四日目朝の会議
朝食は、一人で部屋で食べた。
持ち込んでいたパンがそろそろ食べないとヤバイので、それを処理しようと思ったのだ。
そういう無駄を許せないのは、節約して独り暮らししていたせいだった。
俊三は、フッと息をつくと思い切って立ち上がり、そうして皆が待っている、カフェへと降りて行った。
カフェへ入って行くと、もう全員が椅子に座って待っていた。
慌てた俊三は、急いで自分の席へと飛んで行って、座った。
「すまん。もうみんな来てるとは思わなくて。」
そもそもカフェの時計はまだ7時40分を指している。
恵子が、首を振った。
「思いのほか早く終わってね。やっぱり7時半にしたら良かったって話していたところよ。それで、結果をホワイトボードに書いておいたわ。」
見ると、きちんと各占い師の今朝の結果を記入してあった。
憲子黒、と見た時、それがどっちなのかとふと、思った。
美智子が偽なら必ず黒だと透ける明日、仲間の憲子を白くするために黒を打ったのか、もしくは憲子は白でどこでも良いからとにかく村人を吊りたかったのか。それとも、真占い師で憲子の黒を本当に見たのか。
今の時点では、全く分からなかった。
憲子が、言った。
「私は、もう美智子さんを吊ってほしいと思ってるわ。もちろん村目線じゃ無理なんでしょうけど。」
武が、顔をしかめて言った。
「君達が別陣営なんだろうとは分かるが、どっちがどっちなのか、今の時点じゃ分からないからな。」
だが、昌雄が言った。
「とりあえず黒が出ているところを吊るって手もあるけどな。どうせ今夜は相互占いだって、昨日から言ってたのを狼は知ってる。明日になったら占い師の正体が透けるから、美智子さんが狼で憲子さんが狼だったとしても、白くするために黒を打つ可能性もある。黒囲いってやつさ。美智子さんの真がまだ少しでもあるなら、憲子さんを吊っておいてもいいはずだ。今14人で後吊り縄は6。狩人が生きていることが分かったから、今夜占い師で護衛成功したら一縄増えるぞ。呪殺が起きても、だからオッケーだ。縄は損しない。」
恵子は、渋い顔をして言った。
「まだそんなことを言ってるの?美智子さんが黒なら、憲ちゃんは白に決まってるでしょう。昨日からやり合っていたのよ?今日いきなり出た結果じゃないわ。実は昨日からこれを予想していて、特に驚いてもいないのよ。どうせ私に黒を打とうとしてるのよ、って憲ちゃんは昨日から言ってたわ。どうしてそんなに憲ちゃんを怪しもうとするのかしら。あなた、やっぱり初日に怪しいと思ったのは間違いないんじゃないの?狼だからそんなことを言うんじゃない?」
俊三は、あまりにも決めつけて来るので、ムッとして言った。
「だから君は思考ロックし過ぎだぞ!憲子さんを怪しむから黒いって何だ?主観的過ぎるぞ。」
恵子は、負けじと言った。
「何よ、私は噛まれたのよ?護衛成功が出たでしょ?間違ってないから噛まれたのだと思うわ。あなたも私の意見に反対ばかりしているじゃない!」
俊三は、だからお前は噛まれてない、と言いたかったが言えない。
昌雄が、苦笑した。
「いや、君じゃないぞ?」え、と恵子が驚いた顔をすると、昌雄はにんまりと笑った。「だから君の意見は間違ってるんだっての。狼は君を噛んでない。噛んだのは俊三だ。昨日護衛成功が出たのは俊三でだ。オレは狩人だ。」
今言うのかよ…。
俊三が、もしかしたらCOを止められるかもしれない、と思っていたので、絶句した。
恵子は、あんぐりと口を開けている。
他の皆も驚いた顔をしていたが、無表情にそれを眺めている者達も居た。
恵子は、ハッと我に返ると、言った。
「え、それって…」と、他の村人たちを見回した。「他には?!狩人が居たら出て来て!」
皆、回りを見回すだけで誰も口を開かない。
恵子は、まじまじと昌雄を見た。
「あなただったの…?それで、昨日は私ではなく俊三さんで護衛が成功したの?」
昌雄は、頷いた。
「そうだ。茂男が狩人なんじゃと村が勝手に誤解していたから、そのままにした。だが守ったら、他に狩人が居ると狼にバレるのでその日は守らなかった。ちなみに初日は俊三、二日目は君、恵子さん、そして昨夜はまた俊三だ。そこで護衛成功が出た。だから今夜は占い師を守れる。問題ない。」
浩二が顔を明るくして言った。
「やったぞ!完全グレーから狩人が出た!ということは、これで完全グレーはどこになるんだ?今日もグレー詰めになるんだろ?昨日はそのために昭三を吊ったんだしな。」
政由が、頷いた。
「これで完全グレーはオレと武の二人だけになるな。だが、どうするんだ?まだ縄に余裕があるならこの中からでも良いが、こうなって来ると囲いも絶対起こっているはずだと思うぞ。黒囲いも含めてな。」
俊三が、頷いた。
「普通に考えたらまだ縄があるし黒が出てるんだから一応そこを吊っておくってのがいいとは思うんだが、共有が頑なに吊りたがらないんだよな。仲間なんじゃないかと思うほどだ。そういえば…喜美子さんは、相方を言い置いていかなかったんだよなあ。」
恵子が、顔を真っ赤にして言った。
「私は共有者よ!嘘なんかついてない!」
すると、武が言った。
「だったらなんで一人に肩入れするんだよ。そんなのおかしいぞ?憲子さんより政由やオレの方が黒いってか?オレ達は完全グレーだが、憲子さんは片黒だぞ?どっちの方がより黒いんだ。君の考え方は、偏ってて聞く気にならないんだよ!」
珍しく、武が怒っているようだ。
恵子は、男性陣から集中砲火を浴びて、涙目になった。
憲子が、そんな恵子を庇うように言った。
「だから!私が黒いなら私に言いなさいよ!恵ちゃんを責めないで!」
「だったら言うけど」昌雄が言った。「昨日は昭三が、君の夫の昭三が村の事を考えて自分吊りを飲んだ時、嬉しそうな顔をして真っ先に同意したのはなぜだ?自分が吊れなかったらどうでもいいからか。オレ達は、昭三が白く見えて一瞬躊躇ったがな。共有者の恵子さんを取り込んで白くなろうとしてる狼に見えて仕方がない。だから、今言ったように黒囲いじゃないかって思えて仕方がないんだ。そうだ、違和感はそれだ。いきなり、それまで落ち着いていた美智子さんと、言い合いなんか始めて皆に見せて、下手な芝居をしているように見えるんだ。どこか真実味がないんだよ。どっちにしろ君は吊っておきたいんだ。生存欲が強過ぎるように思うからな。これは狩人の遺言だと思ってくれたらいい。」
この時点での、確定狩人の意見は強い。
憲子は、自分を責めろと言っておいて、目に涙を浮かべて言った。
「そんな…!本当に怪しいと思ったから言ったし、今日だって自分に黒を打たれてやっぱり偽者だったって知ったのよ!お芝居なんかじゃない!」
「待て。」貞吉が、割り込んだ。「オレから見たら本当に憲子さんは白いんだ。何しろ、オレ目線じゃ黒の美智子が黒を打ってるから。黒囲いったって、これだけ怪しまれている憲子さんに黒を打っても、一応吊っとこうってなるはずじゃないか。明日美智子の黒が透けても、どうせ間に合うからその吊りは無駄じゃないだろう。むしろ狼なら、今日は生き残らなきゃならなかったはずだ。憲子さんが美智子の仲間なら、今日黒を打って危険に晒すのは間違いだったと思う。」
忠司が、言った。
「…それでも、今日は絶対誰かを吊らなければならない。恵子さんの意見は自分が白いと思うから白いという、これまで吊られて来た人にやってはならないと諫めて来たことをそのままにやっている状態なので、もう参考にしない。俊三が確白だ。今日の進行は俊三に任せよう。」
恵子がもはや涙を流しながらショックを受けていると、俊三は躊躇いながらも頷いた。
「ああ。そうか…オレは明日は生きてるか分からないが、まあ、今日はやるよ。で、貞吉。」と、貞吉を見た。「お前目線の話は分かる。だが、お互いに生き残ったら是非憲子さんを占う事を勧める。もし白だったら、これから先村が混乱することになるからな。他の占い師の結果より、自分の結果だけを見て考えろ。狼は姑息だしな。ま、今夜は貞吉には敏男、敏男には美智子さん、美智子さんには貞吉を占ってもらって、明日真占い師を確定することを目指すんだけど。明後日のことだ。」
貞吉は、ブスッとした顔で言った。
「だけど、今夜は守ってもらっても明日はその結果を言えないぞ?ま、枕の下に結果を置いておくのは続けてるから必ず確認してくれ。」
俊三は、頷いた。
「オレは死ぬかもしれないから、他の皆に頼んでおく。」と、皆を見た。「で、今夜の吊り先だが…オレとしては、黒が出ているから憲子さんを推す。とはいえ、反対意見もあるだろう。だから対抗位置に、完全グレーの武と政由。それでどうだ?仮に失敗しても、まだいける。ちなみに今夜護衛成功したら縄が増えるしな。余裕だろう。」
「私の対抗なら美智子さんじゃないの?!」憲子が、言った。「そんな事も分からないの?」
俊三は、ムッとしながらも答えた。
「占い師には手を掛けない。美智子さんはまだ真の可能性があるしな。どうせ明日には分かるし、美智子さんが怪しいと思うなら、政由か武に入れてくれたらいいから。黒結果は明確な意思だ。どちらにしてもな。今日はまだぎりぎり白を吊っても大丈夫だから、明日の真占い師確定まで、誰が真なのか分からないというのは変わらないんだ。」
政由が、頷いた。
「それでいい。オレは自分が白だって知ってるから吊られたら残念だが、それで負けるわけじゃないなら仕方がない。武も、それでいいか?」
武は、頷く。
「それでいい。生き残ったら占ってもらうから。もうグレーは懲り懲りだ。」
憲子が、金切り声を上げた。
「何が良いの?!狼に黒と言われただけなのに、吊られる私の身にもなってよ!私は白なの、あなた達みたいに、簡単に諦められないわ!」
その様子が、あまりにも鬼気迫っていて、思わず皆はドン引きした。
皆の目が蔑むように見えた憲子は、涙を流しながら叫んだ。
「やめてよ!私は絶対に吊られないから!元に戻ってたまるもんですか!」
「憲ちゃん!」
恵子が叫んだが、憲子はそこを駆け出して行った。
残された皆は、それぞれの感想を胸に、何も言わずに顔を見合わせただけだった。