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五日目の夜から六日目

その日の投票は、全員一致で美智子だった。

美智子は、特にもう騒ぎ立てることもなく、投票は忠司にして、そして眠りに入った。

貞吉に運ばれて自室へと移動させて行くのを見送ってから、解散となった。

恵子は、もう何も言わない。

ただ、ひたすらに忠司を睨んでいたように思う。

何を考えているのかわからないまま、その様子を訝しげに見て俊三は小声で正成に言った。

「…なあ、恵子さんは何で忠司を睨んでるんだ?」

正成は、眉を寄せたまま首を振った。

「さあ。今日は一日憲子さんと一緒に居て、なんかカフェの隅で話してたけどな。どうせまた、破綻してから黒出しされた忠司が怪しいとか、そんなじゃないのか?」

俊三は、また恵子をチラと見た。

恵子は、憲子と共にカフェを出て去って行った。

ここの厨房はオープンキッチンなので、客席は全部丸見えなのだが、忠司がうんざりしたような顔をして、こちらへやって来た。

俊三は、今夜は貞吉に玉子とじうどんを作ってやっていた。

「忠司。恵子さんのあれはなんだ?」

今ここに居るのは、俊三、正成、昌雄、貞吉、忠司の五人だ。

忠司は、首を振った。

「さあな。わからんが、めちゃくちゃ敵意を感じたな。」

貞吉が、できたうどんを運びながら行った。

「ああ、なんか昼間に脇を通り過ぎた時に聴こえたけど、忠司が破綻の日の黒だったことが怪しいとか。正成と昌雄を噛んだ後で、狩人だとか言って憲子を吊らせようとしてるんじゃないかって。俊三は、初日から忠司に丸め込まれて、恵子さんを蔑ろにしてるとか何とか…。ま、オレは信じてないけど。」

忠司が狩人COする事を知っている…?

俊三は、一気に背筋が寒くなった。

いったい、いつ漏れたんだ。

「え…どういうことだ…。」

俊三は、ハッとした。

思えば、廊下ばかりを気にしていたが、部屋の壁はどうだっただろう。

初日、茂男のイビキがうるさいから、次の日の朝文句を言ったのではなかったか。

いつもは俊三の部屋に集まっていて声を押さえていたが、今朝はどうだっただろう。

昌雄の部屋…しかし隣りは敏男と武で、敏男の方は空いている。

今朝は、声が廊下に漏れていないと言うので、安心して普通に話していた。

武が聞いていたとしたら…?

いや、武は朝風呂派なので、あの時は居なかったはず。敏男の部屋が空なので、マスターキーがあれば簡単に入り込む事ができただろう。

狼の誰かが、そこで何を話すのか聞いていたとしたら…?

憲子が狼なのか。

それとも、さりげなく二人に入れ知恵した誰かが居るのか。

源太か、武か、政由。

今日発言しなかった、源太がそうなのかも知れない。

だが、まだ、わからなかった。

「ちょっと、管理室を見て来る。」俊三は、立ち上がった。「待っててくれ。」

マスターキーの一つは、自分が持っていた。

4つあるキーのうち、一つは紛失していて、一つは自分が持っていて、あと二つ…!

呆然とうどんを口に挟んだままの貞吉を後目に、俊三は管理室へと走った。

そして、そこのキーボックスに、確かにあったはずの鍵が残り一つしか、ぶら下がっていない事実を確認してしまった。


カフェに戻って来た俊三の様子を見て、昌雄が心配したように言った。

「…どうした?突然飛び出すから驚いたぞ。管理室が何か?」

俊三は、狼狽して何から話したらいいのか分からなかったが、居るのがあの四人だけではなく、貞吉、武と政由も混じっているのを見て、詳しい話は飲み込んだ。

そして、言った。

「…マスターキーが。オレが一個持ってるが、四個あったはずなのに一個は最初から無かっただろう?で、二つが残ってたのを見てたのに、今見に行ったら一個しか無かった。」

皆は意味がわからないようだったが、忠司は意味を察したのか眉を寄せる。

武が困惑したように言った。

「マスターキーが無いのがなんだ?誰か持ってったんだろう。それが今、何か問題なのか?」

やはり武は違う。

というか、武なら自分の部屋から聞けたはずだ。

だが、武が風呂に向かったのは、忠司が見ていて知っている。

じゃあ政由が…?

だが、政由は困ったように皆の顔を見回して言う。

「まあ、落ち着け。無くなったらまた、残ったマスターキーで同じヤツを作ってもらえばいいだろう。お前も一個持ってるし、一個残ってるなら問題ない。失くしたからと、急に困るわけじゃないから。そもそも他の鍵は無事なんだろう?」

紛失したら、これからの公民館の運営に困ると俊三が焦っていると勘違いしているようだ。

忠司は、言った。

「…政由の言う通りだ。俊三、心配ない。」と、昌雄を見た。「それより、今夜のことだ。一狼一狂人吊れたと分かっているだろう?狩人が、確かに貞吉を守る保証はあるのか。」

昌雄は、急に話題が変わったので、戸惑う顔をしたが頷いた。

「え?ああ…それは間違いなく。」と、正成を見た。「だよな?」

正成は、困った顔をした。

「守るだろうよ。」

政由が、チラチラと武を見ながら言った。

「こら、オレと武が居るのに。あからさまだぞ。」

武は、ムッとした顔をした。

「だからオレは狼じゃない。お前も疑ってない。オレは、貞吉が何と言おうと憲子さんが怪しいと思ってるんだぞ。源太も信じ切れてないが、それは次の話だ。だが、今の状況じゃあ吊りきる方が分かりやすいから、貞吉には白を狙って占ってもらう方がいいし、何も言わないだけで。」

貞吉は、ブスッとして言った。

「まあ…じゃあ今夜は政由を占うことにするよ。それでいいな?」

政由は、息をついた。

「貞吉が守れるなら、間違いないだろう。もう勝ち確だ。だが、何やら不穏な空気を感じてな。正成が狩人だと思って言うが、何が何でも今夜だけは貞吉から護衛を外すなよ。仮にお前が噛まれても、貞吉さえ結果を落とせば村は勝つ。なのになんか不安で仕方がないんだ。」

正成は、政由を見て言った。

「あのな、オレは狩人じゃない。それでも貞吉の白ではあるから、信じてくれていいけどな。昌雄があんな風に言ってるだけだ。」

正成は、別に他に狩人が居ると言っているわけではない。

茂男もそうだったが、違うと言っても誰も信じないのだ。

狩人は正体を隠さねば襲撃されるので、余程でないとCOしないものなのだ。

政由は、頷いた。

「分かってる。言いたかっただけだよ。とにかく、何とかしてもらわないと勝ち確だと思ってるのに勝利が遠ざかりそうでな。」

時間がない。

見ると、カフェの時計が8時に近くなってきていた。

「ヤバい。」俊三は、急いで言った。「貞吉、もう帰れ。お前役職行使があるだろうが。他の人達もだ。この中に狩人が居るなら護衛先を入れてもらわないと。ほら、急げ!」

慌てた貞吉の手から丼を奪い取ると厨房の流しに放り込み、俊三は皆を追い立てた。

とにかく政由が言うように、忠司には何がなんでも貞吉を守ってもらわなければならない。

明日の結果は、それだけ重要だった。

全員で階段を駆け上がった時には、まだこの後何が起こるのかなど、考えてもいなかったのだった。


ルールブックによると、役職行使は8時からで、部屋から出られないのは9時からだったが、その間に占い結果や霊能結果を聞くことは禁じられていて、ルール違反で追放になることになっていた。

もちろんのこと、9時以降出歩くことも禁じられている。

なので、誰も部屋から出ようとはしなかった。

いきなり眠りについて、追放されるのを恐れているからだった。

俊三はなぜか落ち着かない気持ちで、いつもなら疲れてすぐに眠くなるのに、その日に限ってなかなか寝付く事ができなくて、何度も布団の上で寝返りを打って、やっと眠れたのは夜中の0時になる辺りだった。

そんな俊三の耳に、ここ数日連戦連勝だった相手である目覚まし時計の、盛大なベルの音が聴こえて来た。

…朝?!

慌ててボタンを殴って音を止める。

見ると、目覚まし時計はきっちり6時を指していた。

…ヤバい!

俊三は、飛び起きた。

そして、とにかく外へと扉へと走ると、廊下から憲子の悲鳴が聴こえて来た。

「きゃあああ!」

俊三は、チ、と舌打ちして扉を大きく開いて廊下へと飛び出す。

見ると、廊下の忠司の部屋の前では、忠司と恵子が、もう記憶が遠くなり始めていた老いた姿のままで、折り重なるように倒れていたのだった。

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