五日目の朝
結局、自分達だけで白だと確認し合っている俊三を含めた四人で話し合った結果、忠司は今夜は占い師を守らない、と言った。
これまでも、狼は占い師を噛まずに居たが、それがこれからも続くとは限らない。
だが、こうなって来ると欲も出て来る。
狼だって、どうせ真占い師が確定することは分かっているのだから、今夜は無理に狩人を出し抜こうとするよりも、恐らく狩人本人を噛む。
何しろ、ニ護衛成功が出ると、吊り縄が増えてしまい、呪殺が出ても村に余裕が残るのだ。
忠司はそう推測して、昌雄を守ると宣言した。
そうすれば、真占い師で護衛成功が出ることを嫌って、せめて絶対に噛めるところを噛もうとする狼の思惑と合致するのではないかというのだ。
狼が本当にそう考えるのか疑問だったが、ここまで何度も賭けて来て、それに打ち勝って来た。
今回、もし昌雄で護衛が成功したら、次の日真が確定した占い師を守ることができる。
つまり、もう一度占い師の結果を聞くことができるのだ。
それは大きいので、誰も忠司の決断に反対意見は出さなかった。
そうして、もう慣れて来た朝が来て、俊三はいつもと同じ、まるで正確な体内時計があるかのように、5時50分に目が覚めた。
今日も勝ったと目覚まし時計にニンマリと笑いかけて、俊三はそのボタンを押す。
そして、自分は噛まれなかった。
やはり、占い師か狩人COしている昌雄を狙ったのではないかと思われた。
いつものルーティンでトイレに行って扉の前で待っていると、待ちに待った腕時計の声が告げた。
『6時です。自由時間になります。』
俊三は、思い切って扉を開いた。
昨日と同じように、貞吉は生きててくれるだろうか…。
そう思った俊三の目の前の扉は、やはり昨日と同じく大きく開いた。
そして、一瞬見とれるほど綺麗な顔の、貞吉が顔を覗かせた。
「…俊三。連続噛みかと思ったぞ。昌雄はオレを守ってくれたのか。」
俊三は頷いて、隣りの部屋から出て来た美智子を見た。
美智子が真なら、昨夜貞吉を占ったはずだ。
だが、貞吉は生きてそこに居て、これで美智子の偽が確定した事になる。
もちろん、霊能者に狐が出ていたらこの限りではないが、とてもじゃないがそう抵抗もなくあっさりと吊られて行った由子、昭三の二人のどちらかが、狐だとはとても思えなかった。
「あなたが思ってることは分かるわよ。でも、私目線じゃ占い師には狐が居なかったってことなの。ダンナは、狂人だったんだわ。そう言って信じてもらえるとは思っていないけど。」
俊三が、まだ誰が犠牲になっているのか分かっていない状態なので、何も言わずに扉を開いて出て来る者達を確認した。
そこには、昨日と同じ面々、正成、貞吉、美智子、忠司、憲子が居た。
この階では、誰も犠牲になっていない。
すると、上階から恵子の声が聴こえて来た。
「ちょっと!来て、敏男さん!敏男さんだわ!」
多分呪殺…!!
俊三は、誰かと視線を交わすこともなく、階段へと走った。
それを見た他の二階の者達も、慌てて後を追って来る。
俊三は、流行る気持ちを抑えて、三階に駆け上がった。
「敏男か?!他には?!」
恵子が、俊三の勢いに一瞬戸惑う顔をしたが、首を振った。
「いえ…他は居ないわ。下に居るんじゃないの?貞吉さんは?」
貞吉が、遅れて上がって来て言った。
「オレは無事。美智子もだ。」
恵子が、驚いた顔をした。
「え…どういうこと…?」
皆の視線が、昌雄に向く。
昌雄は、起きてそこに立っていた。
「そうか、護衛成功だ。狼が今さら噛み合わせなんか無駄だしな。」と、フフと笑った。「まあ、でもオレはどこを守ったか知らない。なぜなら、オレは狩人じゃないからだ。」
全員が、仰天した顔をした。
俊三は、やはり昌雄を噛んで来たんだと内心思っていたが、貞吉が言った。
「昨夜はオレが敏男を占って白だ。だから、呪殺だと思うが、もしかしたら村目線じゃ、敏男が真でオレが呪殺を装うために噛んだとも見えるのか?」
だが、それには忠司が首を振った。
「いや、違うな。君は真だ。なぜなら、敏男が真なら美智子さんは狐だが、今眠らずそこに居るからだ。美智子さんは真はない。さっき、狐が霊能者とか言っていたが、貞吉が呪殺できていないじゃないか。」
美智子は、ムッとした顔をした。
「それは…もう噛まれるから、グレーを占っておこうと思って。忠司さんが黒だったわ。」
美智子は偽だ。
貞吉が真なので狼なのだ。
憲子が言った。
「村のためには噛まれるのが分かっていても呪殺するのが普通でしょ?どうしてグレーを占うの?しかも忠司さんなんて、絶対おかしい!」
美智子は憲子を睨んだ。
「うるさいわね!あなたは黒なんだから黙ってて!私には私のやり方があるのよ!黒を盲信している共有者になんか従えないわ!」
美智子が、あまりにも頑なな恵子に腹を立てて乱心したと言われたら分かる。
だが、それでも指定に従わないのはおかしいのだ。
忠司が、ため息をついた。
「今日は、美智子さんを吊る。というのも、美智子さん真は絶対に無いからだ。敏男は美智子さんの占い結果で黒が出ていたのにこうして朝発見されているから、辻褄が合わない。つまり、破綻している。今日は美智子さん吊りに決定だから、今日は引き続きグレー精査をして行こう。貞吉が襲撃されて守られたのか、他が守られたのか、昌雄が狩人ではなかったと撤回したことで分からなくなっている。ここは、明日も貞吉が生き残ることに賭けて、貞吉の占い先を決めよう。そして、明日からの吊り先もな。」
昌雄は、頷いた。
「オレは、狩人を守るためにCOした。もしかしたら、オレが襲撃されたのかもな。」
恵子が、じっと昌雄を睨むように見て、言った。
「じゃあ、守り先は?あなた、昨日私を守ったんじゃないって言ったじゃない。」
昌雄は、ククと笑った。
「オレは狩人を知っているからだ。」恵子は、驚いた顔をした。昌雄は続けた。「オレを信頼して打ち明けてくれたから。守り先も知っていた。もうとぼける必要もないか。昨日はオレを守ってるんだよ。どうしても明日占い師を噛みたい狼は、オレを噛んでまんまと罠にはまったんだ。護衛成功して、縄が増えた。呪殺と合わせてこれでチャラ。何より狼には分かっているはずだ。オレが散々占い師を守ると言ったから、だったら狩人を噛もうと思ったんだろ?バカだよなあ。」
せせら笑う昌雄に、美智子が歯を食い縛っている。
恐らく、もう隠す必要もないからだろう。
恵子は、身を乗り出した。
「じゃあ、今夜貞吉さんをまだ守れるのね?明日もう一つ結果を落とせるってことね?」
昌雄は、頷いた。
「そうだ。それより恵子さん、君はもう少し柔軟にした方がいいぞ。あんな風に頑なな姿を見たら、狩人だって打ち明けたらまずいと考えるじゃないか。信頼されてないんだよ。」
しかし、恵子は顔を真っ赤にして反論した。
「私は間違ってなかったわ!だって、美智子さんが狼だったじゃないの!憲ちゃんは白だわ!もう少しで吊ってしまうところだったのよ?!」
「まだ白とは限らないぞ。」正成が、真面目な顔で言った。「今日、美智子さんが破綻するのは分かっていたはずだ。あれだけ派手に立ち回れば、憲子さんが追放対象から外されると考えてのことなら分かるだろ?まあ、今日は美智子さん吊りだし、オレとしては確定占い師の貞吉には憲子さんを占って欲しいな。」
しかし、貞吉は顔をしかめた。
「…でも、昨日は明子さんを庇って憲子さんを吊れと言っていたんだぞ?どう見ても、昨日憲子さんが狼で吊られていたら、今日破綻して芋づる式に美智子、明子さんと吊られていたはずだ。憲子さんより明子さん吊りの方が、美智子にとって良かったはずだろ?黒囲いを追うのは分かるけど、昨日の様子からはどう見ても狼は他に居る。」
正成は、顔をしかめた。
昌雄が、慌てたように言った。
「おい、正成は白だぞ?!オレが誰より側に居て知ってる!それなら忠司とか、政由とか武を占えよ!」
その言い方に、皆がシンと静かになった。
どうにもおかしな空気だ。
考えたら、昌雄と正成は今回、セットのような扱いだった。
意見が似ているからだ。
そして、昌雄は狩人ではなく、狩人は昌雄を共有より信頼している人物…。
俊三は、昌雄の戦略が分かった。
今度は正成を狩人ではないかと思わせる方向に変えたのだ。
昌雄の思惑を感じ取った俊三は、さも慌てたように言った。
「いや、そうだな。確かに正成は白いよ。落ち着け、一昨日貞吉は、正成を占って白を見てるんだから、正成が黒いと言ってるんじゃない。貞吉の白は、オレと正成だけで今は確定白なんだぞ。」
意図を汲み取った恵子も言った。
「そう!そうよね、昌雄さんと正成さんのことは疑ってないわ。とにかく、立ち話もなんだから着替えて来ましょう。7時半にカフェね?よろしく。」
そうして、そそくさと自分の部屋へと入って行ってしまった。
正成は、苦笑した。
「おい、昌雄…ま、いいけど。」
昌雄はニヤリと笑った。
「ちょっと話そう。オレの部屋に入ろう。」
俊三は確定白なので平気だし、さっさと昌雄の部屋に入って行ったが、忠司は知らん振りをして離れようとする。
正成はそれを留める様子もなく、昌雄の部屋に入って昌雄は扉を閉じた。
「…忠司は後からみんな居なくなっているのを確認して来るだろう。で、これで村は多分正成を狩人だと思ったよな?」
正成は、腕を組んで言った。
「それでも今夜は恐らくオレじゃなくお前が襲撃されると思った方がいいぞ。一度それで間違えて茂男を噛んでしまってるから、狼だってこれ以上危ない橋は渡らないだろう。確実に噛める白い所を狙うはずだ。お前がまさにそれだからな。」
昌雄は、頷く。
「わかってる。とにかく後一日貞吉が生き残れたらいいんだ。もしかしたらもう一日生き延びれるかもしれないんだぞ?今夜がオレなら、狩人は占い師を守る必要がないじゃないか。」
俊三は、顔をしかめた。
「だが、何度もその手が通用するか?狼だってバカじゃない。もしかしたらそう思ってお前でなく貞吉を噛むかもしれないじゃないか。」
そこへ、忠司がいきなりさっと入って来て、扉を閉めた。
「すまない、遅れた。みんな部屋に入ってる。今、隣りの武が風呂に向かった。あいつは朝風呂派だからな。反対側は敏男だから空室だしな。声は外に漏れてない。それで、次は正成がアーマーに?」
正成は、肩をすくめた。
「そうみたいだな。まあいいさ。それで、今夜は美智子さんだが後はどうする?」
忠司は、ため息をついた。
「貞吉のグレー精査だから、村目線憲子さん、源太、武、政由、昌雄、オレだな。この中から明日白が出た以外を探して吊ることになる。昌雄が言ったように、狐を噛み合わせて来るのはこの状況ではおかしいので、昨夜は昌雄で護衛成功しているので白だと判断される。正成は貞吉の白で狩人だと思われているので避けられるし、浩二も貞吉の白。憲子さんは貞吉の様子を見ても黒でも出ないと吊れないだろう。なので、オレ、武、政由、源太の中で貞吉に占われなかった者が吊られることになるだろうな。もちろん、黒を引いたらこの限りではないが。」
俊三が、言った。
「今夜の事なんだが、呪殺が出たのに護衛成功で偶数進行は変わらない。後一度護衛成功したら吊り縄が増える状況だ。狼の心理的に、占い師は噛まずに昌雄を連噛みして来るだろうと話してたんだが、どう思う?それでも貞吉を守るか。」
忠司は、顎の下に手を置いて考える顔をした。
「それなんだ。正成が本当の狩人だろうと皆思ったようだったが、茂男のこともある。だから、今夜はどうしても必ず噛める昌雄を狙って来るだろうことは、オレも予測している。狼はこれ以上チャレンジ噛みはできないだろう。確実に村人を噛まないことには、縄が増えて人外を吊る縄が足りてしまう。だから…今夜は捨て護衛しようかと考えているんだ。」
昌雄が、眉を上げた。
「というと?」
忠司は、頷いた。
「白い所は守らない。つまり、貞吉、俊三、正成、浩二、恵子さんはやめて、グレーのどこかを守っておこう。正成が噛まれるのは明日以降だろう。だから、護衛枠は取っておくんだ。恐らく襲撃先は昌雄だろうと考えて。」
三人は、頷いた。俊三が言う。
「じゃあ、ラストウルフだな。それとも明子さんが白だったと思うか?」
正成が言った。
「いや…あのお粗末な感じは、恐らく黒だったんじゃないか。とはいえ、油断はできない。オレ達目線じゃ、残りは源太、武、政由、憲子さんだろう。二人居てくれたら二分の一だが、どう思う?」
忠司は答えた。
「源太は明子さんが黒だったとしたら、憲子さんと同じ理由で白くなる。武はわからない。政由は…最初から純粋に狼位置を探しているようには見えたが、この二人はわからないな。」
今残っているのは俊三、正成、貞吉、美智子、忠司、憲子、源太、武、昌雄、恵子、浩二、政由の12人で、後5縄だ。
狐が消えた今、残っているのは最大で3狼で、一人は美智子で今夜吊りが決まっている。
この四人目線では、今夜一縄使って4縄で、源太、武、憲子、政由を吊りきれば終わるので、勝ち確盤面だ。
村人目線でも、源太、武、憲子、政由、忠司の中に二狼だとして、明日の結果が落ちて4人、追い詰めている状態なのは分かる。
とはいえ、憲子が狼だった場合、恐らく黒が出ないことには最後まで生き残るだろう。
そして、恵子は狂人の役割を果たして村が負ける未来もあった。
できたら、貞吉には憲子を占ってもらって色を見ておいて欲しかった。
俊三は、ため息をついた。
「…貞吉を説得しよう。オレがやるしかないだろう。何しろ貞吉の白は正成とオレの二人しか居ない。その中で仲が良いのはオレだから。憲子さんが白なら他を吊りきってもう勝ち確定だ。やってみる。」
残りの三人は頷いて、そして朝の会議に向けて準備を始めたのだった。