三日目昼の議論
恵子が、首を振った。
「憲ちゃんは白いわ!私の相談に乗ってくれてるし、とてもよく考えてると思うの。狼だったらあんな風に狼に不利な意見を出さないと思う。みんなは知らないのよ、普段どれだけ私達が話しているのか。忠司さんが出した意見とかも、先にこっちで聞いていたのよ?だから後から忠司さんに話を聞いた私は、すんなり納得したじゃない。それだけ真剣に考えてるのよ。確かに白先をグレーより先に吊るのはおかしいかもしれないけど、でも他に怪しいところがないじゃない!」
昌雄が、息をついた。
「…まあ、オレが悪い。白先も入れようなんて言い出したんだしな。だが、こんなに揉めるなら狼は二匹居るんだ、最黒ではなく次に怪しいところをグレーの中に探してそこを吊ろう。明子さんは、今夜必ず誰かに占わせたらいい。ちなみにみんな忘れてるが、俊三の意見は?憲子さんが怪しくないと共有の恵子さんがロックしちまってるが、確かに憲子さんは若くなって頭がクリアになったんだろう。だが、今朝の最初の意見はどうだ?後から気付いたにしては強く明子さん吊りを推すよな。初っ端の意見だから伸びないにしても、あまりにも落差がありすぎる。オレは確かに違和感があると思うぞ。」
憲子は、うんざりしたように言った。
「私だって寝起きで朝は調子が出ないの。確かに最初は大したことが言えなくて申し訳なかったけど、でもそこまで怪しまれるようなこと?これまであれだけ頑張ったのに?」
武が、言った。
「いや…村の流れを見て決めたように見えるんだよな。」皆が武を見た。武は顎に手を置いて考えながら言った。「村の印象を良くしようと最初に発言したんだろうが、逆に怪しくなった。それぐらいお粗末でどうでもいい意見だった。確か源太にしとくとかそんな感じだったよな。その後源太が白くなって、慌てて明子さんに矛先を向けたような。そう見えるんだ。俊三が違和感があるって言う気持ちも分かる。」
憲子はどんどんと自分が追い詰められているように思ったのか、顔色を変えた。
「あなたまで?まさか…狼が私を陥れようとしているんじゃないの?どうしてちょっと発言をミスしたぐらいで、そんなに怪しまれなきゃならないの。たった一度でしょ?」
正成が、言った。
「その一度でみんな吊られて怪しまれて行くんだ。忠司を見ろ、あれだけ村を引っ張っていたのに、常に誘導やら何やら言われて怪しまれたりするんだぞ?あの発言がどうのというより、その後の行動が怪しいって言ってるんだ。急転換過ぎるんだよ。」
「ストップ!」恵子が、割り込んだ。「今日は憲ちゃんは吊らない!私を思考ロックとか言うならそれでもいい。これまで散々助けてくれたのに、私は憲ちゃんを吊るなんてできないわ!狼が誘導してるのかもしれないもの。私は確定村人なの。私の意見に従ってもらうわ!」
あまりに頑なな態度に、俊三が目に余ると言った。
「だったらオレが言う。」恵子がビクと俊三を見た。「恵子さん、頭を冷やせ。だったら今日オレが美智子さんはオレを確白にしたから白い、だから明子さんは吊らないと宣言して聞くのか?」
恵子は、首を振った。
「そんなの主観じゃないの、狼だって確白にするわ!」
「同じだよ。」恵子は、グ、と黙った。俊三は続けた。「狼だって真っ当なことを言うし、君は共有なんだから媚びてくる奴も中には居るぞ。だから落ち着け。君の主観でしかない。君が共有でなかったら、吊られたレベルのヤバい意見だぞ?分かってるのか。」
言われて、恵子は赤い顔をして黙り込んだ。
やっと、かなり横暴な事を言ったと自覚したらしい。
俊三は、ため息をついた。
「…とりあえず、今日はやっぱりグレー吊りにしよう。あと7縄、狂人が残ってるとしてあと二人は間違えてもなんとかなる。残りから占って…狩人が残っててくれたらな。まあ占い師が噛まれても、そこで美智子さんの真贋が分かって明子さんと憲子さんの色も自然に分かるだろう。」
政由が険しい顔で言った。
「でも…どこを吊るんだ?まだ真占い師が誰なのか分からないのに、そんなに悠長にしていて大丈夫なのか。」
俊三がグレーのもの達の顔を見ながら言葉に詰まると、黙って聞いていた昭三が言った。
「…縄に余裕があるなら、オレを吊るか?」皆が驚くと、昭三は肩を竦めた。「オレは狂人じゃないが、それでも村目線の懸念材料だろ。オレを吊れば必ず人外が1落ちたと村目線分かる。明日以降のことは、占い師の真贋が分かってなんとかなるだろう。オレがこのまま生き残って結果を出しても、誰もそれを信じられないんだから、生き残って居ても村利はない。それよりは村目線でスッキリさせて行くのが重要だ。霊能者が居なくなって、残り4人外だから縄計算も難しくない。そうしろ。」
ここに来て、昭三が白い。
狼を庇う狂人にも見えない。なぜなら、このままグレーの村人を吊って、生き残っていた方が狼利があるからだ。
「そうだわ、どうしてそれに気付かなかったんだろう。ダンナを吊ったら必ず1人外落ちるんだもの、気持ちが楽になるわ。そうしましょう。」
憲子が嬉々として言った。
俊三は、複雑な顔をした。
とはいえ昭三の言う通りで、そうなった方が村には有利だった。
「…昭三が真っぽいから躊躇われるが、確かにこれだけこじれるなら明日の占い結果を待って、当初決めた通りローラー完遂した方が良いのかもしれない。」昌雄が言う。「何しろ、憲子さんの違和感以外グレーに特別黒い所がないんだ。ここは昭三の提案通り、必ず1人外が落ちたと分かるローラー完遂を果たそう。オレは賛成だ。」
恵子が、戸惑う顔をした。
「でも…だったらグレーがとても広くなるわよ?狩人が居ないのに、今夜真占い師が噛まれたらどうするの?」
俊三が、意を決して言った。
「いや、せっかく昭三がそう言ってくれたんだ。ここからは発言と占い結果で判断して行く覚悟をしよう。昭三は真だと思う。だけど、それを証明することはもうできないから。由子さんが生きてたらその結果と占い師との繋がりでわかったかもしれないが、居なくなったからできないんだ。今夜は、昭三にしよう。恵子さんの頭を冷やす意味でもな。」
恵子は、頷いたが納得いかない顔だった。
それでも、皆がこれだけグレーの精査ができないのなら、ローラー完遂に縄を使うのが一番安全だった。
「じゃあ、これで。もう揉めるなよ?とにかく占い先の指定を真剣にしろ。それで分かることもあるだろうから。分かったな?」
昭三は言って、立ち上がった。
どうやら、もう自分は吊られるからここに居ても役に立たないと思っているようだ。
「待てよ、お前の意見も聞きたい。」
昭三は、苦笑して首を振った。
「いや、部屋を片付けて来る。ゴミがたまって来てるし。寝ちまうからな。自分の後始末はしておきたいんだ。」
昭三は、カフェを出て行った。
全員が複雑な顔でそれを見送ったが、俊三はまだどこかスッキリしない気持ちだった。
恵子の思考ロックは外れない。
皆が散々占い指定先に憲子を入れようと言ったが、頑として聞き入れなかった。
それでも、驚くほど冷静な美智子に諭されて、美智子の指定先に憲子を入れた。
貞吉は浩二か昌雄、敏男は源太か武、そして美智子は憲子か政由という振り分けになった。
何しろグレーが広すぎるので、今回は片白は含めない事にしたのだ。
本当に誰が真占い師なのか、今の時点では分からない。
何しろ貞吉と敏男は全く話さずだんまりで皆の議論を聞いていて、話したのは美智子ぐらいだからだ。
俊三は、たまらず貞吉に話し掛けた。
「なあ、何か考えてることがあるなら聞くぞ?」
貞吉は、ムスッとした顔で俊三を見た。
「今は何を言ってもダメだろ?オレが真だが、みんな分からない、ばっかじゃないか。どうせ噛まれて分かるんだし、占い結果を出してくだけだ。あ、明日噛まれたらオレの枕の下を見てくれ。結果を書いて入れとくから。」
俊三は、そのふて腐れた様子に顔をしかめて言った。
「だから悪かったって。仕方ないだろ、こういうゲームなんだし。お前は話せば真っぽいんだから、もっと思ってる事を言ってもいいんだよ。噛まれる前に残しておけよ。」
貞吉は、まだ俊三を睨んでいたが、ため息をついた。
「…美智子は狼だから、やたら庇う明子さんが黒かなと思った。だから憲子さんは白く見えてるよ。恵子さんは間違ってないと思うけどね。だからグレー吊りだったら憲子さんには入れないと思ってた。明子さんを怪しむなら、美智子を吊れと内心思って聞いてたさ。何しろ明子さんはもしかしたらオレ目線白もあるが、美智子は絶対黒だしな。そしたらオレは噛まれるだろうけど、敏男を吊れば狼探しだけになるから居なくてもなんとかなるだろ。」
貞吉なりに考えながら聞いていたのだ。
だが、どうせ何を言っても疑われている位置なので、何も言わずに聞いていたのだ。
「確かにお前目線はそうだろうけど…とりあえず、今夜はローラー完遂だからグレーに結果を残してくれ。」
貞吉は、頷いた。
「言われなくてもやるさ。生きて先を見られないだろうけどな。」
狩人は生きている。
そう言いたい衝動に駆られたが、俊三はなんとか踏みとどまって言った。
「まだどこかに狩人が生き残っている可能性もある。真っぽかったら守ってくれるぞ。だから思ったことは言えばいい。」
貞吉は、ふんと鼻を鳴らした。
「まあ精々期待しとくよ。」
話が続かないので、吊り先も決まっているし皆が立ち上がってそれぞれ思い思いの方向へと去って行く。
俊三も立ち上がって、すっかりひねくれてしまっている貞吉の肩に手を置きながら、言った。
「さあ、昼飯は食ったか?もしかしたら腹が減ってるからそんな風に卑屈になるんだよ。」
貞吉は、不貞腐れた顔のまま、立ち上がった。
「まあ、何も食う気にならなくてまだ食ってないけど。」
正午にはカフェに皆が集まるで、疑われていると思うと入って来づらかったのかもしれない。
俊三は、貞吉を促した。
「だったらなんか食え。何がいい?」
貞吉が、少し肩の力を抜いたのが、肩に置いた手から伝わって来た。
「お前が作る親子丼が食べたい。」
俊三は、よく家に来た時御馳走していた親子丼を思い浮かべた。
あれは丼用の調味料で作った物で、ここに同じものがあるかどうか分からない。
だが、頷いた。
「作ってやるよ。厨房へ行こう。」
すると、正成が話しかけて来た。
「なあ、オレ、思ったんだけど。貞吉は噛まれないんじゃないかって。」
それには、忠司も頷く。
貞吉が、疑われているのか、と明るくなりかけた顔を暗くする。
俊三が、急いで言った。
「なんだよ、疑ってるのか?オレは真だとまだ思ってるけどな。」
確信はない。
だが、今はこう言う方が良かった。
忠司が、首を振った。
「だから、真とかそういうのじゃなくて、貞吉が真でも明日はまだ噛む時じゃないんじゃないかって。狩人が居なくなって噛み放題だろうから、狼は余裕をもって考えてるはずだ。だから、オレが思うに今夜の結果は出せるんじゃないかな。」
守れるからそう言っているのだろうか。
俊三は、思って慎重に頷いた。
「でも…どうせ占い師の真贋は着くだろ?今日はグレーを占うが、明日は絶対相互占いだ。呪殺が出る。」
昌雄が、頷く。
「そうなんだよ。だから、明日はまだ真だと思われていたいはずだろ?できるだけ占い師の位置を透かせるのを遅らせるためには、占い師を噛むわけにはいかない。こんな状況だから、初日から変わって来てる。本来相互占い完遂で昨日には呪殺が出ていたはずだった。そうなると、狼は占い師の狼を切るしかなかったが、今は違う。真占い師を守るために、村が呪殺よりもグレーに色を付けて詰めて行くことを選んだからだ。昨日だって茂男を噛んだ。狩人だろうと思われる位置だったから。その前も共有者を噛んでいるし、狼は方針転換せざるを得なかったんじゃないかって。今、そこで政由たちと話してたんだけどな。」
振り返ると、政由と武がそこに座ってそれを聞いていた。
武が、言った。
「言ったろ?憲子さんが何か怪しい。その憲子さんが怪しむ先は白く見えて来るんだが、だが貞吉が真に見えるから美智子さんは黒だろうとオレは思う。判断が付かない。となると、狼がわざとそうしてるようにも見える。つまり、あちこち惑わせて占い師の真贋を、相互占いで決定的な結果が出るまでは見せずにおこうとしてるんじゃ、ってな。だから、今その話をこっちでしてて。」
あちこち矛盾が生じて分からなくなる。
そもそもが村人だったら怪しい動きをするなと、俊三は叫びたい気持ちだった。
「もう!ほんと分からない!村人は白くなるのが仕事なのに、あちこち別個で怪しいんだよ。」と、鍋に水を入れた。「貞吉の飯作る。一旦考えさせてくれ。」
皆が黙る。
俊三は、黙々と丼の素がない状態で親子丼を制作していた。