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MVP投票

まずは、勝利に貢献した人達の名前を皆で上げて行った。

前には忠司が立って、ホワイトボードに記入して行く。

皆から挙げられたのは、まず最終日まで生き残った俊三、政由、武、昌雄の四人だった。

しかし、そのうちの三人は勝利陣営で既にとりあえず百万円はある。

なので、武が残ることになった。

狼陣営からは、騙りに出て奮闘した美智子をどうするかで議論が紛糾した。

確かに頑張ってはいたものの、イレギュラーな計画を立てた事実は消せず、保留になった。

俊三が、ふと言った。

「そうだ、昭三。」と、昭三を見た。「昭三はどっちだ?オレ達は真霊能者だったと思ってるけど、そうなのか?」

昭三は、頷いた。

「そうだ。オレが霊能者だよ。狂人は由子さんだ。」

政由が、身を乗り出した。

「だったら聞きたかったんだよな。どうして由子さんは狼にとって不利になると分かってたのに、真っ先に霊能者に出たんだ?あそこは潜伏だろう。」

由子は、渋い顔をした。

「そう言って真を取って、決め打ちさせようと思ったの。狂人は生き残って狼を補佐する方が良いでしょ?結果を騙れば村を混乱させられるし。ローラーされるならされるで縄を消費できるし良いかと賭けに出たら、見事にハズレた感じ。結局狼を追い詰めちゃった。」

俊三は、頷いた。

「だったら昭三はいいか。あれで昭三が参加賞だけなのはあんまりだと思ったから。狂人でも真を取ってたし、MVPにしたらと思ったんだけど。」

昭三は、クックと笑った。

「オレは村だから必要ない。それより、狼達にあげて欲しいな。美智子さんは保留になってるが、女性があの中で一人戦うのは大変だっただろうし、残してあげたい気分だ。」

武は、頷く。

「オレが最後まで潜伏できたのも美智子さんが頑張っていたからだ。オレが入るなら、美智子さんも入れて欲しいと思うけどな。」

美智子は、あちこちから庇われて、気丈な方なのに涙ぐんだ。

「私は…でも、あんなことをしたのに。」

忠司が、言った。

「仕方なかったからだと聞いた。源太、お前いろいろごねてたらしいじゃないか。説得が大変だったと聞いてるぞ。」

源太は、顔を赤くした。

明子が、嫌そうに横に居たが、それは源太が横に座って来るからのようだった。

「オレは…でも、最後には狼勝利を目指して頑張ってたぞ!」

武は、苦笑しながら頷いた。

「まあ、確かに二人になった後は源太は頼もしかったよ。でも、まだ明子さんが居た時はうるさかったじゃないか。美智子さんが苦労してたのは知ってるぞ。」

源太は、口をつぐんだ。

明子が、もう辛抱たまらないという風に急に口を開いた。

「あなたね!ほんと、いい加減にして!若くなってから貞吉さんがどうのって、それどころじゃなかったわ!貞吉さんは占い師だったし、女性がどうの余裕が無くて見てなかったわよ!それなのに、貞吉さんがカッコいいからって色目を使ってるとかなんとか!ほんと、これまでも大概我慢してたけど、もううんざり!これが終わったら、真美の所に行こうかと思ってるところよ!」

真美とは、二人の一人娘だ。

今は関東の郊外に家を建てて住んでいて、その土地は元々二人が住んでいた真美の実家だった。

つまり、土地は生前贈与した物なのだ。

当初は一緒に住むつもりだったらしいが、源太が二人で田舎に住みたいと言い出して、こちらに後々別荘として使うためにと今の家を買った。

どちらか一人になったら、娘の家に移るつもりだと言っていたのだ。

それを、明子は前倒しで一人で戻ると言っているのだ。

源太は慌てて言った。

「そんな!せっかく二人きりで生活できてるんじゃないか。ここで介護が必要になるまで住むつもりで…。」

明子は、ブンブンと首を振った。

「今も言ったでしょ、もううんざりなの!若い頃から子育てしてても真美にまで嫉妬して全く手伝ってもくれなくて!大きな子供だったじゃないの!だから二人目なんか生めないって断ったのよ!どうして分からないの?あなた、私に執着し過ぎなの!とっくにあなたなんか恋愛対象じゃないわ!ここまで来たから仕方なく一緒に居ただけ!女友達と会うにもついて来るようなダンナ、自分でもよくこれまで我慢したと思う!」

何十年だもんなあ。

それを聞いて、俊三は思った。

確かに病的な執着だと、みんな思っていたからだ。

明子がキレるのも本当に分かるのだ。

自由が無さすぎるからだ。

とはいえどうしたものかと困って黙っていると、忠司が、冷静に割り込んだ。

「…まあ、家庭のことは後で話し合ってくれ。それより、今は投票先だ。こちらがそう思って居ても、恐らく先生達は勝手に思い思いの所へ入れるだろう。こちらとしてはなんとか思う所に票が集まるように、なるべく多くの票を選んだ人の所へ集めておかなければならない。そして、村勝利に貢献した人達が0票にならないように、そこにも票を投じておかなければならない。一番票を集めるのは、今決めた武と美智子さんとして、次は村陣営だ。誰に入れておく?とりあえず最終日まで生き残った俊三、昌雄、政由の三人は残すとして、他の人だ。」

喜美子が、顔をしかめた。

「私は…初日に噛まれたから。他の人を優先して。」

忠司は、喜美子を見た。

「それでも、君は初日よく回していた。君が噛まれておかしくなったのも確かだしな。後から、なぜ君を守っていなかったのか後悔したぐらいだからな。」

喜美子は、ポッと赤くなった。

「そんな…私は何もしてないわ。」

茂男が、むっつりと言った。

「なんだよ、赤くなって。」

不機嫌になった茂男に、忠司は笑って言った。

「お前も。オレの代わりに噛まれてくれたから狼を油断させられたんだよ。貢献したと思うぞ。」

茂男は、思ってもいなかったようで、これもまた赤い顔をする。

喜美子が、それを見てからかうように言った。

「何よ、あなたも真っ赤よー?」

茂男は、ブンブンと首を振った。

「うるさい!」

俊三が、言った。

「だったら忠司、お前だって貢献してるぞ。狩人だし2グッジョブ出してるからな。」

忠司は、苦笑して首を振った。

「オレはいい。金には困ってない。」

だろうな。

皆が納得して思わず頷く。

嫌味でもなんでもなく、何しろ忠司の家は造りから高級だし他と一線引く金持ちなのは分かっていた。

家具も特注品ばかりだし、最後に妻の加奈子を看取る時も、家に大層な機器を持ち込んで多くの医師や看護師を常駐させて、最後まで家で看取った。

服もしつらえの良い物ばかりだし、時々来る子供達の乗ってくる車は高級車ばかりだ。

金があるのは、なので知っていた。

「じゃあ、他は?」喜美子が言う。「浩二さんも噛まれるまで頑張ってたわよね。それに、昭三さんも自ら吊られて村目線を整えたし。正成さんもいい意見をどんどん落としていたわ。」

正成が、言った。

「敏男のことも忘れるなよ。」と、驚いた顔の敏男を見て笑った。「孤立無援で抵抗できない中、落ち着いてただろう。負け陣営でも、敏男にはMVPに残って欲しいけどな。」

敏男は、慌てて言った。

「いや、オレもう半分以上あきらめてたから。あんな中で一人、どうしろって言うんだって、仕方なく占い師に出ただけだ。最悪初日呪殺も覚悟してたぐらい。」

正成は、首を振った。

「それでも、生き残ろうと出たわけだ。村としては、敏男が出て狂人が出たから、最初から相互占いを推せたし狼を追い詰められたのもあるしな。」

敏男は、ハッハと笑った。

「村勝ちに貢献したからってか。狐なのになあ。」

恵子と憲子は、離れた位置でそんな話し合いを聞いている。

俊三はそれに気付いていたが、わざわざ話題に出そうとは思わなかった。

本来なら、残す人よりも省く人を決めた方が早いのだろうが、そうなると更にこの雰囲気に角が立つので、誰もそうしようとは言わなかったのだ。

忠司は、ホワイトボードに名前を書いて行った。

「じゃあ、MVP候補は武、美智子さん、敏男ってことでいいか?必ずしもこの三人がなるとは限らないけどな。ドクター達の投票がどこへ流れるのか分からないから。」

皆が、うんうんと頷く。

「頑張った人たちにも公平に考えたらそうなるよな。で、とりあず1票でも入れておくのが、今みんなが挙げていた人でいいか?」

俊三が言う。

忠司は、それも書き始めた。

「ええっと、最終日残った人たちだから俊三、政由、昌雄、それから正成、昭三、浩二、喜美子さん、茂男。オレは良いから、他には?」

政由が、言った。

「全員で19票だろ?何人までなら1票ずつ入られるんだ?」

正成が、うーんと唸った。

「最低でも上位に3票ずつとして、9票だろ。ってことは、残り10票だから、あと10人。今上がってるのは8人だからあと2人かな。」

美智子が、言った。

「あの、恵ちゃんに入れてほしい。」皆が驚いた顔をすると、美智子はバツが悪そうに続けた。「結局、私が陥れたようなものだから。恵ちゃんなりに必死だったと思うのよ。頑張ってたの。」

しかし、敏男が言った。

「いや、うちはオレがMVPにしてもらえてるから。世帯で考えたらうちは余ったらでいいよ。理由はどうあれ、みんなに迷惑かけたのは確かだしな。あれでまともなゲームが崩れちまったんだし。」

恵子は、後ろで項垂れている。

忠司は、チラとそちらも見て、頷いた。

「そういう事なら、明子さんを入れるか。」

俊三は、え、と忠司を見た。

明子は、まともな意見を出せていなかったし、それで縄を消費する羽目になったから、とても残そうとは言えない位置だった。

同じように本人も思ったのか、慌てたように首を振った。

「え、私は全く役に立っていないから。それどころか、怪しまれて吊られちゃったし。」

忠司は、それでも言った。

「世帯で考えたら、源太は狼だしMVP候補にも入っていないから、君達の所は何も入らない事になりそうだろう。明子さんの発言が伸びていなかったのは確かだが、これからの事を考えても、お金は必要だろう?」

これからの事、と言われて、源太が隣りでビクリと肩を震わせる。

明子は、確かにそうだと思ったのか、少し考えたが、頷いた。

「…ええ。ありがとう。」

茂男が、言った。

「あのさあ、当然みたいに思ってるみたいだけど、貞吉が真占い師なのに長く孤独に頑張ってたんだし、貞吉も入れようよ。確かに美智子さんと同一世帯だけど、この二人は敵同士で夫婦なのに相談もできなくて、結構イライラしながら頑張ってたと思うんだ。」

貞吉が、顔を上げた。

一向に、自分の名前が出て来ないので落ち込んでいたようだった貞吉だったが、今ので顔を輝かせた。

美智子が、手を前で振って言った。

「そんな!うちはほんとに、私を入れてもらっただけでもいいのよ。」

喜美子が、言った。

「でも…それならうちもだわ。ダンナと私が両方入れてもらってるし…。」

忠司が、苦笑しながら言った。

「今回の賞金は、それぞれのお金だと思ってもらうといいだろう。普通の収入じゃなく、個々人の頑張りで手にしたんだから、どっちかが全てのお金を手にするわけじゃない。つまり、世帯がどうのと考える必要はないってことだ。それぞれ、お金の管理をしている人は違うのだろうが、そういうわけで取り上げるんじゃないぞ?夫婦の金ではなく、個人のお金と扱うんだ。そもそも、参加賞は十万あるんだし、全く無いわけじゃないしな。」

それを聞いて、茂男が顔を輝かせた。

「じゃあ、オレ好きに使えるのか?」

全部喜美子に渡すつもりだったのだろう。

喜美子は、皆の視線を受けて、少し顔をしかめたが、仕方なく頷いた。

「まあ…そうね。」

そうか、夫婦となると、今回賞金が入っても金の管理をしている人が全部持って行く可能性があるのか。

独身になって数年、俊三はそんな事も忘れていた事実に気付いた。

他の夫婦も、何やら渋い顔をしているところを見ると、同じように考えていたようだ。

忠司は、それを考えてああいったのだろう。

皆の微妙な反応を見て、忠司は苦笑して、小さく息をついた。

そして、言った。

「…じゃあ、これで締め切りだ。3票ずつ美智子さん、敏男、武に入れて、1票ずつを俊三、政由、昌雄、正成、昭三、浩二、喜美子さん、茂男、明子さん、貞吉。ってことで、いいな?自分投票とかできないんだろうか。」

すると、いきなり腕輪が答えた。

『自分投票はできません。必ず他の人に投票してください。投票を放棄した場合は、ゲームに参加していなかったとみなして参加賞も出ない事になりますので、必ず投票するようにしてください。』

全部聞いてるんだな。

俊三は思ったが、忠司はもう慣れたのか、頷いて言った。

「じゃあ、誰が誰に入れるのか決めよう。というか、もうオレが指示するから、その通りに入れてくれ。振り分けてくよ。」

忠司は、ホワイトボードに向き直った。

そうして、誰に入れるのか、その名前の後ろに名前を記入して行ったのだった。

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