三日目朝の会議
いつものごとく、皆はそれぞれ準備を済ませてカフェに集まった。
今は茂男が襲撃されて15人、吊り縄は後7だ。
そして恐らく人外はまだ吊れておらず、5人まるまる残っていると思われた。
もちろん、昭三が真霊能者ならこの限りではないが、楽観的には考えられなかった。
今日は、ある程度気合いを入れて話を聞く必要があった。
恵子が、言った。
「じゃあ、みんな集まったからさっき言っておいたように、占い師の話から聞きましょうか。本当なら真占い師が確定すると思っていたから、そんな必要もないと思っていたけど、狼はそうしなかったわ。多分、茂男さんが狩人だったと思う…襲撃されたし、この時間の間も誰も私に話に来なかったから。どちらにしろ明日には真占い師が居なくなって確定するでしょうけど、話を聞いておいた方がいいかと思って。」
俊三は、確定白になった責任感から、割り込んだ。
「占い師の精査も今日は必要だと思う。何しろ、もし狼がこのままでもいけると考えを変えたとしたら、いつまでも占い師は噛まれないまま、オレとか恵子さんを襲撃して村人を減らして行こうとするだろう。そうなったら、気が付いた時には縄が足りなくなってるかもしれない。油断はできない。」
恵子は、渋い顔をした。
「そうなのよ。」と、ため息をついた。「私もそう思った。だから、やっぱりそれを避けるために真占い師が生きているうちに相互占いを完遂した方がいいかもと思っていて…このままじゃ、俊三さんが言った通りになりそうで。何しろまだ狐も居るのよ。占い師を生かしたままにすると、まずいかもって。」
正成が言った。
「とりあえず今日のところはグレー吊りグレー占いを続行して、狼の出方を見たらどうだろう。明日も占い師が噛まれなかったら、相互占いをさせて明後日確定させるんだ。噛まれたらこちらの思うツボだし、残りの二人に縄を掛ける。そうしたら必ず人外だから、間違いなく縄が足りなくなることはない。どちらにしろ明後日全てが明らかになるだろ。狩人が噛まれたかもしれない今なら、それしかない。」
恵子は、渋い顔をした。
「できたら狐は呪殺で処理したかったのよね。明日占い師が噛まれたら、狐にまで縄を使うことになるでしょ?」
忠司が、言った。
「だが、どうせ呪殺でも縄が減るだろう。狩人が一度でも護衛成功させてくれてたらこの限りではないが、もうそれも見込めそうにないしな…とりあえず、正成が言うように今日のところはグレー吊りグレー占いで狼の出方を見るしかない。」
恵子は、疲れたように頷くと、敏男を見た。
「じゃあ…敏男さんからにしよう。忠司さんを占った理由を聞かせてくれる?」
敏男は、それほど焦った様子もなく答えた。
「忠司が村に強い意見を落とすし、見ておかないと困ると思ったからだ。源太はどうせ吊られる位置だろうし、占っても村目線では確定白にはならないからそれは変わらないだろう。だから、村のために忠司にした。」
利に叶っている。
俊三は、敏男もなんとなく白いんだよなあとそれを聞いていた。
恵子は頷いて、美智子を見た。
「じゃあ美智子さん。」
美智子は、少し離れてからまた見ると圧倒される美しい顔で頷いた。
「私は、確白を作った方が村利があると思ったの。黒なら村に分かりやすいだろうし、だから俊三さんを占ったのよ。これで無駄に怪しまなくていいしね。」
意見が白く見えるよなあ。
俊三は、顔をしかめた。日が経つにつれて分からなくなって来る。
恵子は、流れ作業のように言った。
「次、貞吉さん。」
貞吉は、緊張気味に言った。
「オレは明子さんも気になったけど、占って黒が出たところで村目線ではまた悩むんだろうと思って。白でもまだ確白にならないしな。それならそのうちオレが真で確定して美智子が黒だって皆に分かってから、みんなで考えてくれたらいいと思って、昨日吊り先指定から外されていた正成を占った。そしたら白だったから、村の進行は間違ってないんだなって思った。」
貞吉の思考の動きは自然だ。
本当にそう考えたんだろうなと言う思考の流れを自然だと感じられた。
村に納得させようと取ってつけたような感じではなく、純粋にそんな風に考えて選んだことが伝わって来るのだ。
…やっぱり、貞吉が真な気がする。
俊三は、三人の意見を聞いてそう、思った。
恵子は、ため息をついて言った。
「みんなもっともな意見だわ。昨日誰かが言っていたように、初日ほどどこが怪しいとかなくなっていて、誰が真でもおかしくない。あれほどみんなに怪しまれていた美智子さんだって、確定白を作るメリットなんかないのにそうしたわ。困ったわね…正成さんはああいうけど、今夜相互占いしたい気分よ。」
気持ちは分かるが、そうなると間違いなく真占い師が噛まれる。
もし貞吉が真でなければ、占い師は生き残れないし、グレーの結果をもう一日残すことができなくなる。
俊三は、言った。
「そうしたらグレーの結果が残らないぞ。狼は真占い師を噛むしかなくなるからな。狩人が茂男でなくてまだ生き残っていたとしても、明日それで真が確定して生き残って次の日は詰みなんだ。今夜はどうしてももう一日グレーの結果を残してもらって、申し訳ないが明後日噛まれる前に呪殺を出してもらった方がこちらも助かるんだ。万が一狩人がまだ生き残っていることに賭けて、今日は正成が言うようにグレー占いの方がいいとオレは思う。」
恵子は、チラと俊三を見た。
俊三は、今村で唯一恵子と同じ位置にいる人だ。
恵子は、またため息をついて言った。
「…あなたがそう言うなら。じゃあ、今日もグレーから選びましょうか。とはいえ、狼が二囲いでもしていたら村人しか居ないけど。まだ縄に余裕があるから、今夜はまたグレー吊りを続行しましょう。」と、回りを見渡した。「誰でもいいわ。発言したい人からどうぞ。」
すると、憲子が真っ先に手を上げた。
「じゃあ私から話すわ。」皆が憲子を見る。憲子は続けた。「グレーと言ったら、茂男さんが噛まれてしまったし、正成さんと忠司さんには白が出てるから、残っているのは私と源太さん、武さん、昌雄さん、浩二さん、政由さん、になるのかしら?まだまだ多いけど、この中の狼って言われたら、昨日も怪しまれていた源太さんかなあと私は思うわ。自分の意見がないように見えるし、他の人達の発言には違和感がなかったのよね。でも二人…うーん、源太さんを庇う人が居なかったからなあ。今は源太さんが怪しいとだけ言っておくわ。」
恵子は、顔をしかめながらも頷いた。
「じゃあ今言われた源太さんは?どう思う?」
源太は、困ったように明子を見た。
だが、明子はプイと横を向いて、源太と目を合わせようとしない。
源太は仕方なく、口を開いた。
「このまま最後まで怪しまれるぐらいなら、ここで吊られてもいいかなと思ってる。でもな、オレが思うに、狼だって馬鹿じゃない、もっともな意見を出してる中にも、絶対一人は居ると思ってるんだ。」
それには、正成が興味を持ったように身を乗り出した。
「へぇ。聞かせてくれ。」
源太は、自分の意見が果たして村にどんな印象を与えるのかと不安そうだったが、続けた。
「どうせ吊られるならなんでもいいしオレが思ってる事を言ってしまうよ。忠司と俊三が結構強めの意見を出して、昌雄と正成が対立してって構図になった時があっただろう。あの時、こんなにあからさまにするか?って思ってな。狼が目立ったらまずいのは、オレにだって分かる。そしたらみんなそう言い出して、その辺は潰れたよな。でも、次に出たのが潜んでるんじゃないかって。確かにその通りだが、二人とも潜むかなって。片方が吊られたら同じ意見を出して同じような感じだった自分も吊られるかもしれない。となると、二人は別行動で、片方は潜伏、片方はガンガン意見を出して村利があるような行動をわざとしてるんじゃないかと思ったんだ。だから、真っ当な事を言ってる中にもう一狼居ると思う。何しろ、狼には村人にはない情報があって、盤面が他の人より見えてるんだ。だから、そんな意見も出しやすいだろ?それで生き残って、吊り逃れをしようとしてるんじゃないかな。明子は考えすぎだって言うから、そうかなと思って言わなかったが、この様子だとオレが吊られそうだし言うだけ言っとく。」
源太が白い。
俊三は、驚いた。
今朝忠司が俊三の部屋で言っていた事を、聞いていないのに言っている。
俊三は、言った。
「…それ、お前は誰だと思うんだ?そういえば忠司も真っ当な意見を出す狼も居るって前に言ってたよな。源太はそれが誰だと思う?」
明子も、横を向いていたのに源太を見ている。
源太は、ため息をついて答えた。
「それは…浩二か、憲子さん?浩二は黙ってたのにいきなりそれらしい意見を語りだしたのが怪しいし、メタだと言われるかもだけど、憲子さんは他のゲームじゃそれほどでもなかったのに、今回はなんかキレキレだろ?見えてるのかなあって、そんな風に思ったんだ。昌雄は初日から目立ち過ぎてるし、武は発言以外でもポツポツ意見を出してるし、政由もそうだ。だからこの中なら、その二人が怪しいかなとオレは思った。明子は違うみたいだったけど。」
言葉の端々に明子明子と出てくる所を見ると、いつも明子に言ってから承認されたことを発言する感じで来たからだろう。
自分に自信が無いのか、おかしな事を言うと嫌われたくないのかは知らないが、源太は明子に見捨てられて初めてこうして自分の意見を言ったようだった。
始めからそうしていれば良かったのに、と俊三が感心しながらそれを聞いていると、浩二が言った。
「源太の意見に概ね賛成だが、オレは違うぞ?」ハッとして浩二を見ると、浩二は続けた。「源太が一気に白くなった気がする。というのも、オレもそれを考えてたからだ。憲子さんは普段からここまでガンガン話すタイプではなかったのに、今回のゲームではやる気だしな。若くなったから思考が働くのかもしれないが、見えてるとしたら分かる。それぐらい、意見が先々を見ているような感じだった。オレはこの中なら村人でも役に立たなさそうな源太かなと思っていたんだが、今のを聞くと言わなかっただけで結構考えてる。お前な、いちいち嫁に聞かずに自分の考えを言った方がいいぞ。その方が村に貢献できるし、嫁が村人だったら助けになるんだ。嫁にだってわからないことがある。まして、このゲームに関して明子さんはそこまで村のためになる意見は出してないからな。お前の方が役に立つなら、嫁が襲撃されないためにも意見を出して、さっさと狼を消して行かないと。」
源太は、驚いたような顔をしたが、すぐに神妙な表情になった。
「そうか…そうだな、分かった。オレは間違ってないということか?」
浩二は、頷いた。
「少なくとも利に叶った事を言ってるとオレは思う。その意見で一気に白く見えたしな。」
源太は、少し自信が出たのか、顔を上げた。
「分かった。ちゃんと思ってる事を言うよ。」
そんな当たり前のことなのに。
チラと明子を見ると、何やら不穏な様子で源太を見ていた。
しかし、俊三に見られていると気付いた途端、また表情を変えて落ち着いたような様子になった。
俊三は、いよいよ明子が、何やら怪しいような気がして来て仕方がなかった。