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結果

きちんと冷蔵庫には食材が入っていて、洗い物もしてある忠司のキッチンで、俊三は軽く食事を作って、忠司と一緒に食べた。

忠司は、食べ終わると自動的に食器を持ってキッチンへと行き、きちんと皿を洗った。

どうやら、家事はしなければならない、と、どこかに残っているらしかった。

そのまま、忠司が心配なので三時までそこに居た俊三だったが、三時になって隣りの正成(まさなり)由子(よしこ)、茂男と喜美子が忠司を心配して寄ってくれた。

「なんだ、俊三さんが居てくれたのか。」正成が、言った。「そろそろ三時だろう。結果を聞きに行くか。」

俊三は、頷いた。

「寄ってくれたのか、すまないな。」と、忠司を見た。「行くぞ忠司。公民館だ。先生が結果を教えてくれるんだよ。」

忠司は、ぼうっと座っている。

由子が、慣れたように言った。

「忠司さん、加奈ちゃんがゆっくりしたいって。私達と公民館に行ってましょうよ。」

忠司は、由子を見た。

「ああ、由子さん。そうか、そうだな。行くか。」

正成が、忠司に手を貸して玄関へと向かう。

後ろで見ていた、茂男が言った。

「あいつらが隣りだから。よく様子見てくれてるんだよ。オレ達も気を付けてるが、道の向こうだからな。俊三は公民館で見るぐらいだから知らないかもしれないが、具合が悪い時は、由子ちゃんが上手い事言ってくれるから助かるんだ。」

そこまで悪くなってるのか。

俊三は、隣りだがそこまでとは思っておらず、それなりに生活しているようだったので、皆が案じるほどぼけても居ないのだと思っていたのだ。

はっきりしている時は、確かに知っている忠司そのものなので、今おかしいからと、見捨てることもできそうにはなかった。

「先生に相談しよう。まだ、はっきりする時もあるんだし。その時間が長くなれば、また普通に生活できるんだ。」

茂男は、前を歩く忠司と由子、正成の背を見ながら、頷いた。

「先生だって分かってると思うしな。でも、認知症って簡単に治るんだろうか…オレも最近物忘れがひどいし、心配なんだよなあ。」

それは、俊三もそうだ。

この際なので、担当のジョアンにどう生活したら脳が元気でいられるのか、よく聞いておこうと思っていた。


住民達がカフェへと入って行って待っていると、三時を少し過ぎた辺りで、颯が急いで入って来て、言った。

「お待たせしました。皆さんの名簿を作らせて頂いたんですけど、それを印刷するのに時間が掛かってしまって。これから、皆さんの治療を進めて行くのに、番号を着けさせていただきますね。診察券の番号だと思ってもらったらいいです。ここに、皆さんの番号の一覧を作って来ましたので、先にお配りします。」

一枚ずつ丁寧に配ってもらった紙には、全員の名前と、番号が書かれてあった。

1俊三

2茂男

3喜美子

4正成

5由子

6貞吉

7美智子

8忠司

9憲子

10昭三

11明子

12源太

13富恵

14武

15昌雄

16敏男

17恵子

18浩二

19政由

颯は、全員に紙が行き渡ったのを見てから、言った。

「検査の結果が出て来た順に適当に番号を着けさせていただきました。それというのも、これから治療するのに当たり、全員の心拍などを、24時間管理させて頂いて、しっかり治していきたいと思っているからです。」と、銀色の腕時計のような物を皆に見せた。「これは、手首に巻いてもらうと、皆さんの心拍をこちらの計器に送ることができて、何かあってもしっかり対応することができます。少し、認知に問題がありそうな方も、これによって夜中にどこかへ移動していても、きちんと分かる仕組みになっています。なので、ここから担当医師から検査結果をそれぞれお話しさせていただきますが、その際にこの腕輪も配らせていただきますので、全員、左の手首にしっかりと巻いてください。防水性なので、お風呂もそのままで大丈夫ですので、ひと月後に治療が終わるまで外さないようにしてくださいね。」

一度にいろいろ言われて、分かったようで分からないような気がしたが、担当医師がどうのと言っていたので、その時に聞こうと俊三は思った。

颯は、続けた。

「では、それぞれの担当医師から、検査結果を聞いてください。」

ざわざわと皆の声がする。

俊三は、ジョアンを探してキョロキョロと見回した。

すると、向こうから俊三の肩を軽く叩いてくれた。

「俊三さん。結果が出ましたよ。あっちの椅子に座りましょうか。」

ジョアンの手には、大きめのタブレットがあった。

今は紙ではなくこんな端末で全て管理されるのだろう。

「ああ、ジョアン先生。なんか腕輪がどうとか。」

ジョアンは、頷いて俊三を促して手近な座った。

「そうなんですよ。これなんですけどね。」と、俊三の左手首にそれを巻いた。「キュッと締まって外れなくなりますから。ほら、そしたらここにこうして心拍が出るんです。」

言われた通り、腕輪は金属なのにぴっちりと手首に沿って締まり、動かなくなった。

見せてもらったタブレットには、心拍らしい波形がピッピッと動いて流れて行くのが見えた。

「へえ~今は凄い物があるんですね。」と、手をブラブラさせた。「全くずれないな。」

ジョアンは、苦笑した。

「ずれたら波形が乱れて何事かってこちらも把握できませんからね。」と、タブレットを指先でチョンチョンと叩いた。「では、検査結果何ですが。」

俊三は、ハッとした。そうだ、どこか悪い所があっただろうか。

「どうでしたか?」

ジョアンは、タブレットを見ながら答えた。

「年齢相応の健康な体ですが、少し腎臓が疲れて来ていますね。食事が偏っているのかなあという印象です。気にされていた臀部の打撲はもう問題ないようでした。炎症ももうありませんし。認知機能も、目立って落ち込んでいるわけではありませんよ。脳のCTも綺麗で病的な萎縮は見られません。」

俊三は、顔をしかめた。

「でも先生、最近物忘れが酷くて。」

ジョアンは、微笑んだ。

長閑(のどか)な場所でおっとりと過ごしていると、あり得る事ですが病的なほどではありませんから。でも、そうですね、他の医師とも話したのですが、少し脳のトレーニングをした方が良いかもしれないと。他の方々も同じように物忘れなどの不安を漏らしていらしたので、こちらに居る間に、脳を使うゲームを皆さんにお教えして、やってみようと思っています。皆で話しながら頭を使うと刺激になるので、きっと物忘れなども少しはマシになるのではと考えているのです。」と、タブレットにまた視線を落とした。「とはいえ、腎臓の方は少し治療しておきましょう。毎日一時間の点滴を続けてみて、様子を見ましょうか。腎臓は一度悪くなると回復が難しいので、今のうちに立て直しておきましょう。」

俊三は、治療してもらえるのか、と頷いた。

「よろしくお願いします。」

ジョアンは、頷いた。

「大丈夫、俊三さんは健康な方です。このお歳でここまであちこち元気なのは珍しい。しっかり健康寿命を伸ばして行きましょう。」

外国人なのに健康寿命などという言葉を使うのに、思わずそれを忘れてしまう。

さっきは英語で話していたので、恐らく母国語はそうなのだろうに、日本語をここまで使いこなすのだから本当に優秀な医者なのだろう。

俊三が思っていると、ジョアンに颯が話し掛けて来た。

「ジョアン、処置に移るなら娯楽室の横の談話室に準備してあるから。」

ふとみると、あちこち自分の担当医師に連れられて移動して行く。

そういえば忠司は、と見ると、忠司は普通に担当の医師と、英語でやり取りしているのが見えた。

俊三の視線に気付いた颯が、言った。

「どうやら英語で話すと記憶が鮮明になるようで。私達は仲間内では通常英語で話しているので、問題ありません。忠司さんも処置に同意してくれましたし、談話室へ向かわれると思いますよ。」

俊三は頷きながら、やはり現役時代の記憶は強いのだな、と思った。

自分も今ああしてわけが分からなくなったら、何か正気に戻る鍵になる事はあるのだろうか。

俊三は、そんなことを考えながら、ジョアンについて談話室へと向かったのだった。

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