狼目線2
四日目の朝、誰も死ななかった事でオレ達は初めて、茂男が狩人ではなかったのだと知った。
俊三が生きているのを見た時に、これでヤバイことになった、と思ったものだ。
美智子さんも同じだったようで、バレたらヤバイってのにみんなが準備に部屋へと引っ込んだ後、オレの部屋に押し掛けて来たんだ。
叫びはしなかった。壁が薄いのは知っていたし、いつでも電話でも小声で話していたから、そこは自制して小声だったが、怒り狂っていた。
というか、あれだけ貞吉を噛もうと言ったのに、聞かなかった美智子さんのせいなんだから、文句を言いたいのはこっちだったんだけどな。
あの綺麗な顔でめちゃくちゃ怒られたら、なんか抵抗する気にもなれなくて。結局、自分のミスだったからこっちが責める前にああしてキレて見せて、文句を言わせない作戦だったんだろうけど、独りでみんなの矢面に立って頑張ってるのを知ってたから、分かっててもオレは何も言わなかった。
オレが何も言わないので気が済んだのか、憲子さんと話し合って来るから、あなたは引き続き自分が生き残ることだけを考えて、と言い置いて、美智子さんは出て行った。
共有者の恵子さんが、結構盲目的に憲子さんを信じているのが哀れだったよ。
もちろん、白なのは間違ってないが、あいつは裏切り者なんだ。
美智子さんはそれを利用させてもらうんだと言っていた。
とりあえず、自分は明日貞吉噛みで絶対に正体が透けるから、憲子さんとやり合って村人たちに憲子さんを吊ると言わせて、恵子さんとの間に亀裂を入れて次の日村に迷わせると言い切った。
そうやって、憲子さんを白だか黒だかわからない状態にして目立たせて、源太とオレを守るつもりだったんだろう。
だが、昌雄が狩人で俊三を守ったと言ったことから、貞吉が噛めるとはオレは思っていなかった。
今夜こそ貞吉噛みは避けて、確実に村人を消して行かなきゃならないんだ。
何しろもう一護衛成功で縄が増えるだろ?
狼は、全員生存しているが、この上なく面倒な状況だったのさ。
憲子さんと美智子さんは、オレから見たら茶番を繰り返して時間を稼いでくれた。
明子さんは白だから、美智子さんからしたら庇う必要などないんだが、それでもわざと過剰なほど庇って、憲子さんと明子さんを村同士で争わせる形を取った。
もちろん、憲子さんは吊られちゃ困る。
明子さんを吊っておきたかった。
憲子さんはスケープゴートにも使えるし、とにかくまだ生きて目立ってて欲しかったんだ。
源太は、美智子さんが明子さんを本気で庇ってくれてるんだと思ったみたいで、あれだけ貞吉との間を疑って吊ってもいいとか言ってたのに、困ってる明子さんを見て庇う姿勢だった。
あいつは全ての判断の中心に明子さんが来るから、期待なんかしてなかったさ。
だから、早くこの茶番が終わらないかと四日目は長く感じたよ。
途中、オレも恵子さんと一悶着起こして村と恵子さんの対立を促したりはしたが、オレからしたら茶番劇の脇役の気分だ。
もちろん、オレは明子さんに入れたさ。
間違っても憲子さんが吊られちゃ困るし、狼だと知られたらダメだしな。
源太は何も考えないで憲子さんに入れたんだが、あいつはそれで疑われるとか、何も考えてなかったと思う。
思惑通り明子さんが吊られて、罪もない未熟な村人だったのに、オレ達のために犠牲になってくれたってわけ。
その夜は、荒れたよ。
というのも、貞吉は噛めないだろ?
狐は呪殺されるから、美智子さんの黒は確定するだろう。
何しろ美智子さん目線じゃ敏男は黒と出してるから、言い訳はきかない。
源太は明子さんが吊られたから不安定で話にならないらしい。
オレは直接源太とは話していなかったが、美智子さんは疲れきっていた。
早く終わらせないと明子さんに会えないとそればかりだったそうだ。
ほんとにあいつは役立たずだった。
だが、美智子さんは策士だった。
ここまで来たら、勝てばいいと。
そうしたら、村人陣営は皆、報酬を受け取れずに貞吉だって元の姿に戻る。
源太は若いままで居られるし、明子の事が心配なら、狼陣営みんなで明子にMVP投票したらいい。
そうしたら上位三人に入るだろうし、明子は若いままで二人で幸せに暮らせるだろうし、若い明子が老いた貞吉には見向きもしなくなるだろうと。
そもそもこれまで、二人が親密だったことは一度もないから。
源太は、それでやる気になった。
貞吉に勝って、自分達は仲良く暮らすのだと心に決めたようだった。
最初からやる気になってくれてたら良かったんだけど、あいつはそれほど思考も伸びるほうじゃないし、逆にまずいことになってたかもしれないから、これぐらいがいいんだとオレは思った。
そして、その日は狩人COした昌雄を噛むことにして、美智子さんとの電話を切った。
美智子さんは、最後にあなただけは絶対に生き残って、と言っていた。
五日目の朝、昌雄の顔を見た時気が遠くなったよ。
オレ達は部屋が隣りなんだが、朝扉を開いたらひょっこり昌雄が出て来たんだ。
その瞬間、また騙された、と思った。
きっと美智子さんも同じ気持ちだったんだろう、もう自分の正体は皆に分かったから、隠す様子もなく苦々しい顔で昌雄を睨んでいた。
今度は正成かって感じの空気になってたけど、オレ達はもう、信じていなかった。
ここまで隠した狩人なんだから、他に居てもおかしくはない。
だから、朝の立ち話が終わった後きちんと調べた方が良いと源太に小声で言うと、源太は任せとけと一言言って、一緒にオレの部屋へと入った。
オレは、朝風呂に入るのが皆に知られてるので、行かないわけにはいかなかった。
源太は、それを知っててオレに行け、と言った。
お前は普通に行動しろと。
なので、オレは何気ないふりをして、さっさと風呂へと向かった。
すると、忠司が歩いて来るのと廊下ですれ違った。
部屋に入るところまでは見てなかったが、後から源太に聞いたところによると、忠司が真狩人だ、ということらしかった。
それを、夜になる前に美智子さんに知らせなければならない。
ここで、源太は物凄く行動的になるんだ。
これまでが何だったのかってぐらい、自分がやるとやる気になっていて、なんと貞吉の所へ怒鳴り込みに行った。
はっきりさせておきたいことがある、明子とはどういう仲なんだってさ。
隣りの部屋の美智子さんがそれを気取らないはずはなくて、慌ててやって来て私が話を聞くから落ち着けと源太を連れ出し、まんまと二人で話すことに成功した。
まさか源太がここまでやるとは思っていなかったので、ちょっと源太を見直した。
あいつはやれば出来る子だったのだ。
美智子さんは、それを聞いて良い事を思い付いた、と言った。
また騙されるかもしれないリスクがあるので、今夜は昌雄を連噛みして明日更に貞吉が生き残る未来しかないと思われたが、このゲームには夜の投票以外に、人を追放する方法がある。
そう、ルール違反だ。
美智子さんは、源太に指示をした。マスターキーを取って来てくれと。誰にも見られないように、わざとカフェに一番最後に入るように遅れて来て、それを自分に渡してほしいと。
源太は、それをやってのけた。
無事に最後に入って来て、オレは知らなかったが既にマスターキーを手にしていたみたいだ。
それを、朝の会議の後に美智子さんに手渡し、美智子さんは憲子さんを密かに部屋へと訪ねて、それを渡して計画を話した。
憲子さんは、やる気だったようだ。
恵子さんが自分を完全に信じているから、任せてくれと胸を叩いて請け負ったと。
美智子さんは、夕方の会議の前にオレに電話をくれた。
自分にできることはみんなやったから、何としても生き残ってくれって言われたよ。
源太はそのうち吊られる位置だろう。だから、希望は未だにグレーで白い位置だと皆に思われている、オレに掛かっているのだと。
オレは、正直自信が無かった。
だが、もう吊られる美智子さんには、それを言うことは最後までできなかった。
みんな不安だ不安だと言ってたが、多分、この企みと憲子さんの裏切り行為のことを感じ取ってたからだろう。
本来、オレ達狼が絶望することはあっても、村人達は勝ち確定で何も心配することなどない盤面だったから。
そうして、美智子さんは吊られて行った。
水面下で、ほぼ洗脳に近い状態で恵子さんは忠司を狼だと思い込み、自分の信用を追放されても勝ち取るために、忠司を陥れようとしていた夜を迎えていた。