六日目夜から七日目へ
その日、あっけなく憲子は追放された。
憲子自身は源太に投票し、他は満場一致で憲子に入れて、憲子は眠りに入って行った。
そして、ゲームは終わらなかった。
つまり、明子は狼ではなかったということだ。
俊三は、もう占い師も狩人も、霊能者もいないので、何もこれ以上決めることはないと、軽く食事をして、部屋へと帰った。
憲子の行動の意味は未だに分からなかったが、時間はある。
もしかしたら今夜自分が襲撃されるかもしれない中で、明日生き残ったら考えようとその日の思考は放棄することにした。
だが、憲子の発言が気になって、ここ数日は放置していたルールブックを手にして、もう一度最初からくまなく読んでみることにした。
見ると、憲子が言っていたような、勝てば若さを元に戻すというような項目は、どこにも書いていなかった。
となると、憲子は間違いなく狼で、狼達のルールブックには別のことが書かれていたことになる。
だが、よくよく見てみると、結構細かい文字でいろいろ説明してあった。
カフェの炊飯器の使い方や、電子レンジの使い方の終わりに、付け足すようにこのゲームが終わった後の事が書かれてある。
カフェの機器の使い方は知っていたのでその辺りは気を入れて読んでいなかったので、気付かなかったのだ。
そこには、こう書いてあった。
・ゲーム終了時、勝利陣営には報酬があります。
・ゲーム観戦している追放者、生存者、運営によりゲームに貢献した人に投票が行われ、得票数が多い人から上位三人は敗者陣営であっても報酬があり、一番少ない人は勝利陣営でも報酬はなくなります(複数の時もあります)。
…もしかしたら、この報酬が若さなんじゃ。
俊三は、寝転がっていた布団からカバと起き上がった。
そうだ、憲子はこれを若さだと判断して、そうして勝てば若さを戻してもらえると言っていたんじゃないか。
俊三は、これまで全くそれに気付かなかったのに驚いた。
この辺りは生活に必要な情報なだけだと見ていなかったが、憲子は知っていたのだ。
ということは、狼達は知っていたことになる。
狼同士で情報を共有しているだろうからだ。
そう考えたら、今夜の憲子の行動はどう判断したらいいのだろう。
これでラストウルフが逃げ切ったら、憲子にゲーム後の投票でも票が入るだろうし、望みを賭けて狼利な動きをしているはずなのだ。
だが、どっちだ…?!
俊三は、頭を抱えた。
源太を生き残らせたいから源太を攻撃したのか、それとも絶対に他に縄を使わせたいから源太が狼だと暴露したのか、わからないのだ。
だが、憲子が狼だったということは、政由と武は二狼ではないということ。
どちらかが狼である可能性はあるが、両方が狼である可能性は消えた。
美智子が狼で、憲子が狼だったから。
狼はあと一匹なのだ。
俊三は、また布団に寝転がった。
どちらにしろ、明日。
明日になれば、また誰かが襲撃されて残りで考えることになる…。
俊三は、そのまま死んだように眠りについたのだった。
七日目の朝、俊三は目を覚ました。
目覚まし時計はまだ鳴っていない。
目を覚ましたということは、自分は襲撃されなかったのだ。
起き上がって淡々と朝のルーティンをこなし、扉の前で待つ。
腕輪からお決まりの6時を告げる声がして、俊三は冷静に扉を開いた。
同じ階で出て来たのは、誰もいなかった。
つまり、この階で生き残ったのは、もう俊三だけなのだ。
俊三は、静かにため息をついて4の部屋へと向かった。
そこは正成の部屋で、昨夜この階に居たのは正成だけだったからだ。
部屋の中へと入ると、やはり正成は熟睡していた。
もう記憶が薄れかけていた、老いた姿だった。
「…正成か?」
背後の開けっ放しの扉から、昌雄の声がする。
俊三は、頷く。
「そうみたいだ。これで6人だな。」
振り返ると、昌雄、浩二、源太、政由、武が立って、こちらを見ていた。
この中に、もう一狼居る…。
俊三は、ため息をついて皆を廊下へと押しながら外へと出て、扉を閉じた。
「これであと一狼だ。ということは、昨日話していた政由、武の二狼はないってことだ。あと2縄、どこに使うかだな。」
浩二は、頷いた。
「昨日、もう一度見落としてる所が無いかルールブックを読んだんだ。」と、よれよれの冊子を出した。「ここ。カフェの機械の取り扱い説明だけだと思ってたら、最後にこんなことが。」
俊三は、浩二も見つけたのかと、頷いた。
「オレも気付いた。憲子さんが言ってたのはこれだな。報酬を若さだと思ったんだろう。」
昌雄が、頷いた。
「オレも見た。ということは、狼達は最初から知ってたってことだな。誰かが見付けて情報共有してるだろうから。そうなるとどう思う?条件を見ただろう。勝つか、負けても得票数が多かったら報酬があるんだ。」
源太が、言った。
「ラストウルフを生き残らせようとオレに擦り付けてたんだとオレは思うけどな。狼COまでして、狼勝ちの立役者になろうとたんだろう。別にオレを吊っても構わないが、終わらないとだけ言っておく。オレは政由と武、特に武が怪しいと思うけどな。」
武は、源太を睨んだ。
「自分が村人なら、安易に吊られようとするな。序盤なら白く見られても、今はそうは見えないぞ。ありふれたパフォーマンスだ。」
昌雄が、言った。
「パフォーマンスなのか何なのか、解釈に苦しむ。というか、どう考えたらいいのかわからないんだ。あんなことを言っていたが、もう吊られるなら勝ちたいから源太だけでも生き残らせようと狼COして源太を攻撃したのか、それとも本当に源太を恨んで暴露したのか、源太が村人だから吊らせようとしたのか。」
俊三が、言った。
「憲子さんの様子から言うと、オレは絶対諦めて無いだろうから源太を恨んで暴露って線は無いと思う。だから、本当に狼だから生き残らせようとしたのか、村人だから吊らせようとしたのかどっちかだろう。これで狼勝ちに貢献したら票も入るだろうし、勝てば望みが叶う。負けたら最後、票が入らない限り報酬は無いしな。」
じっと黙っていた政由が、言った。
「…なんかスッキリしない。」
昌雄は、渋い顔を政由に向けた。
「お前、前も言ってたな。何がスッキリしないんだ。」
政由は、言った。
「憲子さんのことだ。本当に狼だったのか?」
え、と皆が驚いた顔をする。
俊三は、思わず言った。
「…あれがウソだって?」
政由は、神妙な顔で頷く。
「昨日確かに憲子さん吊りは避けられなかった。だが、他にまだ狼が居るのなら、COせずに追放された方がまだ二狼居るかもと皆が慎重になって、二狼懸念でオレと武のどちらかにに吊り縄を掛けたんじゃないのか?」
武が、言った。
「だが…もう狂人は居ないだろう。人外の数が合わないからな。」
政由は、それでも深刻な顔をして答えた。
「確かに恐らく狂人は霊能者のどちらかだっただろう。だが、昭三の話が気に掛かる。憲子さんはもしかして、狼と繋がっていたんじゃないのか。俊三は昭三から、噛まれないためなら狼に力を貸す事もするかもと聞いていたんじゃないのか?」
俊三は、狼狽えた顔をした。
「でも…村人なら負けたら報酬が無いぞ。」
政由は頷いた。
「そう。だが、狼勝ちを手助けする代わりに、投票を全員で憲子さんに入れると言ったら?あの数の人に投票するんだから、バラけるはずだろう。狼3人と狂人の票が憲子さんに入れば、上位三人には入ると考えてたんじゃないか。だから、ここに仮に二狼居るとしたら、その二人を守るためにCOしたんだとしたら?今日一日狼二人守ったら狼勝ちだ。オレは…源太と武が怪しいと思う。」
二狼なら、政由、武、源太の内二人なので三分の二の確率で狼に当たる。
政由の意見は、腑に落ちる所ばかりだった。
憲子が、若さに異常なほど執着していたのは確かだ。
ずっと白い発言はしていたが、それでもなぜか信じられなかった。
どこか怪しいと思わずにいられなかった。
もしかしたら、政由が言うように狼と繋がっていたのだとしたら…?
源太が、首を振った。
「オレは違う!お前と武なんじゃないのか。そんな意見を出して、自分だけ生き残ろうとしているんじゃ!」
武は、源太と政由を交互に見て、言った。
「…ということは、オレ目線じゃこの二人だ。最終日生き残るために、切り合ってるんじゃないか?」
俊三は、顔をしかめた。
政由と武が初日から意見が合っていて、一緒に居たのは確かだ。
本来この内の一人を今日吊る予定だった。
昌雄が、言った。
「待て、まだ政由の仮定に過ぎないぞ。とはいえ、いろいろ腑に落ちる事が多いから、もしかしたらと思うけど…だとしたら、源太だけが村人でそれを吊らせようとしたのか?それともバランスで自分と共に吊られる事を恐れて庇うために逆囲いしたのか。源太が狼なら、二分の一で村人を吊らせる可能性が上がるから。どっちだと思う?」
浩二が、何度も皆の顔を見比べながら、唸った。
「…政由が狼なら、わざわざ二狼残っているかもとこんな話をする必要はなかった。普通に考えたら、源太と武なんじゃないのか。憲子さんは源太が怪しまれているから、昨日ああして狼COしてまで源太との対立を演じたとしたら合点が行く。源太を吊って、終わらなければまだ一狼居るということだ。終わったら…源太がラストウルフなのか、政由と武が二狼で狼勝ちのどちらかだろう。もう賭けだな。」
終わらなければ。
俊三は、頭を抱えた。
終わらなくても、明日は政由か武だ。
政由は白い…今日の発言でも村人が思わなかった事を言って来る。
だが、見えている狼だとしたら…?源太が吊られるのを見越して、生き残るために敢えて最終日まで行こうとしている狼だったなら。
武は、そこまで白くない。普通なら、明日が来たら吊られるのは武。
明日に備える様子もないのに、それがここまで上手く潜伏していた狼だと言えるのか。
だったら政由を吊れば…?
武が狼だったら、源太と二狼だった時負けになる。
確白達は、それ以上言葉を続けられなかった。