二日目夕方
俊三が小腹が空いたとカフェへと降りて行くと、あちこちに二人、三人と別れて座って茶を飲みながら、もう結構な人数が菓子を食べて会話していた。
俊三は、思ったより多くの人が居たことで少し驚いたが、よく考えたらもう5時前だ。
少しのことで疑われるのもと、平静を装って厨房へと足を向けた。
こちらを見ている中には今出て行った昌雄や正成、忠司も居たが、それぞれ分かれて座っていて話し掛けて来る様子もなかった。
皆が俊三に気付いてこちらを目で追っている中、茂男が控えめに近寄って来て、言った。
「俊三。昼寝してたのか?」
なんで分かるのかと言いたいところだが、茂男は仲が良いので俊三の行動パターンは熟知しているのだ。
なので、頷いた。
「ああ。考えようと思ったのに横になったら寝ちまって。でも、ちょっとは考えたよ。」
俊三が、そう答えながら厨房にある戸棚に歩くと、茂男はついて来て言った。
「オレは貞吉と話してたんだ。」俊三が驚いて茂男を見ると、茂男は続けた。「ほら、まだ真占い師が誰だかわからないじゃないか。オレは貞吉だと思ってるけど、白い狼だったら困るし。今晩狩人が守る先のことも考えたら、ちょっと話しておかないとなって思って。」
俊三は、戸棚の中の菓子パンを見付けて、それを引っ張り出しながら言った。
「確かにな。オレも、お前を見てて思考ロックしたらダメだなって真剣に占い師の事を考えて来たんだよ。だが、考えれば考えるほど分からなくなる。もういっそ護衛成功出なくてもいいから、今夜噛んでくれたらとまで思ってるぐらいだ。そうしたら、とりあえず真占い師が誰なのかは分かるし、占い師の中の人外が特定されるじゃないか。吊り先に困らないからな。」
茂男は、探るように俊三を見た。
「でも…噛まれてしまったらグレーが狭まらないだろ?それだと狼の思うツボじゃないか。」
いつの間にか、辺りはシンと静まり返っている。
どうやら、全員が自分達の会話を聞いているようだった。
俊三は、パンの袋を開きながら、皆の方へと歩き出して答えた。
「もし幸運にも護衛成功したら、真占い師が生存したまま特定できるんだ。オレが思うに、狩人は共有者にだけ役職を開示して、守り先を言えばいいじゃないか?そうしたら、狩人が透けないまま護衛位置が分かる。願ってもないだろ?」
それには、こちらに座って聞いていた恵子がパンと手を叩いた。
「ああ、いいわね!それがいいわ、そうしたら狩人が狼に透けないもの!俊三さん頭良いわね!」
俊三は、恵子を見て苦笑した。
「いや、普通のゲームだったら無理なことだけど、今回はいけるなって思っただけ。仮に護衛に失敗しても、どっちにしろ真占い師が透けるから、必然的に怪しむ位置だって分かりやすくなる。だからオレとしては、占い師を噛んでくれるのは助かるなって思ってるんだよ。むしろ噛まれない方が困るよな。狩人は確実に占い師の誰かを守るから、他は噛み放題だし村の人数が減って次の日真占い師が噛まれて、村にとっては踏んだり蹴ったりだ。何しろ、占い師の真贋はまだ分かってない。初日の発言から美智子さんがみんなに怪しまれてたが、むしろ敵が多すぎて白く思えて来ててオレも推理が進まなくて困ってるんだ。早いとこ真占い師を特定させて、ちゃんと考えたいんだよ。」
昌雄が、困ったような顔をして言った。
「そうだなあ。オレも初日から思ってることだが、美智子さんに敵が多いのは不自然だと今でも思う。確かに今では貞吉が真なのかと考えも変わって来てたんだが、敏男も落ち着いてて騙ってるように見えなくなってきて。時間が経つほど考えてしまって、分からなくなるよな。」
正成が、言った。
「まあ、でも明日には分かるだろ。」皆が正成を見ると、正成は笑って続けた。「狩人は真占い師を探して守るだろうし、それが当たれば万々歳、そうでなくてもとりあえず誰が本物なのかは分かる。狼は占い師を噛むしかないだろうし、誰が真かの議論は無駄だよ。どうせ分かるんだ。それによって俊三も明子さんも怪しまれる位置になるかならないか決まるしな。問題ないって。」
忠司も、頷く。
「そうだ。誰が真かは明日狼が教えてくれる。そこからまた考察を伸ばせば良いんだよ。グレーの誰がラストウルフなのか考えながら残った偽物を二日間で吊りきって行けば、縄も無駄にならずに済むしな。占い師で護衛成功して狩人がもうワングッジョブ出せば、縄も増える。グレーが多くても余裕であと2狼ぐらい吊れるさ。だから占い師の真贋に時間を使うことはない。」
皆が、黙ってそれを聞いている。
俊三はパンを噛りながら、狼達はどう思いながらこれを聞いているのかと全員の表情を観察していた。
だが、皆無表情で今のところ誰が狼なのか分からなかった。
何も知らない恵子が、明るい顔をして言った。
「じゃあ、こっちに座りましょう。投票まで対象の五人の人の意見を聞かないと。占い師のことは、どうせ明日分かるってことで発言しなくていいわ。とりあえず、誰がどう怪しいのか聞かせてもらうわ。」
皆、ぞろぞろと円形に並べられた椅子へと座り始める。
時刻は5時ちょうどになっていた。
今日の投票対象は茂男、憲子、源太、富恵、浩二の五人だ。
恵子は、今回は番号の後ろからにしたようで、浩二を見た。
「じゃあ浩二さん。何か考えて来た?」
浩二は、顔をしかめた。
「とは言ってもオレも村人だから情報はみんなと同じだけしかない。仮に今日吊られなかったら、優先的に占って欲しいと言っておく。同じ事を何度も聞かれるのは鬱陶しいしな。そうだなあ、グレーか。今日の投票対象の中だと、より潜伏臭がするのは富恵さんかな。茂男はもちろん、いきなり発言し出したから慌てた狼とも思える。だが、確信はない。他に言うことがないから霊能者の事を話すが、昭三は狂人なんじゃないか?こんな盤面になったのは、霊能者が二人出たからだ。狼に不利だったが、それをいち早く指摘したのが由子さんだった。ちょっと印象が悪かったから先に吊られてしまったが、昭三をこのまま残して最終日には行けないぞ。そこのところはみんなどう思ってるんだろう。」
それには、政由が答えた。
「まだわからないと思ってるし、先に狼だからな。恐らく狂人なら、明日以降考えてもいいと思ってる。確かに由子さんは狂人が霊能者に出るデメリットに気付いていたのに出て来たわけで、より真っぽいと言ったらそうなんだが、敢えて真を取るために出て来たとも考えられるからな。ここは保留にして、後日で充分間に合うだろう。」
浩二は、頷いた。
「そんな風にも考えられるのか。わかった、まあオレは今夜生き残れるかわからないし、後の事は村に任せるけど。」
恵子は、口を挟んだ。
「じゃあ、もういいわね?次、富恵ちゃん。」
富恵は、ため息をついた。
「グレーなんかほんとにわからないわ。自分が村人だって知ってるだけ。ただ、あれから考えたんだけど、グレーの中にはまだ狩人が居るわよね?その…もし吊り位置になったら、多分焦ると思うのよ。だって、吊られるわけにはいかないじゃない?だから、あの…急に発言が増えたとしても、怪しいとは限らないと思う。狩人だって目立って狼に鬱陶しがられたら、襲撃されるかもしれないし狼と同じで潜んでたんだと思うのよ。だから、よく考えて投票しなきゃと思うわ。」
村目線、狩人は確実に生き残っている。
なぜなら昨日吊られた由子は霊能者COしていて、襲撃されたのは共有者の喜美子だったからだ。
俊三は忠司が狩人だと知っている。少なくともそう今の時点では信じていた。
まさかあれだけ目立つ発言をして、尚且つそのために誘導していると怪しまれるような事をしている忠司が、狩人だとは誰も思わないのが普通だった。
富恵の発言は、何とか濁そうとはしているが、暗に茂男が狩人かもと言ってるようだった。
…違うけどな。多分。
俊三は思いながら聞いていた。
恵子が、顔をしかめた。
「富恵ちゃん、狩人のことには言及しない方がいいわ。これであなたが狩人ではないと透けてしまったし、これ以上狼に情報を与えたくないから。みんな分かってるわよ、狩人がどこかに潜んでることは。だから、これからは狩人のことには触れないで。後の発言の人もね。」
恵子が言うのはもっともだった。
狼には仲間が分かっているし、このまま皆が狩人の話題を出すと、必然的に位置が透けて来るからだ。
とはいえ今は、茂男がそうじゃないかという流れになっているようなので、俊三は黙っていた。
茂男が襲撃されるなら、それはそれでいいからだ。
狼が狩人ではないかとそこを噛むのなら、茂男は確実に村人だし、俊三目線で忠司が狩人COしている事を知っている、つまり昌雄、正成の中に狼が居ないということになる。
狼が貴重な噛みをグレー、しかも怪しまれている位置に使うはずはないし、それだけ茂男が襲撃されることにはメリットがあった。
このまま茂男が狩人かもという流れは、維持して行きたかった。
だが、恵子が釘を刺したにも関わらず、茂男が慌てたように言った。
「オレは狩人じゃない!別に焦って発言したのでもない、ただみんなと意見が違ったし、オレだけに見えてるのかと思って昌雄と正成がすり寄ってると言っただけだ!」
俊三は、それを見て眉を寄せた。
恐らく俊三は、村人だ。
なぜなら、これは恐らく狩人だと誤解されたら噛まれるという、危機感から言っているのだと分かったからだ。
狼なら噛まれ懸念などないし、そこまで焦らなくても良く、黙って誤解されたまま白位置に入った方がいいはずなのだ。
まして恵子がこうして釘を刺したのだから、わざわざ否定しなくても黙って誤解されていれば良かった。
最後にはCOして吊りを逃れることすら、狼ならできたはずなのだ。
まためんどくさいなと俊三が何か言うべきかと思っていると、恵子が同情気味に言った。
「うん、分かってるから。その、気にしないで。誰もそんな風に思ってないわ。」
俊三は、え、と開きかけた口を閉じて皆の表情を見た。
なにやら困ったような、どう言えば良いのかわからないような、微妙な空気が流れている。
…もしかして、今ので更に茂男が狩人だと思ってる…?
俊三が戸惑っていると、源太がエヘンとおかしな咳払いをした。
「ええっと、オレだな。そうだな、オレとしては意見が薄いというか、村利がない富恵さんが怪しいと思うかな。浩二はさっき、きちんと意見を残してるし…茂男は頑張ってる村人に見える。憲子さんは白いと言われてる人達と同じ意見を恵子さんとの雑談で出してたみたいだし。」
どうやら、狩人は茂男かも、という考えから、ああして慌てて否定することで、茂男だ、という雰囲気になったらしい。
恵子も、空気を感じているのかぎこちなく頷いた。
「そうね、私もそう思うわ。ただ、狼は占い師の中とあと二人だから。白く見えても違うかもしれないけどね。どうしてもとなると、今の意見だと富恵ちゃんになるかなあ。」
富恵は、流れが自分に向いたのを感じておののいた。
武が、慌てて言った。
「ちょっと待ってくれ、また夫婦バイアスとか言われるかもしれないが、富恵は白いと思うぞ?ほんとに元々寡黙なヤツだし、今日はよくしゃべってる方だ。」
庇ったら余計にまずいのに。
俊三は思ったが、思った通り政由が言った。
「さっきも言ったけど、元々どうだとか性格だからとかは白い理由にならないんだ。本当に村人なら…狩人に言及したりしない方が良かったんじゃないか。」
だが、富恵が狼であんな失言をするだろうか。
俊三は、考えれば考えるほど分からなくなる沼に入ってしまったような気がしていた。
時間は、刻々と過ぎて行っていた。