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三日目の終わり

夕方までは、すぐだった。

今日は昼寝することもできなくて、俊三はひたすらに誰が村人で黒く見えているのかと、白から先に考えていた。

何しろ、狼は誰かと考えたらあちこち怪しく見えて来て分からないのだ。

対立構造は見えて来ているが、未だにグレーの中は色が見えない所が多かった。

一見白い政由も、武もそこまでクリーンヒットを飛ばしているわけでもないし、正成、昌雄、忠司のような理由のある白さではない。

なので、全く分からなかった。

ただ、昭三の提案は白かった。

狂人ならばここまで来たら生き残った方が狼の助けになる。

それを、自ら吊られに行ったのだ。

そんなに白い提案をした夫の昭三を、嬉しげに簡単に吊ろうと言った憲子にもまた、疑問だった。

普通は真っぽく見えて一瞬躊躇うものだし、それに何より夫なのだ。

憲子の動きが、何を取っても違和感があってどうにも信用できなかった。

とはいえ、恵子が言うように村に有益な意見を出しているのは確かだった。

なので、分からなくなってしまうのだ。

かなり早めにカフェへと降りて行くと、そこにはもう昭三が来ていてたった一人で大きな窓の外の、霧を見て立っていた。

俊三は、そんな昭三に最初は声をかけられなくて、じっと黙ってその背を見ていたが、ここには二人しか居ない。

無視するわけにもいかないので、話し掛けた。

「昭三?霧か。」

昭三は、少し振り返って頷いた。

「なんか、夢の中みたいだな。」昭三は、真っ白な霧を見つめながら言った。「眠ったら夢から覚めるんだ。で、元の体で皆が目覚めるのを待つ。そんな気がしてな。」

言われてみたらそうだ。

全く晴れない霧の中に閉じ込められて、ゲームをする。

体は若くなっていて、とても楽だ。

そんな夢を、皆で見ていると言われたら、確かにそうだと思えて来た。

「…考えてもいなかった。」俊三は、答えた。「言われてみたらそうだな。こっちが夢で、昭三はもうじき目が覚めるのか。」

昭三は、笑って頷いた。

「そんな気がするんだ。」と、急に真剣な顔になって、言った。「…憲子のことだが。」

俊三は、急に話題が変わったので、驚いた顔をした。

「え、何かあるのか?」

昭三は、頷いた。

そして、また霧へと視線を向けて、言った。

「誰でもいいからここへ最初に来た人に言っておくつもりだった。あいつは、これまでのあいつじゃない。というのも、若くなってから異常に若さに執着していて、それを失うことを恐れてる。オレのことなど目に入らない様子だし、自分は絶対に生き残ると必死だ。それこそ、自分が生き残るためなら村人だと分かっていても投票するだろう。性格が変わっちまった…オレにも理解できない。」

俊三は、驚いた。

確かに憲子は若い自分に酔っているように見える。

そして、それを失うことが何より怖いと思っていそうだった。

昭三は続けた。

「恐らく皆が抱いている違和感はそれだろう。村人だとしても狼だとしても、仲間がどうのより自分だけが生き残りたいと願っているんだ。それが違和感なんだろうな。何しろ、生き残るためにはこっちを殺しに来るような意識なんだから。あいつがどっちなのか分からないが、なので信用するな。あいつなら、生き残ったら狼と取り引きして、自分を襲撃させない見返りに村人に投票することだってやってのけるぞ。それだけ、言いたかった。」と、穏やかに微笑んだ。「来たのが俊三でラッキーだった。お前は確白だし、発言力があるからな。頼んだぞ。」

昭三は、真霊能者だ。

俊三は、その様子にまるで啓示のようにそう感じた。

これが狂人のはずはない。狂人目線出浜だ狼が誰なのか分からないのだから、憲子が狼の可能性だってあるはずだ。

それなのに、こんなことを言い残すのだ。

「…なあ、やっぱり今夜は吊られるつもりか。」俊三は、思わず言った。「お前は真霊能者だろう。対抗の由子さんがあんなことを言い出したのも、お前の真を落として生き残ろうとした戦略だったんだろう。真なら残って色を村に教えるべきなんじゃ。」

昭三は、苦笑して首を振った。

「ダメだ。オレが生きていたら狂人がまだ残っていると皆が積極的に狼候補を吊れないじゃないか。本来二日目に吊られるはずだった。だからいいんだ。オレはそろそろ目覚めたいよ。毎日信用されずに座ってるだけだから、居心地も悪いしな。どこで待つのか分からないが、終わるのを待ってる。」

そう言った時、カフェの扉が開いて、ぞろぞろと他の人達が入って来るのが見えた。

昭三はそれを見て椅子の方へと歩いて行き、結局それ以上話すことはできなかった。


その日、満場一致で昭三は吊られた。

他の人達とは違い、覚悟の上のことだったので何の言葉も無くただ一瞬で眠りにつく。

これまでとは違って男性なので重いので、俊三が立ち上がって言った。

「…運ぶよ。」と、忠司を見た。「手伝ってくれ。」

忠司が頷くと、昌雄も立ち上がった。

「オレも。正成、お前もそっち持ってくれ。」

正成も、無言で頷いて手を貸してくれる。

皆が見守る中、四人は昭三の体を抱えてカフェを出た。

憲子のホッとしたような顔を、俊三は視線の端に捉えていた。


黙々と階段を登って昭三の部屋へと連れて行くと、もうきちんと布団が敷かれてあった。

昭三は分かっていたので、皆の手を煩わせないようにと思ったのだろう。

俊三は、そこへ昭三を寝かせながら、たまらず言った。

「…昭三は真だ。」皆が驚いた顔で俊三を見ると、俊三は泣きそうな顔で続けた。「真だよ。憲子さんのことを警戒しろと。違和感の正体を教えてくれた…村か狼かは分からないが、若さを守るためには仲間も売る意識だから気を付けろって。わざわざそれをオレに教えてくれたんだ。仮に村でも、自分が襲撃されないために狼と手を組むこともやるだろうって。だから…結果が白でも黒でも、残すのは危ない。」

正成が、言った。

「だからか。なんかおかしいと感じて仕方なかったんだよな。確か、毎日飲んでる薬にやたら執着してたよな。若さを保つことにかなり貪欲だった。」

忠司は、息をついた。

「どちらにしろ危険人物だということだ。そこは頭に入れておこう。」と、部屋の扉の外を確認して、誰も居ないのを見ると、扉を閉めた。「今夜は、俊三を守ろうと思ってる。」

俊三は、びっくりした顔をした。

昌雄が、言った。

「え、占い師は?噛まれたらもう一グレーに色をつけることができなくなるんじゃ。」

忠司は、ため息をついた。

「分かってる。これは賭けだ。だが、今日の様子から美智子さん真も浮上しているし、あれだけ対立して拮抗した様子だから、あと一日は噛まれないという賭けなんだ。噛まれたらすまない。」

俊三は、そんな賭けで真占い師を失って大丈夫なのかと不安になった。

だから黙っていると、正成が頷いた。

「…怖い賭けだが、やってみる価値がある。」皆が正成を見ると、正成は笑った。「そうしたら明日は占い師を守れるだろう。呪殺が出て占い師が生き残るのは大きい。まあ、ほんとに賭けだがな。占い師が噛まれないかもしれないって、さっき話してたじゃないか。」

俊三は、昼間にカフェで話した事を思い出した。

そう言えばそうだった。

だが、本当に賭けでしかないのだが。

「…でもオレが噛まれるか?普通なら共有なんじゃ。」

忠司は、首を振った。

「それはない。恵子さんは当たっているのか何なのか、とにかく憲子さんが白いと思考ロックしていて役に立たない共有だ。仮に昭三が言い残した通り憲子さんが実質狂人のような感じなら、狼は利用しようとするだろう。だから、発言力がある確白の共有は残しておくと思われる。とにかく、ここで言っておく。もし…占い師が噛まれたり、オレが噛まれたら情報が漏れたということだ。」

つまり、この三人の中に敵が居るということ。

まだ忠司は信用していないのか。

俊三は思ったが、確かに一度の事では信じられないのかもしれない。

こうしてゲームが進んで来ると、狼も信頼を得るためだけの噛みなどそうそうしていられない。

だから、忠司は先に護衛先を言ったのだ。

「…分かった。」昌雄が言った。「確白の俊三はともかく、特にオレだな。問題ない。オレは狼じゃない。」

正成は、頷く。

「オレは貞吉の白だが確白じゃないしな。漏らしたりしないから安心しろ。」

そうして、四人は頷き合った。

今夜は長い夜になりそうだった。

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