二日目の投票
その後の話し合いでも、やはり夫婦の二組、富恵と武、源太と明子がどうしても印象が悪かった。
武はしっかり発言しようとしていたし白い印象を残せていたのだが、確かな情報もないのに富恵を庇うことで一気に怪しまれてしまっていた。
だが、今夜の投票対象ではないので、庇われた対称の富恵が矢面に立つことになってしまっていた。
また、源太はというと、本人が黒いというよりも、源太自身が明子の言いなりであることが前提としてあって、そうして明子がここへ来て源太を鬱陶しがって遠ざけようとしているところも怪しいと見えていた。
というのも、二人が、源太の言動が極端すぎて村に怪しまれ始めてしまったことを知ってから、明子が源太を無視したりし始めたからだった。
発言で助けようとするわけでもなく、火の粉が掛からないようにと切り捨てて潜伏したいような空気がなんとなく感じ取れて、この二人がまとめて狼なのでは、という憶測が飛び交っている。
何しろ明子からも、源太が黒だという確固たる情報もないまま、こんなに自分を妄信している源太は怪しく見えて来た、と言い出していたのだ。
そんなわけで、五人の投票対象のうち、今夜集まりそうなのは、富恵と源太になりそうだった。
茂男は、富恵の発言以降、皆が触れないようにしているような、議論の中に名前すら出すことが躊躇われるような空気になっていて、吊られる様子は全くなかった。
お決まりの投票開始の文言が腕輪から流れて来て、俊三はしばし迷ったが、夫婦バイアスだとしても、どっちを吊っても村利があると、富恵の番号、13を入力した。
『投票が終わりました。結果を表示します。』
1俊三→13富恵
2茂男→13富恵
4正成→12源太
6貞吉→13富恵
7美智子→13富恵
8忠司→12源太
9憲子→12源太
10昭三→12源太
11明子→12源太
12源太→13富恵
13富恵→12源太
14武→12源太
15昌雄→12源太
16敏男→13富恵
17恵子→13富恵
18浩二→13富恵
19政由→13富恵
一気にずらっと液晶画面に投票結果が流れて行き、腕輪の声が言った。
『№13は追放されます。』
富恵さんか…!
俊三は、すぐに液晶画面を指でサッサとスクロールして誰が誰に入れているのかチェックした。
武は源太…富恵を避けている。
明子は、源太だった。
同じように液晶画面を見ている、忠司の眉が寄っている。
投票先を見て、何か思うところがあったのだろうか。
「どうして私?!」富恵が、椅子に座ったまま地団駄踏んだ。「私は村人なのに!」
そして、その瞬間にガクンと前のめりになって倒れ、それを隣りの武が慌てて支えた。
「おっと」と、富恵を椅子の背にもたれさせた。「ああ、仕方ないか。寝てる方がこいつにとっても楽かもしれない。発言もしんどそうだったしな。」
忠司が、険しい顔で言った。
「…多分白だったか。」
恵子が驚いたように忠司を見る。
「え、どうして?」
忠司は、腕輪を振った。
「投票結果だ。源太が白ではないという事ではないが、富恵さんは恐らく白。なぜなら、占い師が全員富恵さんに投票している。つまり、この中の狼がこんな状況で仲間に入れるはずはないので、富恵さんは白だったなとこれを見て思った。」
言われてみたらそうだ。
占い師は、全員富恵に入れている。
源太が黒であれ白であれ、占い師の中の狼は、富恵を吊って良いと判断したという事になるのだ。
武は、ため息をついた。
「ま、これでとにかくは、これ以上怪しまれないで済むからこいつにとっても良かったと思う。終わるまで寝てた方がいいし、オレは仕方がないと思う。」と、よっこいせ、と富恵を抱き上げた。「じゃあ、部屋に寝かせて来る。占い師の指定先とか、話し合っててくれ。」
武は、そう言って富恵を連れてそこを出て行った。
それを見送りながら、昭三が言った。
「霊能者なんか要らないんじゃないか。もう明日の結果が分かってるってことだろう。」
忠司は、首を振った。
「それでも結果は必要だ。とにかく、占い指定先をさっさと決めて、飯食って風呂入って部屋へ戻る準備をしないと。8時の役職行使の妨げになったら困る。恵子さん、もう君がさっさと決めてくれないか。」
恵子は、言われて慌てて皆を見た。
「ええっと、じゃあ…貞吉さんには、美智子さんの白先の明子さんか、グレーの…正成さんにしよう。美智子さんには俊三さんか、憲子ちゃん、敏男さんは…じゃあ忠司さんか、源太さんで。これでどう?」
貞吉は正成か明子か…。
俊三は、そう思って聞いていた。
狼は、いったい誰を噛むのだろうか。
あれだけ言われていたが、やっぱり占い師を噛むんだろうか。
俊三が、念のためにもう一度あの話をしておくべきか、と思っていると、恵子が誰にも異議がないのを見てから、にっこり笑って言った。
「まあ、明日には真占い師が分かるんだもんね。残った占い師の結果は意味がなくなるけど。とりあえずは、これでいいよね。」
俊三が思いもかけず恵子から言ってくれたので、何度も頷いた。
「そうだ。狩人には頑張って真占い師を守ってもらって、明日に繋げたいよな。占い師が生存したまま真確定したら、大分有利になるから。」
忠司が、俊三の意図を汲み取って言った。
「そうだな。今夜は狩人に期待して、まあそれでももし護衛失敗したところで真が確定するのは変わらないから。そこからの考察は、オレも考えておこう。明日生き残った占い師の白先は、だから油断はできないぞ。俊三も、それに明子さんもだ。真っ先に疑おうと思ってるからな。いくら今日は白くても、状況は刻々と変わる。」
俊三は、わざと顔をしかめて言った。
「分かってるって。今日吊り先から逃れた人だって、明日次第で変わって来るんだろ?ま、オレは自分が白だって知ってるから、別にいいけどな。」
そうして、恵子も立ち上がったので、もうお開きだと皆が厨房の方へと足を向けた。
今夜は特に女性陣が夕食を準備している様子もなかったので、冷蔵庫に入っている惣菜でも温めようかと俊三は皆に従ってそちらへと歩いて行く。
茂男が、俊三に追いついて来て、言った。
「なあ、富恵さんが白だって予想できるのに、そんなに悠長でいいのか?もし今夜占い師でなく村人が襲撃されたら、結局真占い師が分からないまま明日の議論をしなきゃならないんだぞ?」
俊三は、笑った。
「いや、この流れだと狼は絶対占い師を噛まなきゃいられないって。グレーを噛んでわざわざ幅を狭める必要もないじゃないか。狩人が頑張ってくれるだろうし、大丈夫だ。」
茂男は、渋い顔をした。
どうやら、俊三が茂男を狩人だと思っていると、今の発言で感じたようだった。
「いや、その…オレは狩人じゃないんだ。マジで。」
だからそうやって否定したら余計に狩人っぽいんだよな。
俊三は思ったが、笑って茂男の肩を叩いた。
「分かってるって。誰もお前が狩人だって言ってないだろ?違うって言ってるんだから違うんだろう。大丈夫だって。」
茂男は、完全に誤解されていると感じたのか、困ったように黙った。
これ以上、何を言っても無駄だろうとやっと悟ったようだった。
忠司が、後ろから来て言った。
「ほら、それより早く飯食って風呂だ。時間がないぞ。8時までには部屋に上がらないと。オレ、冷凍のギョーザを見つけたからそれを焼こうと思ってるんだが、お前らも食うか?」
茂男が、途端にパッと明るい顔をした。
「え、食べる食べる!喜美子が居ないと温かい物も食えないって諦めてたんだよ。じゃあオレ、インスタントのスープにお湯入れるよ!」
食い物一つで機嫌がよくなるのは変わらないなあ。
俊三は、こんな感じの茂男なので、恐らく白なんだろうな、と思って苦笑して見ていた。
感情が素直に顔に出るタイプなので、これまでやったゲームではいつも怪しまれていたが、大概が無実だったのだ。
それでも、こうやっていろいろ気を揉ませるぐらいなら、富恵のように早めに眠って楽になった方が茂男のためかもしれないと、俊三は思いながら夕飯の準備に取り掛かったのだった。