓発ゲームは終了となります。腕輪が、取り外されます。』

その声と共に、あれだけぴったりと腕の皮膚に張り付くように取れなかった腕輪が、急に弛んでポトリと膝の上に落ちた。

皆が慌ててそれを拾い上げると、腕輪が最後に言った。

『この腕輪と賞金が引き換えになりますので、皆様もう一度追放者が滞在していた場所へと来て頂きまして、そこにある箱に腕輪を投入してください。下から、腕輪の番号を読み取って報酬の入った袋が落下します。それでは皆様、この度はありがとうございました。』

追放者達が滞在していたのは、忠司の家。

忠司が、立ち上がった。

「よし、じゃあオレの家に行こう。やっと終わったな。」

全員が、立ち上がってそれに従った。

ドクター達には、会えないのだろうか。

俊三は、最後に一言感想とお礼を言いたかったが、不思議ともう会えないのだろうと分かっていた。


忠司の家に戻ると、大きなリビングの真ん中に腕輪が言っていた箱が鎮座していた。

忠司が進み出てそこの上にある小さな穴から腕輪を入れると、下の細長い開口部から封筒が落ちて来た。

『8』と書いてある、分厚い封筒だった。

忠司は、中を見て言った。

「…札束が入ってるぞ。」

それを聞いて、皆が次々に自分の腕輪をそこへ投入して行った。

全員にきちんと封筒が出て来たが、やはり言っていた通り最下位とランク外の敗者には、十万円だけだった。

それでも、結構な臨時収入だ。

俊三は、自分の封筒の中に帯がついた札束と十万円を見て、何やら現実味がなかった。

だが、そろそろ車を買い換えたいと思っていたので、それを買うべきかと頭は勝手に使い道を考えてしまっていた。

忠司が、言った。

「…オレはさっきも言ったように要らない。」と、敏男を見た。「それより、これは敏男がもらえよ。オレは参加賞だけもらっとくよ。」

敏男は、封筒を押し付けられて、慌てて押し返した。

「お前がもらったのに!いいって、ほんとに。」

忠司は、首を振った。

「ボケててみんなに迷惑掛けてたしな。みんなで敏男も選んでいたのに、ドクターの投票で漏れたんだから受け取ってくれ。」

政由が、頷いた。

「オレも、二百万も要らないよ。それより恵子さんと富恵さんで分けてくれ。勝ったのに参加賞だけだろ?」

恵子は、札束を渡されて困った顔をした。

「でも…せっかくもらったのに。」

政由は、笑った。

「オレはいいよ。百万あるし。ここは近所のよしみでみんなで分けよう。」

憲子も同じ村人陣営だったが、政由は憲子に分けろとは言わなかった。

恵子は頷いて、富恵と二人で嬉しそうに札を数え始める。

俊三は、箱を振り返った。

「これはどうするんだろう。」

忠司は、肩をすくめた。

「また取りに来るんじゃないか?口止め料みたいなのかもな。そもそも、オレ達はこのまま四ヶ月ぐらいはじわじわ元に戻り続けるけど、今は若いわけだろう。もしかしたら、一般的じゃない薬だから、このまま外に出たらまずいのかもしれない。」

喜美子が、え、と封筒から顔を上げた。

「それって、ヤバいってこと?」

忠司は、困ったように笑った。

「みんなが観戦してる時に腕輪に聞いてみたけど、まだ世間に知られていない薬だから、実験動物みたいに調べられる可能性もあるらしいぞ。出来たら目に見えて若い間は、本人だとわからない方が面倒に巻き込まれずに済むとか言ってたな。あり得ないほど若いからな。」

恵子が、深刻な顔をした。

「だったら…娘だとか言っておこうかな。あちこち調べられて気持ち悪い思いはしたくないし。静かに暮らしたいからここに来たのに、いろんな人が見に来るかもしれないわけでしょう。」

忠司は、頷いた。

「そうだな。それが賢い方法だ。とはいえ、一月もしたらちょっと若返ったくらいになるみたいだから、そんなに籠らなくて大丈夫だろう。」

俊三は、新車は後にしよう、と思っていた。

動物園のチンパンジー並みに見に来られたらたまらない。

恵子が言うように、静かに暮らしたいからここに来たのだ。

「パソコンなんかどうだ?」貞吉が、言った。「忠司は持っててちょっと教えてもらったけど、案外簡単なんだ。この歳だからとあきらめてたが、やればできるしまだまだやれる。先生は見た目だけで中身は変わってないって言ってたが、その中身でも全然できた。賞金あるし、みんなで買ってオンラインゲームでもしないか。」

パソコンか…いいかもしれない。

俊三は、思って封筒を握りしめた。若い頃はサクサクと使っていたパソコンも、段々に高性能になって来て、今では無理だと使ってすらない。

ひと昔前のパソコンでは、もう今の膨大なデータを処理し切れなくて、全く役に立たなかった。

なので、スマートフォンは使うのだが、機能を十分に使い切れてはいなかった。

だが、やらなかっただけで、やればできるのかもしれない。

忠司が、ハッハと笑った。

「オレが教えてやるよ。もうボケてないしな。オレの場合はアルツハイマー型認知症ではなかったらしくて、脳がまだ無事だったからまたボケる事は無いと思う。今の医学は凄いよな。上手い事治療したらあっさり治るんだから。」

それから、忠司の最新型パソコンをみんなで囲んでどう使うのかと興味津々で説明を受けて、昼食もそこで食べて、夕方まで和気あいあいと楽しんだ。

憲子も美智子や恵子に促されて輪に加わり、ゲームの記憶は遠くなり始めていた。

それでも、あの愛想の良いドクター達は、やはり声さえ聴くことはなかった。

だからと言って、誰ももう、その事について言い出す人は居なかった。

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