昼の会議2
政由が、ため息をついて言った。
「今の忠司の説明を聞いてもそう思うのか?」政由は、腕を組んで再度ため息をついた。「お前が話しに来て、先に俊三と忠司が昌雄と正成の事をどんなふうに考え直したのか知ってたが、改めて聞いてみると確かになって思ったよ。オレは最初から忠司と俊三は白いと思っていたから、頑なに見えてた昌雄の事と、それと同じような印象の正成も黒いように思ってたんだが、根本的に違うなと。確かにそうなんだよ、狼は占い師の狼を切ってまで真占い師を排除しようと思ってるだろうに、グレーに居る自分が庇って目立ったら何してるのか分からないじゃないか。いくら意見が戦ってても、だから目立った行動をしてる昌雄と正成は確かに現時点では白いよ。今の状況じゃなかったら対立してる所はどっちかが怪しいと思うところだけど、この状況なんだ。遅かれ早かれ真占い師は確定する。だから、擦り寄りとかじゃないって。さっきも言っただろ。」
茂男は、それでもどうしても譲れないようで、首を振った。
「なんで急にそんな風になるんだよ!おかしいって、絶対!」
昌雄が、うんざりした顔で言った。
「そっくりそのまま返すぞ。お前だって何で急にそんな風になるんだよ。これまで俊三とか忠司の意見に合わせておとなしくしてた癖に、オレ達が怪しくないと言い出したら途端にそんな風に。もしかして、作戦がバレた狼か?お前が狼だから、他を怪しんでてくれなきゃ困るとか?」
茂男は、言われて言葉に詰まった。
「それは…でも、オレは狼じゃない!喜美子が襲撃されて、オレだけでもやれるって証明したいだけだ!」
だからこんなに必死なのか。
俊三は、思った。
思えば茂男は、どっちかというとかかあ天下で、普段から重要な事は喜美子が決めてやって来たようだった。
何でもかんでもとりあえず喜美子に聞いて、喜美子が察して茂男がやりたそうならやらせてやったり、大きな買い物も欲しそうなら買ってやったりとしていたのは、外から見ていても分かっていた。
このゲームを始めてからも、喜美子に意見を聞きに行っているようだった。
外聞が気になるのか、コッソリと分からないようにしているつもりのようだったが、俊三からは丸わかりだったのだ。
その喜美子が早々に居なくなって、自分で何とかしなければならず、不安そうだったが自分の中で吹っ切ったのだろう。
ここを乗り切って、一人でも出来たと言いたいのだろうとすれば、そうなのだ。
俊三は、言った。
「茂男の気持ちは分かるよ。喜美子さんが居なくなって不安になったんだろう。でもな、回りの意見をしっかり考えてみろ。さっきまで確かにオレも忠司も昌雄と正成はおかしいと思ってたが、よく考えたら根本的に何かがおかしい事に気付いたんだ。今忠司が説明した事だ。絶対違うと考えないようにするんじゃなくて、しっかり考えて改める所は改めないと。オレ達だって、誰が黒なのか分からないんだ。発言だけでなく状況も見て考えないと駄目だ。」
茂男は、むきになって言った。
「別に喜美子が居なくてもオレはやれる!」
その必死な、どこか自信の無さげな色もある声に、皆が一瞬で察した。
茂男は、喜美子が居ない不安を自分一人でもできると思い込むことで、乗り越えようとして空回りしているのだ。
忠司が、言った。
「お前の意見は分かった。だから落ち着け。とりあえず村の意見を聞いてみよう。ここまでしっかり話を聞けていなかった人達はどう思っているのか。結局投票の多い者が吊られるんだからな。単独でわめいていても、皆の同意を得られないと通らないんだ。落ち着いて他の意見に耳を傾けてみよう。」
茂男は、今にも立ち上がりそうな勢いだったが、そう言われて少し、冷静になったのか椅子に座り直した。
「なら…聞いてみる。」
忠司が頷いて恵子を見ると、恵子は慌てて言った。
「ええっと、次は…憲ちゃんにしようかな。意見を聞かせてくれる?」
憲子は、ドン引きしたような顔で茂男を見ていたが、急いで恵子に向き直った。
「あ、ええ、私ね。さっき、女性で集まって話していたから恵ちゃんは知ってるけど、私も忠司さんが言っていたようなことに気付いて話していたところだったの。だって、真占い師はまだ生きてるのよ。今夜はもしかして狩人が守って生き延びるかもしれないわ。でも、少なくとも明日には襲撃されちゃう。それに、明日護衛成功が出たらその時点で狩人には誰が襲撃されたのか見えるわよね。だからどちらにしろ、明日には真占い師が確定すると思うのよ。そうしたら、その占い師の黒先は狼確定だから占い師の中の狼は詰みでしょ?その上万が一明日、真占い師がグレーの中の黒を引いていたら、一気に二黒確定なのよ。明日の時点でまだ7縄なのに、ラストウルフが生き残れる可能性は限りなく低いわ。だから、どうあっても今夜吊られず占われず生き残らなければならないはず。目立ったらそれができないわ。だから、私は忠司さんの意見に全面的に賛成よ。茂男さんの事情はなんとなく分かるけど、こうなると頑なに反対してるのが怪しく見えて来ている感じ。」
なるほど憲子は考えている。
恵子が吊り先指定から外そうとするはずだった。
俊三が思っていると、浩二が言った。
「オレも今の憲子さんの意見を聞いて、更に忠司の言うことに同意だな。確かにグレーの狼は、今日だけは目立つわけにはいかない。昨日の朝はそうじゃなかったが、村が相互占いを決めた時に占い師の中の狼はもうあきらめたはずだ。狂人が霊能者に出た時点で内訳が透けたからな。霊能者が狂人だろうとオレが確定して言ってるのは、何もローラーされるからとかだけでなくて、そこに狼が出たら占い師の狼の首をこんな風に絞めることになるからだ。その上自分も吊られたら、グレーの狼一匹になってしまうだろう。だから昭三の白結果には納得だし、あって狂人だと思っているから今の進行は間違ってないと思っている。グレー詰め、それも潜んでいる感じの奴から吊って、占って行けば自然に狼は吊れるだろう。茂男は今の時点でかなり目立ってしまっているから、オレは逆に白いと思うぞ。茂男が狼なら、村が気付いたとしても黙って従ってひたすら潜んだ方がいいからな。」
ここまで黙っていたが、浩二もそれなりに考えていたようだ。
源太が、言った。
「オレも…明子と一緒に居たから、女性達の話は聞いていたが、その通りだと思うよ。特に憲子さんは白いと思って聞いていた。でも、浩二はそう言うが、茂男の焦りみたいなのが感じられるから、オレはここに来て茂男が怪しく見えてる。だって、明らかにバレた狼っぽくないか?もう一匹はどこかわからないけど…今茂男を庇ったように聞こえたから、浩二なのかなと思えて来てる。」
富恵が、ため息をついて口を開いた。
「あと、グレーであんまり印象が無いとか言われてるのは私だけ?…私は、今の話を聞いて思ったのは、浩二さんと憲ちゃんは違うかなってことかな。浩二さんは黙ってたけど結構考えてるんだなあって思ったし、憲ちゃんはさっきお茶してた時も物凄く考えてたのよ。私は憲ちゃんの意見に近くて、茂男さんは目立ち始めたのはついさっきからだし、むきになってる狼にも見えてるの。引っ込みがつかなくなってるのかなって。一人だけ意見が違うし、仲間の狼も庇うに庇えないで居るように思う。」
俊三は、うーんと眉を寄せた。
茂男は確かにいきなりこんな風になって怪しいと言えば怪しいのだが、性格を知っている自分からすると、喜美子を失ってこの反応なのは理解できた。
なので、茂男は今のところ違うと思うのだが、それを具体的に村に説明することができない。
こんなものは感覚で、いわばメタと言われる部類の意見になるからだ。
「…茂男は必死な感じが狼っぽくないんだよな…。」俊三は、とりあえず話し始めた。「ここでむきになっても狼に利はない。むしろ他の皆のようにそういえばそうだ、と言ってしまった方が楽なはずだ。吊り位置というより、占い位置じゃないか。オレとしては、片白だが明子さんの話も聞きたい。オレはこうしてみんなに何度も意見を落としてるが、明子さんからはほとんど聞けてないからな。明日以降真占い師が確定してからのためにも、意見を聞かないか。」
恵子は、そういえば、と思ったようで、明子を見た。
「そうね、同じ片白でも俊三さんはめちゃくちゃ話すのに、明子ちゃんはそうでもないわ。さっきお茶してる時も私と憲ちゃんが話してるのをウンウン聞いてただけだし。どう考えてる?」
明子は、自分に話が来るとは思っていなかったのか、驚いた顔をした。
皆の視線が明子に向いて、明子は仕方なく顔を上げた。